アウディQ3スポーツバック35 TDIクワトロSライン(4WD/7AT)
なめんなよ! 2020.10.28 試乗記 SUVのモデルラインナップが増え続ける中で、アウディが新たに提案する「Q3スポーツバック」。今回ステアリングを握った「35 TDIクワトロSライン」の走りは、スタイル重視に見える同モデルのイメージを大きく変えるものだった。生き生きとしたディーゼル
「コレが『A3』でよかったんじゃないか」と妙な感想を抱きながら、アウディQ3スポーツバック35 TDIクワトロSラインで峠道を行く。Q3は、Cセグメントこと、「ゴルフ」やA3クラスの大きさのSUVである。2代目となるにあたり、標準ボディーの「Q3」に加え、ルーフラインからCピラーにかけてなだらかに下降するクーペルックのQ3スポーツバックが加わった。
ステアリングホイールを握っているQ3スポーツバックは、2リッター直4ディーゼルターボを搭載。150PSの最高出力を3500-4000rpmで、340N・mという3リッターエンジンなみの最大トルクをわずか1750rpmから発生する。回転計の表示で5000rpm前からレッドゾーンが始まるように、一般的なガソリンエンジンと比較すると当然レブリミットは低いが、フラットトルクで素直に回るエンジンなので、回転が上がるにつれて頭を抑えられるような鬱積(うっせき)したフィールはない。与えられた範囲内で余裕あるアウトプットを供給してくれる、頼りがいのあるパワーソースだ。
最近のディーゼルらしくさすがにガラガラとはいわないが、そのエンジン音は特にディーゼルであることを隠さない。でも、全然イヤではない。むしろスロットル操作にリニアに反応するサウンドが生き生きとしていて好ましい。ハイブリッドをはじめ電気系のアシストを受けるクルマに乗る機会が増えたせいか、“ちょっと古い”クルマ好きにはナマな感覚がうれしゅうございます。給油時に、うっかりガソリンを入れそうになることはないはずだ。
スポーティーで楽しい
組み合わされるトランスミッションは、ツインクラッチ式のSトロニック。ぜいたくな7スピードだ。日常使いでは、ギアチェンジが穏やかで、それでいてダイレクト感がある。例えば山岳路で運転者がヤル気を出した際には、アウディドライブセレクトで動力系の設定やステアリングのアシスト量を変更できるが、シフトレバーをSモードに入れてしまったほうがハナシが早い。“つるし”の設定でもスムーズなうえギアの選び方が適切なので、スポーティーな走りをしても痛痒(つうよう)感がない。
Q3スポーツバックはいわゆるシュアなハンドリングの持ち主で、ステアリングで狙ったとおりのラインを過不足なくなぞってくれる。足まわりも破綻なくついてくるので、腹八分な感じで頑張っても、スポーティーで楽しい。ステアリングの剛性感の高さも好印象。今回の試乗車は、クワトロの名を冠する電制多板クラッチを用いた4WDモデルだが、運転中にそれを気にすることはなかった。
ボディーサイズは、全長4520×全幅1840×全高1565mm。手ごろなサイズで扱いやすいし、ドライブフィールもいい。ザックリした感想だけれど、「新しいA3はコレでよかったんじゃないか」と思った次第です。
プラットフォームは熟成版で
ニューアウディQ3のデビューは2018年、Q3スポーツバックは1年後の2019年にお披露目された。ちなみに、最新のA3は2020年に現れている。先代のQ3が登場したときも、ベース車両であるはずのA3のほうが遅れて登場したことに違和感を覚えたが、これはQ3が“変わりボディー”として減価償却が……いや、熟成の進んだシャシーを元に開発されたからである。以前のゴルフと「ビートル」の関係と同じですね。
いまではクルマの土台にあたるプラットフォームを自在に伸縮してさまざまなモデルをクオリティー高く生み出せる時代だから、“ベース車両”という考え方自体が古いのかもしれない。便宜上、「ポロ」と「A1」のクロスオーバーが「Tクロス」と「Q2」、ゴルフとA3のSUV版が「Tロック」とQ3であると捉えると、いわゆる「車格」がわかりやすいというだけだ。
フォルクスワーゲングループは、MQBと呼ばれる「エンジン横置き+前輪駆動(および前輪駆動ベースの四輪駆動)」用のプラットフォームを持ち、2012年の3代目A3を皮切りに、次々とニューモデルをリリースしている。厳密にはMQBにも世代があり、随時進化して違いはあるが、新型Q3ももちろんMQBの恩恵に浴している。
下っ端でも存在感
それにしても、21世紀に入ってからのSUV/クロスオーバーモデルの繁栄ぶりは目をみはるばかり。アウディに関して言うと、弟分Q2をボトムに、Q3/Q3スポーツバックの上にFRベースの「Q5」、さらにフラッグシップたる「Q7」に、その4ドアクーペ版「Q8」という充実具合。言うまでもなく、それぞれにフォルクスワーゲンバージョンがあり、さらにポルシェやベントレー、ランボルギーニ、シュコダやセアトにまで横展開するのだから、フォルクスワーゲングループはいまやSUV/クロス帝国といっていい。未舗装路も行けるゴツいクルマを漠然と「クロカン」とか「ヨンク」と呼んで、ある種の色モノと認識していた昭和は遠くなりにけり。
東洋の島国でも、都会のマンション前にズラリと大型SUVが並ぶ光景は珍しくないから、「もうちょっと小さいモデルが欲しい」、はたまた「人と違うカタチがいい」といった需要も高かろう。大から小までサイズのマトリクスはほぼ埋められ、いまやSUV内での車型の細分化が始まっている。それだけSUV/クロスオーバーというカテゴリーが一般化した証拠で、爛熟(らんじゅく)期ということもできる。
