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効率的クルマづくりの極み!? 新型「ゴルフ」はアリなのか?

2021.06.28 デイリーコラム 西川 淳

不満と不安が渦巻くなかで

実はかなり心配していたのだ。「ゴルフ8」の仕上がり具合を。

それもこれも、近ごろのフォルクスワーゲン新型車にコストダウンの痕が痛々しいほどはっきりと見えただけでなく、デザインや乗り味にもケレン味が増しているように思えたから。オリジナリティーに乏しいデザイン処理が目立っていたし、スポーティーに思わせたい一心のドライブフィールも気になっていた。

もとより高級ブランドではない。飾らないシンプリシティーこそ必要だ。以前は上級志向を標榜(ひょうぼう)して、骨太なファンからは批判も浴びた。とはいえ、安っぽい見栄えにも限度というものがある。「フォルクスワーゲンの生み出すモデルにはいちいち高いスタンダード性がある」と日ごろから言い募ってきた筆者などは、でっかい黄旗でも振って「前言撤回!」と叫びたくなったほどだ。

ゴルフ8に関して言えば、2019年末に本国でのデリバリーが始まっていたにもかかわらず日本へなかなかやってこないことも、そんな不安にさらなる拍車をかけた。いくらSUV全盛の時代だからといって、フォルクスワーゲンといえばゴルフが基本。すぐに持ってこないなんてあり得ない。新型「911」をなかなか売ってくれないポルシェくらいおかしな話。こりゃきっと、何かまずいことがあるに違いない……なんて邪推までしていた。

デビューは2019年10月だったから、日本での正式発表までに1年と8カ月もかかったことになる。今ゴルフを必要としない筆者(「ゴルフ2」には乗っていたけれど)でもこれだけ待ち遠しい気分だったのだから、熱心なファンの首はもはやキリン級に伸びていたに違いない。2021年2月9日に始まった先行予約は大変好調だという。

「ゴルフ8」こと、8世代目の「フォルクスワーゲン・ゴルフ」。デジタル化と電動化が、進化の目玉とされている。
「ゴルフ8」こと、8世代目の「フォルクスワーゲン・ゴルフ」。デジタル化と電動化が、進化の目玉とされている。拡大
国内において新型「ゴルフ」が発売されたのは2021年6月15日で、欧州での販売開始から1年半以上が経過していた。コロナ禍の影響など、それなりの理由があるかもしれないが……。
国内において新型「ゴルフ」が発売されたのは2021年6月15日で、欧州での販売開始から1年半以上が経過していた。コロナ禍の影響など、それなりの理由があるかもしれないが……。拡大
新型「ゴルフ」のコックピット周辺は、非常にシンプル。物理的なスイッチ類は、多くがタッチパネル内のアイコンに置き換えられている。それを洗練されていると思うか、あるいはコストダウンの象徴ととらえるか……。
新型「ゴルフ」のコックピット周辺は、非常にシンプル。物理的なスイッチ類は、多くがタッチパネル内のアイコンに置き換えられている。それを洗練されていると思うか、あるいはコストダウンの象徴ととらえるか……。拡大
新型「ゴルフ」の導入記念発表会においてあいさつする、フォルクスワーゲン グループ ジャパンのティル・シェア社長。次期型、つまり9代目の開発が決定していることが、その場でアナウンスされた。
新型「ゴルフ」の導入記念発表会においてあいさつする、フォルクスワーゲン グループ ジャパンのティル・シェア社長。次期型、つまり9代目の開発が決定していることが、その場でアナウンスされた。拡大

乗ってみれば「なるほど」

果たして、門外漢のそんな心配はほとんど杞憂(きゆう)にすぎなかったようだ。試乗してみると、新型ゴルフには、少なくとも動的には、昔ながらの高いスタンダード性があってホッと一安心。ここで言う高いスタンダード性とは、このクラス(欧州Cセグメントのハッチバック)にはこれくらいのパフォーマンスがあれば十分、これ以上ほかに何も要らないと思わせる(=スタンダードとして、ひとつの目標値となり得る)だけの安心感のこと、である。

筆者が特に感心させられたのは、999ccの3気筒エンジンを積みトレーリングアーム式のリアサスとなるベーシックグレードの「アクティブ」だった。なぜなら実にゴルフらしい乗り味であったから。

まずはゴルフ8における、動的性能面での最大のニュースとなった48Vマイルドハイブリッド化だ。これが非力な3気筒エンジンをそうとは思わせないほどスムーズに、かつ必要十分な力感を伴って走らせてくれたから驚いた。DCTの欠点もしっかり補っていて、シリンダーを1つ節約したことなど乗り手にバレそうにない。そのうえ、快活さも十分で、ワインディングロードでもそつなく楽しく過ごせた。ベーシックなパワートレイン&サスの仕様であっても乗り手に不満を抱かせることなく、街なかから高速道路、峠道までをこなすあたりが、ゴルフらしい。

もちろん、ベーシックでそうなのだから1.5リッターの4気筒グレードも悪くない。そりゃさらに良い。けれどもベーシックグレードで十分と思わせたうえでのまさしく上級性能だから、要らないといえば要らない。特にわずかに乗り心地良く粘り腰も効いたリア4リンクのシャシーパフォーマンスなどは、あって邪魔にならない、とはいうものの、絶対的に必要だとは思わない。パワートレインの性能もしかり。これくらいの差ならばよくできたベーシックで十分じゃないか、と判断させてくれるあたりもまたゴルフらしさであろう。

確かにコストダウンはゴルフ8でも“目に見えて”いた。けれどもここ最近のモデルに比べるとまだ気遣いがある。デジタルコックピットの採用も、個人的には好みじゃないけれど、見栄えにうまく作用していると思う。

残るは価格の問題だ。インポーターの苦労はおそらく値づけだったのではないか。必要な装備をしっかり載せてその名も「アクティブベーシック」というグレードをなんとか200万円台ギリギリの291万6000円で価格表に掲載した。ゴルフにしちゃ高いと思うかもしれないが、所得のまるで上がっていない、それが日本の現実というものだろう。ゴルフがいまだ世界のスタンダードモデルであり続けているからこそ、そのことが一層、身につまされた。

(文=西川 淳/写真=フォルクスワーゲン グループ ジャパン、荒川正幸/編集=関 顕也)

高速道路を行く「ゴルフeTSIアクティブ」。1リッターの小排気量とはいえ力強さは十分。アクセルオフ時にエンジンを停止して燃費を稼ぐコースティング機能も備わっている。
高速道路を行く「ゴルフeTSIアクティブ」。1リッターの小排気量とはいえ力強さは十分。アクセルオフ時にエンジンを停止して燃費を稼ぐコースティング機能も備わっている。拡大
3気筒ユニットとは思えないほどスムーズに回る「ゴルフeTSIアクティブ」のターボエンジン。街乗りでも高速道路でも、不満を感じることはない。
3気筒ユニットとは思えないほどスムーズに回る「ゴルフeTSIアクティブ」のターボエンジン。街乗りでも高速道路でも、不満を感じることはない。拡大
「ゴルフeTSIアクティブ」のシート。表皮の材質にはマイクロフリースが用いられている。
「ゴルフeTSIアクティブ」のシート。表皮の材質にはマイクロフリースが用いられている。拡大
新型「ゴルフ」の国内価格は291万6000円から。上級モデル「eTSI Rライン」の375万5000円が最高額となっている。
新型「ゴルフ」の国内価格は291万6000円から。上級モデル「eTSI Rライン」の375万5000円が最高額となっている。拡大
西川 淳

西川 淳

永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。

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