ベントレー・ベンテイガ スピード(4WD/8AT)
汗とは無縁の速さ 2020.03.06 試乗記 最高出力635PSを誇るベントレーのSUV「ベンテイガ スピード」に試乗。“世界最速のSUV”を謳うラグジュアリーカーの走りは、多くのハイパフォーマンスモデルとはひと味違う、このブランドならではのものだった。暫定世界チャンピオン
「世界最速のSUV」がベンテイガ スピードである。試乗車のナンバープレートが示すとおり、6リッターW12ツインターボの出力を608PSから635PSに上げて、最高速を301km/hから306km/hに塗り替えた。その結果、後発の「ランボルギーニ・ウルス」(305km/h)から最速SUVのタイトルを奪還した。スーパーカーブームのころ、フェラーリとランボルギーニのあいだで繰り広げられた最高速バトルを思い出す。
しかし、301km/hも305km/hも306km/hも、分母を考えれば“ほとんど同じ”である。そもそもいまのベントレーとランボルギーニは、同じフォルクスワーゲン グループに属し、ベンテイガとウルスはプラットフォーム兄弟でもあるのだから、身内の出来レースというか、話題づくりのようにも思える。来るべきフェラーリの新型SUVがこれを上回ってきたら、どうするのだろうか。
おさらいすると、ベンテイガは2015年夏に登場したベントレー初のSUVである。ベントレーをSUVで乗りたかったんだよ! という人は多く、デリバリーの始まった2016年に生産台数(1万1000台)のいきなり半分をベンテイガが占めた。2018年にはお買い得(?)な4リッターV8ターボモデルを投入。さらには3リッターV6ハイブリッドを発表して持続可能性をアピールする一方、こっちも忘れませんとばかりに加えたのがスピードである。日本へのデリバリーは20台で、価格は3000万円。ノーマル12気筒モデルより92万5000円高い。
ストレスのない速さ
ベンテイガを堪能したのはこれが初めてである。以前借りたクルマはアクティブロールスタビライザーにウオーニングが出ていて、心穏やかに走ることができなかったのだ。
今回、世界最速のSUVを1日半預かって得た速さの生活実感は「すぐ着く」だった。速くて快適だから、目的の場所へどんなクルマよりもすぐ着く感じがする。登場時からのベンテイガの謳い文句“エフォートレス”(苦もなく)は、スピードでもなんら変わっていない。
ドライブモードは、オートにあたるベントレーモードのほかにスポーツとコンフォートがある。どれを選んでも快適性が損なわれることはない。スポーツモードのプログラムはスピード専用だという。100km/h巡航時に切り替えてみると、8速トップ1300rpmから5速2500rpmにシフトダウンしてスクランブル加速に備える。しかしエンジンの音量はほとんど変わらない。
停車時にスポーツモードにすると、アイドリングストップがキャンセルされ、まず後ろから微妙に車高が下がり、ちょっと深めのクラウチング姿勢をとる。900N・mのメガトルクを受け止める駆動系は、トルセン式センターデフによるフルタイム4WD。目の前にテストコースがあり、ドーンという強大なGにビビらずフルスロットルで発進すれば、重さ2.5tオーバーのプレミアムラージSUVは3.9秒で100km/hに到達するはずだ。
なめらかな走りにため息
オプションを含む試乗車の価格は3700万円超。よくてあたりまえのクルマだが、なかでもとくによく、ライバルに抜きんでているのはエアサスペンションによる乗り心地だ。ノーマルベンテイガより1インチアップの22インチホイールに285ヨンマルという幅広偏平タイヤを履いているにもかかわらず、腰から下にドタドタした重さは一切ない。今回、ダートに踏み込むチャンスはなかったが、町なかでの乗り心地はビロードの路面を走っているかのようにスムースだ。スピードは出さないとわからないが、乗り心地は動き出した瞬間から享受できる性能である。
電動アクティブロールスタビライザーの恩恵か、ロールはほとんど感じない。かといって、突っ張ったような硬さもない。姿勢のチェックも含めて乗り心地が安定しきっているので、走っているとボディーの大きさや重さをそれほど感じさせない。そのかわり、狭い道に紛れ込んだり、車庫に入れようとしたときに、巨漢を実感する。均整がとれているため、外から見るとそれほどには感じないが、ボディー全長は5mと15cm。全幅はほぼ2m。ドアミラー両端だと2.2mを超す。リアカメラは付いているが、それでも心配なので、ヨメさんを呼んでふたりがかりで車庫入れをする、なんていう家とは無縁のクルマである。
燃料経済性を気にする人のクルマでもないが、約250kmを走って、燃費は5.0km/リッター(満タン法)だった。燃費はともかく、さかのぼると2002年の「フォルクスワーゲン・フェートン」用に始まるW12ユニットの最新バージョンは、悠揚迫らぬ高級エンジンである。音量は低いが、回すと目の詰まったなかなかの快音を聴かせる。
室内のしつらえはさすが
本国では3列シート7人乗りも加わったボディーだから、荷室はたっぷり広い。後席使用中の平常時でも奥行きは120cmある。ただ、荷室フロアの地上高が高いので、小さなものを奥に入れてしまうと、取れなくなる。というときは、側壁にあるスイッチを押す。リアの車高が最大10cm下がり、荷室へのアクセス性を高めてくれる。
運転席シートにはマッサージ機能が付いていた。「レクサスLS」と同じく、運転中でも腰や肩に「もみ」や「たたき」をやってくれる。「背筋伸ばし」などはクーッと声が出るほど効く。でもこれは、「フロントシートコンフォートスペック」という約52万円のオプションだった。
インテリアの専用装備は、シート地や内装地の一部に合成皮革のアルカンターラを使ったこと。創業以来、贅沢に本革を使ってきたベントレーとしては初の試みだという。体が当たる部分に使われたシートのアルカンターラは温かく、サポートにもすぐれていて好印象だった。
外観ではテールゲートスポイラーが新しい。“レースもの”的な派手さはないが、ベンテイガのオーナーならすぐ気づくだろう。そしてなにより、プラス27PSのパワーと「世界最速のSUV」という称号がついてくる。それで差額は100万円もしない。結論。スピードは、お買い得な12気筒ベンテイガである。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=向後一宏/編集=関 顕也)
テスト車のデータ
ベントレー・ベンテイガ スピード
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5150×1995×1755mm
ホイールベース:2995mm
車重:2560kg
駆動方式:4WD
エンジン:6リッターW12 DOHC 48バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:635PS(467kW)/5000-5750rpm
最大トルク:900N・m(91.8kgf・m)/1500-5000rpm
タイヤ:(前)285/40ZR22 110Y/(後)285/40ZR22 110Y(ピレリPゼロ)
燃費:--km/リッター
価格:3000万円/テスト車=3714万3887円
オプション装備:ベンテイガ ブラックスペック(354万6685円)/ツーリングスペック(114万6852円)/オプションペイント<ソリッド&メタリック>(83万3046円)/カーボンファイバーセンターフェイシアパネル(9万3296円)/フロントシートコンフォートスペック(51万9037円)/コントラストステッチ(28万8648円)/ステアリングホイールへのコントラストステッチ(3万0148円)/ディープパイルオーバーマット(7万1907円)/ムードライティング(6万8037円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:462km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:249.0km
使用燃料:50.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:5.0km/リッター(満タン法)/4.9km/リッター(車載燃費計計測値)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
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