第824回:ダイハツの軽ラインナップにイッキ乗り! ブランド再生を支えるクルマづくりの地力に迫る
2025.03.22 エディターから一言 拡大 |
ダイハツが擁する軽自動車のラインナップに一斉試乗! 久々に触れたダイハツの最新モデルの印象は? 認証不正問題からの再生の道を歩む彼らの現在点は? 自身もダイハツ車のオーナーである、清水草一氏がリポートする。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
再生の“のろし”となる合同試乗会
これまで中古フェラーリを合計13台買った私だが、ダイハツ車も通算3台買っている。最初はベーシック軽の「エッセECO」(5MT)。2台目は1991年製の「ハイゼット トラック ジャンボ」(5MT)というネオクラシック軽トラ。そして現在は「タントスローパー」(介護車両)を所有している。
タントスローパーを買ったのは3年ほど前だが、その翌年(2023年)、ダイハツでは認証不正問題が発覚(参照)し、一時はほとんどのモデルの生産・出荷が停止された。現在は全面的に生産が再開されているが、問題発覚以来新型車の発売はなく、「ダイハツ・ハイゼット」をベースにした商用電気自動車(スズキとの共同開発)を含め、新規開発は大幅に遅延しているという。ダイハツのニューモデルの発売は、当分なさそうだ。
そんな時、ダイハツ・オールラインナップ試乗会が開催された。問題発覚以来、ダイハツは商品のPRを控えていたが、そういった活動も再開します、ということである。
といっても、この期間中はマイナーチェンジすら皆無だったので、試乗会の目的は既出のモデルの再確認。現ダイハツ車オーナーとしては、久しぶりに愛車と他のダイハツ車とを比較する機会を得た。
やっぱりクルマは“低いの”に限る!?
わが家のタントスローパーは、車両重量1tに迫る重量級だ。もちろん重心だって高い。しかし「DNGA」のシャシー性能はすばらしく、操縦性、特にコーナリング中の舵の利きは、軽ハイトワゴンとは思えないレベルにある。個人的にはそこにほれ込んでタントを選んだが、今回あらためて「ムーヴ キャンバス」と「タフト」に試乗して、「ああ、やっぱり重心が低い軽はいいなぁ」と実感した。
いや、キャンバスもタフトも、「ミラ イース」みたいなセダンタイプに比べたら重いし、重心だって高いけど、タントと比較すると、肩のあたりがメチャ軽くてスッキリサワヤカ。クルマらしい走りをしてくれる。「うおー、このどっちかに買い替えたい!」と思ってしまった。
3年前の購入時点では、軽ハイトワゴンとしては、タントのシャシー性能が一番高かったんだけど、現在は総合力で新型「ホンダN-BOX」に完全に逆転されている。新型N-BOXは静粛性や快適性、乗り味など、すべての面で仕上がりがずぬけている。ライバルのタントや「スズキ・スペーシア」と比べると約10万円値段は高いが、カーマニア的には10万円追加しても十分オツリがくる感覚だ。あれはもう、「最善か無か」時代のメルセデス級だぜ!
しかし、キャンバスやタフトなら、軽ハイトワゴンとは一味違う走りができる。あのスペース性さえ求めなければ、全高は100mmから150mm低いほうが絶対イイ。タフトなら車重も100kg以上軽い。やっぱり軽は軽くないとね!
じゃイースが一番かといえば、そうじゃなかった。「スズキ・アルト」も同様だが、軽セダンはサスペンションがメチャソフト。重心は低いけどロール速度が速くて深い。キビキビ走ってくれる感覚はあまりない。
ってことで、今回試乗したなかでは、タフトが一番のお気に入りだった。標準のガラスルーフのおかげで車内は明るくて開放的! カッコも月面車みたいでイカしてる。ラゲッジルームの狭さを見ると、「やっぱ軽ハイトワゴンかな」と思ってしまいそうだけど。
CVTの開発にみるダイハツの心意気
軽の主戦場である軽ハイトワゴンでは、N-BOXの独走を許しているダイハツだが、軽商用車の部門では、業界のリーダーだ。
「アトレー/ハイゼット カーゴ」は、2021年に17年ぶりのフルモデルチェンジを受け、シャシーがDNGA化された。さらにマイナーチェンジされた「ハイゼット トラック」ともども、2ペダルのトランスミッションも、ATからCVTに変更されている。これはすごい進化だった(参照)。
軽商用車に試乗する機会は多くはないが、6年ほど前に先代ハイゼット カーゴで首都高を走り、あまりの遅さや快適性の低さに衝撃を受けた。配達のみなさんはこれに耐えていたのか……と目頭が熱くなった。きつい上り坂では、アクセル全開でもクルマの流れについていけない!
ところがCVT化された新型アトレー/ハイゼット カーゴは、加速も快適性も別次元に改善。ついでに軽トラのハイゼット トラックもCVT化された!
一口にCVT化というけれど、これら商用軽のドライブトレインは、エンジン床下縦置きの後輪駆動ベース。FFベースの乗用軽とは構造がまるで違う。販売台数だって乗用よりぐっと少ない。後輪駆動用CVTを開発してくれたダイハツさん、ありがとう!
ダイハツ魂の神髄は商用軽にあり!
