トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”(4WD/6MT)/GRヤリスRZ“ファーストエディション”(4WD/6MT)/GRヤリスRS(FF/CVT)
魂の3気筒 2020.11.20 試乗記 トヨタのクルマは低燃費だけど低刺激。そんなイメージをすっかり忘れさせてしまうのが「GRヤリス」だ。専用設計のシャシーに最高出力272PSの1.6リッター直3ターボエンジンや独自設計の4WDシステムを積んだ、幻のホモロゲーションモデルの実力を試す。GRヤリスの目指したところ
半年間で6000台の受注を集めて終了した限定の“ファーストエディション”に続いて、レギュラー(常備)モデルのGRヤリスが2020年9月に発売された。
その公道初試乗会に用意されていたのは1.6リッター3気筒ターボ+4WDの「RZ」系と、“ファーストエディション”にはなかった「RS」。こちらはノーマルの「ヤリス」用1.5リッター+CVTを搭載する。WRCに通じるGRヤリスを2ペダルで乗りたいという人向けのFFモデルである。
試乗枠は「RZ“ハイパフォーマンス”」が60分。ほか2台は各30分というタイトなものだった。早速、本命のRZ“ハイパフォーマンス”に肩を怒らせて乗り込み、272PSユニットを起こすと、肩すかしを食らった。アイドリングはフツーに静かだ。始動時に吠えたりすることもない。
クラッチペダルも重くない。膝のコラーゲンがすり減った熟年ドライバーが終のMT車として選んだとしても、問題ないはずだ。先日乗った「アバルト595エッセエッセ」(180PS)のほうがはるかに左足にくる。あとで開発スタッフに聞くと、「595のクラッチはだいぶ重いですから」と、よく御存じだった。高性能を意識させるためにわざとクラッチペダルを重くするような演出は一切していないという。ラリーやレースに出られるクルマを普段使いにする。それがGRヤリスの目指したところでもある。
回すとすごい3気筒
GRヤリスの頂点だけあって、RZ“ハイパフォーマンス”(456万円)のアシは硬い。車重は1290kg。乗り心地はさすがにズッシリ系で、路面の凸凹すべてを拾って揺れる。普段使いなら、もう少しフラットでしなやかなほうがありがたい。
なんて印象は前が空いてアクセルを踏み込んだ途端、興奮に上書きされてしまった。アイドリングでは猫をかぶっていたエンジンも、回すとスゴイ。リミッターに当たる7200rpmまで、怒涛のようなトルクが湧いてくる。とても3気筒の1.6リッターターボとは思えない。いや、回転フィールに3気筒感はある。4気筒1.6リッターより大きなピストンが動いている実感があるし、高回転でも4気筒のようには突き抜けない。しかしそんな独特さも含めてスゴイ。こんな1.6リッターエンジンは初めてだ。
速いのは当然で、開発スタッフによれば0-100km/hは5.2秒だという。「シビック タイプR」や「メガーヌ ルノースポール」らの2リッターFF勢よりコンマ5秒以上速い。0-100km/hでコンマ5秒も違うと、体感的にも“別格”である。
アクティブトルクスプリット4WDは、前後トルク配分を「ノーマル」(60:40)、「スポーツ」(30:70)、「トラック」(50:50)に3段切り替えできる。さらに“ハイパフォーマンス”には後輪の無駄がきを許さないトルセンLSDが付く。豪快な加速性能のなかでも、100km/h直前まで伸びる2速でのコーナーからの脱出加速がとくに刺激的だ。エンジンや排気の音を抑えたのは、今後の車外騒音規制を見据えてのことだというが、回せばけっこうイイ音がする。
6段のiMTにはシフトダウン時に回転を合わせてくれる自動ブリッピング機構が付いている。回転合わせをやる習慣のない人にとっては安全装備のひとつにもなるだろう。自分でやるから不要というドライバーはスイッチを入れなければいい。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
乗り心地はけっこう違う
RZ“ハイパフォーマンス”の直後に乗ったのは、FFのRS(265万円)。RZ系とまったく同じ高剛性ボディーにノーマルヤリスの1.5リッター3気筒をそのまま載せている。チューニングは異なるが、フロント:ストラット、リア:ダブルウイッシュボーンのサスペンションもRZ系と同じである。
だが、直後ということもあって、その差は冷酷なほど大きく感じた。なにしろ272PS対120PSである。しかも1140kgの車重は、同じパワートレインのノーマルヤリスより100kg以上重いのだ。エンジンに対してボディーやシャシーが異様にオーバークオリティーともいえる、そこに何か魅力やおもしろさがあるかもという期待もあったが、RZ系を知ってしまうと、GRヤリスの魂はやはり1.6リッターエンジンにこそ宿っていると感じた。ランボルギーニに「ポロ」のエンジンでは寂しいでしょう。
最後に乗ったのは“ファーストエディション”のRZ。もう新車では買えないのになぜ? と思ったが、レギュラーモデルとの違いは、開発ドライバーでもある“Morizo”(豊田章男CEO)のサインなど、外観のごく一部ということで、試乗車にあてられていた。
乗ってみると、“ハイパフォーマンス”との差は意外に大きかった。トルセンLSDを生かしながら操縦性能を最大限に高めたという“ハイパフォーマンス”のシャシーセッティングに比べると、ノーマルRZは少しコンフォート寄りに感じられた。乗り心地がちょっとだけいい。サーキットへの往きはよくても、疲れた帰りはツラそうだなと感じた乗り心地が少し丸くて、入魂のエンジンは同じ。それで価格(396万円)は“ハイパフォーマンス”より60万円安い。30分のチョイ乗りでは、普段使いのコスパがより高いRZという印象だった。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
モリゾウに感謝!
