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ランドローバー・ディフェンダー90 S(4WD/8AT)

デコボコ道が呼んでいる 2021.07.02 試乗記 高平 高輝 新型「ランドローバー・ディフェンダー」はカッコいいけど大きいな~……と悩んでいた人に朗報だ。待ちに待ったショートホイールベース仕様「90」の国内デリバリーがようやくスタート。ロングホイールベース仕様「110」との違いを確かめるべく、早速林道に分け入ってみた。

至れり尽くせり

センターコンソールのタッチスクリーンからカメラを起動して「オフロード」モードを選ぶと、車両前方と足元まわりの路面状況が映し出され、センター/リアデフのロック具合も同時に確認できる。さらに例の「クリアサイトグラウンドビュー」を選ぶと、ボンネットを透視したかのような直下の映像が現れ、しかも「ライブでない」(合成映像)との注意が表示されるのだから、何とも配慮が行き届いている。私のような世代からすると、仮にもランドローバーに乗ろうとするドライバーなのだから、ちょっと甘やかしすぎではないかと感じるほどだが、これが現代のディフェンダーである。

それに比べれば昔はとんでもなく面倒だった。また昔話かよ、と言わずに少々お付き合いください。例えばパートタイム4WD車の前輪(駆動輪ではないほう)にフリーホイールハブというものが付いていたことをご存じだろうか。トランスファーを2WD/4WDに切り替えるだけでなく、必要に応じて手動で切り替える必要があった。1990年代半ばまでは「ジムニー」など多くのクロカン4WDに備わっていた機構で、これからオフロードに踏み入るという際に(オンロードでは走行抵抗を減らすためにフリーにしておく)、クルマを降りて左右のハブのつまみを回してロック状態に切り替えて初めて4WDになるというもの。現実には切り替えもスムーズにはいかず、ちょっと動かしてかみ合わせを確認する必要があったし、そもそも足場が悪いところでクルマ降りて作業しなければならず、まあ厄介なものだった。それが今では、本格派4WDの王者たるディフェンダーでもボタンひとつでローレンジ選択や車高調整ができる。まさに隔世の感あり、である。

試乗車はエントリーグレードの1つ上となる「ディフェンダー90 S」の2021年モデル。既に2021年6月28日付で2022年モデルの導入が発表されている。
試乗車はエントリーグレードの1つ上となる「ディフェンダー90 S」の2021年モデル。既に2021年6月28日付で2022年モデルの導入が発表されている。拡大
センタースクリーンには車両前方と左右のフロントタイヤ周辺を同時に映し出すことができる。オフロードでももちろん便利な機能だが、画面では「オンロード」の部分が強調されている。
センタースクリーンには車両前方と左右のフロントタイヤ周辺を同時に映し出すことができる。オフロードでももちろん便利な機能だが、画面では「オンロード」の部分が強調されている。拡大
「オフロード」に切り替えるとボンネットを透かしたような合成映像の「クリアサイトグラウンドビュー」に切り替わる。右側にはデフロックなどパワートレインの情報が表示される。画面中央上部に「ライブでない」と2つ表示されている。
「オフロード」に切り替えるとボンネットを透かしたような合成映像の「クリアサイトグラウンドビュー」に切り替わる。右側にはデフロックなどパワートレインの情報が表示される。画面中央上部に「ライブでない」と2つ表示されている。拡大
ナビゲーションの情報は液晶式のメーターパネルにも表示できるので、センタースクリーンを「クリアサイトグラウンドビュー」で占有していても大丈夫。
ナビゲーションの情報は液晶式のメーターパネルにも表示できるので、センタースクリーンを「クリアサイトグラウンドビュー」で占有していても大丈夫。拡大
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40cmあまり短い「90」

ようやく上陸した新型ディフェンダー90は言うまでもなくショートホイールベースの3ドア仕様である。90はロングホイールベースの「110」と同時に2019年には発表され、注文も受け付けていたが、2020年夏以降デリバリーは110に限られていた。その車両寸法は4510×1995×1970mm、ホイールベースが2585mmというもの。110は同じく4945×1995×1970mmでホイールベースが3020mmである。つまり90のほうが110よりホイールベースも全長も435mm短く、そのせいで真横から見ると“チョロQ”のような奇妙なプロポーションが強調されている。

ちなみにこれは日本のカタログ表記なので、バックドアに背負っているスペアタイヤは勘定に入っていない。スペア込みの本国の表記では全長はそれぞれ4583mmと5018mmで、さらにホイールベースは2587mm(101.9インチ)と3022mm(119インチ)だが、いわゆる型式認定の審査基準による「二捨三入の5mm刻み」で上記の数値となる。つまり、新型のモデルナンバーはそのままホイールベースを示しているのではなく、伝統に基づいて3ドアと5ドアを区別する記号なのである。先代モデルのディフェンダー90も実は93インチ(2360mm、110はホイールベース2794mmでモデル名通り)だった。

