新型「クラウン セダン」と「ミライ」はどこがどう違うのか?
2023.11.27 デイリーコラム遠い親戚から兄弟に
ついに発表された「クラウン セダン」。
新世代クラウンの第1弾として昨年「クラウン クロスオーバー」が発表されたときは「これが新しいクラウンのメインストリーム」と思わせておきながら、ウェブサイトなどを見ると、今回発売されたセダンは車名にカッコ付きでボディータイプの入らない「クラウン」という表記。「それってやっぱりセダンが本命なのでは?」と思うのはここだけの内緒だ。
さてそんな新生クラウン セダンだが、スタイルを見て「これってアレでは?」と思ったのもまた筆者だけではないだろう。そう、真横から見ると燃料電池車の「MIRAI(ミライ)」にそっくりなのだ。念のためにお伝えしておくと、リアウィンドウが寝ているうえに車両最後部までつながっているように見えるから、一見したところハッチバックのようだけれど、トランクを持った正真正銘のセダンである。
もちろん、それは単なる偶然ではない。包み隠さず言うと、ミライとクラウンは兄弟車なのである。プラットフォームをはじめ車体構造やメカニズムの多くを共用しているのだ。確かにプラットフォームは「GA-L」と呼ばれるもので、それは先代クラウンにも使われていたから広い意味では先代クラウンと現行ミライは血縁関係にあった。しかし新型は、プラットフォームを共用する「遠い親戚」から骨格まで同じ「兄弟」にまで接近したのだ。ちなみに、「レクサスLS」もいとこくらいの関係にあたる。
意外に違うトランク容量
さて、編集部から与えられたコラムのお題は「新型クラウン セダンとミライはどこがどう違うのか?」というもの。見た目から言えばまず顔つきが違う。正面から見るとクラウンは“水平”で、ミライは“斜め”だ。個人的な話をすればクラウンのほうが好みだが、デザインの評価はあくまで主観的なものなのでどっちがいいと感じるかはその人次第なのは言うまでもないが。
同じように見える真横も、実は比べると違いがあってサイドウィンドウ下のラインはクラウンのほうが水平。ミライはリアドア後方以降で上方に向かっている。つまり斜めだ。ちなみにクラウンの開発者によると「この水平ラインに給油口のリッドをなじませるのが大変だった」とのことだ。なるほど。
リアに関しては、こちらも水平基調を重視するクラウンに対してミライは斜めのラインが強調されている。
というわけでスタイリングに関しては前も横も後ろも「クラウンは水平でミライは斜め」といえる。車体サイズはクラウンが全長5030mm×全幅1890mm、ミライは全長4975mm×全幅1885mmなのでわずかながらクラウンのほうが上。レクサスLSよりは少し小さいとはいえ、相当な大きさであることは間違いない。参考までにトランク容量は、ミライ(「アドバンストドライブ」装着車を除く)が容量321リッターでゴルフバッグ積載数は9インチのタイプが3個、クラウンはハイブリッド車が容量450リッターで3個、燃料電池車が400リッターで2個となっている。容量と積載数が比例していないのは形状の違いということだ。
もちろん室内に入れば両車はダッシュボードが違う(基本レイアウトは似ているけれどシフトレバーの位置はクラウンがセンターコンソールに対してミライはインパネ)し、装備面でもミライのアドバンストドライブ装着車には高速道路全車速域でのハンズオフドライブ(手放し運転)機能が備わるのに対し、クラウンで手放し運転が可能なのは渋滞時の40km/h未満といった先進運転支援機能の違いもある。兄弟でもいろいろ違うのだ。
考え抜かれた水素燃料電池車の販促戦略
しかし、両車の最も大きな違いとなるのは、やはりパワートレイン。燃料電池専用車のミライに対し、クラウンは燃料電池車とハイブリッド車が選べることだろう。ミライは水素専用だが、クラウンには水素仕様とガソリン仕様が用意されているのだ。ハイブリッドで基盤を安定させつつ、ミライよりも保守的な層にも燃料電池車を売っていこうという作戦なのだろう。
そんなクラウンの価格はハイブリッド車が730万円で燃料電池車が830万円(現時点ではグレードが1つしか用意されていない)。ミライ(複数のグレードがある)の価格は710万6000円から860万円なのだが、比べるとクラウンのほうが若干高い設定といえる。
ところで聡明(そうめい)な読者諸兄のなかには「あれ? ミライってもっと安く手に入ったような」と感じた人もいるだろう。実は正しい。水素燃料電池車に対する国の補助金がミライに対しては145万3000円下りて、ベーシックグレードだと実質560万くらいで買える感覚なのである。
そして実はクラウンの燃料電池車にも136万3000円の補助金が出るから、定価830万円ながら実質的には700万円弱。定価730万円のハイブリッドよりも燃料電池車のほうが安く購入できるのだ(令和5年度現在)。
もちろんパワートレイン選びは価格だけで判断するものではない。近くに水素ステーションがないと、水素燃料電池仕様を買うのはやっぱりハードルが高い。とはいうものの、やはりこの価格設定もまた、ハイブリッドを訴求しつつ、水素燃料電池車の販売も増やすという、実に考え抜かれた戦略ではないだろうか。
自治体によっては独自の補助もあり、例えば東京都民はさらに110万円ほどの補助金がもらえるので、燃料電池のクラウンをさらにお得に購入できる(ミライも)というのはここだけの話にしておこう。
