EVのパイオニアから次世代モデルがついに登場! 「アリア」に寄せる期待と日産の課題
2021.06.25 デイリーコラム目指せ捲土重来!
2021年6月4日、日産の新型電気自動車(EV)「アリア」の予約受注がようやく開始された。何をおいても、まずはめでたい。2020年7月のプロトタイプ発表から1年弱。当初からスケジュールがアナウンスされていたとはいえ、いやはや長かった。
皆さんご存じの通り、アリアは日産が新開発のEV専用プラットフォームをベースに仕立てた、クロスオーバータイプのEVである。バッテリー容量は66kWhと91kWhの2種類で、一充電走行可能距離は430~610km(WLTCモード)。急速充電は130kWまでの出力に対応しており、30分の充電で最大375kmの走行距離を得られるという。額面的には、同セグメントに属する舶来の最新EVはもちろん、近い将来出てくるであろうモデルとも伍(ご)して渡り合えるスペックだ。
実車に触れてみても、2枚の巨大モニターで構成されたタッチレス操作対応のデジタルメーター&インフォメーションディスプレイや、ダッシュボードに浮かび上がる空調のコントローラー(ハプティクス<触覚提示技術>採用)、センターコンソールと一体化したドライブモードセレクターと、あざといまでのインターフェイスの新機軸に「レッツ捲土(けんど)重来」という日産の意気を感じる。……個人的には、ダッシュとコンソールは指が触れるところだけテカテカにならないか、不安ではありますが(笑)。
加えて、生産を担うのはインフィニティ(北米などで展開される日産のプレミアムブランド)のモデルも手がける栃木工場と、その品質についても日産は本気(マジ)。「プロパイロット2.0」を設定するなど先進運転支援システムもてんこ盛りで、発表会で星野朝子副社長が「新しい日産のフラッグシップ」と意気込んでいたのも、さもありなんである。
「日産アリア」を応援したいこれだけの理由
そんな日産アリアだが、6月15日発のプレスリリースによると、受注開始から10日で3936台の受注を集めたという。これが多いか少ないかは「日産のみぞ知る」であるが(なにせ同車は、目標販売台数が公表されていないのだ)、そこに記されていた「『日産の電気自動車であるという安心感』等が、お客さまから高い評価を受け(後略)」という文言が、EV大好き小僧(=記者)の心にプスっと刺さった。
曲がりなりにも報道を生計(たつき)としている以上、えこひいきはよろしくないのだが、記者はアリアをこっそり応援しているのである。なんでか? 製造元の日産が、“市井のEV”のパイオニアだからだ。
思い起こしていただきたい(遠い目)。初代「リーフ」で“普通の人が普通に買えるEV”を初めて世に問うたのは、三菱とほぼ同着で日産だった。V2H(Vehicle to Home)やバッテリーのリサイクル、あるいは移動電源としての災害派遣など、EVをライフサイクル全体でみて、エネルギーインフラのなかに組み込もうと率先して取り組んできたのも、なんだかんだで日産である。
製品そのものを見ても、リコール時に「自動車と同じ耐用年数の電子部品なんて用意できるか!」とふてくされるメーカーがいるかたわらで、日産はEVを“既存のエンジン車に代わるもの”として、きちんと仕立ててきた。「世界で累計50万台のリーフを販売して、バッテリーの発火事故はゼロ」という事実は、もっと知られていい同社の殊勲だろう。
率直に言って、「(ディーラー網やアフターサービスの観点からも)ようやく高性能EVというジャンルに、身内親族に安心してオススメできるクルマが出てきた」というのが、アリアに対する記者の心象だった。それが公道デビューを果たすというのだから……。
……受注開始の発表当日、記者はかように感慨に浸りつつ横浜・日産本社に赴いたのだが、配布されたリリースを読んで「ん?」となった。初版限定モデル「B6リミテッド」の発売が、今冬? 確かプロトタイプの発表時には、年央の販売開始が予定されていた気がするのだが……。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
このスピード感にはヤキモキさせられる
