バッジエンジニアリングの拡大か!? ルノー・日産・三菱の今後のクルマづくりを考える
2020.06.10 デイリーコラム今こそ将来像を示すタイミング
ルノー、日産、三菱の3社が「競争力と収益性を高める新たなアライアンスの取り組み」を発表したのは、去る2020年5月27日のことである。新型コロナウイルスで大騒ぎのこの時期に、こんなことをわざわざ発表しなければならなかったのは、ルノーと日産の両方が2019年度決算で赤字に転落したからだ。ルノーの赤字は10年ぶり。日産のそれは11年ぶりにして、その赤字額も過去最大級という。今回の決算には実質的に新型コロナの影響はほとんど含まれないことを考えると、今後は赤字幅がさらに拡大する懸念もある。
同アライアンスは知ってのとおり、2018年11月に当時のトップだったカルロス・ゴーン氏が東京地検特捜部に電撃逮捕されて以降、ギクシャクした内部関係が明るみに出てしまった。もっとも、ルノーと日産の経営状態は、長年の急拡大戦略によって、それ以前から不安視されていたことも事実。よって、現役トップの逮捕からギクシャク発覚、そして赤字転落……という一連の展開も“青天のへきれき”や“泣きっ面にハチ”というより、ある意味で必然だったのかもしれない。業績が好調なら、そもそも現役トップが逮捕されるような内紛(?)も起こらなかったと思われる。
いずれにせよ、彼らは今こそ明確な将来像を語る必要があった。そうでないと、新型コロナ収束後に向けた融資や支援を受けられない……ということなのだろう。
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リーダーとフォロワーが明確に
というわけで、彼らが発表した“新たな取り組み”の内容をおおざっぱにまとめると「今はかねてウワサされていたような強引な経営統合も、その逆のアライアンス解消もしない(あるいは、できない)」と明確化したうえで、今後は「棲み分け」と「担当分け」を強力に推し進める……ということらしい。
たとえば「棲み分け」とはこうだ。世界の各市場を各メンバー会社の重点地域として振り分けて、地域ごとにリーダー会社を決める。具体的には、ルノーが欧州、ロシア、南米、北アフリカ、日産が中国、北米、日本、そして三菱がASEANとオセアニアを担当。各地域での戦略はリーダー会社が基準となり、ほかのメンバー会社もそれを共用するが、基本は「お互いに食い合わないように、それぞれの“シマ”はリーダー会社が仕切る」ということだろう。
こうして彼らの棲み分けを見ると、日本人としては「ロシアは三菱も意外に強いぞ」とか「近日国内発売の『日産キックス』はメキシコだけでなく、チリやブラジルでも大ヒットしたのに!」といった細かい援護射撃は入れたくなるものの、全体ではおおむね納得できるものがある。それにしてもこの3社は、少なくとも得意市場についてはもとから非常にバランスのいい組み合わせだったことに、あらためて気づかされる。
続いて「担当分け」については、商品セグメントごとに同じくリーダー会社を決めて、ほかのフォロワー会社の意向や支援を受けながら、リーダー会社が自社用マザービークルと他社向けシスタービークルをまとめて開発する。生産拠点も可能なかぎり集約して、ひとつの工場で複数ブランドのクルマを生産していく。
こうした新しい枠組みで開発した商品を、2025年までにアライアンス全体の50%近くにまで増やすそうだが、注目すべきは、今後は内部の骨格設計となるプラットフォームだけでなく、アッパーボディーまでをも標準化していくという方針だ。
非効率を抜本的にあらためる
日本の古くからのファンには「ルノーと提携してからクルマの個性が薄れた」といわれがちな日産だが、実際に日産の個性が薄れていたとしても、それはルノーとの共通化のせいとはいいがたい。というのも、世界最大級の自動車グループのなかでは、従来のルノーと日産とではプラットフォームの共用化や設計のモジュール化はあまり進んでいなかったからだ。
