初戦から圧勝の新型「スープラ」 SUPER GT 2020はその独壇場となるか?
2020.07.31 デイリーコラムいきなり予想外の結果に
2020年7月19日に富士スピードウェイで行われたSUPER GT開幕戦の結果は衝撃的だった。GT500クラスはKeePer TOM'Sの「GRスープラ」(平川 亮/ニック・キャシディ)が優勝。2位も3位もスープラで、表彰台をスープラ勢が独占した。そればかりか、トップ5にずらりと並んだのだ。「ホンダNSX」の最上位は6位、「日産GT-R」の最上位は7位だった。GT300クラスで優勝したのもこの日が初レースとなるスープラで、トヨタ勢の強さを印象づけた。
GT500クラスは今季、DTM(ドイツツーリングカー選手権)と共通のクラス1規定を導入した。DTMでは禁止している空力開発をGT500クラスでは一部認めるなど、独自のルールを盛り込んでいるので厳密には共通ではないが、シャシーをイチから作り直さなければいけないことに変わりはなく、トヨタ(GR)、ホンダ、日産ともに真っさらの新車を準備した。
トヨタ(TRDをモータースポーツ事業のシンボルとするトヨタカスタマイジング&ディベロップメントに開発を委託)はクラス1規定への切り替えを機に、ベース車を「レクサスLC500」からGRスープラに切り替えた。
日産やホンダにも強みはある
ホンダはNSXであることに変わりはないが、大規模な変更を行っている。これまでは特例でベース車と同じMRのレイアウトを採用していたが、クラス1規定への移行を機に他車と同じFRのレイアウトに変更したのだ。エンジンをモノコックの背後から前方に移したので、前後重量配分が変われば、熱交換器の配置も変わり、エンジンの性能や空力性能にも影響を与える。相当に大規模なやり直しを必要とした。
GT500クラスに参戦する3社の中で、最も変更部位が少なくて済むのが、日産(ニスモに開発を委託)である。DTMと共通の技術規則(クラス1規定の前身)を導入した2014年からずっと、ベース車両はGT-Rだ。熟成を重ねられる点で有利とする見方もできる。
ところが、話はそう単純ではない。例えばエンジンに着目すると、最も熟成が進んでいると考えられるのはホンダだ。
2014年の新規定移行により、エンジンは2リッター直4直噴ターボとし、燃料流量に上限を設けて出力を規制することになった。燃料流量規制のもとで出力を高める手段のひとつがプレチャンバーである。点火プラグのまわりを小部屋(プレチャンバー)で覆い、着火による燃焼火炎を微細な穴から噴出させて主燃焼室側の混合気を瞬時に燃焼させ、燃焼効率を高める技術だ。F1でもスタンダードな技術である。
このプレチャンバーの実戦投入が一番早かったのはホンダで、2017年から本格的に導入(筆者調べ。以下同)。トヨタは2018年から、日産は今季ようやく投入した。エンジンの開発に関しては、日産が他社に対してビハインドを負っていることが容易に想像できる。
まだ戦況は変わり得る
ベース車両を頻繁に変えるのは一見不利なように感じられるが、そうとは言い切れない。トヨタは2017年にそれまでの「レクサスRC F」からLC500にスイッチしたが、車両の設計に関してそれまで抱えていた課題を一気に解決し、メンテナンス性も含めて扱いやすいマシンになった。空力も同様だ。シーズンを経験するごとに攻めるべき領域に関する知見は蓄積されていく。ベース車両を受け継いでアジャストするより、新規に設計するほうが狙いどおりのコンセプトにまとめやすい(いったんリセットされるので、そのぶん労力も必要だが)。
MRからFRへの大変更を実行したことを考えると、開幕戦のNSXは十分に健闘したといえるだろう。GT-Rはエンジン開発の遅れが足を引っ張っていると推察することもできる。ベース車の変更はもろ刃の剣だが、手慣れたトヨタはメリットを存分に生かした状態で開幕戦を迎えることができた。エンジンの実力も申し分なしの状態と見ることができそうだ。
もうひとつ、開幕戦の結果で注目しておきたいことがある。タイヤだ。トップ5を独占したスープラはすべてブリヂストンユーザーである。6位のNSXもそうだ。レースのコンディションがミシュランに合った状態、あるいは、パフォーマンスがブリヂストンと釣り合う状態だったとすれば、スープラ勢にGT-Rが割って入る結果になっていたかもしれない。
スープラ優位な状況は変わらないだろうが、第2戦以降もスープラの独壇場が続くと考えるのは早計だ。FRレイアウトでの熟成が進んだNSXがパフォーマンスを高めてくるのは間違いないからだ。GT-Rのエンジンも急速に実力を高めてくるに違いなく、ミシュランの出方次第ではスープラと互角の勝負に持ち込んでくるだろう。
勢力図の変化を確認する意味でも、第2戦(8月9日決勝)が楽しみである。開幕戦と同じ富士スピードウェイでの開催なので、各社の進化がわかりやすい。
(文=世良耕太/写真=トヨタ自動車、日産自動車、本田技研工業/編集=関 顕也)

世良 耕太
-
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える 2025.10.20 “ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る!
-
スバルのBEV戦略を大解剖! 4台の次世代モデルの全容と日本導入予定を解説する 2025.10.17 改良型「ソルテラ」に新型車「トレイルシーカー」と、ジャパンモビリティショーに2台の電気自動車(BEV)を出展すると発表したスバル。しかし、彼らの次世代BEVはこれだけではない。4台を数える将来のラインナップと、日本導入予定モデルの概要を解説する。
-
ミシュランもオールシーズンタイヤに本腰 全天候型タイヤは次代のスタンダードになるか? 2025.10.16 季節や天候を問わず、多くの道を走れるオールシーズンタイヤ。かつての「雪道も走れる」から、いまや快適性や低燃費性能がセリングポイントになるほどに進化を遂げている。注目のニューフェイスとオールシーズンタイヤの最新トレンドをリポートする。
-
マイルドハイブリッドとストロングハイブリッドはどこが違うのか? 2025.10.15 ハイブリッド車の多様化が進んでいる。システムは大きく「ストロングハイブリッド」と「マイルドハイブリッド」に分けられるわけだが、具体的にどんな違いがあり、機能的にはどんな差があるのだろうか。線引きできるポイントを考える。
-
ただいま鋭意開発中!? 次期「ダイハツ・コペン」を予想する 2025.10.13 ダイハツが軽スポーツカー「コペン」の生産終了を宣言。しかしその一方で、新たなコペンの開発にも取り組んでいるという。実現した際には、どんなクルマになるだろうか? 同モデルに詳しい工藤貴宏は、こう考える。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。