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ダイムラーからメルセデス・ベンツへ 歴史的な社名変更に見るドイツの巨人の思惑

2021.03.10 デイリーコラム

歴史的瞬間がやってくる

独ダイムラーは2021年2月3日、トラック/バス事業を展開する「ダイムラー・トラック」を非連結化して、年末までに上場を目指す方針を発表した。ダイムラー・トラックを切り離すことで高級乗用車(と小型バン)に特化するダイムラーは、社名を「メルセデス・ベンツ」とあらためて、ダイムラー・トラックの少数株主になる。これらの最終決定は、2021年第3四半期に開催されるダイムラーの臨時株主総会で議決される見込みという。

つまり、われわれがよく知るダイムラー(=旧ダイムラー・ベンツ)は2つの企業に完全分割されることになるわけだ。今回の発表に際して、ダイムラーのオーラ・ケレニウス現CEOは「歴史的瞬間である」と語った。

もっとも、伏線はあった。彼らは2019年11月、持ち株会社のもとにメルセデス・ベンツ部門とトラック/バス部門、そしてモビリティーサービス部門を分社化した新体制へ移行した。しかし、その計画が発表された2017年ごろから、投資家筋ではダイムラー・トラックの完全分離を求める声が高まっていたという。

われわれ普通のクルマ好きにもなじみ深い乗用車や小型商用車事業も、そして大型トラック/バス事業も、自動車事業という意味ではどちらも同じである。現在はトラック専門の日野やいすゞも、かつては乗用車を手がけていた。また、たとえば1990年代の中ごろにまでさかのぼれば、日産や三菱、そしてルノーやボルボ、サーブ・スカニアなど、乗用車から大型トラックまで手がける総合自動車メーカーが少なくなかったことは、中高年の皆さんなら鮮明にご記憶だろう。

1998年まではダイムラー・ベンツを、2007年まではダイムラー・クライスラーを名乗ってきたダイムラー。メルセデス・ベンツに改名された場合は本体からダイムラーの名が外れ、まさに歴史的変更ということになる。
1998年まではダイムラー・ベンツを、2007年まではダイムラー・クライスラーを名乗ってきたダイムラー。メルセデス・ベンツに改名された場合は本体からダイムラーの名が外れ、まさに歴史的変更ということになる。拡大

乗用車事業はギャンブル?

しかし、乗用車と大型トラックとでは、顧客層や技術、そして資金調達など、企業経営にまつわる要素がまるで別らしい。実際、ここで名前をあげたメーカーも、現在はすべて乗用車事業と大型トラック事業が完全な別会社となっていて、それぞれが異なる資本下にある。

ここまでには紆余曲折あったが、世界の自動車メーカーの大半が今の姿に行き着いたということは、つまりは乗用車と大型トラックが一体だと、企業としては経営効率を高めにくいという証左だろう。乗用車サイドから見れば、巨大な車体をゆっくりハンドメイドする大型トラック事業は旧態依然としているように映るし、大型トラックサイドからは、個人消費者の気まぐれで業績が左右される乗用車事業などはギャンブルにしか見えないかもしれない。

その意味では、高級乗用車と大型トラック/バス、それぞれで世界一の販売台数を誇る事業を社内に抱えてきたダイムラーは、少なくとも旧来の先進国では“最後に残された総合自動車メーカー”でもあったわけだ。そんな彼らが分離になかなか踏み切れなかった背景には「ダイムラー(ベンツ)は自動車を発明した会社である」という自分たちのプライドのみならず、社内外からの見えないプレッシャーもあったと分析する説もある。

それでも、ついに完全分割に踏み切るということは、いよいよ“待ったなし”との判断なのだろう。今回の発表にあたって、ケレニウスCEOは「メルセデス・ベンツとダイムラー・トラックが関わる業界は、どちらの業界も技術的・構造的に大きな変化に直面している。もはや独立した事業体としたほうが、もっとも効率的に経営できると考える」と説明した。

