息苦しい時代の福音となるか!? 新型「ホンダ・ヴェゼル」はどんな思いでつくられた?
2021.02.19 デイリーコラム“傾向”がないクルマ
2013年末に販売を開始した初代「ヴェゼル」は日本でこの7年余の間に約45万台、世界に目を向けても約120の国と地域で展開され、中国市場の兄弟車「XR-V」等も含めると累計約380万台の販売数をマークしている。これは「CR-V」に次ぐ規模となり、すなわちホンダの屋台骨を支える存在に成長したというわけだ。
「つかみづらいというか偏りがないというか、どの仕向け地も満遍なく売れているし、年齢も幅広ければ性別も関係ない。ヴェゼルって、傾向がないクルマなんですよね」
初代の販売動向について尋ねてみたところ、こう答えてくれたのはフルモデルチェンジが発表された新型ヴェゼルの開発責任者である岡部宏二郎さん。ちなみに岡部さんは初代の開発も担当し、ご自身もそれを所有していたというから、ここ幾年かは公私ともにどっぷりヴェゼル浸りの日々を過ごされてきたのだろう。
初代を知り尽くした御仁が手がける、初代の成功を踏まえたフルモデルチェンジ。そう考えると、見た目の印象ながら、新型の攻めっぷりはなかなかのものだ。なるほど、2020年秋に北京モーターショーで発表されたコンセプトカー「SUV e:concept」のデザインは、この伏線だったのかとも気づかされる。
数値よりも感覚を重視
ボディー同色のグリルは、グリルレス的な顔立ちの「フィット」とのイメージの連続性という狙いもあれば、電動化時代を見据えてその存在感を徐々に弱めたいという思惑もあるのだろう。違和感のある人向けにはホンダアクセスがドレスアップパーツとして用意するブラックグリルを装着するという術(すべ)もあるが、個人的には新しさがうまく表現できていると思った。
「デザインはシンプルでクリーンなことを意識しました。前席はもちろん後席にも、乗る人すべてにきちんとドライブの爽快さや開放感を味わってもらいたいという思いがあって、パッケージ担当者も交えながらプロポーションやキャビンの形状をしっかり検討しています」
背高を売りにするSUVは車体側面が平板で分厚く見える傾向があり、視覚的にそれを抑えるべくフェンダーアーチやサイドシルを大きくブラックアウトしたり、アクティブに見せようとグリーンハウスを大胆にキックアップさせたりというグラフィカルな技が盛り込まれがちだ。
が、新型ヴェゼルはあっさりと水平基調でストレートにシルエットが構成されている。Aピラーはやや後方に引いているものの、キャビンや荷室の広さといった美点はしっかり受け継がれており窮屈さは感じない。後席に座ると水平な窓枠が側方から前方への景色をすっきりと見せてくれるだけでなく、グラスルーフを持つグレードならば見上げずとも上方の景色が自然と視界に入ってきて気持ちがいい。
「新しいヴェゼルは、数値的な優劣というよりも、実際の居心地や使い勝手をいいものにするというところにこだわってます。これは前型を所有した経験が生きましたね」
とおっしゃる岡部さんに、初代のチャームポイントとウイークポイントを尋ねてみる。
「初代はSUVにしてクーペのようなパーソナル感とミニバンのようなユーティリティーを実現するというコンセプトを持っていましたが、これはユーザーの皆さんにおおむね受け入れられたのではと思っています。一方でDCTのドライバビリティーや乗り心地の粗さなどを指摘されることもあり、熟成とともに手を加えてきました。新型では初代の美点はそのままに、動的面ではパワートレインの非力感の払拭(ふっしょく)や音・振動面などの進化に注目いただければと思いますね」
価値ある「万人向け」
新型ヴェゼルのスペック的なところは2021年4月の国内販売開始までのお楽しみということで一切発表されていないが、ホンダの商品戦略スケジュールから推するに、フィットと同じくアーキテクチャーは熟成、パワートレインは刷新という流れになるのではないかと予想する。
つまり、サイズ的には現行型にほど近い、BセグメントとCセグメントの間くらいの位置づけとなり、そこにe:HEVのシームレスな走りが加わるということだ。ちなみに岡部さん的には、4WD車もしっかり売っていきたいということで力を入れて開発したという。現行フィットとともに登場したハイブリッド用メカニカル4WDがいよいよ本気のパフォーマンスを発揮する場が整えられたということだろうか。
開発コンセプトを聞いていて興味深かったのは「“ジェネレーションC”を意識した」という点。XYZは知っているけどCは聞き慣れないなぁと思って調べてみると、コネクテッドやコミュニティー、キュレーションやクリエイティブといったキーワードの頭文字を指すらしい。マーケティングの世界では10年前くらいから使われているキーワードのようだ。言ってみればスマホ&SNSをガンガン駆使する現代的な若い世代を指すのだろう。
「もちろん若い世代に限らずで、年齢や性別のくくりがないという初代の美点はそのまま継承したいんです。この言葉の意味するところは、ヒエラルキーやマジョリティーみたいなところを意識せず、自分の価値観に基づいて自分らしく行動できるという意味だと捉えてもらえればと思います」
ヴェゼル的なジェネレーションC、それはアーリーアダプターであっても排他的にならず、社会への親和性や対人の柔軟性も兼ね備えた生活観を持つ人々を意味するのだろう。何かと息苦しい世の中ゆえ、なおのこと、そうありたいと思う方は少なくないのではないだろうか。
(文=渡辺敏史/写真=本田技研工業、webCG/編集=関 顕也)
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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