ご当地ナンバー 名乗れる地域と名乗れない地域の違いとは?
2020.08.26 デイリーコラム新たに17のご当地ナンバーが登場
2020年8月上旬、「ダイハツ・タフト」の試乗会で、試乗車がすべて「板橋」ナンバーなのを見て愕然(がくぜん)とした。調べたら、5月11日から交付が始まっていた。しかも、板橋ナンバーが導入されたのと同時に、全国で17の新しいご当地ナンバーの交付が始まっていたのですね。新型コロナによる緊急事態宣言の真っ最中につき、ついローカルニュースを見落としておりました。
新しいご当地ナンバーの一覧はコレです(カッコ内は対象となる地域)。
- 知床:北見および釧路から独立(斜里町、小清水町、清里町、別海町、中標津町、標津町、羅臼町)
- 苫小牧:室蘭から独立(苫小牧市)
- 弘前:青森から独立(弘前市、西目屋村)
- 白河:福島から独立(白河市、矢吹町、西郷村、泉崎村、中島村)
- 市川:習志野から独立(市川市)
- 船橋:習志野から独立(船橋市)
- 松戸:野田から独立(松戸市)
- 市原:袖ヶ浦から独立(市原市)
- 板橋:練馬から独立(板橋区)
- 江東:足立から独立(江東区)
- 葛飾:足立から独立(葛飾区)
- 上越:長岡から独立(上越市、糸魚川市、妙高市)
- 伊勢志摩:三重から独立(伊勢市、鳥羽市、志摩市、明和町、玉城町、度会町、南伊勢町)
- 四日市:三重から独立(四日市市)
- 飛鳥:奈良から独立(橿原市、田原本町、高取町、三宅町、明日香村)
- 出雲:島根から独立(出雲市、奥出雲町、飯南町)
- 高松:香川から独立(高松市)
![]() |
10万台のハードル
私が住む東京都杉並区は、2014年に「練馬」から独立して「杉並」ナンバーになっているが、それを知ったのは独立寸前。「えっ、そうなの!?」だった。杉並区も他地域同様、住民にアンケートをとり、独立への賛成意見が圧倒的多数だったことからご当地ナンバーに応募して認定されたらしいが、なにせ大都市部は地域とのつながりが薄い。地域のローカルニュースも目を凝らしていないと入って来ないので、直前まで知らなかった。
新たに導入された「板橋」ナンバーについても、地元の知人に聞いたところ、やはり直前まで知らなかったという。
今回、これほど多くのご当地ナンバーが認可されたのには、2017年に募集要件が緩和されたことが関わっている。具体的には、「対象地域内の登録自動車数が10万台を超えていること」に加えて、「地域内に複数の自治体があり、登録数がおおむね5万台を超え、地域名表示が相当程度の知名度を有すること(観光著名地等)」という要件が付け加えられた。
ご当地ナンバーが認められるには、この登録台数というハードルを越えなければならない。かつて「飛鳥」「奄美」がハネられたのは、この基準を満たしていなかったからだ。その後、離島地域の特例が設けられて「奄美」は2014年に認可。「飛鳥」はこれにも該当しなかったが、今回の要件緩和によって、ついに念願がかなった。
また、「知床」は、従来の「北見」と「釧路」にまたがる地域だが、2008年に静岡・山梨両県にまたがる「富士山」が特例認定されていることもあり、独立を果たしている。
ただ、今回独立が認められた17地域を見ると、都市部の単独自治体が過半数を占めている。単独の場合は10万台という要件は変わらない。登録台数が急増してついに10万台を超えたわけではなく、もともと10万台をクリアしていた自治体が、地元意識に目覚めて続々と独立を果たしているのだ。1960年代のアジア・アフリカ諸国の独立ラッシュみたいなものですね。
幻の「東京湾岸」ナンバー
しかし、独立を望まない? 地域もある。東京都では江戸川区と大田区だ。ともに登録台数はバッチリだが、どちらも独立の動きはない。
大田区は「品川」ナンバー地域なので、そのままのほうがいいということだろう。「横浜」や「神戸」ナンバーなど好感度の高い地域では、おしなべて独立の機運は低い。江戸川区は、今回「江東」と「葛飾」が独立した「足立」ナンバー地域だが、独立について江戸川区は「検討していない」とのみコメントしている。
江戸川区は、2013年に江東区長がぶち上げた「東京湾岸」ナンバーの誘いに乗った過去がある。この時は港区、品川区、大田区にも声をかけたが、これら「品川」ナンバー地域からはすべて断られ、同意したのは江戸川区だけ。結局空中分解したのか、今回江東区は単独で「江東」ナンバーを獲得した。
