いよいよF1参戦最後の年 ホンダが新骨格パワーユニットに込めた思いとは?
2021.03.19 デイリーコラムファイナルイヤーに“まったく新しい”パワーユニット投入!?
2021年のF1開幕戦を翌週末に控えた3月16日、ホンダは報道関係者向けのシーズンプレビューをオンラインで実施した。今季限りでパワーユニットサプライヤーとしての戦いを終えることが決まっている同社だが、見どころの多いファイナルイヤーとなりそうだ。
最も注目すべきは、厚みを増したドライバーラインナップだ。今年もレッドブルとアルファタウリの2チーム体制は変わらないが、アルファタウリには7年ぶりの日本人F1ドライバーとなる角田裕毅が加入し、昨年のイタリアGPで衝撃的な初優勝を飾ったピエール・ガスリーとペアを組むことになった。
さらにトップチームのレッドブルには、昨季サキールGPでの初Vも記憶に新しい安定感抜群のベテラン、セルジオ・ペレスが入り、2020年に2勝を挙げたマックス・フェルスタッペンとタッグを組む。優勝経験者3人と新進気鋭の日本人ルーキーという、期待高まる布陣である。
そんなドライバーたちを後押しするのが、ホンダの1.6リッターV6ターボハイブリッド。シーズンプレビューに登壇した、本田技術研究所の浅木泰昭 HRD Sakuraセンター長兼F1プロジェクトLPLは、「パワーユニットは新骨格。まったく新しいエンジンと考えてもらっていい」と言い切った。
その変更は内燃機関たるV6エンジンを中心に行われた。カムシャフトの位置を下げ低重心化し、その上のスペース効率も向上。さらにバルブの挟み角を変えるなどして燃焼室も改良した。またシリンダーの間隔も詰めてコンパクト化されてもいる。最大の狙いは、既に頭打ちの状態だったパワーの向上。もちろん小型化することで車体開発上のメリットも生まれた。
大がかりなバージョンアップのようだが、当然、これだけ新しいことにチャレンジすればトラブルなどもリスクも心配である。F1参戦最後の年に、これだけの冒険に出た背景には、何があったのか?
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社長に「このままでは終われない」と直訴
そもそもこの新骨格パワーユニットの開発は、コロナの影響を受けて一時凍結されていた。しかし2020年10月、ホンダが2021年でF1活動を終了するとの決断が下されたことで、その計画が再び、そして急きょ、俎上(そじょう)に載せられることになった。
浅木氏は、本田技研工業の八郷隆弘社長に「このまま新骨格のエンジンを出さずには終われない」と訴え、またシャシーを開発するレッドブルにも、スケジュール上かなり遅いタイミングで相談を持ちかけたことを明かした。挑戦なしにF1を去ることはできないというホンダの技術者としてのプライドと、ともに王者メルセデスを打倒しようというレース屋レッドブルの意地がひとつになって、短期間のうちにシャシー、パワーユニット双方の開発が進められた。
果たして両者の思いの結晶である2021年型マシン&パワーユニットは、3月12日から3日間、バーレーンで行われたシーズン前の合同テストで、大きなトラブルもなく、申し分のないパフォーマンスを披露してくれた。フェルスタッペンは合計202周を走破、最終日には全体の最速タイムをたたき出した。またガスリーは参加ドライバー中最長の237周も周回。角田も安定したラップを刻んで、3日目にはフェルスタッペンに次ぐ2番手タイムを記録したほどだった。
一方、今季前人未到の8連覇に挑むメルセデス勢は、ルイス・ハミルトンとバルテリ・ボッタスいずれもスピンやトラブルに見舞われ、盤石とは言い難い内容。シーズン前のテストを制したのはレッドブル&アルファタウリのホンダ勢だったと言っても過言ではない結果だった。
とはいえ、テストはあくまでテスト。浅木氏も「非常にいいテストだった。計画したことをこなすことができたし、車体側にも迷惑をかけずに終わった」と評価しつつ、「ライバルと比べた競争力は、開幕戦の予選Q3が終わるまで本当のところは分からない」とシーズンの戦況については慎重な見方を示した。
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“ホンダのDNA”はレッドブルに引き継がれる
コロナ禍により各チームの財政状況が悪化したのを受け、今季のテクニカルレギュレーションはほぼ2020年のキャリーオーバーとなった。だが、ピレリが供給するタイヤも従来型のままとなったことで、安全性を確保するためにダウンフォースを削る対策が採られた。
リアフロアが削られるなど空力付加物が簡素化され、いわゆるハイレーキ(マシンが後ろ上がり)のレッドブルなどはその影響が大きいのではと懸念されていたが、テストで見る限り、走りには安定感があり、リアの挙動に苦慮していた1年前とは対照的だった。
頂上決戦へのお膳立てがそろったかにみえる2021年のホンダF1。残るもう1つの課題は、ホンダ撤退後にレッドブルがどのパワーユニットを使うかだったが、来季から2024年までパワーユニットの開発を凍結することが満場一致で決定したため、レッドブルがホンダから知的財産権を譲り受け、チーム自前のパワーユニットで参戦を続ける方向で調整が進められるようになった。
2022年からしばらくは、新設される「レッドブル・パワートレインズ」に“ホンダのDNA”が引き継がれることになるが、マシンの「HONDA」のロゴが、今年で見納めとなることに変わりはない。
7年目のホンダF1第4期もいよいよ大詰め。浅木氏は「最後の力を振り絞って戦いたい。ご声援、ご支援をお願いします」との言葉で締めくくった。新骨格パワーユニットですべてを出し切り、有終の美を飾らんとするホンダ技術者の思いが、コース上でどのような花を咲かせるのか。史上最多の23戦が予定される長いシーズンは、3月26日、バーレーンGPのフリー走行から始まる。
(文=柄谷悠人/写真=Getty Images / Red Bull Content Pool)

柄谷 悠人
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