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アウディQ3 35 TDIクワトロSライン(4WD/7AT)/Q3スポーツバック35 TFSI Sライン(FF/7AT)

悩みは尽きない 2020.09.15 試乗記 佐野 弘宗 プレミアムな小型SUVの元祖として、各社がこぞってお手本にしたという「アウディQ3」。その新型がいよいよ日本に上陸した。クーペスタイルの「スポーツバック」とともに箱根のワインディングロードに連れ出し、仕上がりをテストした。

待ちわびた新型

2代目となる新型Q3は2018年夏に発表、欧州では同年11月ごろからデリバリーが開始された。その派生型クーペのQ3スポーツバックは2019年7月に発表されている。で、ご承知のように、日本では2020年8月に2車種が同時発売となった。

つまり、このアウディの新しいCセグメントSUVの国内導入は、Q3スポーツバックが欧州から1年強、Q3にいたっては2年弱も遅れたことになるわけだ。メルセデス・ベンツやBMWなどの同じジャーマンスリーで比較すると、アウディはもともと日本導入が遅めのケースが多い。それにしても2年近いタイムラグは長いと思うが、今回にかぎってはそれにも理由がある。

というのも、欧州では2018年9月に移行した、排ガスや燃費の新たな試験基準であるWLTP(乗用車などの国際調和排出ガス・燃費試験法)への対応を迫られているからだ。

ちなみに、日本で現在使われているWLTCモードは、WLTPから日本では使われない超高速モードを省いた数値で、欧州とほぼ同時期の2018年の10月に導入されている。ただし、日本での新基準適用はひとまず、それ以降に発売される新型車を対象として、継続生産車への適用期限は2020年9月(現在は2021年1月に延期)とされた。

それに対して欧州では、域内で販売される新車すべてに2018年9月からの適用が義務づけられた。そこにおりからのディーゼル不正問題もあいまって、欧州ではWLTPへの対応が間に合わないケースが続出。2018年秋からしばらく、欧州メーカー各社で生産・販売の一時停止が相次いだ。そんな混乱もやっとおさまりかけたと思ったところに、新型コロナである。

本当に次から次へと……といいたくなるが、それでも、2代目Q3、そして今回が初代となるQ3スポーツバックはなんとか日本にやってきてくれた。

フロントマスクには旗艦SUV「Q8」ゆずりのデザインを採用。八角形のシングルフレームグリルとその両サイドに開いた大型エアインテークが印象的だ。
フロントマスクには旗艦SUV「Q8」ゆずりのデザインを採用。八角形のシングルフレームグリルとその両サイドに開いた大型エアインテークが印象的だ。拡大
新型「Q3」のボディーサイズは全長×全幅×全高=4495(非「Sライン」車は4490)×1840×1610mm。全長が100mm以上長くなり、コロンとしていた先代よりもスタイリッシュになった。ホイールベースは+75mmとなる2680mm。
新型「Q3」のボディーサイズは全長×全幅×全高=4495(非「Sライン」車は4490)×1840×1610mm。全長が100mm以上長くなり、コロンとしていた先代よりもスタイリッシュになった。ホイールベースは+75mmとなる2680mm。拡大
「Q3スポーツバック」のボディーサイズは4520×1840×1565mm。ルーフラインの処理によって「Q3」よりも45mm低められているが、185mmの最低地上高は両車同じ。
「Q3スポーツバック」のボディーサイズは4520×1840×1565mm。ルーフラインの処理によって「Q3」よりも45mm低められているが、185mmの最低地上高は両車同じ。拡大
フェンダーは往年の「アウディ・クワトロ」をモチーフにしたブリスター形状となっている。
フェンダーは往年の「アウディ・クワトロ」をモチーフにしたブリスター形状となっている。拡大
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大ヒットした先代モデル

思い返せば、ここ7~8年、国内外のコンパクトSUV開発者にインタビューすると、「ベンチマークとしたクルマ」あるいは「クラスはちがうが参考にしたクルマ」として、Q3という車名が出てくることが本当に多かった。

初代Q3のデビューは2011年である。現在でもライバルである「BMW X1」の初代よりは2年ほど遅れてのデビューだったが、初代X1は後輪駆動ベースだった。よって、エンジンを横置きする典型的なCセグメント骨格の高級コンパクトSUVはQ3が元祖といえた。