ただ江東区に関しては、以前から「豊洲(高級タワマンが林立する埋め立て地)ナンバーがいい」という意見がネット上に存在した。それはご当地ナンバーではなくブランド志向にすぎない。「東京湾岸」ナンバーも同様のにおいがして、ご当地ナンバーの趣旨に反すると感じる。
思えば全国で唯一、「世田谷」ナンバーだけは、導入決定後に住民から反対運動が起き、訴訟まで起きている。大都市部らしく「知らないうちに決まっていた」というのが最大の理由だと聞くが、世田谷という地名はちょっとしたブランドだけに、地元住民に「なんだかこっぱずかしい」「プライバシーの侵害だ」という意識があるようだ。
「軽井沢」ナンバーの構想もあったが(「佐久」と譲らず06年に断念)、仮にそれが実現したら、「世田谷」なんてもんじゃないこっぱずかしさになるだろう。
自動車ナンバープレートの地域名は、自治体名よりも、都道府県名や旧国名や地域名など、ある程度広い範囲のものが本来ふさわしい気がする。まぁ、私の場合、「杉並」ナンバーに何の不満もないですが。なにしろ地元ですから!
(文=清水草一/写真=国土交通省/編集=藤沢 勝)
![]() |

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
-
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性NEW 2025.9.5 あのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。
-
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代 2025.9.4 24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。
-
マツダの将来を担う次世代バイオディーゼル燃料 需給拡大に向けた最新の取り組みを知る 2025.9.3 ディーゼルエンジンを主力とするマツダにとって、カーボンニュートラルを実現した次世代バイオディーゼル燃料は生命線ともいえる存在だ。関係各社を巻き込んで需給拡大を図るマツダの取り組みと、次世代燃料の最新事情を紹介する。
-
意外とクルマは苦手かも!? 自動車メディアの領域で、今のAIにできること、できないこと 2025.9.1 AIは今や、文章のみならず画像や動画もすぐに生成できるレベルへと発展している。では、それらを扱うメディア、なかでもわれわれ自動車メディアはどう活用できるのか? このテクノロジーの現在地について考える。
-
世界の議論を日本が主導! 進むハンズオフ運転支援機能の普及と国際基準制定の裏側 2025.8.29 世界的に開発と普及が進むハンズオフ(手放し運転)運転支援機能の、国際基準が改定された。先進運転支援や自動運転の技術の基準は、どのように決められ、またそこで日本はどんな役割を果たしているのか? 新技術の普及に必須の“ルールづくり”を解説する。
-
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
NEW
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
NEW
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
NEW
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。 -
第926回:フィアット初の電動三輪多目的車 その客を大切にせよ
2025.9.4マッキナ あらモーダ!ステランティスが新しい電動三輪車「フィアット・トリス」を発表。イタリアでデザインされ、モロッコで生産される新しいモビリティーが狙う、マーケットと顧客とは? イタリア在住の大矢アキオが、地中海の向こう側にある成長市場の重要性を語る。 -
ロータス・エメヤR(後編)
2025.9.4あの多田哲哉の自動車放談長年にわたりトヨタで車両開発に取り組んできた多田哲哉さんをして「あまりにも衝撃的な一台」といわしめる「ロータス・エメヤR」。その存在意義について、ベテランエンジニアが熱く語る。