EVでもターボ、ターボ車でもターボなし!? ポルシェにとって“ターボ”の名が特別な理由
2020.03.20 デイリーコラム「930ターボ」に始まるポルシェの量産ターボ車
新型コロナウイルスの影響により、例年3月に行われてきたジュネーブモーターショーが開催中止となった。しかし、このときのために準備された新型車の発表までお蔵入りしてしまうのはあまりにも忍びない。各社はプレスカンファンレンスの模様を独自で配信するなど、さまざまな対応を行っている。
ポルシェは同ショーのプレスデーが予定されていた2020年3月3日(現地時間)、新型「911ターボS」を発表した。3.8リッター水平対向6気筒ツインターボエンジンを搭載し、最高出力650PS、最大トルクは800N・mを発生。ターボ専用の8段PDK仕様車の0-100km/h加速タイムはわずか2.7秒で、最高速は330km/hに到達するという。言わずもがな新型911シリーズのトップエンドモデルだ。
ポルシェにとって“ターボ”の文字は特別な意味をもつ。1973年のフランクフルトモーターショーに、911をベースに大きく張り出したホイールアーチと巨大なリアウイングを与え、2.7リッターの水平対向6気筒エンジンにターボチャージャーを搭載したプロトタイプを出展。翌74年のパリモーターショーで「930ターボ」として発表した。市販モデルには新設計の3リッターエンジンを搭載し、1975年に発売。ポルシェ初の量産ターボモデルの誕生だった。正式車名は「911ターボ」となる。これらの技術を活用し、のちに「924」や「944」、さらに「968」といったFRスポーツのトップエンドモデルにもターボが搭載されるようになった。
当時、日本国内ではスーパーカーブームもあって、911ターボの後部にあるエンジンフードの上に備わった小さな“turbo”のロゴは憧れの的になった。カー用品店などでこれを模倣した商品が販売され、ターボ付きではない国産車に貼り付ける人が続出したほどだ。
ちなみに“ターボS”は、1992年にタイプ964の911ターボをベースにエンジン出力を高め、「RS」モデルと同様の軽量化を施した限定車に初めて使用された名称だった。ターボSがカタログモデルとなったのはタイプ996の時代からだ。
説明不要のマジックワード
ポルシェにとってのターボモデルは時代とともに変化している。それは、技術的な進化という意味だけではなく、実際のターボチャージシステムの有無とグレード名とがリンクしなくなったということだ。もう少しわかりやすく言えば、現行ラインナップで、ターボを搭載していないポルシェモデルはほとんどない。
今や911は「GT3」「GT3 RS」などを除けばすべてターボモデルだ。「マカン」も「カイエン」も「パナメーラ」も実はみなターボ車。これは2000年前後に欧州メーカーが環境対策として、排気量を抑えてパワーを稼ぐダウンサイジングターボエンジンを採用するようになったためだ。それは911とて例外ではなく、先代となるタイプ991の後期型より、「911カレラ」系のエンジンは従来の3.4/3.8リッター自然吸気から、3リッターツインターボへと置き換えられた経緯がある。
こうしてターボは、ポルシェにとって過給システムの有無ではなく、トップエンドを意味するアイコンになった。現行ラインナップをみても、911を筆頭に、パナメーラもカイエンもマカンも、トップエンドモデルのグレード名にはターボの文字がある。
近年、ダウンサイジング化によって、例えば「メルセデス・ベンツE200」が1.5リッター、「BMW 330i」は2リッターなど、グレード名とエンジン排気量とが符号しないケースが増えてきた。メルセデスやBMW、アウディなどのジャーマンプレミアムブランドは、数字の組み合わせでいかにそのモデルの性能を端的に表現するかに腐心している。しかし、これからパワートレインの電動化が進めば進むほど、それは難しくなっていくだろう。
ポルシェがユニークなのは、電気自動車の「タイカン」であっても、上位グレードを「ターボ」「ターボS」としていることだ。開発者になぜ内燃機関のない電気自動車にターボの名を使うのかと尋ねると、既存のポルシェユーザーがその性能の高さを想起しやすいものだからと答えていた。なるほど、ポルシェにとってターボとは、説明不要のマジックワードというわけなのだ。
(文=藤野太一/写真=ポルシェ/編集=藤沢 勝)

藤野 太一
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