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コロナ禍が売れるクルマを変えた? 自動車市場の2020年を販売データから振り返る

2021.01.25 デイリーコラム 大音 安弘

消費者の心と足を直撃した緊急事態宣言

いまだ終息が見えない新型コロナウイルスの感染症。1年前の今ごろにも中国・武漢での「謎の感染症」のニュースは大きく報じられていたが、正直なところ対岸の火事という感覚の人が多かったはずだ(かく言う私もその一人である)。しかし、春を前に日本でも感染が拡大し、2020年4月には政府が緊急事態宣言を発令。日常生活や経済活動などに大きな影を落とすことになった。

このようにコロナ禍に翻弄(ほんろう)された2020年は、自動車業界にとってどのような年となったのか? 今回は、日本自動車販売協会連合会、全国軽自動車協会連合会、日本自動車輸入協会が公表した国内市場の自動車販売台数データをもとに、この一年を振り返ってみた。

2020年の新車販売台数は、登録車(小型乗用車と普通乗用車の合算)、軽乗用車、輸入車のすべてが前年割れとなる厳しい結果となった。具体的には、登録車が前年比-12.2%の247万8832台、軽乗用車が同-10.0%の133万1149台、輸入車が同-14.7%の25万4404台にとどまった。

台数の推移を見ていくと、国産車・輸入車ともに3月から4月にかけて急降下。国産車ではその傾向が翌月まで続き、どん底を迎える。文字通りの雨月である。このグラフの動きからは、緊急事態宣言により人の移動が制限されたことの影響や、先行きの不安からクルマの買い控えが起きたことがうかがえる。逆に5月を過ぎると販売は回復基調に。8月は再び減少に転じたが、これは例年同様の動きであり、決算期である9月をピークに年末に向けて減少傾向となる点も同じである。いずれにせよ、新型コロナ感染症の“第1波”が販売に大きな打撃を与えたことは、一目瞭然だ。

2020年の新車販売台数でトップとなった「ホンダN-BOX」。4年連続の快挙だが、その数は前年比-22.7%の19万5984台と、大きく落ち込んだ。
2020年の新車販売台数でトップとなった「ホンダN-BOX」。4年連続の快挙だが、その数は前年比-22.7%の19万5984台と、大きく落ち込んだ。拡大
グラフ「2020年国産新車販売台数推移」
グラフ「2020年国産新車販売台数推移」拡大
グラフ「2020年輸入新車販売台数推移」
グラフ「2020年輸入新車販売台数推移」拡大

“低価格&現物取引”の中古車が人気に

中古車の販売についても、3月をピークにして5月まで一気に下降するなど、その動きは新車のそれに近い。しかし5月以降の販売台数の増減は少なく、常に一定の需要があったことが分かる。

面白いのが輸入中古車の販売で、国産車(登録車)のそれが前年比-0.1%の334万2505台だったのに対し、輸入車はなんと同+3.5%となる57万7969台を記録。2020年は輸入中古車がよく売れた年となったのだ。なお、本稿執筆時点では中古の軽乗用車の販売については2020年12月分のデータが公表されておらず、2020年11月までの実績となるが、その時点では前年比-4.9%となっている。

もう一歩踏み込んだ分析をすべく、2020年各月の国産中古車販売台数を、前年同月のそれと比較し、増減率をグラフにしてみた。すると興味深い結果が表れた。9月を除き、下半期は登録車の中古車販売台数が常に前年を上回っていたのだ。一方、軽乗用車の場合は登録車より変動が大きく、文字通り乱高下しているのが特徴だ。特に3月には、前年比+67.2%という大幅な需要増を記録している。

実は中古車については、4月の緊急事態宣言発令の前後から、“足グルマ”となる低価格車がバカ売れしているという情報があった。その後、流通台数の減少からオークションの相場も高騰。中古車販売店の店主や仕入れ担当者からは、「落札価格が高すぎて、とても手が出せない」という悲痛な声も聞かれたほどだ。加えて、新車は工場の稼働停止や部品供給の問題などから納期が拡大。それもあって“現物取引”となる中古車のニーズが高まったようだ。多くの人が、コロナ禍によって早急にクルマが必要となった、あるいは、クルマの必要性を実感したということだろう。

グラフ「2020年国産中古車販売推移」
グラフ「2020年国産中古車販売推移」拡大
グラフ「2020年輸入中古車販売台数推移」
グラフ「2020年輸入中古車販売台数推移」拡大
グラフ「2020年中古車販売台数の前年同月に対する比率の推移」
グラフ「2020年中古車販売台数の前年同月に対する比率の推移」拡大

