往年の名車「フォード・ブロンコ」が復活! 世界的な“クロカン復権”の流れを読み解く
2020.07.27 デイリーコラムアメリカで懐かしのクロスカントリー車が復活
今や、自動車の文化・販売におけるメインストリームとなっているSUV。しかし、そのカテゴリーの大半が“都市型SUV”と呼ばれるモデルで占められ、ライトユーザーから支持を集めているのは周知のとおりだろう。一方、本気のクロカンのDNAを受け継ぐ“ガチ系ヨンク”も、こだわりのあるコアなユーザーを中心に高い支持を集めている。その筆頭が「ジープ・ラングラー」であり、欧州車ではメルセデス・ベンツの「Gクラス」や「ランドローバー・ディフェンダー」、国産車でも「トヨタ・ランドクルーザー」や「スズキ・ジムニー/ジムニーシエラ」といった車種が挙げられる。
このほど、そんなガチ系ヨンクに新たな車種が加わった。かつて存在した車名の復活だから、正確には“戻ってきた”というべきか。アメリカのフォード・モーターカンパニーが、2021年モデルとして新型「ブロンコ」を発表し、受注を開始したのだ。
フォード・ブロンコの初代モデルが登場したのは、現在から半世紀以上前となる1965年のこと。コンパクトな2ドアボディーに脱着式トップを備えるモデルも用意された同車は、民生クロカンの先達(せんだつ)である「ジープ」、あるいは「インターナショナル・スカウト」などの対抗車種として登場した。やがて1970年代に入ると、ブロンコはピックアップトラック「Fシリーズ」の車体をベースに、ボディー後半を荷室とした2ドアRVとして進化していく。しかし、初代ブロンコの愛嬌(あいきょう)を感じさせるキャラクターは継承されず、2代目以降は角目のヘッドライトによる武骨なイメージが強調されていった。
ピックアップトラックのFシリーズがベストセラーの定番となる一方、車台を共有する2ドアRVのブロンコは伸び悩み、やがてフォードはSUVのラインナップを一新する。フルサイズSUVに「エクスペディション」、ミッドサイズに「エクスプローラー」を誕生させ、ブロンコは1996年にひっそりと生産を終了した。
こうして、フォード製SUVとしての役割を次世代モデルに譲ったブロンコだが、開放的な雰囲気を漂わせる初代モデルは“アーリーブロンコ”の愛称で親しまれ、現代でも中古車市場で強気なプライスタグを掲げるほど、高い人気を維持している。
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メーカーの気合が感じられる“特別扱い”
そんななか、2021年モデルで復活した新型ブロンコは、まさにアーリーブロンコを思わせる丸目ヘッドライトを与えられて登場した。
現在、フォードのSUVとしてはフルサイズのエクスペディションを頂点に、ミッドサイズのエクスプローラー、コンパクトサイズの「エスケープ」、さらに小さな「エコスポーツ」という4モデルが展開しており、より乗用車色の強いクロスオーバーとして「エッジ」や「フレックス」という車種も存在する。また2021年モデルとして追加される、電気自動車の「マスタング マッハE」もSUVのカテゴリーに数えられる。自社ブランドだけでもそれだけ多くの車種があるなかに投入される新型ブロンコとは、いったいどんなモデルなのだろうか。
まずはその車名だが、実は近年のフォードでは、自社のモデルに「E」または「F」で始まる名称を与えるのが通例となっている。例外は「マスタング」や「レンジャー」「トランジット」などのみ。伝統の車名を引き継ぐブロンコもその“例外”の一台となるのだが、それだけフォードとしても気合の入ったモデルといえるだろう。車体のどこにも“ブルーオーバル(フォードのエンブレム)”が見あたらない点からも、その特別扱いぶりがうかがえる。
またプロダクトそのものを見てみると、新型ブロンコの車台はミッドサイズのピックアップトラックであるレンジャーをベースとしている。エンジンは縦置きにマウントされ、駆動システムは後輪駆動をベースとする4WD。ボディーは前後のオーバーハングを可能な限り切り詰め、大きなアプローチ/ランプブレークオーバー/デパーチャーアングルを確保して悪路走破性能を向上させている。この生い立ちは初代ブロンコと同様だ。
一方、これが“ブロンコとして初”となるのが4ドアモデルの設定だ。新型ブロンコでは伝統の2ドアモデルのほか、ホイールベースを延長して後席用のドアを備えたモデルもラインナップされる。両モデルとも脱着式のモジュール式ハードトップが設定されており、3つの簡単なステップで脱着・分解することが可能。このハードトップを完全に外した際は、ドアのショルダーラインより上は「スポーツバー」と呼ばれるロールケージのみとなり、圧倒的な開放感が得られるという。