GRヤリスはトヨタのなかでは2番目に古い元町工場に新設された専用ライン“GRファクトリー”でつくられる。欧州用のヤリスはフランスで現地生産されているが、GRに海外生産の予定はない。全量メイド・イン・ジャパンである。“ファーストエディション”のデリバリーは2020年8月から始まっているが、それも含めて月産2000台。国内販売目標は月1100台だから、今のところ、半分以上が日本向けだ。
ボンネット、ドア、テールゲートはアルミ製。いちばん高いところにあるルーフはカーボン製。このカーボンルーフを取り入れるはずだった2021年用新型「ヤリスWRC」の開発が、コロナ禍で中止に追い込まれたのはなんとも残念である。
全幅はノーマルの5ドアヤリスより10cmワイドで、全高は5cm低い。テールゲートのヒンジの位置で言うと9cmも低い。その3ドアボディーを見ると、あらためてトヨタがよくこんなクルマを市販したなあと思う。真後ろからだと競技車両そのものに見えるリアフェンダーの張り出しなどは、実際これまでのトヨタの生産技術の枠内ではつくれなかったという。持つべきは走り屋の社長である。
車内のセンターフロアには「WRCのために開発された」という意味の英語の立体シールが貼ってある。2022年からはWRCのトップカテゴリーも電動化のハイブリッドで争われる。そこにトヨタがどう向き合うのかはわからないが、“エンジン祭”みたいなこんなホモロゲーションモデルはもう出てこないだろう。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3995×1805×1455mm
ホイールベース:2560mm
車重:1290kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.6リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:272PS(200kW)/6500rpm
最大トルク:370N・m(37.7kgf・m)/3000-4600rpm
タイヤ:(前)225/40ZR18 92Y XL/(後)225/40ZR18 92Y XL(ミシュラン・パイロットスポーツ4 S)
燃費:13.6km/リッター(WLTCモード)
価格:456万円/テスト車=494万5000円
オプション装備:ボディーカラー<プラチナホワイトパールマイカ>(3万3000円)/予防安全パッケージ(24万9700円)/シートヒーター&ステアリングヒーター(2万7500円) ※以下、販売店オプション ETC2.0(3万3000円)/ドライブレコーダー(4万1800円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:922km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(プレミアムガソリン)
参考燃費:--km/リッター
トヨタGRヤリスRZ“ファーストエディション”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3995×1805×1455mm
ホイールベース:2560mm
車重:1290kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.6リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:272PS(200kW)/6500rpm
最大トルク:370N・m(37.7kgf・m)/3000-4600rpm
タイヤ:(前)225/40R18 92Y XL/(後)225/40R18 92Y XL(ダンロップSP SPORT MAXX 050)
燃費:13.6km/リッター(WLTCモード)
価格:396万円/テスト車=433万9500円
オプション装備:ボディーカラー<プレシャスブラックパール>(5万5000円)/予防安全パッケージ(24万9700円) ※以下、販売店オプション ETC2.0(3万3000円)/ドライブレコーダー(4万1800円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:855km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(プレミアムガソリン)
参考燃費:--km/リッター
トヨタGRヤリスRS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3995×1805×1455mm
ホイールベース:2560mm
車重:1130kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:120PS(88kW)/6600rpm
最大トルク:145N・m(14.8kgf・m)/4800-5200rpm
タイヤ:(前)225/40R18 88W/(後)225/40R18 88W(ダンロップSP SPORT MAXX 050)
