今のままでホントに大丈夫? “半自動運転時代”の人とクルマの関係を考える
2020.06.22 デイリーコラム高齢者に買い替えを促す魔法の言葉
昔は“長生き”といえばめでたいことだったが、現代では、年金やら介護やら認知症やら。「年を取るとはリスクを背負い込むことだ」という意識が、今日の高齢者には骨の髄まで染み込んでいる。だから、たとえコロナのリスクがあっても、街へ出れば多くの高齢者がせっせとウオーキングに励んでいるのだ。
高齢化のリスクは、もちろんクルマの運転にもつきまとう。意図的なのではないかと勘ぐりたくなるくらい、テレビのニュースでは、高齢者が高速道路を逆走して事故を起こしたり、アクセルとブレーキを踏み間違えてコンビニに突っ込んだり、あるいは歩道に乗り上げたりといった事故を連日のように流している。かといって、年を取れば足腰が衰えるのだから、クルマはなかなか手放せない。かくして多くの高齢者が、今日もびくびくしながら運転しているのだ。
筆者も身近な例でそのことを実感した。3年ほど前に両親がクルマを買い替えたときのことだ。もともと買い替える気はなく、定期点検のためにディーラーへ出かけ、待っている間に「最近のクルマに試乗してみますか?」と言われ、誘われるままに試乗したら、自動ブレーキやらカーナビのモニターに車両を上から俯瞰(ふかん)した映像が出る機能やらを説明され、思わず買い替えてしまったらしい。前に乗っていた車種が筆者はけっこう好きだったので、相談なく買い替えられてしまったのはショックだったが、「年寄りにクルマを買い替えさせるのに刃物はいらぬ、事故の怖さを聞かせりゃいい」ということをあらためて思い知った。
しかし、この話にはオチがある。新車が納車されて少したってから実家から電話がかかってきたのだ。「あの、クルマを上から見た画像を出すにはどうしたらいいんだっけ?」。ことほど左様に、こうしたドライバー支援システムは、本来なら高齢者にこそ価値があるシステムであるにもかかわらず、実際には高齢者が使うには操作が難しかったり、分かりにくかったりするために使いこなせないことが多い。
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煩雑過ぎて普通の人には使いこなせない
最近の新車には、軽自動車も含めてアダプティブクルーズコントロールが搭載されることが多くなった。中には「自動運転レベル2」に該当する運転支援システムもある。これは、ハンドルに手を添えていれば、高速道路の単一車線でアクセル、ブレーキ、ハンドル操作をすべて自動でコントロールしながら走行してくれる(あるいは操作を支援してくれる)という機能だ。ただし、どのメーカーのものを見ても、使いやすいとはとてもいえない。
いち早くこの機能を実用化した日産自動車の「プロパイロット1.0」の場合(他社のシステムの操作方法もだいたい同じようなステップを踏むのだが)、まずハンドルに付いたプロパイロットスイッチを押す。最初に試乗車に乗ったときには、このスイッチを押すだけで“自動運転モード”に入るのかと思っていたのだが、そうではなかった。このスイッチを押すだけでは「スタンバイ」の状態になるだけだ。
スタンバイの状態になったら、次はセットしたい速度まで加速する。そして、その速度まで達したら、今度は「セット」のスイッチを押す必要がある。さてさて、セットのスイッチを押せば、今度こそめでたく自動運転開始かと思うとさにあらず。システムがそのときちゃんと車線を認識していなければ、ハンドル操作は自動にならない。システムが車線を認識しているかどうかを知るには、メーター内の現在の運転モードを示すインジケーターで、車線を表す図形の色が緑に変わっているのを確認しなければならない。そしてめでたくハンドル操作が自動操作モードに入ると、今度はハンドルの形をした表示の色が緑に変わるのだが、これで安心するわけにはいかない。というのも、システムが車線を見失うと、表示が白に変わり、ハンドル操作が手動に戻ってしまうからだ。
それに、ハンドル操作が自動モードだったとしても油断は禁物。筆者はプロパイロット1.0で走行中に、車線を引き直した跡がある箇所で、システムが古い車線を認識して本来の車線から外れようとしてしまったことがある。そのときはハンドルに手を添えていたし(プロパイロット1.0では“ハンズオフ”は認められていない)、現在の運転支援技術のレベルについても理解しているつもりだったので、「こういうこともあるのだな」と思いながらハンドルを修正し、もちろん大事には至らなかった。しかし、よほどクルマに詳しい人でもない限り、システムがどのように働いていて、どんな限界を抱えているかを理解しているドライバーは、多いとはいえないだろう。
ここまでプロパイロット1.0を例にして説明してきたが、システムの使いにくさや操作の煩雑さ、動作の限界は、多かれ少なかれ、海外も含めてすべてのメーカーに共通している。