都市型SUVの増殖がもたらしたクロカンの復権
さらに驚くべきは、ルーフだけでなくドアまで脱着式としていることだ。4ドアモデルに採用された独創的なフレームレスドアは、前後左右すべて外すことができ、しかも専用の保護バッグに入れて車内に保管可能。外したあとは転落防止のバーすら備わらない潔さだ。
エンジンは2種類で、いずれもフォードの次世代ターボユニット「エコブースト」を採用。最高出力270PSを発生する2.3リッター直列4気筒ターボと、同じく310PSの2.7リッターV型6気筒ツインターボが用意され、いずれも7段MTまたは10段ATが組み合わされる。
これらの概要からも分かるように、新型ブロンコの仮想敵が「ジープ・ラングラー」であることは明らかだ。SUV人気が隆盛するなかでも、ガチ系ヨンクの筆頭として製造・販売が続けられてきたジープ・ラングラーだが、近年、その人気は世界的に上昇している。現在、ジープブランドはフィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)に属しているが、FCAではそれを世界戦略商品と位置づけ、積極的に各国の市場に展開。クライスラー、ダッジの両ブランドが撤退した日本市場でも、唯一ジープだけは継続して販売を行っている。荒野を出自とするブランドの価値は、ある意味世界的に通用するものなのだ。今回、新型ブロンコが投入されることで、(価格帯はバラバラではあるものの)ジープ・ラングラーやメルセデス・ベンツGクラス、ランドローバー・ディフェンダーなどからなる本気系SUVのマーケットは、さらに活性化することだろう。
これらのモデルが人気を集めている理由のひとつに、都市型SUVへの“アンチテーゼ”があるのは間違いない。トルクフルなエンジンや堅牢(けんろう)な四輪駆動システム、長いサスペンションストロークなどの組み合わせにより、「道なき道も走破する」ことがこのジャンルの特徴だったが、SUVという言葉の浸透とともに細分化が進行。都市部での使用を前提に居住性などを高めたモデルや、パーソナルユースに適したコンパクトモデル、あるいは舗装路での運動性能に特化したモデルなど、さまざまな個性を持つ車種が登場した。しかし、あまりにもカジュアルなSUVが増えすぎたため、昔ながらのクロカン性能を追求した「本物志向」の存在が際立ち、憧れが寄せられることとなったのだ。
ブランドに新たな価値をもたらす存在となるか
もうひとつ、近年のクロカン復権についてトピックを挙げるとすれば、それは最近注目を浴びているモデルがいずれも、レトロフューチャーともいうべきデザイン、あるいはネーミングで勝負していることだ。特にデザインについては、いずれも武骨な直線調のフォルムに、丸型、あるいは丸型風の変形ヘッドライトを組み合わせている。
自動車におけるレトロフューチャー的デザインは、2000年代に入り徐々に人気が高まり、欧州では「フォルクスワーゲン・ニュービートル」や「MINI」、アメリカでは「フォード・マスタング」「シボレー・カマロ」「ダッジ・チャレンジャー」といったスペシャリティカーのカテゴリーで広まっていった。そのトレンドが近年ではSUVの世界に波及し、往年のモデルへのオマージュを感じさせるモデルが誕生しているのだ。
新型ブロンコもその例にならっており、現行のフォードSUVラインナップにおいて異質ともいえる独創的なスタイリングを備えている。加えて、デタッチャブルトップや脱着式ドアといった装備も他車にはなく、そもそもオフロードに特化したSUVという存在自体が、今のフォードでは例のないものだ。先に述べた「車体にフォードのエンブレムがない」ことからは、既存のラインナップからかけ離れたこのモデルを、ブランド内のいちモデルとしてではなく、より大きな看板として育てていきたいというフォードの思惑が透けて見える。
かつて、CJやラングラーがジープブランドを無二の存在としたように、ブロンコはフォードの存在感を際立たせるトリガーとなり得る。初代ブロンコが登場したのと同じ、1965年式のフォード・マスタングを20年にわたって所有している筆者としては、この新型ブロンコの登場がきっかけとなり、フォードブランド、あるいはブロンコブランドが日本に再上陸……という可能性につい期待してしまうのだ。
(文=佐橋健太郎/写真=FCA、フォード/編集=堀田剛資)
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佐橋 健太郎
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