第4回:エコとパワー 2つの価値観の競演
輸入車チョイ乗りリポート~800万円オーバー編~
2020.03.13
JAIA輸入車試乗会2020
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メルセデス・ベンツのディーゼルプラグインハイブリッド車「E350de」に、ジープの怪力SUV「グランドチェロキー トラックホーク」、古参のスーパーカーメーカーが手がけるSUV「ランボルギーニ・ウルス」と、価値観の異なる3台の走りをリポートする。
重箱の隅をつついてみれば
メルセデス・ベンツE350deアバンギャルド スポーツ……875万円
週末はほとんどゴルフ。自分で運転して行くので、まぁまぁ距離は走る。予算には余裕があるけど、クルマにはそれほどこだわりがない。でも、自動ブレーキとか車線維持とか、運転支援システムにはこだわりたい。そんな人が選ぶのが、メルセデスのEクラスである。
まぁ、おおむね間違いのない選択だといえるでしょう。
今回のEクラスは、「日本初」のモデルでもある。2リッター直4クリーンディーゼルエンジンにモーターを組み合わせ、充電も可能なプラグインハイブリッドとしたところがそのゆえん。リアバンパー右側に充電口が設けられ、フロントフェンダーには「EQ POWER」の文字が輝く。
インテリアはいつものメルセデス流で、特に変わったところはないけれど、インパネの液晶画面に「EQ」ロゴが現れたり、モーターの稼働状態や最大充電電流の選択画面などが表示されたりと、“最新世代のクルマ”という感じがする。
ディーゼル(d)の電動車(e)であるE350deは、もちろんただの“低燃費車”ではない。194PS/400N・mを発生するエンジンと122PS/440N・mのモーターが協調して生み出すシステム総合出力は306PS、最大トルクは700N・m。AMGモデル並みの数値を誇る。
最大50kmまで走行できるEVモードでも、走りに不足を感じるシーンはほとんどない。「インテリジェントアクセルペダル」の指示に従えば、エンジンがかかることすらなく、ひたすら静かにスムーズに、わが道を行く。いっぽうで、ディーゼル+モーターの力をフルに生かせば、“これぞスポーツサルーン”という加速をみせる。
乗り心地のよさも印象的だった。2080kg(車検証記載値)という車両重量も重厚感あふれる乗り味の理由のひとつだろうけれど、コンベンショナルなバネとダンパーで構成されるサスペンションが懸命に働いて、路面からの入力を見事に吸収している。
今どきの注目ポイントである運転支援も抜群の出来で、ハンドル操作や加減速もとてもスムーズ。運転がうまい。
こんなクルマの欠点を探してあげつらうのは“いちゃもん”以外のなにものでもない気がするけれど、E350deのウイークポイントはトランクルームの容量である。バッテリーや補機類が収まっているため、大きな段差があって普通のEクラスより170リッターも小さい370リッターとなる(数値はVDA方式)。週末はほとんどゴルフ。な人にとっては、看過できないポイントかもしれない。
(文=webCG こんどー/写真=峰 昌宏)
レジェンドの声が聞こえた
ジープ・グランドチェロキー トラックホーク……1356万円
ドアを開けると「マー君 神の子 不思議な子」とノムさんの声が聞こえた。私の名前はマサルであり、確かにマー君ではあるものの、それほどまでに褒められる覚えはない。気にせずに乗り込むと「代打、オレ」。今度は古田敦也だ。しかし、まだエンジンもかけていないのに試乗を譲る(=代打)気持ちにはなれない。
レジェンドというべき2人のキャッチャーの声が聞こえたのは「グランドチェロキー トラックホーク」の室内にいかにも厚みのある真っ赤な革が貼ってあり、キャッチャーミットのようだったからに違いない。シートのサイドサポートなどはまさにミット。バックレストに向かってボールを投げ込めば「スパーン」と気持ちのいい音を立てることだろう。肝心の座り心地はといえば「サイコーです!」。阿部慎之助でなくてもこう言うはずだ。
ミットの話はひとまず置いて、トラックホークの主役はボンネットの中身だ。クルマ自体が6.2リッターV8スーパーチャージャー付きエンジンを運ぶためにある。最高出力710PS、最大トルク868N・mという空恐ろしいスペックを誇るこのユニットは、事前に抱いていたイメージとは全く違って、高回転域まで軽々と吹け上がる。8段ATをマニュアルモードにして1速で引っ張ると、“頑張っている感”のあるサウンドを立てることなくエンジン回転計の針がレッドゾーン(6000rpmから)まで届いた。車名のトラックはTruckではなくTrackであり、サーキット志向をうたうだけのことはある。
最高速は290km/hとされており、このパワフルなエンジンをもってすれば、サーキットなどでその領域を味わうことは十分に可能だと思う。ただし、その弊害というべきか、速度計の目盛りが細かくびっしりと刻まれており(写真を参照)、正確な速度を確認することが非常に難しい。今回の試乗では制限速度70km/hまでの道路しか走らなかったので、メーター上で針が動いたのはわずか3cmほどだった。目に自信のない方はハズキルーペのご用意を。
(文=webCG 藤沢/写真=峰 昌宏)
レディースサイズが欲しくなる
ランボルギーニ・ウルス……2917万7555円
ウルスが出せる最高速の、1~2割ほど。法定速度で一般道を流していても、前を行くクルマが次々と道をゆずってくれる。もちろん、あおってなんかいませんが……。なんでなのか、クルマから離れて振り返って、納得がいった。
とにかく、デカいのだ。ウルスは。車幅は優に2mオーバー。コインパーキングに押し込もうにも、全長が5m以上あるので鼻先が枠から出てしまう。それでマッシブなボディーが黄色とくれば、存在感はバツグンだ。
しかし、取り回しさえ気にならなければ、多くのひとはこのスーパーSUVとうまくやっていけるに違いない。大きいだけに、後席で足が組めるくらい車内は広いし、リアには100×100cm(実測)のフラットなラゲッジスペースが確保されている。荷物が積めて5ドアで、みんなで乗れるランボ! 貴重な存在なのは間違いない。
そんなウルスを「待ってました」と思う方は多いようで、日本でのセールスは絶好調という。2019年、日本では641台のランボルギーニが売れたのだが、なんとその半分をウルスが占める。そのうち7割が新規のランボルギーニオーナーという事実も、このクルマの特殊性と商品力を物語っているだろう。
さらに驚きなのは、女性のユーザーが多いということだ。「デカくて頼もしいクルマが女性にモテる」というのは昔からのことだけど、ビジネスで成功し経済的に力のある女性が増えつつある今、メーカー側もオーナー予備軍として彼女たちに着目、積極的にウルスを売り込んでいるそうだ。……となれば、跳ね馬のライバルだって、SUVをつくらないわけにはいかないわなぁ。いや、女性ドライバーが大事なら、ランボルギーニもコンパクトSUVを開発するかもしれないよなぁ。なんて考えているうちに紙数が尽きた。
肝心の走りはどうなのかって? いまさら「ウルスは速い」なんて報告するのは、ヤボというものでしょ!
(文=webCG 関/写真=峰 昌宏、webCG)

関 顕也
webCG編集。1973年生まれ。2005年の東京モーターショー開催のときにwebCG編集部入り。車歴は「ホンダ・ビート」「ランチア・デルタHFインテグラーレ」「トライアンフ・ボンネビル」などで、子どもができてからは理想のファミリーカーを求めて迷走中。