コロナ禍以外にもいろいろあった2020年

このように、コロナ禍が「買い控え」と「即買い」の両方の消費者行動を喚起した2020年の自動車市場だが、そこでは実際のところ、どのようなクルマが人気だったのだろうか。

中古車は車種別の情報がないので割愛させていただくが、新車における2020年の注目車種といえば、やはり「トヨタ・ライズ/ダイハツ ロッキー」の兄弟だろう。販売台数はライズが12万6038台、ロッキーが3万1153台。2車種の合計は15万7191台で、登録車の年間販売台数1位となった「トヨタ・ヤリス」の15万1766台を上回っている。ヤリスの台数には、実質別モデルの「ヤリス クロス」や「GRヤリス」も含まれていることを考えると、よりその勢いが理解できるだろう。ちなみに、軽を含む乗用車全体での販売台数ナンバーワンは、4年連続でホンダの軽スーパートールワゴン「N-BOX」となったが、販売台数は前年比-22.7%の19万5984台に落ち着いている。

また、ライズ/ロッキーと並んで注目すべきは、コロナ禍にあって大きく販売を伸ばしたミニバンの王者「トヨタ・アルファード」だ。年始には5000台程度だった月間の販売台数は、9月~11月の3カ月は1万台を突破。最終的には前年を2万2043台も上回る9万0748台を販売し、高級車でありながら登録車で年間5位という結果を残した。

ただこれについては、コロナ禍による消費者嗜好(しこう)の変化や、大型・多人数乗車モデルの需要増などだけでなく、トヨタが全販売店で全車種の併売を開始した影響も大きいと思われる。というのも、好調を示したアルファードに対し、姉妹車である「ヴェルファイア」の売り上げは大きく減少。前年比-50.9%の1万8004台まで落ち込んでいるのだ。同じ店舗でアルファードとヴェルファイアが売られるようになった結果、前者が後者の需要をくってしまったのだ。

「ダイハツ・ロッキー」(左)と「トヨタ・ライズ」(右)。登録車の販売台数において、ハイブリッド車の設定がないモデルが上位に上ってくるのは、非常にまれである。
「ダイハツ・ロッキー」(左)と「トヨタ・ライズ」(右)。登録車の販売台数において、ハイブリッド車の設定がないモデルが上位に上ってくるのは、非常にまれである。拡大
軽乗用車の販売を見ると、1位が「ホンダN-BOX」(写真)、2位が「スズキ・スペーシア」、3位が「ダイハツ・タント」と、1~3位をスーパートールワゴンが独占。例年通り、ノッポな軽が試乗をけん引する結果となった。
軽乗用車の販売を見ると、1位が「ホンダN-BOX」(写真)、2位が「スズキ・スペーシア」、3位が「ダイハツ・タント」と、1~3位をスーパートールワゴンが独占。例年通り、ノッポな軽が試乗をけん引する結果となった。拡大
注目車種の一台である「トヨタ・アルファード」。突如として人気が盛り上がった理由としては、公共交通機関を敬遠するユーザーの一部が、大型・多人数乗車モデルを求めたためとの指摘がある。
注目車種の一台である「トヨタ・アルファード」。突如として人気が盛り上がった理由としては、公共交通機関を敬遠するユーザーの一部が、大型・多人数乗車モデルを求めたためとの指摘がある。拡大

SUV市場においてトヨタが見せた底力

同じように、かつての人気車種の中で大きくニーズを失ったのが「トヨタ・プリウス」で、前年比-46.4%の6万7297台にとどまった。理由としては市場の冷え込みや新しいライバルの台頭などが主だろうが、プリウスはフリートでも活躍するクルマである。その背景には、在宅ワークやオンライン会議といった働き方の変化、業績悪化の影響などによる社用車需要の減少があったのかもしれない。類似の例としては、モデル末期ながら健闘を続けてきた「トヨタ・アクア」も不調で、前年比-42.6%の5万9548台となった。

2020年の新車販売を俯瞰(ふかん)すると、消費者のニーズに変化があったのは間違いない。コンパクトカーはユーティリティー系の人気が高まり、ハッチバックは縮小。エコカーのニーズも減り、相対的に付加価値商品、特にSUVの人気が目立った感がある。先ほど触れたライズに加え「ハリアー」や「RAV4」なども前年比増を達成しているのだ。ただ、SUVのすべての車種が好調だったというわけではなく、そうしたモデルの多くが、実はトヨタ車である。各モデルに競争力が拮抗するライバルが存在しなかったことに加え、かねて「販売の~」と評されてきたトヨタが、伝統的なセールス力の強さを見せつけたと理解したほうがいいだろう。

