次のプロジェクトもあり!? ホンダが手がける名車再生プランとは?
2020.07.17 デイリーコラム根強い人気のマシンのために
世界のホンダ、その“ヘリテイジ”を守るのもまたホンダ──そういうことになるだろうか。
TT-F1や世界耐久選手権など、数々のレースを勝ち抜いたレーサー「RVF750」のレプリカモデル「VFR750R(RC30)」を、新たに販売される計150点の純正パーツとともに、ホンダが自ら再生(レストレーション)を行うというぜいたくなプロジェクトがスタートする。
同社が2020年6月30日に発表した「リフレッシュプラン」は、メーカーがダイレクトに行う旧車オーナーのための二輪整備プログラムとしては最も手の込んだものとなる。リフレッシュというと、1993年から行われている初代「NSX」のそれを思い起こす読者も多いと思うが、その整備プランとの連動性はほとんどないらしい。同じホンダ車とはいえ二輪は二輪、四輪は四輪ということだ。
すでに30年以上が経過した1987年発売の国内仕様VFR750R(海外仕様は含まず)、そのコンディションを維持しようと奮闘する現オーナーに向けて、「車両レストア事業」と「純正パーツ供給」の2つの側面からバックアップするという新たな試みだ。前者のプログラムは一年で10台を受注予定とし、一台の修復に1年を費やす見込み。携わるのはたったひとりの熟練メカニックという。
ファンがこぞって型式名であるRC30(あーるしーさんまる)で呼ぶそのマシンは、車両価格148万円(当時)というハイプライスながら国内1000台の限定枠に3000件近い予約が殺到したことで抽選販売となり、瞬く間に完売した超人気車だ。2000年前後にはいったん中古車価格が落ち着いたものの(とはいっても100万円を切ることはほとんどなかったが)、その後は堅調に値上がりを続け、最近では海外のオークションで新車のRC30が1000万円の値をつけるなど、いまだ国内外に根強いファンが存在する。
どうしてRC30なのか?
もう少しだけRC30の話をしよう。
RC30は、1985年と1986年の世界耐久選手権や鈴鹿8耐で2年連続チャンピオンを獲得したRVF750をベースに、レースで培われた高度なメカニズムをフィードバックさせた公道マシン。新設計されたV4ユニットに組み込まれたチタン合金製のコンロッド(それまでの鉄系コンロッド比で15%軽量化)は、市販車としては世界初の装備だった。
「ついにチタンか」「ほぼレーサーだ!」といった具合に、RC30の鮮烈デビューに当時のバイク好きは色めき立ったし、それ以外にもアルミ・ツインチューブ・バックボーンフレームや砂型鋳造プロアーム、FRP外装、アルミ製タンクなどこだわりの装備をふんだんに採用したことで、“究極の公道レーサー”として記憶にも強く刻まれることになった。148万円は確かにハイプライスだったけれど、同時に破格のバーゲンプライスであることもみんな分かっていたのだ。
そんな伝説たっぷりのRC30は、日本を含む世界中で4885台が販売された。その価値を十分に知りつつも……「どうしてもパーツが手に入らない」「メンテナンスが容易ではない」などの理由で、不本意ながらガレージでホコリをかぶらせてしまっているオーナーが多かったことが、今回のリフレッシュプラン始動の背景にある。
“一番面倒な整備”に挑む
しかし理由はそれだけではない。ホンダには「CB750FOUR」(1969年)をはじめ、何台もの“名車”と呼ばれるバイクがあるが、それらの大半はRC30とは桁違いの生産台数を残している。台数の多さはオーナー数の多さとなり、オーナー数の多さはそのまま“声の大きさ”となるゆえ、結果的にリプロパーツ(社外製補修パーツ)やメンテナンス情報、部品取り車などは充実し、車両の維持のしやすさへとつながる。その点でもRC30は伝説の重さに反比例して不利な境遇にいたのだ。
今回のリフレッシュプランの目玉が、ホンダの熊本製作所内にある「モーターサイクルリフレッシュセンター」(2020年8月上旬に稼働)が車両そのものを預かって整備を施すことにあるのは間違いない。ただし、整備といっても、それは最も手間と時間のかかるレストア、つまりオーバーホール作業という重整備のことを指すのだから、その意義はとても大きい。
整備の中身は大きく3つに分かれている。第1に必須の「基本プラン」。それだけの施工なら税込み約60万円スタートだが、セカンドステージともいえる「プランメニュー」ですべての項目を選択すると(必要に応じてだが)……コストの総計は600万円超。サードステージとして挙げられているさらなる「オプションメニュー」の各費用はもちろん別途だ。
生かすも殺すもパーツ次第
そんなレストア事業の一方で、たくさんのRC30オーナーたちを喜ばせているのが、150点にものぼる純正パーツの再販売である。これまでに「ホンダ・ヘリテイジ・パーツ」として再生産された前述のCB750FOURや「CB750F」、「NSR250R」用の点数・構成と比較しても、RC30用に対する“気合”はハンパなく、ミントコンディションへの実効力はこの再販パーツ群にこそあると言っても過言ではない。オーナー予備軍だってきっとニンマリだ。
ホンダの広報マンはこんな風に話してくれた。
「補修パーツが入手できないために、市井に眠るホンダの歴史的プロダクトを動態維持できないという状況は、打破しないといけない。そんなモヤモヤした気持ちは以前からありました。第1弾としてまずはRC30でトライしますが、今後は他の車種にも広げていきたいという情熱はプロジェクトチームにも当然あります。クリアしなければいけない課題もまだまだ多いけれど、やりがいのある仕事ですね」
2020年の現在では想像することすら難しい、コストダウンを言い訳にしなかった理想主義的ドリームマシン、RC30。「まるで、もてぎのコレクションホールのスタッフが直々によみがえらせた愛車を自宅ガレージに納品してくれるみたいで……ステキ!」と興奮したのはほかでもない筆者(CB750F所有)だが、旧車好きの読者の皆さまも、きっと同じ感想を持たれるだろう。リフレッシュプランとパーツ再販という今回のニュースには、“ファンに朗報”という定型句がこれ以上ないくらいぴったりだ。
初代NSX、そしてRC30。次の候補車については未定とのことだが、スペシャルな2台に続く第3の矢に、われらオールドタイマーファンの期待はめちゃくちゃ大きいですよ、ホンダさん!
(文=宮崎正行/写真=本田技研工業/編集=関 顕也)

宮崎 正行
1971年生まれのライター/エディター。『MOTO NAVI』『NAVI CARS』『BICYCLE NAVI』編集部を経てフリーランスに。いろんな国のいろんな娘とお付き合いしたくて2〜3年に1回のペースでクルマを乗り換えるも、バイクはなぜかずーっと同じ空冷4発ナナハンと単気筒250に乗り続ける。本音を言えば雑誌は原稿を書くよりも編集する方が好き。あとシングルスピードの自転車とスティールパンと大盛りが好き。
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