BMWアルピナB7ロング アルラッド(4WD/8AT)
禁断の美食 2020.04.16 試乗記 アルピナのフラッグシップモデル「B7」に試乗。どこまでもスムーズなV8ツインターボエンジンと、ハンドリングと快適性を高度なレベルで両立させたシャシーが織りなす、アルピナならではの世界に身をゆだねてみた。身内のライバル
「M760Li xDrive」。まったく分不相応な話で相当恐縮だが、これ、現状のBMWのラインナップにおいて最も彼ららしいクルマではないかと僕はひそかに思っている。
火力のすさまじさを差し置いて、フィーリングの緻密さと滑らかさにうっとりさせられる12気筒ツインターボの出来栄えや、そんな巨大なエンジンを搭載しているとはゆめゆめ思えない敏しょうなハンドリングは、他に比べるものがない。いやぁさすがはBMW、これほど気持ちのいいスポーツサルーンをLセグメントでもつくれちゃうとは……と、手放しで褒めたたえたくなる。
そんなM760Liと拮抗(きっこう)するライバルといえば、アルピナのB7だろう。ベースモデルはG12型「7シリーズ」、つまりM760Liとまったく同じロングホイールベースの車台だ。速さ比べをしてみれば、0-100km/h加速が3.7秒対3.6秒、最高速が305km/h対330km/hとわずかにB7が上回る(B7は巡航最高速)。日本での価格は2582万円対2597万円と、こちらも差はわずかだが、装備的にはM760Liはリアエンターテインメント等も含むフルコンプの満艦飾だから、その差は考慮すべきだろう。ともあれこの両車、比べてくれと言わんがばかりの近しいモデルであることは間違いない。
“切った貼った”はやらない
両車の決定的な違いはエンジンだ。B7が搭載するのは4.4リッターのV8直噴ツインターボで、最高出力608PS、最大トルク800N・mと、これまた6.6リッターのV12直噴ツインターボを搭載するM760Liのスペック(609PS/850N・m)に限りなく近い。排気量的には5割増しのエンジンに肉薄したスペックという点ではB7のそれを褒めるべきかもしれないが、その分高回転型のチューニングになっていることも予想されるわけで、単に速けりゃいいという話でもないハイエンドカテゴリーにおいて、どういうキャラクターを持っているのかも気にはなる。
カーボン材をコアとしてキャビンやピラー、フロアトンネルを強化しながら、他部位もアルミやマグネシウムなどへの材料置換を推し進め、大胆な軽量高剛性化を果たした7シリーズのアーキテクチャーはB7にもそのまま用いられ、特別な補強の類いがないのは、もちろんそれだけ土台の出来がいいということだろう。が、ベースモデルのハードウエアに著しく手を加えない、いわゆる切った貼った的なところとは明確に一線を画し続けているのはアルピナのポリシーでもある。
その分、腕を振るうのはソフトウエアのセットアップだ。エアサスペンションと電子制御可変ダンパーは、B7専用スペックとして開発されたミシュランの「パイロットスポーツ」との組み合わせで最大のパフォーマンスを発揮するように、加えて後輪操舵との連携も意識しながら、独自のレシピでリプログラミングされている。5段階あるドライブモードのうち、最もハードな「スポーツ+」モードを選択、もしくは他のモードであっても230km/h以上の速度に達した際には車高を標準状態よりも15mm下降して安定性を高める一方、地上高を稼ぎたい時には標準状態から20mm上昇させることも可能だ。
スムーズさの中に潜む野性味
エンジンについてはオリジナルタービンおよびパイピングの採用といったハードウエアの変更も伴いながら、高出力化に対応するエンジンマップやクーリングなどのプログラムをアルピナで手がけている。以前、アンドレアス・ボーヘンジーペン社長に聞いたところによれば、彼らはBMW側の新型車ローンチの2年くらい前から、そのスペックにアクセスできるという。果たしてその特別な信頼関係は、クアント家とボーヘンジーペン家というドイツ的なエスタブリッシュメントならではの世界なのだろうかという邪推もかき立てるが、氏は1960年代からのモータースポーツ活動も含めたつながりの歴史の長さをその理由に挙げる。
タービン換装で608PSのパワーを得て……と聞けば、山と谷とがはっきりしたドライバビリティーを想像するかもしれないが、B7のエンジンは低中回転域のフィーリングも実にフラットで癖のようなものはまったく感じられない。微細なスロットル操作にもきれいに応答し、優しく速度をコントロールできる。その滑らかさはさすがに12気筒と同然とは言わずとも、限りなくそれに近い滑らかさを持っている。
と、そこから中高回転域に至るところのつながりも極めてフラットで何のよどみもない。厳密に見ていくと4000rpm辺りから2次曲線的なパワーの盛り上がりがあって、6500rpmまで伸びやかに回り切る。何よりこの域で感じるパワーの質はV8なりに粒が立っていて歯切れがいい。徹頭徹尾スキッと滑らかで精緻なM760Liに対して、B7は滑らかさの中にメリハリを利かせているし、わずかながらもクルマ好きに響くような野性味もある。
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罪つくりなアルピナ
B7のライドフィールはまごうかたなきアルピナのそれだ。試乗車はオプションの21インチ鍛造ホイールと「パイロットスポーツ4 S」との組み合わせとなっていたが、路肩の段差や橋脚のジョイントを通過した時でさえ鋭いショックを感じることはない。凹凸の乗り越えはふわっといなし、わだちをまたいでも進路はぴたりと定まったまま、しっとりと路面に張り付く。一方で、ドライバーにはその接地感を漏らさず伝えてくるから不思議なものだ。
山道での身のこなしは7シリーズとは思えないほど軽快……というのはM760Liも同じだが、B7は約100kgも軽量なこともあり、それにも増して回頭性が高い。タイトなワインディングロードではさながら「5シリーズ」でも走らせているかのようにリズミカルに向きを変える。パワーをしっかりと受け止める四駆の制御もアンダーの抑制にはうまく働いていて、積極的に駆動力で曲げていくような乗り方でも安心感は高い。
その慈しみが主にエンジンから伝わってくるM760Liに対し、B7のフォーカスポイントはやはりシャシーダイナミクスにあると思う。よくもまぁ乗り心地とハンドリングをこんな次元で両立させられるものだというのが、いつ何に乗れど共通したアルピナへの感嘆だ。こんな美食を知ってしまうとなかなか他には移れない。ひいては自分の業の深さを走らせているような気分にさせられる、そんな罪な銘柄でもある。
(文=渡辺敏史/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
BMWアルピナB7ロング アルラッド
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5268×1902×1491mm
ホイールベース:3210mm
車重:2240kg
駆動方式:4WD
エンジン:4.4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:608PS(447kW)/5500-6500rpm
最大トルク:800N・m(81.6kgf・m)/2000-5000rpm
タイヤ:(前)255/35ZR21 98Y XL/(後)295/30ZR21 102Y XL(ミシュラン・パイロットスポーツ4 S)
燃費:--km/リッター
価格:2597万円/テスト車=3075万7000円
オプション装備:ボディーカラー<アルピナブルー>(59万1000円)/インテリア<メリノブラック>(0円)/エグゼクティブパッケージ“プレジデント”(326万円)/アルピナクラシック21インチホイール&タイヤ(57万円)/ノンスモーカーパッケージ(0円)/BMWナイトビジョン(30万2000円)/ハイグロスシャドーライン(6万4000円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:3083km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:303.6km
使用燃料:47.4リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.4km/リッター(満タン法)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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