ホンダは3強のバトルをどう戦う? 2020年のF1はここに注目!
2020.03.13 デイリーコラム2020年は開幕戦から大混乱
待望のF1新シーズン到来。3月13日から始まる開幕戦オーストラリアGPの準備が進められてきたが、今年は世界的に感染が広まっている新型コロナウイルスの影響で先行き不透明な部分が多く、手放しで喜べない状況となっている。
2020年2月の時点で、4月に開催予定だった第4戦中国GPの延期が決定。史上最多の22レースが組まれるタイトなスケジュールにあって、上海でのレースをシーズンのどの時期に再設定できるかという課題が残っている。
さらに開幕戦が近づき、「オーストラリアGPは予定通り行われる」というアナウンスがなされたものの、感染拡大阻止に向けたイタリア各地の封鎖が決まり、フェラーリやアルファタウリ(昨年までのトロロッソ)、公式タイヤサプライヤーのピレリのスタッフの移動についても不安が広がった。加えて第2戦バーレーンGPの主催者は、チケットの販売をいったん中止した後に「無観客レース」とすることを決断。事態は刻々と変化している。
オーストラリアGPの会場でも混乱は続いている。3月12日、体調不良から検査を受けたチームクルー数人のうち、マクラーレンのスタッフから陽性反応が出て、マクラーレンは開幕戦を欠場する判断を下した。その他、サイン会などのファンとの接触機会がなくなり、メディア活動でもドライバーに近づけないといった制限が加えられるなど、まさに異例の展開である。
チームの欠場という事態を受け、F1やFIA(国際自動車連盟)がどのようなアクションを取るかは、本稿執筆時点(日本時間の2020年3月12日夜)では明らかになっていないが、予定通り開幕戦が行われることとして、2月に行われた合同テストの様子を振り返っておきたい。
【追加更新】
日本時間の13日朝、開幕戦オーストラリアGPの主催者、F1、FIAは、同GPをキャンセルすることで合意した。
拡大 |
7連覇をもくろむメルセデスは新技術「DAS」投入
2月19日から2回に分けて、合計6日間の合同テストがスペイン・バルセロナで行われた。1年前、冬のテストで絶好調だったフェラーリが、開幕後なかなか勝てなかったことを思い出せば、テストの結果などアテにはならないことに気がつくのだが、それでもこれからの一年を占う上で、見逃せない傾向は見て取れた。
今年、前人未到の7年連続ダブルタイトルという偉業達成を目指すメルセデスは、極めてイノベーティブな「DAS=デュアル・アクシス・ステアリング」を採用して話題をかっさらった。ライバルチームの度肝を抜いたこのDASは、ドライバーがステアリングホイールを押したり引いたりすることで、フロントタイヤの「トー角」を調整する仕組みで、コーナーとストレート、それぞれで適したトー角で走り、アドバンテージを得ようという革新的なシステムである。
DAS単体の効果を評価することは難しいが、テストを見る限り、シルバーアローのニューマシン「W11」は、総合的なパフォーマンスで頭ひとつ抜け出ている印象だった。このチャンピンチームは、スペインGPの舞台でもある一周4.6kmのサーキットを、全チーム中最多の903周、実にレース13回分以上の距離を走破。今年ミハエル・シューマッハーの大記録、7度目のタイトル獲得に挑むルイス・ハミルトンは、ドライバー最多となる466周の周回を重ね、さらにチームメイトのバルテリ・ボッタスもテスト期間中の最速タイムをたたき出した。昨シーズンの強みであった、低速コーナーでの回頭性の良さを踏襲しつつ、弱点だった冷却系にも手を入れたもようだ。
一方で、王者に不安要素がないわけではない。ハミルトン、ボッタス、さらにはカスタマーのウィリアムズでもパワーユニットのトラブルが発生していたのだ。テストでは問題を出し切ることが肝要とはいえ、シーズンに入っても問題が起きたなら、チャンピオンシップにも影響が出てきそうだが、果たして……。
レギュレーションが安定している今季にあっても、あえてDASやパワーユニットで攻めの開発姿勢を取る。昨季21戦15勝を飾った常勝軍団は、その地位に安穏としてはいない。
拡大 |
拡大 |
昨季以上を望むレッドブルと問題を抱えるフェラーリ
メルセデスを追う立場となる昨季ランキング2位のフェラーリと3位レッドブルだが、テスト中、より安定感があったのはレッドブルの方だった。
2019年は、ホンダのパワーユニットとの初年度でありながら3勝を記録、まずまずの結果を残したレッドブル。今季は、例年見られた開幕後のスロースタートという悪癖を克服するため、今季型マシン「RB16」のシェイクダウンを早めにするなど周到な準備をしてきたという。