厳密にはこれと同時期に「レンジローバー イヴォーク」も登場しているのだが、アウディというブランド力や、より舗装路向きの商品イメージもあってか、一般的な自動車市場へのインパクトは、Q3のほうがはるかに大きかった。実際、上級の「Q5」を思わせる質感、そのわりに扱いやすいコンパクトサイズ、「A3」ゆずりの乗り心地と静粛性、そしてクワトロ(4WD)によるクラストップの走行性能……で、初代Q3は累計で約140万台という大ヒットとなった。初代Q3のフルイヤー販売が2012年~2017年とすると、年間平均で20万台を軽く超えていた計算となるわけだ。この期間のアウディ全体の販売台数は年間145~187万台だから、アウディにおけるQ3の存在が、いかに大きかったかを想像できるだろう。

横置きのCセグメントプラットフォームといえば、それこそ世界の自動車メーカーの多くが、当然のごとく自前で用意している技術資産だ。Q3はそれをベースに魅力的な高級かつ高性能なコンパクトクロスオーバーSUVをつくりあげた……という意味で、初代Q3は世界中のメーカーがお手本とした。

また、今ではメルセデス・ベンツの「GLA」に「GLB」、FF化されたBMW X1、さらに「ジャガーEペース」「ボルボXC40」、そして「レクサスUX」と、世界中にフォロワーが大量発生したことも初代Q3の功績といえる。

ワイドさを強調したというインストゥルメントパネルは「Q3」と「Q3スポーツバック」とで共通。センターディスプレイ周辺などにフロントマスクと同じ多角形デザインが反復されている。
ワイドさを強調したというインストゥルメントパネルは「Q3」と「Q3スポーツバック」とで共通。センターディスプレイ周辺などにフロントマスクと同じ多角形デザインが反復されている。拡大
デジタルメータークラスターの「アウディバーチャルコックピット」は全車に標準装備。スクリーンサイズは10.25インチ。
デジタルメータークラスターの「アウディバーチャルコックピット」は全車に標準装備。スクリーンサイズは10.25インチ。拡大
ガソリン、ディーゼルを問わずトランスミッションは7段のデュアルクラッチ式ATを採用。
ガソリン、ディーゼルを問わずトランスミッションは7段のデュアルクラッチ式ATを採用。拡大
シャシーにはフォルクスワーゲン グループのエンジン横置き用モジュラープラットフォーム「MQB」を使う。サスペンションはフロントがマクファーソンストラット式でリアがダブルウイッシュボーン式。
シャシーにはフォルクスワーゲン グループのエンジン横置き用モジュラープラットフォーム「MQB」を使う。サスペンションはフロントがマクファーソンストラット式でリアがダブルウイッシュボーン式。拡大

さすがは元祖

そんな大成功作の2代目ゆえに、新型Q3は正常進化といっていい。骨格設計は最新の「MQB」モジュールで、そこかしこにオクタゴン(八角形)がちりばめられる内外装のデザインセンスも最新のアウディSUVシリーズそのものである(ただ、初代ではQ5の後追いだったデザインは、今回は「Q8」とともにQシリーズの先鋒役となっているが……)。

今回はメディア試乗会での取材ということで、日本で用意される2種類のパワートレイン(1.5リッターガソリンのFF車と2リッターディーゼルの4WD車)を1台ずつ、ともに箱根周辺でのかぎられた短時間試乗のみとなった。

なので、いつにも増して前置きが長くなってしまった(汗)のだが、その短時間試乗を終えて「初代に続いて、今回もクラスのベンチマークになるかも」と思ったのは本当だ。今回は最初からライバルやフォロワーがひしめく包囲網の真ん中に投入されるのだから、初代のような孤高にはならないだろうが、さすがの元祖……といいたくなる仕上がりである。

手の切れそうな外板のプレスラインや室内空間はいつものアウディだ。各部の触感の高級感はさすがだし、今回の試乗車となった「Sライン」のフロントスポーツシートはホールド性と柔らかな肌ざわりの両立に感心した。

