ホンダ・ヴェゼル 開発者インタビュー
フワフワがバシッと決まる 2025.11.24 試乗記 「ホンダ・ヴェゼル」に「URBAN SPORT VEZEL(アーバン スポーツ ヴェゼル)」をグランドコンセプトとするスポーティーな新グレード「RS」が追加設定された。これまでのモデルとの違いはどこにあるのか。開発担当者に、RSならではのこだわりや改良のポイントを聞いた。本田技研工業
四輪開発本部 完成車開発統括部 ヴェゼル開発責任者
磯貝尚弘(いそがい なおひろ)さん
ホンダテクノフォート
車両開発1室 シャシ開発ブロック プリンシパルエンジニア
澤井美紀(さわい みき)さん
本田技研工業
四輪開発本部 PU・エネルギーシステム開発統括部
PU・エネルギー性能開発部 PU性能開発課
渡辺 修(わたなべ おさむ)さん
狙いは“優越感”と“高揚感”
ホンダの白ナンバーの登録車としては「フリード」とならんで、国内販売の2本柱というべき存在なのがヴェゼルである。
通算2代目となる現行ヴェゼルは、2021年4月に国内で発売。そこからちょうど3年が経過した2024年4月にマイナーチェンジが実施された。そして今回、ハイブリッド搭載のスポーツモデル「e:HEV RS(以下、RS)」を追加した。ヴェゼルRSのメディア向け試乗会場で、現在ヴェゼルの開発責任者をつとめる磯貝尚弘さんは次のように切り出した。
「直近でいうと、日本で販売される新車の4台に1台がSUVという状況です。そのなかでヴェゼルは、競合車と比較しても、それこそ20代の若年層から60代以上の年配層まで、幅広いお客さまに比較的かたよりなく乗っていただいているのが特徴です。乗っておられるお客さまにアンケートを採ると、スタイリング、燃費の良さ、そして室内の広さなどを高く評価いただいています。
昨年にマイナーチェンジを実施して、ヴェゼルそのものの完成度も上がっているなかで、『より特別なクルマに乗っている優越感』や『運転する高揚感のあるスポーティーなクルマ』を求めるお客さまのために、あらためてスポーティーなグレード=RSを提供させていただくことにしました。企画としては30代前半~40代と、比較的若いお客さまをターゲットとしていますが、実際には年配層も含めて幅広く乗っていただけると思っています」
先日の試乗リポート(参照)にも書かせていただいたが、先代にもあったヴェゼルRSをはじめ、「シビックRS」や「フィットRS」など、ホンダのRSは、今回のようにモデルライフ後半の販売テコ入れ用に追加されるケースが多い。現在あるRSで唯一の例外は、2020年の「N-ONE」そのもののフルモデルチェンジ時から用意された「N-ONE RS」だけだ。
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“立駐”対応はあくまで副産物
「新しいヴェゼルRSのデザインコンセプトは『モアプレミアム、モアスポーティー』で、エクステリアではロー&ワイドに見えることを意識しています。車体と同色だったグリルも変更して全体にスポーティーに仕立てています。インテリアも同じコンセプトのもとで、黒を基調に赤いアクセントを入れています。ルーフライニングも黒くすることで、真っ黒い中に赤が鮮やかに映えるようにしたのがこだわりです」と磯貝さん。
磯貝さんは、この10月24日に発売されたばかりの新型ヴェゼルRSの初期受注状況もいち早く明かしてくれた。
「ヴェゼルRSの年間販売計画台数は1万台、月平均にすると約800台です。発売から約10日が経過した11月3日の段階でヴェゼルRSの受注台数は月販計画の3倍を超える2600台以上と、おかげさまで好調に推移しています」
ちなみに、2024年度(2024年4月~2025年3月)のヴェゼルの国内登録台数は7万1120台だから、月販平均は約6000台。RSの投入でヴェゼル全体のさらなる販売拡大につなげる考えだ。
従来のヴェゼルに対して最低地上高で15mmローダウンさせたRSは、さらにシャークフィンアンテナを排することで全高を1545mmとして、昔ながらの立体駐車場に対応したこともニュースだ。走りうんぬん以前に、それを理由にヴェゼルRSを選ぶ人もいるだろう。
磯貝さんは「それもRSの特徴のひとつではありますが、立体駐車場に入るようにすることがもともとの目的ではなく、ダイナミクスのために車高をローダウンした結果、『これなら、シャークフィンアンテナをやめたら立体駐車場に入るんじゃない!?』という気づきがあったからなんです」と明かした。
