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日産アリアNISMO B9 e-4ORCE(4WD)

ジャージ以外の普段着を 2024.09.11 試乗記 渡辺 慎太郎 日産の電気自動車(BEV)「アリア」に赤いアクセントがきらりと光る「NISMO」が登場。その名のとおり日本のモータースポーツ界の雄が鍛え上げたハイパフォーマンスバージョンである。ワインディングロードに持ち込んでその実力を検証した。
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BEV NISMOの第2弾

日産とNISMOの関係は、BMWとM、メルセデス・ベンツとAMGのようなものなんだろうなと思っている。モータースポーツが出自であり、そこでの経験などを市販車へフィードバックする。これが表向きの大義となっているけれど、少なくとも現在のMとAMGは、BMWとメルセデスにとってとても“オイシイ”ビジネスモデルでもある。

それっぽい外観とスポーティーなセッティングの足まわりに加え、モデルによってはパワートレインまでいじってバッジを付ければ、ノーマルの車両本体価格に数百万円を堂々と上乗せできて、利益率の高い商品が完成する。そうしたモデルは、場合によっては安価なモデル数台分の利益を1台売るだけで生み出すわけで、安さがウリのひとつである中国メーカーが勢力を強める昨今、BMWやメルセデスが(特に最近)MやAMGのバッジが付いたモデルを積極的に導入している戦略にも合点がいく。

ドイツメーカーがそうやってせっせと稼いでいるのだから、日本メーカーもさっさとまねをすればいいのにと、以前からそう思っていたのだけれど、ようやくトヨタはGRを、そして日産はNISMOをそんなふうに扱い始めた。トヨタは「GR86」や「スープラ」など専用車種をそろえるものの、後に続くモデルがなかなか現れない。この2台、“GR専用”とは言いつつも実際にはGR86はスバルに、スープラはBMWに兄弟車がいるわけで、純粋なるGRオリジナルモデルを名乗るにはちょっと無理がある。いっぽうのNISMOは、あくまでも日産車をベースにしたラインナップ拡充というスタンスを維持していて、このアリアNISMOは2018年の「リーフNISMO」に次ぐ2弾目の“BEV NISMO”となる。

2024年6月に発売された「アリアNISMO」。日産の電気自動車であるアリアのハイパフォーマンスバージョンだ。
2024年6月に発売された「アリアNISMO」。日産の電気自動車であるアリアのハイパフォーマンスバージョンだ。拡大
2024年はNISMOブランドの誕生40周年にあたる。2023年から「スカイラインNISMO」や「フェアレディZ NISMO」(新型)、そして「アリアNISMO」を投入するなど活発だ。
2024年はNISMOブランドの誕生40周年にあたる。2023年から「スカイラインNISMO」や「フェアレディZ NISMO」(新型)、そして「アリアNISMO」を投入するなど活発だ。拡大
フロントまわりでベースモデルから継承したのはヘッドランプとグリルのようなブラックのパネルのみ。バンパーはもちろん、ホイールハウスをカバーするクラッディングも専用に仕立てられている。
フロントまわりでベースモデルから継承したのはヘッドランプとグリルのようなブラックのパネルのみ。バンパーはもちろん、ホイールハウスをカバーするクラッディングも専用に仕立てられている。拡大
リアバンパーも専用デザインで、下部はディフューザーのような形状に。車両全体では空気抵抗を増やすことなく最大ダウンフォース量を増大させている。
リアバンパーも専用デザインで、下部はディフューザーのような形状に。車両全体では空気抵抗を増やすことなく最大ダウンフォース量を増大させている。拡大
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最高出力が41PSアップ

アリアNISMOは現時点で「B6 e-4ORCE」と「B9 e-4ORCE」の2タイプで、価格はそれぞれ842万9300円と944万1300円。B6とB9ではバッテリー容量が違っており、B6の66kWhに対してB9は91kWh、一充電走行距離はB6で約390km、B9で約520kmを想定しているらしい。モーターは前後とも同型で、ノーマルのアリアのモーターとも同じ。インバーターの改良などによりB9 e-4ORCEの場合、最高出力はノーマルに41PS上乗せして435PSとしている(B6 e-4ORCEは+27PSの367PS)。ただし最大トルクは確実なトラクションを得ることを優先し、あえて600N・mのままにしたとのこと(B6 e-4ORCEは560N・mのまま)。

世の中にはこれよりもずっと強大な最大トルクを誇るBEVもあるけれど、公道を走る限りにおいてはとてもじゃないが扱いきれず宝の持ち腐れとなることがほとんどだ。持て余して無用なホイールスピンを誘発したり、何よりバッテリーの無駄づかいを避けたりするためにも、最大トルクをいじらなかった判断は極めて現実的かつ賢明だと思う。加えて、主に発進加速と中間加速のレスポンスを向上させた専用のパワートレインチューニングが施されている。