ボディーの全長は「110」よりも435mm短い4510mm(リアのスペアタイヤを除く)。ホイールベース間は長いドアが占めている。
ボディーの全長は「110」よりも435mm短い4510mm(リアのスペアタイヤを除く)。ホイールベース間は長いドアが占めている。拡大
「S」では本来19インチのアルミホイールが標準装備だが、この試乗車はエントリーグレード用の18インチスチールホイールをチョイスしていた。ホワイトカラーがいい感じだ。
「S」では本来19インチのアルミホイールが標準装備だが、この試乗車はエントリーグレード用の18インチスチールホイールをチョイスしていた。ホワイトカラーがいい感じだ。拡大
フロントマスクやリアエンドのデザインは「90」も「110」も変わらない。
フロントマスクやリアエンドのデザインは「90」も「110」も変わらない。拡大

大きな違いはリアシート

ホイールベースが40cmも短いとリアシートは実用に足るのかと不安になるが、これには少々説明が要る。まずドアの大きさがずいぶんと違うのだ。別の機会に実測したが、3ドアは長さ1330mm、5ドアのフロントドアは1130mmと20cmも短い。これだけ違うと、後席への出入りのためにドアを全開にするスペースを見つけるのに苦労する。

いったん乗り込んでしまえばリアシートの膝まわりと足元にはまずまずの広さがあって窮屈な感じはしないが、その代わりに、ちょうどリアシートの下に駆動系を抱える位置関係になるせいでフロアが高い。リアシート座面との高低差が十分ではないので、まるでミニバンの3列目シートのように膝を抱えるような姿勢、いわゆる体育座りを強いられるのだ。おかげでリアシートにはちょこんとお尻だけで浅く腰かけるような姿勢になり、長時間はすすめられない。

もちろん、短いボディーゆえに車両重量は2リッターガソリンターボ「P300」のエアサスペンション仕様同士で90は2100kg(試乗車の車検証記載値は2200kg)、110は2240kgとだいぶ異なり、公称パフォーマンスも110の0-100km/h加速7.4秒に対して7.1秒と速い(最高速は191km/hで同一)。車重2tを優に超える大型SUVにして7秒ちょっとの加速タイムは間違いなく俊足といえる。

さらに実用面で大きな影響を及ぼす最小回転半径は5.3m(110は6.1m)と大違い。実際に110よりずいぶんと扱いやすく感じたが、全幅は同じなので要注意である。またラゲッジスペースも90は標準時297リッター~最大1263リッター、110は同じく786~1875リッターと大差がついているが、これは30cmほど短い荷室の奥行きの違いによるものだ。

インテリアカラーは試乗車の「エボニー」のほか「ベージュ」と「カーキ」も追加コストなしで選べる。
インテリアカラーは試乗車の「エボニー」のほか「ベージュ」と「カーキ」も追加コストなしで選べる。拡大
シートは合皮とファブリックのコンビ表皮が標準で、リクライニングとランバーサポートのみ電動調整が可能。試乗車はウオークスルー仕様だったが、本来はセンターコンソール仕様が標準だ(無償で変更可能)。
シートは合皮とファブリックのコンビ表皮が標準で、リクライニングとランバーサポートのみ電動調整が可能。試乗車はウオークスルー仕様だったが、本来はセンターコンソール仕様が標準だ(無償で変更可能)。拡大
リアシートは座面と床面との高低差が小さいのがちょっとネック。リアアクスルのすぐ上に座ることになるため、シートの左右にホイールハウスのせり出しがある。
リアシートは座面と床面との高低差が小さいのがちょっとネック。リアアクスルのすぐ上に座ることになるため、シートの左右にホイールハウスのせり出しがある。拡大
荷室の容量は297リッター(写真)~1263リッター。床面、後席背もたれの裏面ともハードなプラスチックでカバーされている。
荷室の容量は297リッター(写真)~1263リッター。床面、後席背もたれの裏面ともハードなプラスチックでカバーされている。拡大
トランスミッションは8段のトルコン式AT。ダイヤルの周囲にローレンジへの切り替えスイッチやドライブモードセレクター「テレインレスポンス2」の操作スイッチが並んでいる。
トランスミッションは8段のトルコン式AT。ダイヤルの周囲にローレンジへの切り替えスイッチやドライブモードセレクター「テレインレスポンス2」の操作スイッチが並んでいる。拡大

乗り心地を取るか、軽快さを取るか

本国では既にガソリン6気筒のマイルドハイブリッドやガソリン4気筒のプラグインハイブリッド、さらにはスーパーチャージャー付きの5リッターV8まで設定されているが、日本仕様の90のパワートレインは今のところ110にも搭載されているP300仕様の2リッター直4ガソリンターボに限られる。スペックは最高出力300PS/5500rpmと最大トルク400N・m/2000rpmで変速機はZFのローレンジ付き8段AT、ランドローバーの他のモデル同様、ローレンジへの切り替えもすべてスイッチひとつで操作できるのが新しい。