日本に入るQ3/Q3スポーツバックは、1.5リッター直4ターボ(150PS、250N・m)が全車FF、2リッターディーゼルターボは同じくすべてが4WDとなる。プレミアムブランドのクルマは、サイズが小さくなるほどバッジやグリルを大きく派手にする傾向があるが、新しいQ3シリーズもその例にもれず、Q8ゆずりの押し出しの利く顔をしている。昭和な言い方をするなら「なめんなよ」といったところか。
ゴツめのフロントに目を奪われがちだが、ニューモデルのハイライトは張り出したリアフェンダーとキャラクターラインまわりだろう。立体感を強調するためキャビンが左右から絞り込まれているのが、いかにもプレミアム。限られたスペースを精いっぱい使おうといういじましさとは無縁だ。ことにQ3スポーツバックは、ルーフラインがなだらかに下りてくるだけでなく、サイドのウィンドウグラフィックを変えて後部下端を跳ね上げているので、標準のQ3以上にリアのブリスターがキマっている。
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気になるのはインテリア
スタイリッシュSUVとして、気になるのはリアシートの居住性だ。実際に座ってみると、足元はやや狭いが、座面の高さは適正。頭の斜め上にピラーが迫るのが少しばかりうっとうしいが、天井とのクリアランスは確保される。走行中も路面からの突き上げはよく抑えられ、後席でも乗り心地に不満はない。乗車定員は5人だが、大人2人用としてまず実用的といっていい。
Q3スポーツバックの実車に接して気になったのは、意外にもインテリアだった。アウディ車の内装のよさには定評があるから、なおさらネガが強く感じられたのかもしれない。インストゥルメントパネルまわりにはソフトな素材も用いられるが、樹脂然としたパーツの面積が思いのほか広い。グレーの色調はあまりに事務的で、各部の凝ったデザインとデコラティブな一部パネルで質感をカバーしようとする試みはあまり成功していない。ディーラーのしゃれた照明の下ではシックに見えた内装が、いざ太陽光の下に引き出してみると「アレッ!?」と感じる。そんなオーナーの人も多いのでは、と余計な心配をしてしまう。
この日のQ3スポーツバックは、トップグレードの35 TDIクワトロSライン。車両本体価格563万円に72万円分のオプション装備が付いて、締めて635万円。車内の硬い樹脂部分をコツコツとたたきながら、「600万円超のクルマでコレはなぁ……」とつぶやくワタシを誰が責められましょう。
あらためて価格帯を確認すると、Q3スポーツバックの1.5リッターターボでも452万円から516万円。モデル末期とはいえ、「A3スポーツバック」の1.4リッターターボは300万円台なのでクラス違い。2リッターターボを積む「40 TFSIクワトロ」でも、「シグネチャーエディション」が441万円、「スポーツシグネチャーエディション」は467万円だ。Q3スポーツバック クワトロの姿と走りに感心したからといって、安易に「コレがA3でもいいのでは?」なんて言ってはいけませんでした。
(文=青木禎之/写真=田村 弥/編集=関 顕也)
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テスト車のデータ
アウディQ3スポーツバック35 TDIクワトロSライン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4520×1840×1565mm
ホイールベース:2680mm
車重:1710kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:150PS(110kW)/3500-4000rpm
最大トルク:340N・m(34.7kgf・m)/1750-3000rpm
タイヤ:(前)235/50R19 99V/(後)235/50R19 99V(ブリヂストン・アレンザ001)
燃費:15.4km/リッター(WLTCモード)
価格:563万円/テスト車=635万円
オプション装備:ボディーカラー<デイトナグレーパールエフェクト>(12万円)/アシスタンスパッケージ<アダプティブクルーズアシスト+エマージェンシーアシスト+ハイビームアシスト+サイドアシスト+リアクロストラフィックアシスト>(12万円)/テレビチューナー(16万円)/テクノロジーパッケージ<スマートフォンインターフェイス+ワイヤレスチャージング>(12万円)/ベーシックパッケージ<フロントシートヒーター+フロントシート電動調整機能+オートマチックテールゲート+アウディホールドアシスト+フロント4wayランバーサポート+アウディドライブセレクト>(26万円)/プラスパッケージ<パーシャルレザー+マルチカラーアンビエントライティング+リアシートUSB>(6万円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:1781km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:260.3km
使用燃料:21.2リッター(軽油)
参考燃費:12.3km/リッター(満タン法)/11.6km/リッター(車載燃費計計測値)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。