10戦6勝の快進撃! 2021年のホンダF1の強さの秘密はどこにある?
2021.07.21 デイリーコラム1988年以来の快挙
2021年F1シーズンにおけるホンダの快進撃が、2020年10月2日に行った「参戦終了」の発表に端を発しているのは、なんとも皮肉だ。この日、ホンダは2021年シーズンをもってF1へのパワーユニットサプライヤーとしての参戦を終了すると発表した。ホンダは2015年からマクラーレンにパワーユニットを供給することで、F1に再参戦を果たした。2018年からはトロロッソ(現アルファタウリ)に供給先をスイッチし、2019年からはレッドブルをパートナーに加えて現在に至っている。
第10戦終了時点でレッドブルが6勝(マックス・フェルスタッペンが5勝、セルジオ・ペレスが1勝)を挙げている。第5戦から第9戦までは5連勝を記録した。ホンダのパワーユニットを積んだチームが5連勝するのは、アイルトン・セナとアラン・プロストを擁して開幕から11連勝した1988年のマクラーレン・ホンダ時代以来、33年ぶりの快挙である。レッドブルにとっても、2013年の9連勝に次ぐ史上2位の連勝記録だ。F1史上初のスプリント予選となった第10戦でもフェルスタッペンがポールポジションを獲得。しかし決勝ではオープニングラップでクラッシュし、リタイアとなってしまったのはすでに報じられている通りだ。
2021年シーズン限りで参戦終了せず、2022年以降も継続するつもりで活動を続けていたら、今シーズンのようなホンダの快進撃は実現していないかもしれない。なぜなら、2021年型の「レッドブルRB16B」と「アルファタウリAT02」が搭載する「ホンダRA621H」は本来、2022年に投入する予定になっていたからだ。
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受け入れられた直談判
いや、本来は2021年シーズンに投入すべく、開発を行っていたのだ。予定が変わったのは2020年春のこと。新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて、本田技研工業の収益の見通しが立たなくなった。本業あってのレースであり、F1参戦活動である。開発費を抑えるため、2021年の投入に向けて開発していた新骨格パワーユニットの開発をいったん凍結し、2022年シーズンに投入することにした。
そこに、参戦終了の知らせが入った。2021年シーズン限りで参戦終了したのでは、2022年に投入するはずだった新骨格のパワーユニットは永遠に日の目を見ることがなくなってしまう。そんなことがあっていいのか。2020年の延長線上で新シーズンに臨んでも、メルセデスに太刀打ちできないことは、戦いの最前線にいる技術者には痛いほどわかっていた。
そこで、F1パワーユニット開発総責任者の浅木泰昭氏は八郷隆弘社長(当時)に直談判し、予定よりも開発費は増えてしまうけれども、新骨格の投入を許可してほしいと願い出た。願いは受け入れられて現在があるのだが、大変だったのはレッドブルだった。通常は春ごろに次の年の車体設計に本格的に着手する。そのタイミングから半年も遅れて新骨格のパワーユニットに切り替えるというのだから。モノコックやギアボックスの接続ポイントはもとより、補機類や熱交換器のレイアウトにも影響はおよぶし、カウルの形状や、カウルの下を流れる空気の流れにも影響を与える。
つまり、大仕事。それでもレッドブルは「搭載しよう」とこころよく引き受けてくれたという。レッドブルとしても、2020年仕様をベースにしたパワーユニットでは、メルセデスと勝負にならないことを認識していたからだ。時間的には厳しいが、考えようによっては、朗報である。
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苦しんだ経験が糧に
新骨格とは何を指すのかといえば、「カムシャフトの位置を相当下げた」と、浅木氏の口から公表されている。「一番やりたかったのは、頭打ちになっている馬力を改善するための、燃焼室の改良。燃焼室の形状を変えるためには、バルブ挟み角を変えることが必要」と付け加えている。
バルブ挟み角を小さくして燃焼室をコンパクトにし、圧縮比を向上させたのだろう。幾何学的圧縮比の上限はテクニカルレギュレーションで「18.0」に定められている。参戦初期のころは「とても無理」と言っていた数字だが、どこまで近づけることができただろうか。ホンダは、高い圧縮比でもノッキングを回避しつつ安定して燃焼させられる技術を確立したということだ。新骨格のパワーユニットは隣り合うシリンダーの中心間の距離、すなわちボアピッチ(ボア間寸法)も詰め、エンジン本体をコンパクトにした。これは車両全体のパフォーマンス向上に効く。
2020年までのパワーユニットの骨格では、MGU-H(熱エネルギー回生システム)の発電量を落とさないと馬力は出せないし、馬力だけを出すにしても限界が見えていた。圧縮比の向上によってそれをブレイクスルーしたのが新骨格のパワーユニットである。開発凍結を解除してから短期間でまとめ上げるには信頼性確保の観点からも厳しかったが、そこは2015年の再参戦以来、散々苦しんだ経験が生き、ものの見事にクリアして現在に至っている。
「世界一の技術者になる」という意地が最後に花開いた格好だ。
(文=世良耕太/写真=本田技研工業/編集=藤沢 勝)
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世良 耕太
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