ただの軽クロスオーバーにあらず 「ダイハツ・タフト」に見る“新しい提案”とは?
2020.04.20 デイリーコラムコンセプトカー「WakuWaku」から受け継がれるテーマ
2019年の東京モーターショーに出展された、ダイハツのコンセプトカー「WakuWaku(ワクワク)」。関係者から「あれをベースにした市販モデルを出します」と聞いたとき、「でも、引き継がれるのはデザインだけでしょ?」と思った。なぜかというと、このクルマが軽ユーザーに示したコンセプトは、昨今の軽乗用車のトレンドからすると、なかなかにチャレンジングに思えたからだ。
ところがである、2020年の東京オートサロンに出展された「TAFTコンセプト」……という名の「タフト」のプロトタイプは、WakuWakuのコンセプトをそのまま受け継いだモデルになっていた。すなわち、“積むこと”に重きを置いた「遊びの世界を広げる軽クロスオーバー」(第46回東京モーターショー出展概要のプレスリリースより)である。
これだけ読むと「なんだ普通じゃん」と思われるかもしれないが、さにあらず。WakuWaku→TAFTコンセプト→タフトと続く一連のモデルには、似たようなキャッチコピーを掲げる他のクルマとは異なり、昨今の軽ワゴンには見られない、あるいは、昨今の軽ワゴンがビミョーに敬遠してきた2つのテーマが、明確に盛り込まれていた。
そのひとつが、後席と荷室に関する提案。ありていに言うと「荷室の使い勝手のために、ちょっと後席を犠牲にしてもいいですか?」というものだ。ダイハツはこのクルマのキャラクターについて、「日常~レジャーシーンまで大活躍」(プロトタイプの資料より抜粋)と説明しているが、開発者の脳内はかなり「日常<遊び」ではなかったかと、記者は勝手に想像しているのである。
「フレキシブルスペース」という説明に見る提案
あらためて時計の針を2019年の東京モーターショーに戻させていただく。奇抜なデザインやら斬新な装備やらは、ショーカーとして当たり前。WakuWakuのなにが一番印象深かったかというと、後席がすっかり「普段は荷室。時々、乗車スペース」という仕立てだったからだ。背もたれをたたんだときにフラットな荷室床面が得られるよう、シートはかなり偏平で、そもそもリアドアにはウィンドウすらなかった。どんなホラだって吹いていいコンセプトカーで、ダイハツはここまで潔い取捨選択をするんだなと驚いたもんである。
カタチは変われど、この提案はタフトにも受け継がれている。具体的な機能についてはこちらのニュースにお任せ。より興味がある人は、販売店で配布されているパンフレットをご覧いただきたいのだが、ダイハツはこのクルマの車内空間について、後席と荷室をひとくくりにして「Flexible Space(フレキシブルスペース)」と紹介しているのである。WakuWakuのように「前席>後席<荷室」とまではいかないが、それでも「前席>後席=荷室」という感じだ。さすがにリアドアには窓が付いたが、座席については「もちろんリヤシートとしても快適」(原文ママ)なんて解説である。なんだよ、「リヤシートとして“も”」って!
このように、ユーティリティーに関してユニークな提案を示しているタフトであるが、同車にはもうひとつ、同じくらいに特異なトピックが存在している。それが「男もすなる軽スペシャリティーカー」というキャラクターだ。ここでいう男というのは、もちろん生物学的な意味ではなくて、生活様式や趣味、嗜好(しこう)、そしてクルマ選びのポイントなどが、いわゆる“男性的”であるということだ。
これについては、ガチガチにSUVテイストなデザインから記者が勝手に推測したわけではなく、昨年の東京モーターショーでも今年の東京オートサロンでも、ダイハツの関係者より「狙いはオトコ!」という言質を確かに得ているのだから間違いない(長井秀和リスペクト)。特にピンクやパステル調のボディーカラーがないことについては、「ターゲットがこれこれこういう人だから」とハッキリ説明された。
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ダイハツが思い描く「男もすなる軽」の姿
軽の新型車が出るたびに語られることなのだが、あらためて言わせていただくと、軽乗用車のユーザーは約6割が女性である。そしてダイハツは、数あるメーカーのなかでも、どちらかというと「なんでこういうデザインにしたの?」「なんでこういうCM流すの?」という私たちの質問に対し、「いやいや、ユーザーの半分以上は女性ですから」という回答を決まり文句にしてきた側だった。
さらに言うと、記者はダイハツについて「女性向けのモデルを除くと、“実用+α”といった感じの付加価値をもつ軽乗用車が、ちょっと苦手」という印象を持っていた。「ネイキッド」……までさかのぼるのはいささか昔話がすぎるが、後継モデルが現れることなく消滅した「ムーヴ コンテ」を見るにつけ、この春ついに絶版となった「キャスト アクティバ/スポーツ」を見るにつけ、ダイハツってこういうクルマをつくったり、あるいはヒットしても育てたりするのが、やっぱりちょっと苦手だったと思うのだ。