燃費:18.2km/リッター(WLTCモード)
価格:265万円/テスト車=277万9800円
オプション装備:ボディーカラー<エモーショナルレッドII>(5万5000円) ※以下、販売店オプション ETC2.0(3万3000円)/ドライブレコーダー(4万1800円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:885km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
-
プジョーE-3008 GTアルカンターラパッケージ(FWD)【試乗記】 2026.3.11 「プジョー3008」の電気自動車版、その名も「E-3008」が日本に上陸。新しいプラットフォームに未来感あふれるボディーをかぶせた意欲作だが、その乗り味はこれまでのプジョーとは明らかに違う。ステランティスのような大所帯で個性を発揮するのは大変だ。
-
ジープ・アベンジャー アップランド4xeハイブリッド スタイルパック装着車(4WD/6AT)【試乗記】 2026.3.10 「ジープ・アベンジャー」のラインナップに、待望の「4xeハイブリッド」が登場。既存の電気自動車バージョンから、パワートレインもリアの足まわりも置き換えられたハイブリッド四駆の新顔は、悪路でもジープの名に恥じないタフネスを披露してくれた。
-
三菱デリカD:5 P(4WD/8AT)【試乗記】 2026.3.9 デビュー19年目を迎えた三菱のオフロードミニバン「デリカD:5」がまたもマイナーチェンジを敢行。お化粧直しに加えて機能装備も強化し、次の10年を見据えた(?)基礎体力の底上げを図っている。スノードライブを目的に冬の信州を目指した。
-
ホンダCB1000F SE(6MT)【レビュー】 2026.3.7 ホンダから満を持して登場した、リッタークラスの4気筒マシン「CB1000F」。往年のCBをほうふつさせるスタイルと、モダンなパフォーマンスを併せ持つネイキッドスポーツは、先行するライバルを追い落とすことができるのか? ホンダ渾身(こんしん)の一台の実力に触れた。
-
スバル・トレイルシーカーET-HS プロトタイプ(4WD)【試乗記】 2026.3.5 スバルから本格的な電気自動車の第2弾となる「トレイルシーカー」が登場。前後のモーターから繰り出すシステム最高出力はドーンと380PS。ただし、それをひけらかすような設定にはしていないのがスバルらしいところだ。スノードライブの印象をお届けする。
-
NEW
アストンマーティン・ヴァンキッシュ ヴォランテ(FR/8AT)【試乗記】
2026.3.14試乗記英国の名門、アストンマーティンの旗艦車種「ヴァンキッシュ」に、待望の「ヴォランテ」が登場。5.2リッターV12エンジンを搭載した最上級コンバーチブルは、妥協のないパフォーマンスと爽快なオープンエアのドライブ体験を、完璧に両立した一台となっていた。 -
テスラ・モデルYプレミアム ロングレンジAWD(4WD)
2026.3.13JAIA輸入車試乗会2026電気自動車(BEV)「テスラ・モデルY」の最新モデルは、これまで以上に無駄を省いた潔いまでのシンプルさが特徴だ。JAIA輸入車試乗会に参加し、マイナーチェンジによってより軽くより上質に進化したアメリカンBEVの走りを確かめた。 -
ルノーから新型車「フィランテ」が登場 仏韓中の協業が生んだ新たな旗艦はどんなクルマ?
2026.3.13デイリーコラムルノーが韓国で新型クーペSUV「フィランテ」を世界初公開! 突如発表された新たな旗艦車種(?)は、どのようないきさつで誕生したのか? フランス、韓国、そして中国の協業が生んだニューモデルの概要と、そこに込められたルノーの狙いを解説する。 -
第865回:ブリヂストンが新タイヤブランド「フィネッサ」を発表 どんなクルマに最適なのか?
2026.3.13エディターから一言ブリヂストンが2026年1月に発表した「FINESSA(フィネッサ)」は、同社最新の商品設計基盤技術「ENLITEN(エンライトン)」を搭載する乗用車用の新タイヤブランドである。高いウエットグリップ性能と快適な車内空間の実現がうたわれるフィネッサの特徴や走行時の印象を報告する。 -
新型「リーフ」は日産の救世主になれるか BEVオーナーの見立ては?
2026.3.12デイリーコラム日産自動車は3代目となる電気自動車(BEV)「リーフ」の受注台数が、注文受け付け開始から約4カ月で6000台を超えたと明らかにした。その人気の秘密や特徴を、自らもBEVを所有するモータージャーナリスト生方 聡が解説する。 -
ホンダN-ONE e:L(前編)
2026.3.12あの多田哲哉の自動車放談軽自動車の世界において「N」シリーズで存在感をみせるホンダ。そのフル電動バージョンたる「N-ONE e:」の仕上がりやいかに? トヨタでさまざまなクルマを開発してきた多田哲哉さんがチェックした。






















