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キモは滋味深いシャシー
ヴェゼルRSの車高について、より詳しく説明してくれたのは、今回のシャシー設計を担当した澤井美紀さんである。
「車高を下げて、減衰力を高めることでRSのイメージどおりの乗り味を目指しました。コイル(スプリング)やスタビライザーのレートは変えていません。サスペンションのストローク量が減ると乗り心地も悪化しますので、フロントのバンプストップラバーをその分カット。さらに発泡率も変更して乗り心地を確保しました。
RSだからもっとハンドリングに振るべきという意見もあったのですが、ヴェゼルは家族で使われるケースも少なくないので、リアの乗り心地も犠牲にしたくなかったんです。ただ、車高を下げて減衰を上げた付加価値として、乗り心地を大きく悪化させずにロールも抑えられています」
こうしたサスペンション設定に合わせて、今回はパワーステアリングの制御も変えた。
「今までにあった『Z』や『Z PLaYパッケージ』と比較して、ステアリングの切りはじめでは、より軽い操舵力でリニアに、それ以降はZやZ PLaYと共通となる設定になっています。減衰を高めたことで車両の挙動が抑えられているので、ワインディングロードでステアリングを切ったときにも、これまでフワフワしていたところがバシッと決まると思います」
また、18インチタイヤはサイズ・銘柄とも既存モデルと共通。ただ、これまではFWDが「ブリヂストン・アレンザH/L33」、4WDは「ミシュラン・プライマシー4」と、銘柄を使い分けていたが、RSは駆動方式を問わずミシュランを履かせているのだそうだ。
「どちらのタイヤも基本性能に大きな差はないのですが、接地性や軽快感ではミシュランに少しだけ分があるということで、RSではミシュランに統一しました」と澤井さん。こうしたなんとも滋味深いシャシーチューニングが、ヴェゼルRSの最大のキモである。
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どっしりとした低重心感の演出もポイント
続いて、新しいヴェゼルRSについて証言してくれたのは、ヴェゼルのパワーユニット開発を担当している渡辺 修さんだ。
「RSといっても、パワートレインは従来のキャリーオーバーです。一般グレードに対して動力性能は上げず、かわりに車体関係で手を施せるところを見つけてスポーツ性を引き上げる……というのが、RSの基本的な考えかたです」
それでも、シビックRSやフィットRSではドライブモードセレクターやシフトパドル(はフィットRSのみ)が専用に追加されたりしているが、ヴェゼルのハイブリッド車=e:HEVの場合、それはすでに標準装備されている。
「e:HEVではパドルを減速セレクターと呼んでいて、どのドライブモードでも好みの減速度を選ぶことは可能です。
ドライブモードセレクターで『SPORT』モードを選ぶと、アクセルの踏み込み量が小さくても、より大きな駆動力を取りにいく制御になります。また、4WDはドライ路面でもアクセルの踏み込み具合に合わせてトルク配分するようになっています。
車高を下げたヴェゼルRSは旋回時でも安定して、これまでアクセルを踏みづらかったシーンでも、RSなら自然とアクセルが踏めるようになりました。先ほども申し上げたとおり、パワートレインに変更はありませんが、ヴェゼルRSではパワートレインのもてる力をより引き出せるようになっていると思います」
そう語る渡辺さんは「ここは私の担当領域ではないのですが……」と断りを入れつつ、最後にこう付け加えた。
「RSはほかのヴェゼルより全長でいうと45mm大きくなっているのですが、その拡大分はフロントオーバーハングで5mm、リアで40mmという配分になっています。これまでは車高が高く、前傾姿勢に見える尻上がりなデザインとしていたヴェゼルですが、RSでは前後バンパーを変えることで、より水平にどっしりと低重心感を出しています。そうしたこだわりも、ぜひ見てください」
(文=佐野弘宗/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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