前年比でほぼ半減と、大幅に販売台数がダウンした「トヨタ・プリウス」。トヨタのハイブリッド専用車としては、古参ながら健闘を続けてきた「アクア」も大幅ダウンとなっている。
前年比でほぼ半減と、大幅に販売台数がダウンした「トヨタ・プリウス」。トヨタのハイブリッド専用車としては、古参ながら健闘を続けてきた「アクア」も大幅ダウンとなっている。拡大
相対的にSUVが元気だった感のある2020年の新車販売だが、実際に前年比増を達成したのはトヨタ車がほとんど。あとはマツダの新型車「CX-30」や、スズキの「ジムニーシエラ」程度だった。
相対的にSUVが元気だった感のある2020年の新車販売だが、実際に前年比増を達成したのはトヨタ車がほとんど。あとはマツダの新型車「CX-30」や、スズキの「ジムニーシエラ」程度だった。拡大

輸入車の中には成長を果たしたブランドも

最後に、輸入者の新車販売を見ていきたい。1位はメルセデス・ベンツ、2位はフォルクスワーゲン、3位はBMWというトップ3の顔ぶれこそ前年同様だが、その実績を前年と比較すると、順に-14.3%、-21.8%、-23.7%といずれもマイナスとなった。

一方で、コロナ禍にあっても前年比増を達成したブランドも存在する。特にフェラーリは+24.7%となり、台数も1000台超えとなる1085台を記録。ポルシェも+1.3%の7284台を売り上げた。趣味性の高さが売りのジープも、+1.2%の1万0752台と成長を見せている。

フェラーリやポルシェの好調の裏には、富裕層の間における“消費の集中”がうかがえる。海外旅行やアウトドアスポーツ、パーティーなどの楽しみを失った彼らが、新車に資金を投じたということだ。同時に、断定的なことは言いづらいが、2020年は趣味性の高いクルマの中でもリセールのよいものに人気が集中したように見える。そうしたクルマ選びの背景には、コロナ禍により醸成された、漠然とした不安があるのかもしれない。

2020年に前年比+24.7%の販売増を記録したフェラーリ。「F8トリブート」や「F8スパイダー」「ローマ」(写真)といった新型車の投入も、功を奏しているのだろう。
2020年に前年比+24.7%の販売増を記録したフェラーリ。「F8トリブート」や「F8スパイダー」「ローマ」(写真)といった新型車の投入も、功を奏しているのだろう。拡大

下半期の巻き返しに見る希望

これらに加え、逆風の中でも成長を遂げたものとして興味深いのが、FCAと経営統合を図るグループPSA傘下のブランド、特にプジョーとシトロエンだ。台数こそ多くはないものの、プジョーが前年比+1.2%で1万0752台、シトロエンも同+22.3%の5031台と、ともに販売を拡大している。この背景には、新型MPV「シトロエン・ベルランゴ」「プジョー・リフター」の好調、そしてエントリーカーである「プジョー208」「シトロエンC3」の健闘がある。

いずれもまだニッチな存在ではあるが、それでもプジョーは2019年、2020年と2年連続で1万台を突破。かつての「206」ブーム以来の好調ぶりを見せている。コロナ禍により、都市部でもクルマの存在意義が見直されている今、上級コンパクトカーを取りそろえるPSAは注目を集める存在となるかもしれない。

さまざまな統計から2020年の市況を振り返った今回だったが、全体的に自動車販売が厳しい状況に置かれていたことは一目瞭然だった。ただ下半期の巻き返しには、上半期の反動というだけではなく、人々の自動車に対する見方の変化のようなものが感じられた。販売の回復は多くの人がクルマを必要な存在だと認識した結果と考えられ、自動車業界ではささやかながらも希望の光となったのではないだろうか。

恐らくは2021年も難しい年となるのだろうが、クルマの需要が消えることも、進化が止まることもない。先日ティザーサイトが公開された「ホンダ・ヴェゼル」を含め、今年も多くの新型車の登場が控えている。それらが、日本の主要産業である自動車を再び活気づかせることに期待したい。

(文=大音安弘/編集=堀田剛資)

日本でのグループPSAの人気を支える2台。左上は「シトロエン・ベルランゴ」。右下の「プジョー208」には電気自動車バージョンも用意される。
日本でのグループPSAの人気を支える2台。左上は「シトロエン・ベルランゴ」。右下の「プジョー208」には電気自動車バージョンも用意される。拡大
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