アウディA4アバント35 TFSIアドバンスト(FF/7AT)
パリッとスマート 2020.10.26 試乗記 フルモデルチェンジと見まがうほどに大幅な改良が行われた、最新の「アウディA4」が上陸。同シリーズの代表モデルともいえるステーションワゴン「アバント」に試乗し、新型パワーユニットや熟成されたシャシーの出来栄えを確かめた。さらにキリッとマイナーチェンジ
いつものようにキリリとクールで、身だしなみに一分の隙もないA4アバントだが、大がかりなマイナーチェンジを受けた新型は、ボディーパネルのほぼすべてが新しいという。フェンダーもわずかに膨らみ、全幅は5mm広がっているのだが、そういわれてもあまりわからない。
よりワイドになったシングルフレームグリルをはじめ、ボディー各部に手が入ったようだが、例によって真新しいシャツのようにパリッと折り目正しい居ずまいはどこから見てもアウディである。
近年ではSUVの品ぞろえが豊富なアウディだが、われわれオヤジ世代にとってはアウディといえばA4、それもステーションワゴンのアバントが依然としてブランドを代表するモデルである。
現行型A4は2016年にフルモデルチェンジした5世代目だが、この度「セダン」はもちろんのこと、高性能版の「S4」や車高が高いSUV寄りの「オールロードクワトロ」を含めたA4シリーズ全車がマイナーチェンジを受けた。そのうちのA4セダン/アバントには最高出力150PSの「35 TFSI」と同249PSの「45 TFSI」(クワトロのみ)という2種類の2リッター4気筒直噴ターボエンジンが用意され、同時にマイルドハイブリッドシステムを搭載したのが最大のトピックである。
期待のディーゼルモデルはやや遅れて2021年早々に上陸するといわれている。さらにベースモデルに加え、「アドバンスト」「Sライン」という3種類のモデルグレードが設定されたのも新しい。アドバンストは安全装備なども完備した主力グレードである。
マイルドハイブリッド化の理由
今回のマイナーチェンジにおける一番の注目点は、前述したようにマイルドハイブリッドシステムをA4シリーズ全モデルに搭載したことである。48V駆動の「A8」などとは異なり、リチウムイオン電池とBAS(ベルト駆動オルタネータースターター)を備えた12Vの簡略版だが、それでもアウディによれば100kmあたり0.3リッターの燃料低減効果があるという。
こういう数字を見て「大した違いではないだろう」という人もいるが、ご存じの通り、EU圏内では2021年には平均CO2排出量を95g/kmとしなければならない。これは企業別の新車全体の平均値だが、現在でも130gの規制値を超えた分だけ罰金を支払わなければならない。
実際には1gあたり日本円でざっと1万2000円、それに販売台数をかけた分を科されるというものだから、利益を直撃するペナルティーを少しでも減らすためには、PHVやBEVをラインナップするだけでなく、内燃エンジンのモード燃費をできるだけ向上させるのが急務なのである。
いまだになかなかなじめないが、「35」や「45」という数字は直接排気量や出力を指し示すのではなく、だいたいのパワーレンジを指す。現行型A8の登場に合わせて、他の車種も最高出力別にモデルのネーミング方法が見直され、すなわち35は150PS(110kW)以上、40は170PS(125kW)以上、45は230PS(169kW)以上が目安となる。
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同じ35 TFSIでも2リッター
新しいA4の35 TFSIは最高出力150PS(110kW)/3900-6000rpmと最大トルク270N・m(27.5kgf・m)/1350-3900rpmを発生する2リッター4気筒直噴ターボエンジンを積んでいる。そう、従来型もA4のベーシックモデルは「35 TFSI」と呼ばれていたが、これまでは1.4リッターの4気筒ターボエンジン(同150PS/5000-6000rpmと同250N・m/1500-3500rpm)を搭載していたのだ。
150PSのピークパワーは同一でも2リッター版のTFSIのトルクは増強され、より低回転で生み出されることがわかる。また従来型の2リッター直4ターボエンジンを積んだ「40 TFSI」は最高出力190PSと最大トルク320N・mだったから、同じ排気量でも出力を追求したユニットではないこともうかがえる。