(文=工藤貴宏/写真=トヨタ自動車/編集=藤沢 勝)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |

工藤 貴宏
物心ついた頃からクルマ好きとなり、小学生の頃には自動車雑誌を読み始め、大学在学中に自動車雑誌編集部でアルバイトを開始。その後、バイト先の編集部に就職したのち編集プロダクションを経て、気が付けばフリーランスの自動車ライターに。別の言い方をすればプロのクルマ好きってとこでしょうか。現在の所有車両は「スズキ・ソリオ」「マツダCX-60」、そして「ホンダS660」。実用車からスポーツカーまで幅広く大好きです。
-
激動だった2025年の自動車業界を大総括! 今年があのメーカーの転換点になる……かも?NEW 2025.12.26 トランプ関税に、EUによるエンジン車禁止の撤回など、さまざまなニュースが飛び交った自動車業界。なかでも特筆すべきトピックとはなにか? 長年にわたり業界を観察してきたモータージャーナリストが、地味だけれど見過ごしてはいけない2025年のニュースを語る。
-
スバリストが心をつかまれて離れない理由 「フォレスター」の安全機能を体感 2025.12.25 「2025-2026 日本カー・オブ・ザ・イヤー」に選出された「スバル・フォレスター」。走り、実用性、快適性、悪路走破性、そして高い安全性が評価されたというが、あらためてその安全性にフォーカスし、スバルの取り組みに迫ってみた。
-
病院で出会った天使に感謝 今尾直樹の私的10大ニュース2025 2025.12.24 旧車にも新車にも感動した2025年。思いもかけぬことから電気自動車の未来に不安を覚えた2025年。病院で出会った天使に「人生捨てたもんじゃない」と思った2025年。そしてあらためてトヨタのすごさを思い知った2025年。今尾直樹が私的10大ニュースを発表!
-
クルマ泥棒を撲滅できるか!? トヨタとKINTOの新セキュリティーシステムにかかる期待と課題 2025.12.22 横行する車両盗難を根絶すべく、新たなセキュリティーシステムを提案するトヨタとKINTO。満を持して発売されたそれらのアイテムは、われわれの愛車を確実に守ってくれるのか? 注目すべき機能と課題についてリポートする。
-
EUが2035年のエンジン車禁止を撤回 聞こえてくる「これまでの苦労はいったい何?」 2025.12.19 欧州連合(EU)欧州委員会が、2035年からのEU域内におけるエンジン車の原則販売禁止計画を撤回。EUの完全BEVシフト崩壊の背景には、何があったのか。欧州自動車メーカーの動きや市場の反応を交えて、イタリアから大矢アキオが報告する。
-
NEW
第942回:「デメオ劇場」は続いていた! 前ルノーCEOの功績と近況
2025.12.25マッキナ あらモーダ!長年にわたり欧州の自動車メーカーで辣腕(らつわん)を振るい、2025年9月に高級ブランドグループのCEOに転身したルカ・デメオ氏。読者諸氏のあいだでも親しまれていたであろう重鎮の近況を、ルノー時代の功績とともに、欧州在住の大矢アキオ氏が解説する。 -
NEW
スバリストが心をつかまれて離れない理由 「フォレスター」の安全機能を体感
2025.12.25デイリーコラム「2025-2026 日本カー・オブ・ザ・イヤー」に選出された「スバル・フォレスター」。走り、実用性、快適性、悪路走破性、そして高い安全性が評価されたというが、あらためてその安全性にフォーカスし、スバルの取り組みに迫ってみた。 -
NEW
フォルクスワーゲンID. Buzzプロ ロングホイールベース(後編)
2025.12.25あの多田哲哉の自動車放談ありそうでなかった、ミニバンタイプの電気自動車「フォルクスワーゲンID. Buzz」。ようやく日本の道を走り始めた実車に触れて、元トヨタのエンジニアである多田哲哉さんは、どんなことを感じたのか? -
レクサスRZ350e(FWD)/RZ550e(4WD)/RZ600e(4WD)【試乗記】
2025.12.24試乗記「レクサスRZ」のマイナーチェンジモデルが登場。その改良幅は生半可なレベルではなく、電池やモーターをはじめとした電気自動車としての主要コンポーネンツをごっそりと入れ替えての出直しだ。サーキットと一般道での印象をリポートする。 -
病院で出会った天使に感謝 今尾直樹の私的10大ニュース2025
2025.12.24デイリーコラム旧車にも新車にも感動した2025年。思いもかけぬことから電気自動車の未来に不安を覚えた2025年。病院で出会った天使に「人生捨てたもんじゃない」と思った2025年。そしてあらためてトヨタのすごさを思い知った2025年。今尾直樹が私的10大ニュースを発表! -
第97回:僕たちはいつからマツダのコンセプトカーに冷めてしまったのか
2025.12.24カーデザイン曼荼羅2台のコンセプトモデルを通し、いよいよ未来の「魂動デザイン」を見せてくれたマツダ。しかしイマイチ、私たちは以前のようには興奮できないのである。あまりに美しいマツダのショーカーに、私たちが冷めてしまった理由とは? カーデザインの識者と考えた。









































