第33回:スクープ! トヨタが自動車版「Android」を開発していた
2021.06.01 小沢コージの勢いまかせ!! リターンズYOUは何しに日本へ?
いやはや驚きましたわ。
先日、東京・お台場で行われたSIP試乗会にて。そもそもSIPとは「戦略的イノベーション創造プログラム」の略で、ぶっちゃけ日本が世界に遅れそうな産業やハイテクを国を挙げてトップダウンで後押ししようという壮大なる計画。
ざっくり「次世代パワーエレクトロニクス」「次世代農林水産」「スマート物流サービス」などのメニューがあり、そのひとつに「自動運転」も選ばれている。その結果、みんなで地図情報を共有するためのダイナミックマップ基盤株式会社がつくられたし、今回トヨタにホンダ、日産、スバルにメガサプライヤーのコンチネンタルまで集結する大試乗会が行われたわけだけど、小沢が最も驚いたのはトヨタ肝いりの先進運転支援システム「トヨタチームメイト」が搭載された新型「ミライ」について。
単純にクルマのデキに感心した一方で、ホンダに負けじと自動運転レベル3を投入しなかったことには拍子抜け。しかし、それ以上に驚いたのは、トヨタがクルマ版「Android」ならぬ“トヨタOS”をつくっていたというハナシ。それもあのシリコンバレーから来た、“トヨタ版イーロン・マスク”こと才気あふれるジェームス・カフナーさんが直々に腕を振るってだ。
ってなわけで、それを明かしてくれたトヨタチームメイトの開発担当にしてカフナーさんの元にいるやり手エンジニア、川崎智哉さんを直撃!
なぜレベル3に踏み込まなかったのか?
小沢:まず、トヨタチームメイトが自動運転レベル3に踏み込まなかったのはなぜですか?
川崎:お客さまの安全安心を第一に考えました。この技術は発展途上で難しい部分もあり、安心して乗っていただくには、レベル2で慣れていただくのが大事なのかなと。
小沢:その一方で、今回はレベル2なのに「自動運転技術」って言葉を使ってましたよね。もしやすぐにアップデートしてレベル3に上げちゃうつもりとか?
川崎:そこはお客さまの安全安心がどんどん高まって、そのレベルに到達した時に考えるべきことだと思います(笑)。
小沢:やはりレベル3は難しい?
川崎:大きなチャレンジになると思っています。運転する主体が人からシステムになる。主語が変わるのはものスゴイことなので。
小沢:トヨタをもってしても?
川崎:よく言われる話ですが、自動運転は自動車メーカーだけで達成できる世界ではないと思っていて、ユーザーさんもそうですし、社会受容性も大事だと思うんです。人が事故を起こすのと同様、クルマにも完璧はない。もちろん人より少ないという前提ですが、ある一定の確率で事故は起こりうる。まだまだクルマ側がやらなければいけないことはあると思います。
小沢:ホンダはレベル3をやっちゃいましたけど。
川崎:そこは本当にスゴいと思います。
小沢:どこがスゴいんですか。
川崎:技術もそうですが、自動運転レベル3として出される時にものスゴイ評価をやられているはずなんです。僕らも出す前には相当やり込んでいますけど、おそらく桁が違うかと。
小沢:ホンダの人はシミュレーションで1000万通り、実走行で130万kmって言ってました。ただし、トヨタチームメイトは実質55万円程度で付けられるのに対し、「ホンダセンシングエリート」は付いているのと付いていないのとでざっくりと300万円ぐらい違う。(レベル2とレベル3の違いがあるとはいえ)ここはトヨタ、スゴくないですか?