新型「メルセデス・ベンツSクラス」をお披露目するダイムラーのオーラ・ケレニウスCEO。
新型「メルセデス・ベンツSクラス」をお披露目するダイムラーのオーラ・ケレニウスCEO。拡大

相乗効果はほとんどない

昨今の自動車産業を取り巻く動きを見ても、その判断にはうなずける部分はある。

たとえば、世界の乗用車は今後、(世の中が当局の思惑どおりに動いてくれるかはともかく)電気自動車(EV)に強制移行させられることになっている。世界の主要国は2030~2035年ごろに乗用車すべてを電動化して、2040~2050年にはすべての内燃機関を禁止する方針を打ち出している。その中心的存在はバッテリー式EV(BEV)で、ハイブリッドだろうがなんだろうが、内燃機関=エンジンの需要は急速に減少していく。しかも、最後まで残るのはおそらくガソリンエンジンだろう。

いっぽうで、大型トラック/バスのEV化は簡単ではない。ハイブリッドによる“電動化”こそ急速に進んでも、エンジンは乗用車より先まで残るだろうし、その中心は乗用車とちがってディーゼルになる可能性が高い。もちろん最終的にはEVになるにしても、それはBEVでなく燃料電池車=FCEVである可能性が高い。……とダイムラーも考えているであろうことは、ケレニウスCEOが就任後に燃料電池乗用車の開発を凍結して、燃料電池事業をすべてダイムラー・トラック(の子会社)に集約したことからも見てとれる。

また、クルマのもうひとつの大変革である自動運転にしても、固定ルートでの長距離走行を念頭に置いた大型トラックのほうが、気ままな自由移動を想定せざるをえない乗用車より、本格的な実用化はずっと近そうである。この点についてはダイムラー・トラックの担当者によると「乗用車との相乗効果はほとんどない」らしい。

ダイムラー・トラックが開発を進めている、水素燃料電池自動車。
ダイムラー・トラックが開発を進めている、水素燃料電池自動車。拡大

BEVに特化するメルセデス・ベンツ

さらに、ダイムラーが今回の決断に動いた背景には、株式市場での評価の低さもあったとされる。新型コロナに翻弄された2020年はともかく、それ以前の2019年でも(異常な株価高のテスラは別格としても)トヨタ、そしてダイムラーと同じ欧州のフォルクスワーゲングループが株価を上げるなか、ダイムラーの株だけが下落していた。

絶対的な販売台数が多くない高級乗用車=メルセデス・ベンツ部門には、スケールメリットが必要な次世代技術開発のコストが重くのしかかり、販売は堅調でも利益率が低迷するいっぽうで、大型トラックの需要の伸びも頭打ち傾向にある……という二重苦がその理由らしい。それに追い打ちをかけたのが新型コロナである。2019年に就任したケレニウスCEOにとって、今回のダイムラー・トラック分離が乾坤一擲(けんこんいってき)の起死回生策であることは間違いないだろう。実際、その方針が発表された2月3日には、ダイムラーの株価が一気に約9%上がった。

ダイムラー・トラックとの分離によって、スケールメリットという面では少し後退するように見えるメルセデス・ベンツだが、逆にしがらみを捨てて高級BEVに特化することで、この荒波を乗り切る戦略のようである。昨2020年11月に打ち出した中国ジーリーとの次世代ガソリンエンジン共同開発などは将来的にエンジンから手を引くための布石ともいえるし、先日の3月6日には、他社に先がけて、BEV用バッテリーセルの自社生産計画まで公表した。このメルセデス・ベンツの急展開、はてさて吉と出るか凶と出るか……。

(文=佐野弘宗/写真=ダイムラー/編集=藤沢 勝)

オーラ・ケレニウスCEOとメルセデス・ベンツの新たなフラッグシップBEVとしてデビュー予定の「EQS」。すでに開発は最終段階を迎えているという。
オーラ・ケレニウスCEOとメルセデス・ベンツの新たなフラッグシップBEVとしてデビュー予定の「EQS」。すでに開発は最終段階を迎えているという。拡大
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