エクステリアデザインは、一見するとノーマルにNISMOの流儀にのっとった赤いラインを加えただけのようにも映るが、実際には全体的にエアロダイナミクスを考慮した機能的デザインになっている。フロントバンパー、サイドスカート、リアデッキスポイラーはいずれもダウンフォース向上の役目を担っており、フロントホイールまわりにはエアカーテンも生成される。ダウンフォースが強くなると最高速や加速には若干不利だが、タイヤを路面にしっかり食い付かせてスタビリティーを上げる効果が大いに期待できる。

「アリア」の4WDモデルは全車が最高出力218PS/最大トルク300N・mの駆動用モーターを前後に搭載。「NISMO B9 e-4ORCE」はシステム全体で435PSと600N・mを発生する(「NISMO B6 e-4ORCE」は367PSと560N・m)。
「アリア」の4WDモデルは全車が最高出力218PS/最大トルク300N・mの駆動用モーターを前後に搭載。「NISMO B9 e-4ORCE」はシステム全体で435PSと600N・mを発生する(「NISMO B6 e-4ORCE」は367PSと560N・m)。拡大
モーターの鉄芯をイメージしたというスポークが特徴的なホイールはENKEIによる特別仕立て。タイヤも専用開発の「ミシュラン・パイロットスポーツEV」を履く。
モーターの鉄芯をイメージしたというスポークが特徴的なホイールはENKEIによる特別仕立て。タイヤも専用開発の「ミシュラン・パイロットスポーツEV」を履く。拡大
ベースモデルと同じルーフスポイラーに加えて、デッキスポイラーも装備。ワイパーの下にはドレンが備わっている。
ベースモデルと同じルーフスポイラーに加えて、デッキスポイラーも装備。ワイパーの下にはドレンが備わっている。拡大
リアバンパーの中央にはNISMOのロードカーに共通のフォグランプが備わっている。
リアバンパーの中央にはNISMOのロードカーに共通のフォグランプが備わっている。拡大

「専用EVサウンド」を聴く

ドアを開けて運転席へ乗り込むと、目の前に広がる光景はノーマルのアリアと大きくは変わらない。NISMO専用の新設パーツはセンター部に赤いラインが入ったステアリングとメタル製エンブレムのみ。BOSEオプション装着車には「専用EVサウンド」も備わる。その他のトリムやスイッチ類は色やマテリアルを変更。体を支えているシートは表皮も含めてNISMO仕様となっている。

専用EVサウンドは、「アクセルON時はメタリックな高周波により高揚感を伴う加速サウンド」「アクセルOFF時は腹に響く低周波による減速サウンド」だそうで、言われてみればなんとなくそんなふうに聞こえる。しかしサウンドというのはデザインと似ているところがあって、結局は個人の趣味趣向によって受け入れ方が異なるため、万人がまったく同じように感じるかどうかはなかなか難しい。いっぽうで、パワートレインの音を自在に創作できるなんて芸当は内燃機では絶対に無理なわけで、BEVにはその点に関して大いなる可能性があると思う。いずれはBEVでも音を聞いただけでメーカーが判別できる日がくるかもしれない。

試乗車の車重は2230kgもあって、同等の最大トルクを有する「GT-R NISMO」より約500kgも重いけれど、「重い」「遅い」はほとんど感じられない。息の長い加速が続くよう制御されているようで、気持ちよく速度が乗っていく。高速道路の追い越し加速でももたつきはないし、右足に力を込めれば瞬時にトルクが立ち上がるBEVらしい強力な加速感も味わえる。総じて思ったよりもジェントルな動力性能で、暴力的加速感が苦手な自分には好印象だった。

前後の駆動力を後輪優勢に振り分け、旋回力を重視したセッティングに。速さとともに気持ちよさを感じられる、ストリート重視のチューニングだ。
前後の駆動力を後輪優勢に振り分け、旋回力を重視したセッティングに。速さとともに気持ちよさを感じられる、ストリート重視のチューニングだ。拡大
インテリアはブラックを基調に赤のアクセントをあしらったいかにもスポーツカーらしいコーディネート。ウッド調パネルの表面もわざわざブラックに変更している。
インテリアはブラックを基調に赤のアクセントをあしらったいかにもスポーツカーらしいコーディネート。ウッド調パネルの表面もわざわざブラックに変更している。拡大
「nismo」ロゴ入りの専用シートの表皮はスエードタイプのファブリックと合皮の組み合わせ。他のNISMOロードカーのようなRECAROシートの設定はない。
「nismo」ロゴ入りの専用シートの表皮はスエードタイプのファブリックと合皮の組み合わせ。他のNISMOロードカーのようなRECAROシートの設定はない。拡大
センターコンソールは電動で前後にスライドする仕掛け。ここはベースモデルと同じだが、便利なことに変わりはない。
センターコンソールは電動で前後にスライドする仕掛け。ここはベースモデルと同じだが、便利なことに変わりはない。拡大