今回のタフトについては、そんなダイハツが、依然として男性が胸を張って乗れる軽の少ない今日において世に問うた、「男もすなる軽」だからこそ興味深いのである。デザインにしても“キャラもの”っぽさは残っているものの、カワイイかカワイくないかと言ったら……微妙(笑)。ただ、それは間違いなく確信犯でありましょう。こうした“丸み”というか“甘さ”のない軽スペシャリティーが世に受け入れられるか否かというのも、個人的にはちょいと興味深いところなのである。
このほかにも、全車サンルーフ付き(!)だったり、ダイハツ初の電動パーキングブレーキが使われていたりと、探せば大小さまざまなトピックが潜んでいるタフト。そのいずれもが興味深いものではあるのだが、こういった要素はあればいい、多ければいいというものではない。
タフトについても、トピックが多いからこそビミョーに危うい部分もある気がするのだ。
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「新しい提案があればいい」というものではない
読者諸兄姉の皆さまは、「ダイハツ・ウェイク」というクルマをご記憶だろうか? いや、ご記憶もなにも、今もダイハツのラインナップに列せられる立派な(?)現行モデルである。その特徴は、なんといっても「タント」を超える1835mmの全高と、特殊な車体形状がかなえる車内の広さにあったわけだが、ダイハツはその広大な空間を「アクティビティーを楽しむため(=レジャー用具を積むため)のもの」と説明していた。……なんだか、どっかで聞いたような話である(汗)。
そんなウェイクの実績を見ると、発売直後の2015年でも年間販売台数は5万0711台で、同時期のタントの3分の1以下。直近にあたる3月時点の2020年累計販売台数は7040台と、軽バンである「ホンダN-VAN」に対しても後塵(こうじん)を拝している。ダイハツには申し訳ないが、「レジャーのための運搬車」というコンセプトがお客さまに広く受け入れられたとは、ちょっと言い難い。
いやいや。だったら同時期にスマッシュヒットを飛ばした初代「スズキ・ハスラー」はどうなのさ? と言われるかもしれないが、実はあのクルマ、荷室やらシートアレンジやらといった機能面は、ほぼ“普通の軽ハイトワゴン”だったのだ。そのデザインから「軽クロスオーバーのパイオニア」なんて言われるハスラーだが、ことユーティリティーに関しては、ユーザーはトガったものを求めていなかったんですね。こうしたあたりのバランス感覚というか、ツボの捉え方、落としどころの見つけ方については、スズキはやっぱりさすがだと思う。
考えてみれば当たり前のことなのだが、軽ユーザーは機能性や経済性を考慮して軽自動車を選んでいるというだけで、別にクルマ探しに特殊な嗜好を持っているわけではない。そういう意味では、登録車を購入するユーザーとも何ら違いはなく、より便利なクルマがあればそちらを選ぶし、より上質なクルマがあればそちらになびく。われわれメディアは、“軽”と聞くとついキャラクターのトガったクルマを褒めそやしがちだけど、ホントのユーザーや購入検討者からしたら、全然お門違いだったりするのだ(反省)。
翻って見るに、タフトに新しい提案が多いということは、その分既存の軽乗用車のトレンドからは逸脱しているということである。先述のような軽ユーザーが、それをどこまで受け入れるのか。ちょっと怖い気もする。
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開発者にぜひ話を聞きたかった
もっとも、長年にわたり軽を手がけてきた“西の横綱”ダイハツが、それを理解していないはずがない。それに、今や完成の域にあるとされる今日の軽自動車にしても、そのカタチがすべてのユーザーにとって最適解とは限らない。例えばユーティリティーに関していえば、コンパクトミニバンの3列目シートと同じで、「そんなに頻繁に使わないんなら、後席をちょっと犠牲にして荷室の機能性や前席の快適性に回してはどう?」という発想は大いにアリだろう。差別化のための提案や話題づくりのための装備は、ときに製品をとんちんかんにしてしまうが、そこはヒット街道ばく進中の「ロッキー」(と兄弟車の「トヨタ・ライズ」)を輩出したダイハツである。タフトについてもかようなクルマであることに、ぜひ期待したい。
……最後まで「だろう」とか「気もする」とか「期待したい」とか、確固とした話ができずにメンボクない。なにせ新型コロナウイルスの影響で、まだ実車にも触れられていないし、開発関係者にも話をうかがえていないのだ。では実際にクルマに触れ、開発者に話を聞く機会があったとしたら、記者は何を確かめたかったのか? という話で、今回は記事を締めくくらせていただく。
オチがライバルメーカーのエピソードで恐縮だが、かつてスズキの関係者に話をうかがった際、氏はハスラーがヒットした理由について、こう語っていた。
「スズキは海も山もある浜松のメーカーですから、こういうクルマで負けるわけにはいかないじゃないですか」
作り手がすなわちターゲットで、その作り手が「欲しい」と思えるクルマができたから成功した、ということなのだろう。
ダイハツの開発陣にとって、タフトはちゃんとそういうクルマに仕上がっているのか。6月の発売までにぜひ一度、話をうかがいたかった。
(webCGほった)
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堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。