たとえば、スモール/コンパクトカーの骨格設計にしても、彼らはつい最近まで「ルノー・ルーテシア4」や初代「日産ジューク」の土台となっていたBプラットフォームのほかに、ルノーは「トゥインゴ」でダイムラーと共同のRRプラットフォームを、日産は日産で軽量安価な「Vプラットフォーム」を独自につくっていた。エンジンも似たような1.2リッターを、ルノーは4気筒で、日産は3気筒でつくった。最近話題の先進安全運転支援システム(ADAS)にしても、せっかく日産には世界最先端の技術があるのに、ルノーはそれをまったく使おうとはしなかった。そしてルノーが欧州で大々的に展開しているコネクトサービスは、欧州圏外では最初からまったく使えない設計になっている。
だが、今後はこうした非効率を抜本的にあらためる。プラットフォームについては現在進行中の「CMF」を基礎とする。CMFとは3社共用のコモンモジュールファミリーの意で、すでに軽自動車を含むAセグメント、Bセグメント、C/Dセグメントの3種がある。そのうえで、世界的に売れるBセグSUVの新型はルノーが、CセグSUVのそれは日産が、アッパーボディーも含めて開発するんだとか。
さらにプラットフォームだけでなく、ADAS分野は日産が、電気電子プラットフォームの基礎はルノーが担当。コネクト技術は先進国向けをルノーが、中国向けを日産が、それぞれリーダーをつとめる。パワートレインはそれこそ3社の分業制で、コンパクトカー用ハイブリッドはルノー、電気自動車は日産、C/Dセグ用のプラグインは三菱が手がけるのだそうだ。
……こうして見ていくと、新しい開発体制は、なるほど効率的に見える。彼ら自身も「メンバー各社の商品開発への投資額は最大40%削減できる見込み」とうたっている。
どうなる!? フェアレディZ
だが、ひとりのクルマファンとしては、やはり「アッパーボディーの標準化」という文言が気になってしかたない。一般的にアッパーボディーとは“上屋”のなかでも、スチールやアルミのプレス部品を指す。そうしたアッパーボディーを共用化した典型例はすでに日産と三菱にあり、軽自動車の「日産デイズ/ルークス」と「三菱eK」がそれである。これらはアッパーボディーを共用化したうえでフェイス部分を専用化している。あるいは、ルノーと同じフランス拠点の宿敵グループPSAの「プジョー・リフター」と「シトロエン・ベルランゴ」、さらに「オペル・コンボライフ」もまたアッパーボディーを共用化しつつ、さらに内装までブランドごとに差別化した好例だ。
かりにアッパーボディーを共用化して双子車、三つ子車が増えても、各市場でリーダーブランドを明確化した棲み分けを徹底すれば問題ないのかもしれない。それに、そもそも彼らが今回主張している「アッパーボディーの標準化」が、どういう姿を想定しているのかは今のところ不明でもある。額面どおりにアッパーボディーの基本設計を共通化しても、フェイス部分に加えて、ドア枚数、セダンにワゴン、リアゲートの角度などバリエーション手法をブランドごとに振り分ければ、それなりに別のクルマに見えるかもしれない。
また、冒頭の3社共同発表の直後に行われた日産の決算発表では、次期「フェアレディZ」とおぼしきクルマのシルエットが公開された。あくまで遠目では、それは従来どおりのFRレイアウトに見える。ということは、ルノーや三菱ブランドでもFRスポーツがつくられるのか、あるいは今回の姿はあくまでブラフで、じつは「アルピーヌA110」の双子車だったりするのか? はたまた、彼らの新戦略には、いくつかの例外も許容される程度の柔軟性があるのか……は定かではない。
とはいっても、3社の商品にこれまで以上の親族感が出てしまうのは、ある程度は避けられないだろう。ただ、人間も企業も死んでしまっては元も子もない。ルノー、日産、三菱には、なんとか生き残ってほしいものである。それに、彼らの頭のなかには、われわれ素人が「これって本当に兄弟車なの!?」と驚くくらいに画期的な手法がすでにあるのかも……と、ちょっとだけ期待もしたい。
(文=佐野弘宗/写真=ルノー、日産自動車、三菱自動車/編集=藤沢 勝)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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