メルセデスAMG CLA45 S 4MATIC+(4WD/8AT)
桃源郷が見える 2020.04.14 試乗記 “クラス最強”をうたう、最高出力421PSの2リッター直4ターボエンジンを積んだハイパフォーマンス4ドアクーペ「メルセデスAMG CLA45 S 4MATIC+」に試乗。高速道路とワインディングロードでその走りを味わった筆者は、深く感銘を受けたのだった。 拡大 |
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ルックスはスマートで精悍
りんかい線にゆられて東京・品川シーサイドにあるメルセデス・ベンツ日本に試乗車となるAMG CLA45 S 4MATIC+の引き取りに向かいながら、webCG編集部のSさんが送ってくれた資料で予習をする。
プレスリリースには「量産の2.0リッター4気筒エンジンとしては世界最高の421PS」とあって、思わず「よんひゃくにじゅういちばりき」と小声で復唱してしまう。声に出して読みたい日本語というか、自分で自分に読み聞かせをしてしまった。たしか、「ポルシェ911カレラ」の3リッター水平対向6気筒ターボの最高出力は385PSだったはず……。
さらに読み込むと、フロントグリルは「1952年メキシコで開催された伝説の公道レース、カレラ・パナメリカーナ・メヒコで優勝したレーシングカー『メルセデス・ベンツ300SL』で初めて採用された由緒あるものです」とある。
CLAのAとは「Aクラス」のA、だからサイズはそこそこコンパクトで、そこにポルシェ911カレラよりパワフルなエンジンを積み、顔は伝説のレーシングカー。一体どんなクルマなのか。品川シーサイドの駅に降り立ったときに頭の中では、体は子どもだけどものすごくマッチョで顔はおじいさんというモンスターを思い描いていた。
ところが、実際に対面したAMG CLA45 S 4MATIC+はスマートで精悍(せいかん)な好青年で、垂直方向にフィンが切られた伝説のグリルも、キラキラ、ギラギラしていないぶん、カッコはいいけど威圧感はない。
そもそも、鋭利なキャラクターラインやボディー表面の煩雑な凹凸に頼らずにシンプルな美しさを表現するという、最近のメルセデス・ベンツのデザインへの考え方には大いに共感できる。CLAもそうしたコンセプトにのっとったデザインで、控えめながら伸びやかで品のある造形だ。
伝説のグリルは、そうした美しさを壊すことなく、しっかりとなじんでいた。「おらおらー!」と強めのアピールをする高性能車が多いなか、AMG CLA45 S 4MATIC+は知的な感じがする。と、外観に好感を持ったところで乗り込んで、421PSを始動する。
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ワイルドさや気難しさを感じさせない
試乗車は55万円ナリのオプション「AMGパフォーマンスパッケージ」を装着していたので、シートはサイドサポートが張り出した「AMGパフォーマンスシート」となる。体全体をホールドするこのシートに座ると、自分が部品の一部として高性能マシンに組み込まれたように感じる。それは、決してイヤな気持ちではない。
フラットボトム形状の「AMGパフォーマンスステアリング」のグリップ部分に用いられる「DINAMICA」とは、人工スエード素材。古くからのクルマ好きにはアルカンターラみたいな触り心地だとお伝えしたい。新しいクルマ好きには、スエードのようにやさしい触り心地だけれど汗ジミの付着や色移りが抑えられた、機能的な素材だとお伝えしたい。
そのAMGパフォーマンスステアリングを握って一般道に出ようとして、驚いた。霊長類最強、じゃなくて世界最強の2リッター4気筒エンジンという触れ込みから想像するようなワイルドさや気難しさを、まったく感じさせないからだ。
まずエンジンは、始動時に「ブフォン!」と咳(せき)払いして存在感を示したあとは、アイドリングも静かで安定していて、不機嫌そうなそぶりを見せることもない。
出発して、駐車スペースから出る際に通過する最初の段差を乗り越えて、路面からのショックが少ないことにも驚く。段差を越えた瞬間、スッとスムーズにサスペンションが沈み込んで、路面から受けるはずの衝撃を吸収してくれる。どんなクルマでもそういう動きをするわけですが、沈み込むタイミングが素早く、最初の動きが抜群に滑らかなのだ。
もしかしたら間違えて標準仕様を借りてしまったのかと思ったくらいしなやかに感じたけれど、ステアリングホイールにはAMGの文字が輝いているのだった。
そこそこ交通量がある首都高速でも、ジェントルで上質な高級車という印象は変わらない。こういう状況だと、6つのドライブモードを選べる「AMGダイナミックセレクト」を切り替えても、排気音が迫力を増し、少し乗り心地が変化する程度だ。
ターボなのにNAみたいなフィーリング
翌朝、集合場所へ向かってAMG CLA45 S 4MATIC+でガラ空きの東名高速を巡航しながら、なるほどこういうクルマか、と感心する。まずエンジンは、踏めばもちろんパワフルであるけれど、ETCゲートを通過したあとや本線への合流での軽い加速でもシビれる。それは単にパワーが出ているだけでなく、「ドライバーが操作して、パワーを絞り出す感じ」を上手に表現しているからだ。簡単に言えば、“やってる”気になる。