というのも、新しい燃費基準(WLTP)の導入に対応して、高負荷時の効率が良くない小排気量のダウンサイジングターボを見直す動きが顕著になっているのだ。実際、ダウンサイジングターボのパイオニアともいえるフォルクスワーゲンも、間もなく日本に上陸するはずの「ゴルフ8」には主力ユニットの1.4リッター直噴ターボに代えて既に1.5リッターに拡大した「evo」を積んでおり、グループ内の他のモデルも順次更新されている。
まだ日本には導入されていない……と思ったら、先日国内導入されたばかりの「Q3」と「Q3スポーツバック」には1.5リッター直4ターボが積まれている。アウディがA4のベーシックモデル用の1.4リッター直4ターボを廃し、同じ35でも高膨張比のミラーサイクル(アウディではBサイクルと呼ぶ)を採用した2リッター直4ターボに換装したのも同じ理由と思われる。
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きめ細かな肌触り
トランスミッションは従来通り、アウディが「Sトロニック」と呼ぶ7段DCTである。マイルドハイブリッドシステム付きターボエンジンとの協調制御に配慮しているようで、スイッと軽やかに動き出す身のこなしが非常に洗練されている。
マイルドハイブリッドのおかげで、エンジンのスタート/ストップシステムの作動具合もさらにスムーズになったうえに、前車が動き出すとカメラが検知してブレーキを踏んでいてもエンジンが始動するといった日本車のような芸の細かさも備わっている。また、状況に応じてクラッチを切ったコースティングとエンジンを停止させてのコースティングを頻繁に切り替えているようで、少しでも燃費を向上させようとしていることがうかがえる。
FWDの35 TFSIは17インチタイヤにスポーツサスペンションの組み合わせになるが、決して硬すぎることなく、安定したフラットな乗り心地を提供してくれる。とはいえ、日本仕様のベーシックモデルにもスポーツサスペンションを指定する慣習はそろそろ見直したほうがいいと思う。山道でトップエンドまで回しても特にパワーが盛り上がるというタイプのエンジンではないが、実用域でのレスポンスは軽く鋭くなかなかに痛快であり、ハンドリングもシャープすぎずバランスがいい。
アウディのスマートさを堪能するにはこの35 TFSIは最適ではないだろうか。裏ごししたスープのように滑らかできめ細かなA4アバントは、雑味がなくてすっきり上品なワゴンである。
(文=高平高輝/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
アウディA4アバント35 TFSIアドバンスト
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4760×1845×1435mm
ホイールベース:2825mm
車重:1570kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:150PS(110kW)/3900-6000rpm
最大トルク:270N・m(27.5kgf・m)/1350-3900rpm
タイヤ:(前)225/50R17 94Y/(後)225/50R17 94Y(ブリヂストン・トランザT005)
燃費:13.6km/リッター(WLTCモード)
価格:552万円/テスト車=636万円
オプション装備:ボディーカラー<テラグレーメタリック>(6万円)/スマートワイヤレスチャージング+リアシートUSBチャージング(6万円)/Bang & Olufsen 3Dサウンドシステム(17万円)/ラグジュアリーパッケージ<パーシャルレザー+運転席メモリー機能+フロントランバーサポート4ウェイ+マルチカラーアンビエントライティング>(23万円)/パークアシストパッケージ<パークアシスト+サラウンドビューカメラ>(8万円)/マトリクスLEDヘッドライトパッケージ<マトリクスLEDヘッドライト+フロントダイナミックインジケーター+ヘッドライトウォッシャー>(11万円)/プライバシーガラス<フロントサイドアコースティックガラス>(10万円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:444km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(5)/山岳路(2)
テスト距離:315.0km
使用燃料:26.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:12.1km/リッター(満タン法)/12.5km/リッター(車載燃費計計測値)
