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商用車デザインのグローバルな最前線! 三菱ふそうデザインセンター訪問記

2021.05.10 デイリーコラム 佐野 弘宗
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商用車メーカーにみるブランド強化の狙い

去る2021年4月14日、三菱ふそうトラック・バスが「デザイン・エッセンシャルズ」と題したメディアイベントを開催して、本来は企業秘密の最前線である同社デザインセンターを報道陣に公開した。

知ってのとおり、三菱ふそうはもともと「三菱自動車工業」の大型トラック・バス部門だった。三菱自動車は2000年に当時のダイムラークライスラー(以下、DC)と資本提携して、そのDC傘下時代の2003年に大型車事業を分社化した。その後、2005年にDCは三菱自動車との資本提携を解消するも、分社化していた大型車事業(=三菱ふそうトラック・バス)だけはそのまま傘下にとどめたのだった。現在の三菱ふそうは、株式の1割強を三菱グループが保有するものの、残りの約9割は独ダイムラーが握っており、正確には(間もなくグループから完全分離される)ダイムラートラックAGの子会社である。そのダイムラートラックは現在、日本の三菱ふそう以外にも、北米トップの大型トラックブランド「フレイトライナー」やインドの「バーラトベンツ」も傘下に置いており、欧米アジアを広くカバーする世界屈指の大型車グループである。

三菱ふそうがこのようなイベントをあえて開催した背景には、“ブランド価値のアピール”がある。もっとも、トラックやバスは個人が気まぐれや好みで選ぶ乗用車とはちがって、大半が法人需要だ。不特定多数にアピールしたところで、商品宣伝に直接的な効果はないと思われるが……。

最大のカギとなるのは“人集め”だ。優秀な人材を確保するためには、若い人たちに会社=ブランドそのものを認知してもらう必要がある。個人向け商品をもたない“BtoB”の企業が、なぜかテレビでCMを打つのも同じ理由だ。また、三菱ふそう関係者は「最近は運送業者さんの求人広告でも、どこのトラックを使っているかをアピールするケースが増えている」と語る。昨今は日本でも「メルセデス・ベンツ」や「スカニア」「ボルボ」など、安全性の高いイメージの欧州トラックを導入するケースがあるが、それもドライバーの確保のためという理由が大きいらしい。これが「三菱ふそうなら、運転手さんも集めやすい」となれば、競合に勝つ大きな理由となるわけだ。

当日はモデラーによるクレイモデルの製作デモも行われた。国際色豊かな三菱ふそうでも、モデラーだけは現在もすべてベテランの日本人だそうだ。
当日はモデラーによるクレイモデルの製作デモも行われた。国際色豊かな三菱ふそうでも、モデラーだけは現在もすべてベテランの日本人だそうだ。拡大
展示されていた次世代大型トラックのスケッチ。
展示されていた次世代大型トラックのスケッチ。拡大
とあるデザイナーのデスクには、1970年代に販売されていた3代目T200型「キャンター」の模型が置かれていた。もちろん非売品だが、かなり欲しい(笑)。
とあるデザイナーのデスクには、1970年代に販売されていた3代目T200型「キャンター」の模型が置かれていた。もちろん非売品だが、かなり欲しい(笑)。拡大

コンセプトモデルにみる商用車デザインの本気度

そうしたブランド力の強化への取り組みは、実際の商品でもすでにスタートしている。三菱ふそうは最大の量販車種である小型トラック「キャンター」を昨2020年にフルモデルチェンジしたが、そのデザインの最大のポイントは「ふそうブラックベルト」である。

ブラックベルトとはヘッドライトの上に敷かれた黒いラインのことで、「FUSO」ロゴのベースにもなっている。このモチーフは2018年の「ローザ」から採用されているが、左右に貫通する黒いグリルは、それこそ1960年代の初代キャンターから三菱ふそうの特徴的なデザインだった。現在のブラックベルトは本来のグリルとは独立し、最も目立つところに柔らかいラインであしらわれている。

「トラックの場合は、買っていただいた企業さまのカラーにペイントされることも多く、場合によっては、ブラックベルトやロゴが塗りつぶされたり、外されたりしてしまうこともあります。ですので、今のブラックベルトは、全体をどんなカラーにしたとしても“これだけは残したほうがデザイン的にかっこいい”と思っていただけることを意識しています」と三菱ふそうのデザイナーは説明してくれた。