初代でほぼ唯一の弱点とされたのは後席と荷室のせまさだった。新型でもキャビンをキュッと絞ったシルエットは初代を踏襲しつつも、身長180cm級でも不足なく座れて、小柄な人ならアシも組めそうなくらいに広くなった。荷室も額面容量が15%も増えただけでなく、床下にトノボードを収納できるなど、なかなか心にくい工夫があるのもいい。

うれしいのは両車をならべると明らかにスタイリッシュなQ3スポーツバックでも、空間的な犠牲は、後席頭上と荷室の一部分のわずかな犠牲にとどまることだ。大半の人にとっては使い勝手に実質的な差はないと思われる。

「Sライン」専用のスポーツシート。表皮には上質なスムースレザーが使われる。
「Sライン」専用のスポーツシート。表皮には上質なスムースレザーが使われる。拡大
リアシートには130mmの前後スライド機構と7段階のバックレスト角度調整機構が付いている。
リアシートには130mmの前後スライド機構と7段階のバックレスト角度調整機構が付いている。拡大
荷室の容量は「Q3」が530~1525リッターで、「Q3スポーツバック」(写真)が530~1400リッター。
荷室の容量は「Q3」が530~1525リッターで、「Q3スポーツバック」(写真)が530~1400リッター。拡大
荷室のフロアボードの下には収納スペースが隠されている。使わないときにトノカバーをしまっておけるのがスマートだ。
荷室のフロアボードの下には収納スペースが隠されている。使わないときにトノカバーをしまっておけるのがスマートだ。拡大

クワトロのようなFWD

箱根の山坂道での走りは、今回試乗したガソリンFFのQ3スポーツバックも、ディーゼル4WDのQ3も、率直にいって素晴らしかった。

ストローク感たっぷりのサスペンションは細かい不整でも高精度かつ滑らかに動いて、Gが高まるときっちりコシも出る。Q3スポーツバックに備わっていた「プログレッシブステアリング」はロックトゥロックが2回転強というクイックさだが、中立付近がスローになるバリアブルレシオもあって、その身のこなしはどんな場面でも自然と優雅になる。

とくに最初に乗ったガソリンの「35 TFSI」の乗り心地はちょっと感動的ですらあった。1.5t超を1.5リッターで走らせるので、今回のような山坂道ではけっして余裕があるはずもないが、車内には苦しげな様子はまったく伝わってこない。実際の動力性能は控えめだが、なぜか不足を感じないのは、7段デュアルクラッチ式ATの変速マナーが、これまでに輪をかけて滑らかになっているおかげでもあるだろう。

ご想像のように35 TFSIがシャシーファスターカーなのは明らかだが、それをヘビーウエットの箱根で走らせた筆者は、試乗後に確認するまでずっとクワトロだと思い込んでいた(再汗)。まったくもって恥ずかしいかぎりだが、それはQ3のシャシーが素晴らしいという証左でもある(大汗)。

次に乗った「35 TDIクワトロ」も乗り心地や操縦性の基本路線は同じだが、静粛性や乗り心地などでわずかに物足りなかったのは、ガソリンのそれが素晴らしすぎたからだろう。

というわけで、Q3における現時点での個人的推奨は35 TFSIなのだが、同じ装備内容の35 TDIクワトロとの価格差は47~49万円……と、他社より差が小さめなのは要注意である。これはディーゼルとクワトロを積極的に売りたいアウディ ジャパンの戦略価格でもあるようだ。実際、本体価格こそ35 TFSIのほうが明確に安いが、環境性能割や減税によって初期費用は合計10万円以上も35 TDIクワトロが得なのだ。そこに日々の燃料費や、より強力な動力性能とクワトロのありがたみ、リセールまでをも含めると、35 TDIクワトロのほうを割安と感じる向きも多かろう。乗り心地は間違いなく35 TFSIがベターだが、35 TDIクワトロのそれもまったくもって悪くないのだから、なんとも始末が悪い(笑)。

(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)