川崎:そこは頑張りました(笑)。
「ソフトウエアファースト」と言い切るスゴさ
小沢:一方違う面でスゴいと思ったのがシリコンバレーからやって来た、IT分野の新しいボス、ジェームス・カフナーさんで「これからはソフトウエアファーストになる」と言い切ってました。これってスゴく重い言葉で、今まで物づくり、ハードウエア中心できたトヨタがソフト第一主義になるだなんて。
川崎:そこは初めてだと思います。そもそもカフナーがCEOを務めるウーブンプラネットをつくったのもその取り組みのひとつで、今までクルマは馬力だの強度だのとハードウエア中心だったのが、これからはソフトウエアの価値が増してソフトとハードが両輪になる。
小沢:シロウト的に見ると“走るスマホ”をつくるってことですか?
川崎:その言葉が適切かどうかは難しいですが、お客さまにご購入いただいた後も、新しいソフトウエアをダウンロードして自分好みのクルマに仕上げていく、カスタマイズしやすくなる、そうなっていくといいんだろうなと思います。
小沢:カフナーさんが来てトヨタが変わった部分はどこですか。
開発:彼は「土台をしっかりつくろう」とよく言っていて、プレゼンテーションでは「クルマに載っているソフトウエアと開発ツールとしてのソフトウエアの割合」についてよく話しています。かつてのトヨタはそれが5:5くらいだったと思いますが、彼によると「クルマに載っているものが10%、開発ツールが90%」、それが本来の割合だと。
小沢:それがシリコンバレーの感覚なんですね。それからカフナーさんはプレゼンテーションで「アリーン」ってよく言ってます。アレはなんですか?
川崎:それこそが、彼が今つくっている開発ツールで、開発したものをそのままクルマに載せられる新プラットフォームです。
小沢:最近よく車載OS、つまりスマホでいう「iPhone」の「iOS」であり、Googleの「Android OS」的なものが話題になっていて、「今フォルクスワーゲンは『ワーゲンOS』をつくってる」って言われてますが、トヨタは「トヨタOS」をつくらないんですか?
川崎:それこそがアリーンで、アリーンはOSだけじゃなく、ソフトの開発環境まで含むってところが他と全然違うんです。
小沢:なんだなんだ、結構デカい話じゃないですか。スマホ界じゃソニーはハードはつくれても「ソニーOS」はつくれず、結局Androidを使ってましたが、トヨタは違う。独自でオリジナルの車載OSをつくってるんですね。それもシリコンバレーから来たカフナーさんが。
川崎:それこそがアリーンが目指すところで、アリーンはオープンソースですし、開発環境も提供するので、扱いやすいものになるはずです。だから各社さんに使ってもらえないかと。
小沢:なるほど! トヨタはクルマ版のAndroid提供者を目指していて、もしかしたらGoogle的な存在になるかもしれないんですね。
川崎:そうなればいいんですが。
小沢:まさしくトヨタがソフトウエア会社になるってこと。
川崎:そういうことです。もちろん今まで通りハードウエアも大事ですが、ソフトウエアづくりの比率も上げていこうと。
そもそも小沢は、元スタンフォード大の博士で、Googleのバリバリの自動運転担当だった天才エンジニアが、なぜトヨタに来たのか不思議に思っていた。ヘンなハナシ、バリバリの一線級で打率3割のメジャーリーガーが日本のプロ野球に来たようなもんで、ちとあり得ないことだと思っていたが、これで納得。
もちろん相当な年俸をもらっていることは想像に難くないが、それ以上にいちエンジニアでありプログラマーとして、年間1000万台というトヨタグループの規模、リソースを使えるのは魅力的だ。なにしろ彼が素晴らしいトヨタOSをつくり、それが他グループにまで広まれば、世界の自動車業界、そして世界を変えることができる。それこそが彼のモチベーションであり、わざわざ極東の地、東京・日本橋に来た理由なのかもと勝手に思った次第。
ってなわけでカフナーさん! 今後生まれる次世代のトヨタOSに期待してまっせー! 世界の自動車界と、ソフトウエアファーストへの変革を実現してくださいね。
(文と写真=小沢コージ/編集=藤沢 勝)

小沢 コージ
神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』
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