テストでは、メルセデスに次ぐ2番目に速いタイムをマーク。しかし一番やわらかいタイヤを使ったタイムではなく、その真の速さについては開幕以降でないと何とも言えないところだ。スピンやコースオフも目立ったが、シーズンオフの間に2023年までの契約延長を決めたマックス・フェルスタッペンいわく、「マシンのリミットを探っていただけ」。
昨季後半からステアリングを握っているアレクサンダー・アルボン、そしてF1復帰6年目のホンダとともに、今年こそタイトル争いに加わりたい。今のところホンダのF1活動は2021年までしか決まっておらず、その継続を強く望んでいるレッドブルとしても、今年は「レースに勝つ」以上の戦績が欲しいところである。
フェラーリは昨年、直線と高速コースしか強さを発揮できず、ドライバーマネジメントにも難儀。3勝しか記録できずに惨敗した一年だった。今年のテストでは、周回数こそメルセデスに次いで多い844周だったが、タイムではメルセデス、レッドブル、ルノーに上回られての4番手とパッとせず。2019年には最強の名をほしいままにしたパワーユニットも、また圧倒的なストレートスピードもすっかり鳴りを潜め、ライバル勢も「わざとパワーを落としているのでは?」と首をかしげるほどだった。
セバスチャン・ベッテルは、今季型のマシン「SF1000」を「ドラッグ(空気抵抗)が大きい」と評価。昨季足りなかったダウンフォースを増すべく進められた開発の結果ということかもしれないが、マラネロの代表就任2年目を迎えたマッティア・ビノットも、その遅さを認めざるを得なかった。本当の実力は開幕後に明らかになるものの、2024年までフェラーリにとどまることを決めたシャルル・ルクレールともども、今年も赤いチームは苦しい戦いを強いられるのだろうか。
なおテストも終盤に差し掛かった2月28日、F1のルールメーカーであるFIA(国際自動車連盟)は、昨年フェラーリが使ったパワーユニットに関する調査を終え、フェラーリと合意に達したと発表。しかし、何が調査されどのように合意されたかの詳細は公表されず、フェラーリのパワーユニットを使わない全7チームが強く抗議するという出来事が起きた。
昨年、「フェラーリの強力すぎるパワーユニットはレギュレーションに違反しているのではないか」との指摘が後を絶たず、その都度FIAは違法性を否定してきていただけに、2者による不透明な幕引きに納得がいかないのも理解できる。今年のテストでの低調ぶりといい、フェラーリからいいニュースは聞かれなかったのは、気がかりである。
拡大 |
拡大 |
激戦必至の中団勢 注目は“ピンク・メルセデス”
突出した3強チームの後ろ、中団勢は相も変わらず実力伯仲の様相を呈している。
なかでもテスト中、速さも見栄えも目立っていたのがレーシングポイントだった。目にも鮮やかなピンクに塗られたニューマシン「RP20」は、誰もが「2019年のメルセデスW10にソックリ」と思うほど昨年のチャンピオンマシンに酷似しており、“ピンク・メルセデス”と揶揄(やゆ)されたほど。パワーユニットやギアボックスなどはパートナーであるメルセデスから供給されているが、もちろん、エアロパーツなどの技術供与はその限りではなく、レーシングポイントがあの手この手を使い“マネした”ということである。
コース上でもレーシングポイントはとても速く、全体の5番手タイムを記録。セルジオ・ペレスも「自分のF1キャリアの中でもベスト」と太鼓判を押すほどの出来に仕上がっている。競合チームが「それってアリなの?」と複雑な感想を漏らすマシンだが、そもそも2018年途中まで「フォースインディア」と呼ばれていたこのチームは、限られた予算の中で高効率なマシン開発を手がけることにたけており、2016年、2017年とコンストラクターズランキング4位に入った実力を持つダークホース的存在。ドライバーのランス・ストロールの父である大富豪ローレンス・ストロールが加わり、財力が盛り返してきた今季、このチームは中堅勢の台風の目になるかもしれない。
もちろん、昨季ランキング4位の座を仕留めたマクラーレンも、5位だったルノーも、またホンダとタッグを組んで3年目のトロロッソあらため新生アルファタウリも、それぞれの底上げを図っている。さらに、昨年たった1点しか獲得できず不名誉な最下位に終わったウィリアムズも、限られたリソースを無駄にしないよう、前年型マシンで得られたデータを最大限に活用して今季に臨もうとしている。
2020年は、新たにベトナムGPが加わり、35年ぶりにオランダGPが復活を遂げるなど話題には事欠かない一年となる。コロナウイルスによる世界的混乱が一刻も早く終息することを願いつつ、70周年の節目を迎えたF1の、その長い歴史にふさわしい好勝負に期待したい。
