こんなバイクはもう出ない! あるうちに欲しいヤマハの絶版名車とは?
2021.01.29 デイリーコラム“寸止めの美学”が生んだ名機
パワー、コーナリング性能、上質さ、快適性、安全性……と、バイクに求められる要件は数限りない。それをクリアするため、常になにかをプラスしながら進化してきた。
ただし、なにごとにも適量もしくは限度というものがあって、あれもこれもそれもと手を尽くし、尽くされると飽和状態になる。ブームの始まりと終わりは、この繰り返しといってもいいが、行き過ぎることなく、寸止めの美学をよく知っているのがヤマハだ。
その象徴が、「SR」(1978年発売)であり、「セロー」(1985年発売)だ。いずれも空冷単気筒エンジンをコンパクトな車体に搭載し、SRは同クラスのモデルが最高出力40PSオーバーを競い合うなか、27PSのスペックで登場。セローはオフロードモデルが飛んだり跳ねたりと先鋭化するなか、2輪+2足で漕(こ)ぐように進む、極低速性能を重視して送り出された。
亜流ゆえに数の上では決して大ヒットではない。それどころか幾度もカタログ落ちの危機に直面しながらも継続。時代や人々の嗜好(しこう)が変化しても、ブレることなく在り続けた稀有(けう)なモデルだ。
SRはフロントホイール径が変わったり、499cc版が消滅して399ccのみになったり、キャブレターがインジェクション化されるといった変化こそあれ、スタイルは43年間ほぼ不変だ。セローも223ccから249ccへ排気量が上がり、その時に外観が刷新された以外は35年にわたってキープコンセプトを貫いた。
ついに万事休す
ヤマハのバイクデザインを一手に引き受けていたGKデザイン(現GKダイナミックス)の栄久庵憲司代表(当時)には、「インダストリアルデザインは大量生産と大量消費をうながすためのものではない。そのカタチに必然性があるかどうか、手元に置く価値があるかどうかの審判を世の中に託すものである。長く愛されるにこしたことはないが、かといってそこで消費が止まればメーカーは存続できない。そのバランスをとるプランナーがインダストリアルデザイナーである」という信念があった。その思いが色濃く反映された作品がSRとセローであり、ロングセラーが多いヤマハの中でも異例の長寿モデルになった。
しかしながら、先ごろ話題になった通り、ヤマハはSRの「ファイナルエディション」と「ファイナルエディション リミテッド」を発表。2021年3月15日に販売を開始し、これにてその歴史を終える。一方のセローはひと足早く、2020年1月に「ファイナルエディション」を発売している。こちらはすべて工場から出荷され、現在流通しているのはショップ在庫のみだ。
この両モデルに限らず、多くの小中排気量モデルが続々と生産終了を余儀なくされているのはなぜか。主な要因は3つあり、「令和2年排ガス規制」、「ABSの装着義務化」、「車載式故障診断装置の義務化」だ。これらが適用されると、既存のエンジンと車体ではクリアすることが難しく、人的にもリソース的にも現実的ではないコスト高を招くことになる。
美しい幕引きのあとで……
同様の危機は過去に幾度かあった。それでも以前は、許容できる範囲の価格上昇で改良を施せたものの、今度ばかりはヤマハも無理だと判断。ラインナップから外す道を選ぶことになった。過去の事例があるため、「どうせまた復活するだろう」と楽観視する人も少なくない。とはいえ、もしも数年後に同じ名前のモデルが登場したとしても、血筋は完全に分断されるはずだ。
むしろ今回の幕引きは、長年続いた連載漫画が無理な延命なく、最終回を迎えられたさまに似ている。美しく爽やかなエンディングだと思う。多数のファンに惜しまれ、ファイナルと銘打ったモデルが出せることなど、そうはない。
数年後どころか、半年後に「あの時、手に入れておけばよかった」と後悔してもおそらく遅い。既述の通り、セローはすでにショップ在庫のみで、1000台限定のSRファイナルエディション リミテッドは、発表された直後に予約が殺到。すでに相当数のキャンセル待ち状態だという。ファイナルエディションのほうは限定ではないものの、生産ラインに物理的な限界があるため、こちらも争奪戦になりそうだ。
また、セローと同時期に生産終了を迎えた兄弟モデル「トリッカー」もまだわずかな台数が在庫として残っている。セローよりさらに軽量コンパクトな車体は手足にように扱え、遊びの幅を広げてくれたことの意義は大きい。今後、このような成り立ちのモデルが登場することはないのでは、と想像する。
SR、セロー、そしてトリッカー。これらは、バイクが持つ“素”の味わいを楽しめる希少なモデルだ。すべてが必要最小限で一切の無駄がないすがすがしさ。それは10年たっても20年たっても色あせないものである。新車を望むなら、早々の決断を。
(文=伊丹孝裕/写真=ヤマハ発動機/編集=関 顕也)

伊丹 孝裕
モーターサイクルジャーナリスト。二輪専門誌の編集長を務めた後、フリーランスとして独立。マン島TTレースや鈴鹿8時間耐久レース、パイクスピークヒルクライムなど、世界各地の名だたるレースやモータスポーツに参戦。その経験を生かしたバイクの批評を得意とする。
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