濁りのない、乾いた音もいい。エンジンはよどみなく回転を上げ、それにつれて排気音は「フォーン」というさらに抜けのよいものに変わっていく。事前にターボエンジンだと知っているから「ターボなのにNAみたいなフィーリングですごい」と感じるけれど、回転フィールといい音といい、知らずに乗ったらターボエンジンだと見抜く自信がない。
高速道路での乗り心地も快適だ。前述したように、AMG CLA45 S 4MATIC+では6つのドライブモードを選ぶことができる。「スリッパリー」「コンフォート」「スポーツ」「スポーツ+」「レース」「インディビジュアル」のうち、まずはコンフォートから試す。
一般道で感じた、よく動くアシという印象はここでも変わらない。よく動いて、フラットな姿勢を保つ。快適だ。高速道路を70km/hや80km/hで巡航する限りは、スポーツやスポーツ+のモードを選ぶ必然性は薄い。突き上げがキツくなるだけだから。
高速道路を巡航しながら体感するのは、速いとか高級というのを超えて、気持ちいいという感覚だ。エンジンの吹け上がりと音、しっとりとした乗り心地、ブレーキペダルのしっかり感、ステアリングホイールの手応え──。片道400kmや500kmぐらいの出張だったら、ぜひともこのクルマで行きたい。
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運転がひたすら気持ちいい
箱根ターンパイクの急勾配の登りを、AMG CLA45 S 4MATIC+はぐいぐい登る。この程度のスケールのワインディングロードだと421PSがその能力をフルに発揮するわけではないけれど、“ワンマン・ワンエンジン”というコンセプトにのっとり、ひとりのマイスターが組み立てたであろう2リッター直4ターボは、ここでもドライバーを“やってる”気にさせてくれる。
まずアクセルを踏み込んだ瞬間のレスポンスがいい。そこからさらに踏み込むと、ドカンとパワーが高まるわけではなく、アクセル操作に応じてじわじわとパワーが高まる。「あなたの指示によって動いていますよ」というふうに、クルマが応えてくれる。
コーナリングも、もちろん絶対的なスピードも速いけれど、感じるのはフィーリングのよさだ。まずステアリングホイールのからの手応えで、路面とタイヤがどういう状態で接しているのかが詳細に伝わってくる。そしてステアリングホイールを切り込むと、パキッとデジタル的に曲がるのではなく、それでも外側の車輪がじんわりと沈み込みながら狙ったラインをオン・ザ・レールでトレースする。やはり、“やってる”気にさせてくれる。
実際には、高度な四駆システムが前後のトルク配分を100:0〜50:50の間で自在に変化させていたり、外側の車輪にトルクを与えたり、内側の車輪にブレーキをかけたり、車内では電子信号が飛び交っているはずだ。でもドライバーはそんなことはつゆ知らず、気持ちよくハンドルを握ることができる。
そしてドライブモードをコンフォートからスポーツへ、さらにスポーツ+へとシフトすると、ボディーサイズがひとまわりずつコンパクトになっていくように感じる。スポーティーになった、足まわりが硬くなったというよりも、クルマ全体がタイトになるイメージだ。
サーキットでもっと追い込めば違う表情も見えるのかもしれないけれど、一般道ではひたすら気持ちよく運転ができる。お釈迦(しゃか)様の手のひらで遊ばされている、とはこのような感覚か。で、自分が買える値段ではないのにこういうことを書くのもアレですが、この中身がこの値段で買えるというのは、バーゲンプライスではないでしょうか。「速い」とか「高級」の先にあるクルマ趣味の桃源郷を見せてもらった。参りました。
(文=サトータケシ/写真=神村 聖/編集=櫻井健一)
テスト車のデータ
メルセデスAMG CLA45 S 4MATIC+
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4690×1855×1415mm
ホイールベース:2730mm
車重:1710kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:421PS(310kW)/6750rpm
最大トルク:500N・m(51.0kgf・m)/5000-5250rpm
タイヤ:(前)255/35ZR19 96Y/(後)255/35ZR19 96Y(ミシュラン・パイロットスポーツ4 S)
燃費:11.5km/リッター(WLTCモード)
価格:856万円/テスト車=947万6000円
オプション装備:AMGアドバンスドパッケージ(20万円)/AMGパフォーマンスパッケージ(55万円)/パノラミックスライディングルーフ<挟み込み防止機能付き>(16万6000円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:1679km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:246.7km
使用燃料:25.6リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:9.6km/リッター(満タン法)/9.2km/リッター(車載燃費計計測値)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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