モードがますます複雑に
しかも、システムはますます複雑化している。国内で初めて“ハンズオフ”=手放し運転を実現した日産の運転支援システム「プロパイロット2.0」も、その例に漏れない。というのも、ハンドルから手を離してよいのは、そのための条件がそろったときだけで、例えばトンネル内などではプロパイロット1.0と同様に、ハンドルに手を添えておく必要がある。つまり、従来は「手動のハンドル操作」「自動ハンドル操作(手は添える)」の2つのモードだけだったのが、プロパイロット2.0では「手動」「自動(手は添える)」「自動(手放し)」の3つのモードに増えたのだ。
3つのモードは、メーター内やヘッドアップディスプレイのアイコン表示が白のときは手動、緑のときは手を添える必要あり、表示が青のときは手放し運転可能と、日産も分かりやすくなるよう工夫はしているのだが、それでも即座に分かる、直感的に分かるとまでは言い難い。
ほかにも問題はある。例えばプロパイロット2.0には車線変更の支援機能が付いているのだが、実際に車線変更する際には、ドライバーがハンドルに手を添え、「車線変更しますか?」というシステム側からの提案をスイッチ操作で承認する必要がある。しかし、実際に高速道路を運転していると、追い越しをかける機会というのはことのほか多い。せっかく手放し運転をしているのに、車線変更のたびにハンドルに手を運ぶのは何とも煩わしい。結局、プロパイロット2.0の動作中も、ステアリングに手を添えたまま走るようになってしまった。
「レベル3」がドライバーに混乱を招く?
2020年内には、ホンダがレベル3の自動運転技術を実用化すると発表している。これは「高速道路の単一車線を走行している場合、渋滞しているときにはクルマに運転を任せ、人間はスマートフォンの画面を見たりしていてもいい」というものだ。しかし同時に、レベル3のシステムでは、クルマから運転を代わるよう要請されたら、ドライバーはいつでも運転を代われるようにしていないといけない。となると、結局はシステムの作動中もそんなに気を抜けないのではないだろうか。
それに、まだ商品化前なので詳細は不明だが、単純に考えると日産のプロパイロット2.0にさらにもうひとつのモード(「レベル3」走行モード)が加わることになる。4つ目のモードにはどんな色を使うのかな? 黄色や赤だと危険な感じがするしな……などというのは余計な心配だろうが、ここまでシステムが複雑になると、高齢者でなくても今どんなモードで走っているか、分からなくなってしまうだろう。
筆者は古いタイプの人間なので、プロパイロット1.0を使いながら高速道路を走行しているときでさえ、どこまでクルマを信用していいか分からない。ちょっと急なカーブでは自分でハンドルを切ってしまうのだが、そうなると「ここはクルマに任せて大丈夫かな?」「ここは自分で切らないとだめかな?」と考えながら走ることになって煩わしい。だから理想をいえば、「全部自分でやる」か「全部クルマに任せる」の2つのモードだけにしてほしいし、いちいち確認のボタンを押すのではなく、クルマに声で「運転よろしく」「了解しました」くらいのやりとりで自動運転モードに入ってもらいたい。助手席に信頼できるもう一人のドライバーがいて、運転を代わってもらえるイメージだ。
2025年には、高速道路限定にはなるだろうが、運転を完全にクルマに任せる「レベル4」の自動運転が実用化される予定だ。そうなれば、少なくとも高速道路では運転のことを忘れても大丈夫になるのかもしれない。
筆者は現在、自動ブレーキも含めた運転支援システムを搭載していない古いクルマに乗っている。現在のような中途半端な状態では、まだ運転操作を全部自分でやるほうが、機械との“分担”を考える煩わしさがなくていいと思えてしまうからだ。あと5年たって、高速道路での運転を丸ごと任せられるクルマが登場したら、そのときには乗り替えを検討することにしよう。
(文=鶴原吉郎<オートインサイト>/写真=日産自動車、花村英典、webCG/編集=堀田剛資)
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鶴原 吉郎
オートインサイト代表/技術ジャーナリスト・編集者。自動車メーカーへの就職を目指して某私立大学工学部機械学科に入学したものの、尊敬する担当教授の「自動車メーカーなんかやめとけ」の一言であっさり方向を転換し、技術系出版社に入社。30年近く技術専門誌の記者として経験を積んで独立。現在はフリーの技術ジャーナリストとして活動している。クルマのミライに思いをはせつつも、好きなのは「フィアット126」「フィアット・パンダ(初代)」「メッサーシュミットKR200」「BMWイセッタ」「スバル360」「マツダR360クーペ」など、もっぱら古い小さなクルマ。
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