ようやく予約受注が始まったアリアだが、実は発売そのものは、まだまだ先。公道デビューは、当初のスケジュールからいささか後ろ倒しになっていたのだ。発表会の席上、この点について質疑応答で問われた星野副社長は、新型コロナ感染症のまん延や昨今の半導体不足などを遅延の理由として挙げ、「日産初、世界初の技術を投入したクルマなので、慎重を期した」と説明していた。
実際、スピード重視の新興メーカーとは違う路線を行く日産としては、アリアのスケジュールには“これが限界”な部分もあるのだろう。チーフエンジニアの中嶋 光氏に聞いたところ、栃木工場のラインはすでに立ち上げ済みで、先行試作車の生産も進んでおり、今はとにかくつくって走らせての“バグつぶし”に取り組んでいるのだとか。「安全は私たちのつくるEVのファンダメンタル」(中嶋氏談)というメーカーの姿勢を思うと、このスケジュールを安易に「遅い」と評するのもどうかと思う。
……とはいえ、予約サイトで見たところ、初版限定車のなかでも「B6」以外の3モデルは2022年夏の発売となっており、カタログモデルはさらにその先となりそう。昨今のEV市場の勢いを見ていると、このスピード感にはヤキモキさせられる。日本のメーカーには信頼性を担保しつつ開発スピードを高める施策に、ぜひ取り組んでいただきたい。
もうひとつ気になったのが、これもQ&Aで星野副社長が述べていた、「年間数万台」というグローバル販売の規模だ。それ自体は「ああ、そうなのね」というお話なのだが、鼻息の荒い数字を示さなかったことについて、氏はポロっと、バッテリーの供給量をその理由のひとつとして挙げていた。いかにアリアが“バッテリー食らい”とはいえ、「現状におけるリーフの販売台数+数万台」が供給キャパというのでは、今後のEV市場を戦ううえで、いささか心もとないのでは? 日産ではハイブリッド車の「e-POWER」シリーズも人気を博しているし、この点はぜひ、早急に打開してほしい。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
ちょっと気になる生産時の環境負荷
……いつの間にやら、アリア単体から日産の電動車戦略に関する部分にまで話が飛んでしまった。風呂敷のたたみどころを見誤った。しかし、せっかくなのでもうひとつ記者の関心にお付き合いいただきたい。
記者がナニに関心があるかというと、それはEV生産時の環境負荷についてだ。そのスジに明るい読者諸兄姉ならご存じの通り、リチウムイオンバッテリーを満載する高性能EVは、製造に大量の希少金属を必要とし、また大量の電力を食う。そしてアリアは、日本初となる90kWhクラスのバッテリーを積んだEVである。もちろん66kWh仕様のモデルもあるが、それでも「生産時の環境負荷に配慮した」という「マツダMX-30」などの35.5kWhより、はるかにバッテリー容量は大きく、そのぶん生産時の環境負荷も大きいはず。日産は将来的なカーボンニュートラルを公言しているメーカーのひとつだが、今回の発表では、壇上からも、会場の関係者からも、同車の生産にまつわる具体的な環境負荷軽減策を聞くことはなかった。
もちろん、自動車製造にまつわるCO2削減というのは、組み立てラインだけで完結する話ではないし、パワートレインを問わずさまざまな車種をひとつの拠点で生産する日産のようなメーカーでは、なおのこと「〇〇(特定の車種名)の生産では××のような施策を取り、△万tのCO2削減を実現しました」という形では説明しづらいだろう。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
注目を集める機会のさらなる活用を!
それでも欧米のメーカーは、新製品の発表ごとにCO2削減の取り組みと成果を宣伝している。将来の環境規制における、ライフサイクルアセスメント(LCA)の導入を見据えた戦略、……あるいは、今やバブルの香りただようSDGs投資向けのアピールだとは思うのだが、このあたり、日本メーカーは相変わらずPRが苦手である。
日産も、これを機にデーンとアピれる施策に取り組んでおくべきだったのではないか。あるいは、アリアの製造に関して語れるものがなかったとしても、せめて「2050年までのカーボンフリー」という目標へ向けた何がしかの取り組みを、ここで語るべきだったと思う。英国サンダーランドの例とか、紹介できる話がまったくないわけじゃないんだから。アリアほどの注目車種はそうはないのだから、もったいないじゃないか!