コイルスプリング仕様にはまだ乗ったことがないが、電子制御エアサスペンションと可変ダンパー付きのディフェンダーは、かつてを知る人ならびっくりするほど乗り心地は静かで滑らか、ちょっと前の「レンジローバー」並みと言っていいほどだ。とはいえ、快適性に関してはやはりホイールベースの違いか、電子制御エアサスペンションと「アダプティブダイナミクス」(可変スタビライザー)をもってしても、路面によっては上下動が収まらず、ちょっと落ち着きがない。ピッチングが気になるというほど深刻なものではなく、重心の高いSUVとしては上々の部類に入るのだが(例えばメルセデスの「Gクラス」より快適だ)、比べれば明らかに110のほうがフラットで平穏である。

ディフェンダーは、それこそ「Meridianサウンドシステム」からリモコン式電動ウインチまでありとあらゆるオプションがそろっているのが特徴だ。ただし、雰囲気に引かれていろいろと盛り込むとあっという間に高価になる。試乗車の「90 S」は下から2番目のグレードで本体価格は611万円だが、エアサスペンションや「アドバンストオフロードケイパビリティーパック」など合計200万円近いオプションが装着されていた。ちなみに、ディフェンダーらしい「タスマンブルー」のボディーカラーやホワイトルーフもオプションである(18インチのスチールホイールとタイヤは無償オプション)。うーん、だったらもっとベーシックなコイルスプリング仕様も試してみたい、という気持ちは私もまったく同じである。

(文=高平高輝/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)

試乗車はオプションのエアサスペンションを装備していた(スタンダードはコイルサス)。最低地上高は216mmが標準で、-40mmから+145mmの範囲で任意に調整できる。「オフロード」モード時には291mmに設定される。
試乗車はオプションのエアサスペンションを装備していた(スタンダードはコイルサス)。最低地上高は216mmが標準で、-40mmから+145mmの範囲で任意に調整できる。「オフロード」モード時には291mmに設定される。拡大
エアサスペンション装着車のアプローチアングルは37.5度(「オフロード」モード)。
エアサスペンション装着車のアプローチアングルは37.5度(「オフロード」モード)。拡大
エアサスペンション装着車のディパーチャーアングルは40.0度(「オフロード」モード)。凹凸を乗り越える際に基準となるランプブレークオーバーアングルは31.0度で、いわゆるスリーアングルのなかではこの値のみ「110」を上回っている(110は28.0度)。
エアサスペンション装着車のディパーチャーアングルは40.0度(「オフロード」モード)。凹凸を乗り越える際に基準となるランプブレークオーバーアングルは31.0度で、いわゆるスリーアングルのなかではこの値のみ「110」を上回っている(110は28.0度)。拡大
可変スタビライザーの「アダプティブダイナミクス」はホイールポジションを毎秒500回、ボディーの動きを毎秒100回モニターし、ボディーのロールを最小限に抑えてくれる。
可変スタビライザーの「アダプティブダイナミクス」はホイールポジションを毎秒500回、ボディーの動きを毎秒100回モニターし、ボディーのロールを最小限に抑えてくれる。拡大
雨水が削ってできた溝にリアタイヤを落としてみる。ホイールトラベルの長さはさすが「ディフェンダー」だ。
雨水が削ってできた溝にリアタイヤを落としてみる。ホイールトラベルの長さはさすが「ディフェンダー」だ。拡大

テスト車のデータ

ランドローバー・ディフェンダー90 S

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4510×1995×1970mm
ホイールベース:2585mm
車重:2200kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:300PS(221kW)/5500rpm
最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)/2000rpm
タイヤ:(前)255/70R18 116H M+S/(後)255/70R18 116H M+S(グッドイヤー・ラングラー オールテレインアドベンチャー)
燃費:8.3km/リッター(WLTCモード)
価格:611万円/テスト車=802万1000円
オプション装備:ボディーカラー<タスマンブルー>(10万1000円)/エアサスペンションパック(34万1000円)/WiFi接続<データプラン付き>(3万6000円)/18インチフルサイズスチールスペアホイール(0円)/ClearSightインテリアリアビューミラー(10万4000円)/18インチ“スタイル5093”スチールホイール<グロスホワイトフィニッシュ>(0円)/スライディングパノラミックルーフ(31万6000円)/キャビンウオークスルー(0円)/シグネチャーグラフィック<収納スペース付き>(2万2000円)/プライバシーガラス(8万5000円)/フロントフォグランプ(3万1000円)/プレミアムLEDヘッドライト<シグネチャーDRL付き>(6万3000円)/アクティビティーキー(6万1000円)/コールドクライメートパック(10万9000円)/アドバンストオフロードケイパビリティーパック(20万1000円)/オフロードパック(24万円)/コントラストルーフ<ホワイト>(14万3000円)/ギアシフト<レザー>(5万8000円)/

テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:652km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:456.7km
使用燃料:59.6リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.7km/リッター (満タン法)/7.9km/リッター(車載燃費計計測値)

ランドローバー・ディフェンダー90 S
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