「Q3」「Q3スポーツバック」とも日本仕様のパワートレインは1.5リッターガソリンターボエンジンのFF車、または2リッターディーゼルターボエンジンの4WD車の2本立てとなっている。
「Q3」「Q3スポーツバック」とも日本仕様のパワートレインは1.5リッターガソリンターボエンジンのFF車、または2リッターディーゼルターボエンジンの4WD車の2本立てとなっている。拡大
「アウディドライブセレクト」のスイッチはセンターコンソールにレイアウトされる。ドライブモードは「オート」「コンフォート」「ダイナミック」「オフロード」「エフィシエンシー」に「インディビジュアル」を加えた全6種類と豊富。
「アウディドライブセレクト」のスイッチはセンターコンソールにレイアウトされる。ドライブモードは「オート」「コンフォート」「ダイナミック」「オフロード」「エフィシエンシー」に「インディビジュアル」を加えた全6種類と豊富。拡大
シフトセレクターの前方には置くだけでスマートフォンを充電できるスペースが用意される(オプション)。
シフトセレクターの前方には置くだけでスマートフォンを充電できるスペースが用意される(オプション)。拡大
ガソリンでFF車の「35 TFSI」とディーゼルで4WD車の「35 TDIクワトロ」を比べると、後者のほうが170kgほど重くなっている。
ガソリンでFF車の「35 TFSI」とディーゼルで4WD車の「35 TDIクワトロ」を比べると、後者のほうが170kgほど重くなっている。拡大
アウディQ3 35 TDIクワトロSライン
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アウディQ3 35 TDIクワトロSライン/Q3スポーツバック35 TFSI Sライン【試乗記】の画像拡大

テスト車のデータ

アウディQ3 35 TDIクワトロSライン

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4495×1840×1610mm
ホイールベース:2680mm
車重:1700kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:150PS(110kW)/3500-4000rpm
最大トルク:340N・m(34.7kgf・m)/1750-3000rpm
タイヤ:(前)225/40R19 93W/(後)225/40R19 93W(ダンロップ・ビューロVE304)
燃費:15.4km/リッター(WLTCモード)
価格:543万円/テスト車=633万円
オプション装備:ボディーカラー<パルスオレンジ>(8万円)/Bang & Olufsen 3Dサウンドシステム(13万円)/アシスタンスパッケージ<アダプティブクルーズアシスト+エマージェンシーアシスト+ハイビームアシスト+サイドアシスト+リアクロストラフィックアシスト>(12万円)/テクノロジーパッケージ<スマートフォンインターフェース+ワイヤレスチャージング>(12万円)/ベーシックパッケージ<フロントシートヒーター+フロントシート電動調整機能+オートマチックテールゲート+アウディホールドアシスト+フロント4wayランバーサポート>(26万円)/プラスパッケージ<パーシャルレザー+マルチカラーアンビエントライティング+20スポークVデザイングラファイトグレーアルミホイール[7.0J×19 235/50R19]>(19万円)

テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:752km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター

アウディQ3スポーツバック35 TFSI Sライン
アウディQ3スポーツバック35 TFSI Sライン拡大
 
アウディQ3 35 TDIクワトロSライン/Q3スポーツバック35 TFSI Sライン【試乗記】の画像拡大

アウディQ3スポーツバック35 TFSI Sライン

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4520×1840×1565mm
ホイールベース:2680mm
車重:1530kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ  ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:150PS(110kW)/5000-6000rpm
最大トルク:250N・m(25.5kgf・m)/1500-3500rpm
タイヤ:(前)235/50R19 99V/(後)235/50R19 99V(ブリヂストン・アレンザ001)
燃費:14.3km/リッター(WLTCモード)
価格:516万円/テスト車=572万円
オプション装備:ボディーカラー<クロノスグレーメタリック>(0円)/アシスタンスパッケージ<アダプティブクルーズアシスト+エマージェンシーアシスト+ハイビームアシスト+サイドアシスト+リアクロストラフィックアシスト>(12万円)/テクノロジーパッケージ<スマートフォンインターフェース+ワイヤレスチャージング>(12万円)/ベーシックパッケージ<フロントシートヒーター+フロントシート電動調整機能+オートマチックテールゲート+アウディホールドアシスト+フロント4wayランバーサポート>(26万円)/プラスパッケージ<パーシャルレザー+マルチカラーアンビエントライティング+リアシートUSB>(6万円)

テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:692km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

佐野 弘宗

佐野 弘宗

自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。

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