(文=柄谷悠人/写真=Mercedes、Ferrari、Red Bull、Racing Point、AlphaTauri、Getty Images/編集=関 顕也)
拡大 |
拡大 |

柄谷 悠人
-
日本で売れるクルマはあるのか!? 最新の“アメリカ産ニホンシャ”を清水草一が検証する! 2026.1.19 アメリカからの外圧による制度変更で、北米生産モデルの国内導入を決めたトヨタ。同様に、今後日本での販売が期待できる「海外生産の日本車」には、どんなものがあるだろうか? 清水草一が検証してみた。
-
新生ノートンがいよいよ始動! 名門の復活を担う次世代モーターサイクルの姿に迫る 2026.1.16 英国のモーターサイクル史にあまたの逸話を残してきた名門、ノートンが、いよいよ再始動! その数奇な歴史を振り返るとともに、ミラノで発表された4台の次世代モデルを通して、彼らが思い描く未来像に迫った。
-
市街地でハンズオフ運転が可能な市販車の登場まであと1年 日産の取り組みを再確認する 2026.1.15 日産自動車は2027年に発売する車両に、市街地でハンズフリー走行が行える次世代「ProPILOT(プロパイロット)」を搭載する。その発売まであと1年。革新的な新技術を搭載する市販車の登場は、われわれにどんなメリットをもたらすのか。あらためて考えてみた。
-
30年の取材歴で初めてのケースも 2025年の旧車イベントで出会った激レア車 2026.1.14 基本的に旧車イベントに展示されるのは希少なクルマばかりだが、取材を続けていると時折「これは!」という個体に遭遇する。30年超の取材歴を誇る沼田 亨が、2025年の後半に出会った特別なモデルを紹介する。
-
東京オートサロンでの新しい試み マツダのパーツメーカー見学ツアーに参加して 2026.1.13 マツダが「東京オートサロン2026」でFIJITSUBO、RAYS、Bremboの各ブースをめぐるコラボレーションツアーを開催。カスタムの間口を広める挑戦は、参加者にどう受け止められたのか? カスタムカー/チューニングカーの祭典で見つけた、新しい試みに密着した。
-
NEW
ベントレー・コンチネンタルGTアズール(4WD/8AT)【試乗記】
2026.1.19試乗記ベントレーのラグジュアリークーペ「コンチネンタルGT」のなかでも、ウェルビーイングにこだわったという「アズール」に試乗。控えめ(?)な680PSのハイブリッドがかなえる走りは、快適で満ち足りていて、ラグジュアリーカーの本分を感じさせるものだった。 -
NEW
第327回:髪もクルマもナイスファイト!
2026.1.19カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。日産の新型「ルークス」で夜の首都高に出撃した。しっかりしたシャシーとターボエンジンのパワフルな走りに感心していると、前方にスーパーカーの姿を発見。今夜の獲物は「フェラーリ・ローマ」だ! -
NEW
日本で売れるクルマはあるのか!? 最新の“アメリカ産ニホンシャ”を清水草一が検証する!
2026.1.19デイリーコラムアメリカからの外圧による制度変更で、北米生産モデルの国内導入を決めたトヨタ。同様に、今後日本での販売が期待できる「海外生産の日本車」には、どんなものがあるだろうか? 清水草一が検証してみた。 -
フェラーリ12チリンドリ(後編)
2026.1.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「フェラーリ12チリンドリ」に試乗。前編では伝家の宝刀であるV12エンジンを絶賛した山野。後編ではコンビを組むシャシーの印象を余すところなく聞いてみた。 -
BYDシールAWD(4WD)【試乗記】
2026.1.17試乗記BYDのBEVサルーン「シール」の機能アップデートモデルが登場。強化のポイント自体はそれほど多くないが、4WDモデルの「シールAWD」は新たに電子制御式の可変ダンパーを装備したというから見逃せない。さまざまなシーンでの乗り心地をチェックした。 -
新生ノートンがいよいよ始動! 名門の復活を担う次世代モーターサイクルの姿に迫る
2026.1.16デイリーコラム英国のモーターサイクル史にあまたの逸話を残してきた名門、ノートンが、いよいよ再始動! その数奇な歴史を振り返るとともに、ミラノで発表された4台の次世代モデルを通して、彼らが思い描く未来像に迫った。