今回のイベントでは、三菱ふそうが考える未来を表現したアドバンスデザインも紹介された。たとえば「未来型緊急車両」は水素で走行する四輪駆動トラックで、災害地などに到着すると、搭載された無人ドローンが飛び立ち、現地確認や物資輸送を担うコンセプトだという。

興味深いのは、そのドローンをきちんと飛行可能なデザインとするために、ドローンそのもののプロトタイプも開発し、実際の飛行テストまで実施していることである。「三菱ふそうがドローン事業に参入しようと考えているわけではありません」と担当デザイナー氏は笑う。そこには、レスキュー用の新しい緊急車両を実際にデザイン・開発するには、単にクルマを提供するだけではなく、災害用緊急レスキューシステムそのものを提案しなければ実現しない……という思いがあるようだ。また、こうした面白いことに率先して取り組むことで、スタジオ全体のスキルを磨いて一体感を醸成し、スタッフのモチベーションを高める狙いもあるという。

2020年のフルモデルチェンジで登場した新型「キャンター」は通算9代目。左右ウインカーに挟まれた部分が「ふそうブラックベルト」だ。
2020年のフルモデルチェンジで登場した新型「キャンター」は通算9代目。左右ウインカーに挟まれた部分が「ふそうブラックベルト」だ。拡大
展示されていた4代目「キャンター」(FE1型)のフロントグリル部分が、典型的なブラックベルトデザイン。1978~1985年に生産・販売された。
展示されていた4代目「キャンター」(FE1型)のフロントグリル部分が、典型的なブラックベルトデザイン。1978~1985年に生産・販売された。拡大
三菱ふそうの開発した「未来型緊急車両」。フロントにはブラックベルトもあしらわれる。
三菱ふそうの開発した「未来型緊急車両」。フロントにはブラックベルトもあしらわれる。拡大
「未来型緊急車両」は現地に到着すると、荷台がドローンの発着基地になる想定。
「未来型緊急車両」は現地に到着すると、荷台がドローンの発着基地になる想定。拡大
「未来型緊急車両」への搭載が想定されるヘリ型ドローンコンセプト。ラジコンで、実際に飛ぶ。
「未来型緊急車両」への搭載が想定されるヘリ型ドローンコンセプト。ラジコンで、実際に飛ぶ。拡大

シゴトも人材もワールドワイド

神奈川県川崎市の三菱ふそう本社内にあるデザインセンターでは、現在21名が働いているという。ただ、そこにはクレイモデラーやカラーデザイナーなども含まれており、スケッチを描くデザイナーは6名だそうだ。

直感的に「少ないのでは?」と思ったのも事実だが、トラックやバスという商品は仕様数こそ膨大でも、基本デザインは“少数精鋭”である。また、日本、ドイツ、アメリカ、インドというダイムラートラック傘下4拠点のデザインスタジオが、連携して仕事をすることも多いという。実際、先日インドで発売されたばかりのバーラトベンツの新しいトラック(=マイナーチェンジ)も、デザインは三菱ふそうのスタジオが担当したのだとか。

それにしても、生まれて初めて足を踏み入れた三菱ふそうのデザインセンターで出迎えてくれたスタッフの皆さんが、なんとも国際色豊かなことには驚いた。そして、敷地内の駐車場にならぶクルマ(おそらく役員や従業員の通勤車)はほぼすべてメルセデス・ベンツだった。考えれば当たり前のことだが……。

(文=佐野弘宗/写真=三菱ふそうトラック・バス/編集=堀田剛資)

ダクテッドファンによるクワッドローター型ドローンも試作。すべてデザインチーム内で製作されたという。繰り返すが、三菱ふそうにドローン事業参入の予定はない(笑)。
ダクテッドファンによるクワッドローター型ドローンも試作。すべてデザインチーム内で製作されたという。繰り返すが、三菱ふそうにドローン事業参入の予定はない(笑)。拡大
独自開発中の「バーチャルデザインスタジオ」のデモ。コロナ禍で出張もままならない今日でも、各拠点をつなぎ、実車を前に対面して話し合うのと同じ感覚でデザイン検討を行えるという。
独自開発中の「バーチャルデザインスタジオ」のデモ。コロナ禍で出張もままならない今日でも、各拠点をつなぎ、実車を前に対面して話し合うのと同じ感覚でデザイン検討を行えるという。拡大
国際色豊かな三菱ふそうデザインのスタッフ。
国際色豊かな三菱ふそうデザインのスタッフ。拡大
佐野 弘宗

佐野 弘宗

自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。

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