昨年、スズキの「エブリイ/エブリイ ワゴン」もCVT化されたが(参照)、あのCVTって、実はダイハツ製がベースなんですね。完全子会社のダイハツはもちろん、スズキも広い目で見ればトヨタ陣営の側にあり、量産効果も出るのでウィン・ウィンなのでしょう。んでも、軽トラに関しては、スズキのキャリイはまだ4ATのまま。CVT化したダイハツがリードしている。
ついでに、ビッグキャビンの軽トラである「ハイゼット トラック ジャンボ」対「スーパーキャリイ」の勝負(販売台数)は、ずっとジャンボの圧勝が続いているとのこと。軽トラはやっぱり荷台の広さがキモ。スーパーキャリイはキャビンがより長いぶん、荷台への食い込みが大きすぎる。その点バランスのいいジャンボが支持されているのですね。元ジャンボオーナーとして、ちょっとうれしい事実です。
そもそも、ロングキャビンの軽トラはジャンボが元祖。すでに40年以上の歴史を持つ。40年も前からダイハツは、シートがリクライニングできる軽トラをつくっていたのだ。街の電器屋さんが冷蔵庫を配達するために開発されたアトレー/ハイゼット デッキバンも、40年近い歴史がある。ダイハツ魂の神髄は商用軽にあり! ってところでしょうか。
(文=清水草一/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
-
第850回:10年後の未来を見に行こう! 「Tokyo Future Tour 2035」体験記NEW 2025.11.1 「ジャパンモビリティショー2025」の会場のなかでも、ひときわ異彩を放っているエリアといえば「Tokyo Future Tour 2035」だ。「2035年の未来を体験できる」という企画展示のなかでもおすすめのコーナーを、技術ジャーナリストの林 愛子氏がリポートする。
-
第849回:新しい「RZ」と「ES」の新機能をいち早く 「SENSES - 五感で感じるLEXUS体験」に参加して 2025.10.15 レクサスがラグジュアリーブランドとしての現在地を示すメディア向けイベントを開催。レクサスの最新の取り組みとその成果を、新しい「RZ」と「ES」の機能を通じて体験した。
-
第848回:全国を巡回中のピンクの「ジープ・ラングラー」 茨城県つくば市でその姿を見た 2025.10.3 頭上にアヒルを載せたピンクの「ジープ・ラングラー」が全国を巡る「ピンクラングラーキャラバン 見て、走って、体感しよう!」が2025年12月24日まで開催されている。茨城県つくば市のディーラーにやってきたときの模様をリポートする。
-
第847回:走りにも妥協なし ミシュランのオールシーズンタイヤ「クロスクライメート3」を試す 2025.10.3 2025年9月に登場したミシュランのオールシーズンタイヤ「クロスクライメート3」と「クロスクライメート3スポーツ」。本格的なウインターシーズンを前に、ウエット路面や雪道での走行性能を引き上げたという全天候型タイヤの実力をクローズドコースで試した。
-
第846回:氷上性能にさらなる磨きをかけた横浜ゴムの最新スタッドレスタイヤ「アイスガード8」を試す 2025.10.1 横浜ゴムが2025年9月に発売した新型スタッドレスタイヤ「アイスガード8」は、冬用タイヤの新技術コンセプト「冬テック」を用いた氷上性能の向上が注目のポイント。革新的と紹介されるその実力を、ひと足先に冬の北海道で確かめた。
-
NEW
小粒でも元気! 排気量の小さな名車特集
2025.11.1日刊!名車列伝自動車の環境性能を高めるべく、パワーユニットの電動化やダウンサイジングが進められています。では、過去にはどんな小排気量モデルがあったでしょうか? 往年の名車をチェックしてみましょう。 -
NEW
これがおすすめ! マツダ・ビジョンXコンパクト:未来の「マツダ2」に期待が高まる【ジャパンモビリティショー2025】
2025.10.31これがおすすめ!ジャパンモビリティショー2025でwebCG編集部の櫻井が注目したのは「マツダ・ビジョンXコンパクト」である。単なるコンセプトカーとしてみるのではなく、次期「マツダ2」のプレビューかも? と考えると、大いに期待したくなるのだ。 -
NEW
これがおすすめ! ツナグルマ:未来の山車はモーターアシスト付き【ジャパンモビリティショー2025】
2025.10.31これがおすすめ!フリーランサー河村康彦がジャパンモビリティショー2025で注目したのは、6輪車でもはたまたパーソナルモビリティーでもない未来の山車(だし)。なんと、少人数でも引けるモーターアシスト付きの「TSUNAGURUMA(ツナグルマ)」だ。 -
NEW
これがおすすめ! マツダのカーボンネガティブ施策:「走る歓び」はエンジンのよろこび【ジャパンモビリティショー2025】
2025.10.31これがおすすめ!華々しく開幕したジャパンモビリティショー2025の会場で、モータージャーナリストの今尾直樹が注目したのはマツダブース。個性あふれる2台のコンセプトカーとともに公開されたカーボンネガティブの技術に未来を感じたという。 -
NEW
これがおすすめ! ダイハツK-OPEN:FRであることは重要だ【ジャパンモビリティショー2025】
2025.10.31これがおすすめ!ジャパンモビリティショー2025でモータージャーナリストの鈴木ケンイチが注目したのはダイハツの「K-OPEN(コペン)」。米もクルマの値段も上がる令和の日本において、軽自動車のスポーツカーは、きっと今まで以上に注目されるはずだ。 -
NEW
これがおすすめ! トヨタ・ランドクルーザー“FJ”:タフでかわいい街のアイドル【ジャパンモビリティショー2025】
2025.10.31これがおすすめ!ジャパンモビリティショー2025の展示車は、コンセプトカーと市販モデルに大別される。後者、実際に買えるクルマのなかでも、特に多くの注目を集めていたのは、つい最近発表された「トヨタ・ランドクルーザー“FJ”」だった!














































