暴走するレッカー運転手

『怒りのチェイサー』の舞台は、カナダのトロント。レッカー会社に勤める男たちの物語である。主人公のベンは違法駐車だけを取り扱っていて、実入りは少ない。妻にレストランを開業させるのが夢だが、日々の食事さえままならず、フードバンク頼りである。息子が欲しがっている300ドルの自転車を買うなんてとても無理だ。

レッカー会社からは車両の貸与を有料にすると言われ、仕方なく悪徳警官から金を借りる。社長は警察との契約が成立すれば仕事が増えるというが、空約束だ。返済は滞り、ベンは追い込まれる。手っ取り早く稼ぐには、交通事故専門のレッカー運転手、通称チェイサーになるしかない。現場に駆けつけて被害者の不安につけ込むあくどい仕事である。プライドの高い彼はやりたくないが、背に腹は代えられない。

ライバルは多い。警察無線を盗聴して、いかに早く現場に到着できるかが勝負になる。2015年の映画『ナイトクローラー』が似たような設定だったが、あれはパパラッチの話だった。生々しい映像を撮影してテレビ局に売りつける商売である。レッカー運転手は、高そうな事故車を見つけて修理工場に運び、リベートを受け取るのだ。

ベンは慣れない仕事で失敗を重ね、妻からは離婚を切り出されて息子からも拒絶される。最悪の状況から、最後には大逆転するというのがこの手の映画の常道だ。ハッピーエンド、と言いたいところだが、よかったよかったと手放しで喜ぶことはできない。主人公はダークサイドに落ちてしまうのだ。そういえば、『ナイトクローラー』もヒドい結末だった。

(文=鈴木真人)

鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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