より曲がるシャシーセッティング

操縦性に強いこだわりを持ち、NISMO専属のテストドライバーが味つけをする足まわりは、前後スプリングのばね定数、フロントスタビライザーのばね定数、リアダンパーの減衰力などがこのクルマ専用の設定となっている。そしてe-4ORCE。e-4ORCEは簡単に言えば、クルマを曲げることにトラクションも利用する方法で、レクサスの「DIRECT4」も同じような思想である。

このクルマではコーナリング時にノーマルのアリアよりもフロントの駆動力配分を落としてフロントタイヤはより旋回に専念、リアのトラクションを上げて後ろから押し出すようにしてアンダーステアを抑え込むセッティングとしている。実際、旋回中のスタビリティーはとても高く、アクセルペダルを踏んでいくとさらにイン側へ巻き込んでいくような感覚だ。それでもステアリングの操舵角はそれほど大きくなく、思ったよりも奥が深いコーナーでも切り足すよりはアクセルペダルを少し踏み増したほうが速い旋回速度できれいに曲がれる。いわゆるライントレース性に優れた操縦性である。

前輪の操舵角や旋回速度などを考慮して駆動力配分などを状況に応じて最適化する制御のプログラムを書いているのは人であり、おそらく相当な走り込みを重ねてちょうどいい落としどころを探り当てたのだろう。クルマは電子制御のかたまりみたいになっていっても、そういったちょっと泥臭い車両開発は依然として重要なんだろうなと思った。BEVになってもとても日産らしい、NISMOらしい乗り味だった。

ただもし、本気でMやAMGと勝負するつもりであれば、装備などに関してはもう少し手をかける(=お金をかける)必要があるかもしれない。今回の試乗車の仕様だと車両価格は1000万円を超えてしまう。ライバルのこの価格帯の商品は、例えば内装には上質なレザーやウッドパネルなどがふんだんに使われているものもある。走りなどの動的質感は悪くないけれど、内装などの静的質感はさらなるレベルアップが必須のような気がした。

(文=渡辺慎太郎/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)

ばね定数をフロントで3%、リアで10%強化し、フロントはスタビのばね定数も15%強化。ダンパーの減衰力は前後とも専用にチューニングされている。
ばね定数をフロントで3%、リアで10%強化し、フロントはスタビのばね定数も15%強化。ダンパーの減衰力は前後とも専用にチューニングされている。拡大
ベースモデルの内装でも売りのひとつである「ANDONイルミネーション」をレッドに変更。車両内部に秘めたエネルギーが漏れ出すイメージだという。
ベースモデルの内装でも売りのひとつである「ANDONイルミネーション」をレッドに変更。車両内部に秘めたエネルギーが漏れ出すイメージだという。拡大
2本スポークのステアリングホイールには上下にセンターマークが入る。
2本スポークのステアリングホイールには上下にセンターマークが入る。拡大
ドライブモードには専用の「NISMO」を設定。力強いレスポンスなどが味わえるモードだが、実は「スタンダード」モードも専用にリセッティング。日常・長距離を余裕をもって軽快に走れるように仕立てられている。
ドライブモードには専用の「NISMO」を設定。力強いレスポンスなどが味わえるモードだが、実は「スタンダード」モードも専用にリセッティング。日常・長距離を余裕をもって軽快に走れるように仕立てられている。拡大

テスト車のデータ

日産アリアNISMO B9 e-4ORCE

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4650×1850×1660mm
ホイールベース:2775mm
車重:2220kg
駆動方式:4WD
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流同期電動機
フロントモーター最高出力:218PS(160kW)
フロントモーター最大トルク:300N・m(30.6kgf・m)
リアモーター最高出力:218PS(160kW)
リアモーター最大トルク:300N・m(30.6kgf・m)
タイヤ:(前)255/45R20 105W XL/(後)255/45R20 105W XL(ミシュラン・パイロットスポーツEV)
一充電走行距離:--km
交流電力量消費率:--Wh/km
価格:944万1300円/テスト車=1038万6855円
オプション装備:ボディーカラー<NISMOステルスグレー/ミッドナイトブラック>(8万2500円)/NISMO専用BOSEプレミアムサウンドシステム&10スピーカー<NISMO専用EVサウンド>(13万2000円)/プロパイロット2.0&プロパイロットリモートパーキング&ヘッドアップディスプレイ&ダブルシャークフィンアンテナ&ステアリングスイッチ(44万8800円)/パノラミックガラスルーフ<電動チルト&スライド、電動格納式シェード、リモート機能>(11万円)/ワイパーデアイサー(1万6500円) ※以下、販売店オプション ウィンドウはっ水 12カ月<フロント+フロントドアガラス>(1万3255円)/オリジナルドライブレコーダー<フロント+リア>(9万1900円)/NISMOフロアマット(6万7100円)

テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:1732km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:298.0km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:4.2km/kWh(車載電費計計測値)

日産アリアNISMO B9 e-4ORCE
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