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100年に一度の変革は100年に一度のチャンス! CASEで伸びる“ものづくり”の技術

2021.02.08 デイリーコラム 鶴原 吉郎

自動車が変われば必要となる技術も変わる

世界がコロナ禍に見舞われた2020年は、自動車のCASE(Connected、Autonomous、Share & Service、Electric)が一気に加速した年でもあった。

特に電動化の分野が顕著で、米テスラの株価は年初の10倍以上に高騰し、時価総額はトヨタ自動車の3.44倍に達した(2021年1月末現在)。欧州では新車販売に占める電気自動車(EV)の比率が、2019年の1.9%から2020年第3四半期には9.9%と一気に5倍になった。急激に進む自動車の電動化は、エンジンや変速機、あるいはその部品などを製造してきたサプライヤーにも大きな影響を与える可能性がある。

ただ、エンジンが向こう数年でなくなるわけではない。英国の調査会社であるBNEF(Bloomberg New Energy Finance)の予測では、2040年の時点でも世界の乗用車販売に占めるEVの比率は50%弱。残りの車種はプラグインハイブリッド車(PHEV)やハイブリッド車(HEV)などで、何らかの形でエンジンは残るとされている。産業構造の転換に対応する時間は、まだ残されている。

では、その間に伸びが予想される技術とは、どういった分野のものなのか? 今回は、CASEの時代に求められる“ものづくり”について考えてみたい。

BNEFが予測する、2040年までの乗用車におけるエンジン車、燃料電池車、プラグインハイブリッド車、電気自動車の比率。(資料:BNEF)
BNEFが予測する、2040年までの乗用車におけるエンジン車、燃料電池車、プラグインハイブリッド車、電気自動車の比率。(資料:BNEF)拡大

熱の管理が電動車の性能を左右する

まず、自動車の電動化でニーズが高まっている技術のひとつが“熱マネジメント”だ。夏や冬にエアコンで消費される電力は、EVにとってばかにならない。低速で走っているときには消費電力の半分に達することもあるという。もしエアコンでの消費電力を節約できれば、EVの航続距離はそのぶん伸びる。このために、車両の“断熱”が注目されているのだ。

車室内から熱がどのように室外に逃げているかは、すでにある程度知られており、今後はドアユニットの断熱要求が高まると考えられている。そこで課題となるのが、外板、空気層、内装トリムという多層構造での計測評価技術の実現で、ひろしま産業振興機構と広島の地場の部品メーカーであるヒロテックは、ドアユニットの外板やトリムといった部品ごとの機能を評価する方法を開発。熱が逃げにくいドアの開発に取り組んでいる。

もうひとつ、熱マネジメントが重要となるのが電動パワートレイン、特にモーターを駆動するためのインバーターや、充電時に熱を発生するバッテリーだ。例えば「テスラ・モデル3」は、剣山のように複雑な形状のヒートシンク(放熱器)を採用し、日本車に比べて格段に小型のインバーターユニットを実現している。恐らくテスラは、このヒートシンクを切削加工でつくっていると思われるが、日本の完成車メーカーでは生産性が低すぎるとしてまず採用されない製法だ。複雑な形状を、プレス成形など生産性の高い方法でつくれるようになれば、コストの低減とシステムの小型化を両立できる。

また、テスラのバッテリーは小型円筒形のセルを大量に並べた構造となっており、セルの間に冷却水を流すことで充電時の熱を逃がし、急速に充電してもバッテリーの寿命を保つようにしている。一方、日本製のEVは空間あたりのエネルギー密度を重視して平面形状や角型形状のバッテリーを搭載しているが、効率の高い冷却方法が課題になっている。このあたりにも、部品メーカーが新しい技術を発揮できる余地があるだろう。