アリアの本当の発売&デリバリー開始はまだ先のことだし、今後も折を見ては取材の機会が用意されると思う。実際、星野氏も発表会の壇上で「いずれアリアのファクトリーを皆にお見せする」と発言していた。
今はとにかく、そのどこかのタイミングで日産の環境負荷低減策の進捗(しんちょく)を聞けることに期待したい。何せ日産は、世界で一番長くEVの普及に取り組んできたメーカーなのだから。
(文と写真=webCGほった)
拡大 |
拡大 |
拡大 |

堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
-
ミドシップ化で運動性能はどう変わる? 「GRヤリスMコンセプト」の現時点での完成度を体感NEW 2026.6.3 「GRヤリス」をベースとしたミドシップ4WDとして市販化を目指す「GRヤリスMコンセプト」。現在もスーパー耐久に投入されるなどして鍛えられているが、その開発車両をドライブできた。普通のGRヤリスとの運動性能の違いや、新開発エンジンの印象などをリポートする。
-
新生アルピナは成功するか? その将来とBMWとの関係について考える 2026.6.1 具体的なデザインスタディーも公開され、いよいよ市場展開が見えてきた新生アルピナ。将来的な成功の“確度”やいかに? BMWによる新たなアルピナ像について、両ブランドに詳しい西川 淳が詳しく解説する。
-
つまずきを糧に成功をつかみ取れ! 新型「CX-5」に宿るマツダの変革と覚悟 2026.5.29 既存のマツダ車とは一線を画す乗り味で、メディアをおどろかせた新型「マツダCX-5」。マツダの最量販車種は、なぜ3代目で大転換を迫られたのか? 賛否両論を巻き起こした“あのクルマ”との関係は? 新しくなったCX-5に宿る、マツダの覚悟と変革に迫る。
-
「日産テラノ」がPHEVで復活 往年のビッグネームを継承するSUVの特徴を分析する 2026.5.28 日産自動車が「北京モーターショー2026」で、往年のビッグネームを継承する新型SUV「テラノPHEVコンセプト」を世界初公開した。初代「テラノ」で採用された「3スロット」を想起させる車両のデザインに加え、日産が新型テラノで狙うグローバル戦略に迫る。
-
まさしく桁違いの1169PS&2000N・m 新型「メルセデスAMG GT 4ドアクーペ」が搭載する数々の新機軸 2026.5.27 2025年発表のコンセプトカー「メルセデスAMG GT XX」が新型「メルセデスAMG GT 4ドアクーペ」として正式にデビューした。その中身は100%電気自動車であり、上位グレードは最高出力1169PSという途方もないスペックを誇る。技術的ハイライトを解説する。
-
NEW
レクサスES350h(FF/CVT)/ES350e(FWD)/ES500e(4WD)【海外試乗記】
2026.6.3試乗記「レクサスES」がフルモデルチェンジ。シャシーがFFベースというのは歴代モデルと同じだが、新型ではボディーサイズがググッと拡大。「LS」の6輪ミニバンコンセプトが登場したこともあり、今後のレクサスセダンの総代を担うことになる。北米で乗った印象をリポートする。 -
NEW
ミドシップ化で運動性能はどう変わる? 「GRヤリスMコンセプト」の現時点での完成度を体感
2026.6.3デイリーコラム「GRヤリス」をベースとしたミドシップ4WDとして市販化を目指す「GRヤリスMコンセプト」。現在もスーパー耐久に投入されるなどして鍛えられているが、その開発車両をドライブできた。普通のGRヤリスとの運動性能の違いや、新開発エンジンの印象などをリポートする。 -
NEW
第115回:メイク・アメリカ・グレート・アゲイン!(後編) ―デザインもサイズも規格外! 魅惑のアメリカ車はなぜ“主役”になれないのか?―
2026.6.3カーデザイン曼荼羅トヨタ&ホンダが発表した、米国生産車の日本導入計画。しかしアメリカには、規格外に面白いクルマがまだたくさんあるのだ! カーデザインの識者とともに魅惑の日本“未”導入車を探すとともに、魅力的なアメリカ車が、それでも主役になれない理由を考えた。 -
どうしてピアノブラックの内装材は多用されるのか?
2026.6.2あの多田哲哉のクルマQ&Aよく目にするピアノブラックの内装材は、「キズや脂汚れが目立つ」などネガティブな評価もしばしば。それでも多用されているのはなぜか? 車両開発者の多田哲哉さんに聞いてみた。 -
BSAゴールドスター650(5MT)【レビュー】
2026.6.2試乗記かつて一世を風靡(ふうび)した英国の名門、BSAが復活! 新生第1号モデルである「ゴールドスター650」は、クラシックで優雅なお散歩バイク……と思いきや、ツインカムの大排気量シングルで、ライディングも前のめりに楽しめるマシンに仕上がっていた。 -
レストモッドがイメージ 特別なオニツカタイガーの魅力に迫る
2026.6.1オニツカタイガーの新作ドライビングシューズを知る<AD>オニツカタイガーが、“レストモッド”と呼ばれるクルマのレストア&カスタム手法に着想を得たドライビングシューズを発表。4タイプ製作された、「MEXICO 66 DRIVING」のスペシャルバージョンの魅力に迫る。















