ひろしま産業振興機構とヒロテックが開発した、ドアユニットの断熱性能を評価する計測装置。(写真:ひろしま産業振興機構)
ひろしま産業振興機構とヒロテックが開発した、ドアユニットの断熱性能を評価する計測装置。(写真:ひろしま産業振興機構)拡大
「テスラ・モデル3」のインバーターのヒートシンク。放熱性を高めるべく、剣山のような形状をしている。(写真:筆者撮影)
「テスラ・モデル3」のインバーターのヒートシンク。放熱性を高めるべく、剣山のような形状をしている。(写真:筆者撮影)拡大

CASE時代における少量多品種生産の重要性

これらの“熱マネジメント”や、それに伴う測定、工作技術などは、今現在すでにニーズが高まっているところだが、よりCASEが浸透した時代に伸びると予想される分野もある。

例えば、将来ロボットタクシーのような利便性の高い移動サービスが実現すれば、自家用車はこれまで以上に「所有することの意味」が問われるようになる。そこで重要性が増すと思われるのが、より“自分仕様”なクルマを実現できる、カスタマイズ技術だ。

近年では日産自動車がプレス金型を使わずにボディーパネルを成形できる「対向式ダイレス成形」を開発した。金型の代わりに、向かい合う2台のロボットが棒状の工具をパネルに押し付け合いながら徐々に変形させる手法だ。生産性は通常のプレス成形より低いが、高コストな金型や大がかりなプレス機が不要で、少量多品種なボディー部品の製造に適している。オリジナルなデザインのクルマを実現できるとあれば、自家用車だけでなく“自社仕様”のクルマが欲しい移動サービス企業などからもニーズがありそうだ。

実際、現代自動車傘下の起亜自動車は、移動サービス業者などの顧客の注文に応じて、デザインや積載量をカスタマイズしたEVを受注生産する新事業を始めると発表した。今後、こうした多品種少量生産の技術は、完成車メーカーはもちろん部品メーカーにおいても、多様なニーズにこたえるうえで重要になることだろう。

CASEというのは、単にクルマが電動化されたり、運転が自動になったりすることではない。自動車の産業構造が根底から変わっていくプロセスだ。そのなかでは失われる部品や技術もあるが、新たに生じるビジネスチャンスも無数にある。ソフトウエアやエレクトロニクス関連の技術はもちろん、ここに紹介したように、日本の強みである“ものづくり”の技術を生かせる余地もあるのだ。日本の完成車メーカー、部品メーカーの新たな発想に期待したい。

(文=鶴原吉郎<オートインサイト>/編集=堀田剛資)

日産自動車が開発した「対向式ダイレス成形」。プレス機や金型なしにボディーパネルを成形できる。(写真:日産自動車)
日産自動車が開発した「対向式ダイレス成形」。プレス機や金型なしにボディーパネルを成形できる。(写真:日産自動車)拡大
棒状の工具を取り付けられたロボットが、パネルを徐々に変形させて成形する「インクリメンタル成形」技術を応用。ロボットを対向側にも配置して、より複雑な形状の成形を可能にしている。(写真:日産自動車)
棒状の工具を取り付けられたロボットが、パネルを徐々に変形させて成形する「インクリメンタル成形」技術を応用。ロボットを対向側にも配置して、より複雑な形状の成形を可能にしている。(写真:日産自動車)拡大
鶴原 吉郎

鶴原 吉郎

オートインサイト代表/技術ジャーナリスト・編集者。自動車メーカーへの就職を目指して某私立大学工学部機械学科に入学したものの、尊敬する担当教授の「自動車メーカーなんかやめとけ」の一言であっさり方向を転換し、技術系出版社に入社。30年近く技術専門誌の記者として経験を積んで独立。現在はフリーの技術ジャーナリストとして活動している。クルマのミライに思いをはせつつも、好きなのは「フィアット126」「フィアット・パンダ(初代)」「メッサーシュミットKR200」「BMWイセッタ」「スバル360」「マツダR360クーペ」など、もっぱら古い小さなクルマ。

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