ロータスの新型スポーツカー「エミーラ」ってどうなの? その将来性をスペックから考える
2021.07.26 デイリーコラムまさに“正常進化”の風情
内燃機関を搭載する最後のロータスとして2021年7月6日にデビューした「エミーラ」については、さっそくエンスージアストの間で賛否両論が沸騰しているようだ。歴史ある名門スポーツカーゆえに「○○かくあるべし」という一家言をもつ熱狂的なファンも多く、なにをどうしたところで、当然ながら賛もあれば否もある。
エミーラの前身はいうまでもなく、先日生産終了となった「エリーゼ」「エキシージ」「エヴォーラ」という3台のミドシップスポーツカーだ。これら3台はよく似た骨格設計をもつ兄弟車であり、全長や全幅、ホイールベースをそれぞれキメ細かく変えることで、クラスや顧客層を差別化していた。エミーラのプラットフォームはゼロからの新開発だが、アルミ押し出し材と接着技術を駆使した骨格構造や、エンジン横置きミドシップというレイアウトなどは、まさに“正常進化”といった風情である。
エミーラのスリーサイズ(全長×全幅×全高)は4412×1895×1225mm、ホイールベースは2575mmとなっている。全長は従来でもっとも大きかったエヴォーラより長く、全幅は歴代のどのロータスよりも幅広い。2575mmというホイールベースはエヴォーラと同寸だが、たとえば「ポルシェ718ケイマン」のそれより100mm大きく、このクラスのミドシップとしては長い。このロングホイールベースが208リッターというシート後方収納空間にも寄与しているはずだ。また、現時点では2人乗りといわれるエミーラだが、エヴォーラ同様に2+2シーターがオプションで用意される可能性もある。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
仮想的はポルシェの「ケイマン」?
エンジンは最終的に、おなじみのトヨタ製3.5リッターV6に加えて、メルセデスAMG製の2リッター直4ターボがDCTと組み合わせて搭載されるという。予定される最高出力/最大トルクは360~405PS/430N・mというから、メルセデスAMGの現行「A45 S」よりは穏やかなチューンになりそうだ。ミドシップといえどもエミーラは2WD。4WDのA45 Sと同等の出力/トルクは過剰という判断か。
目標車重は1405kg。歴代ロータスでは最重量級といっていいが、レザーでフルトリミングされた内装や電動シート、最新の先進運転支援システム、2枚の大型TFT液晶、高級ブランドオーディオ、さらに従来以上に幅広い体格をカバーするというドラポジ、電動油圧パワステなどを考えると、軽量化対策はかなり入念だと想像される。さらに最高速度は290km/h、0-100km/h加速で4.5秒以下という目標スペックも公表されている。
ここまででお気づきのマニアもいるかもしれないが、そのエンジンスペックから車重、動力性能にいたるまで、エミーラが掲げる数値は見事なまでに最新の718ケイマンとドンピシャだ。もう少し細かくいうと、エミーラは素のケイマンと同じ2リッターターボで、6気筒の「GTS 4.0」と同等以上の性能を目指している。
こうしたエミーラのスペックについて、筋金入りのロータスファンの間では、「重厚長大な高性能路線で、ロータスらしくない」という意見も少なくない。これまで販売台数が多かったロータスは最小軽量のエリーゼで、続いてエキシージ、エヴォーラの順だった。エリーゼは4m以下の全長と1tを切る車重によって、最高出力136~220PSのエンジンで俊敏に走るライトウェイトスポーツカーだった。ライトウェイトスポーツは創業以来のロータスの伝統でもあり、エリーゼこそがロータスらしいロータス……と考えるファンが多いことは、その販売台数からも容易に想像できる。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
ブランドそのものを変える力に
ただ、マネージングディレクターとして現在のロータスを率いるマット・ウィンドル氏は、エミーラの登場に際して「これまでのロータスは人々が欲しがるものを素直に市場に出していませんでした。ロータスはいま、人々が本当に望むものをつくろうとしています」と語っている。この言葉の意味するところはなにか?
エリーゼはたしかに伝統的なロータスファンの間で根強い支持を受けてきたが、そのスパルタンすぎる内容は一般的に広く受け入れられる商品とはいいがたい。エヴォーラはそれとは対照的に、スポーツカー世界王者であるポルシェを強く意識して開発された、実用的で上質なスポーツカーだった。本来であれば、エリーゼより一般的なつくりのエヴォーラのほうが販売台数も多くてしかるべきなのに、実際にはエリーゼがもっとも多く売れて、エヴォーラの販売台数はエリーゼどころか、エキシージよりも少なかったのだ。
こうした“ねじれ構造”の解消こそが、ロータスがグローバルスポーツカーブランドとしてひと皮むけるためには不可欠……と、ウィンドル氏率いる新しいロータス経営陣は考えているのだろう。エミーラは、ロータスが今もっとも勝負をかけたい市場=ケイマンが君臨するミドルスポーツカー市場のど真ん中に投入される勝負モデルということだ。
さらにウィンドル氏は、エミーラの存在意義を「10年後にブランドの完全なるEV化と新時代を受け入れる前の……」とも語っている。ロータスはこうしてエミーラを発表しつつも同時にEV(電気自動車)化に大きくカジを切っており、現在はアルピーヌとEVスポーツカーを共同開発中である。そのプラットフームはエミーラとは別物のEV専用だそうで、一説にはバッテリーを床下ではなく、キャビン背後にミドシップ搭載するのだという。アルピーヌとの共同開発ならば小型軽量スポーツカーである可能性も高い。だとすれば、このロータス最初のEVこそが新時代のライトウェイトロータスにして、エリーゼの正統な後継機種なのかもしれない。
(文=佐野弘宗/写真=ロータスカーズ/編集=関 顕也)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
-
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える 2025.10.20 “ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る!
-
スバルのBEV戦略を大解剖! 4台の次世代モデルの全容と日本導入予定を解説する 2025.10.17 改良型「ソルテラ」に新型車「トレイルシーカー」と、ジャパンモビリティショーに2台の電気自動車(BEV)を出展すると発表したスバル。しかし、彼らの次世代BEVはこれだけではない。4台を数える将来のラインナップと、日本導入予定モデルの概要を解説する。
-
ミシュランもオールシーズンタイヤに本腰 全天候型タイヤは次代のスタンダードになるか? 2025.10.16 季節や天候を問わず、多くの道を走れるオールシーズンタイヤ。かつての「雪道も走れる」から、いまや快適性や低燃費性能がセリングポイントになるほどに進化を遂げている。注目のニューフェイスとオールシーズンタイヤの最新トレンドをリポートする。
-
マイルドハイブリッドとストロングハイブリッドはどこが違うのか? 2025.10.15 ハイブリッド車の多様化が進んでいる。システムは大きく「ストロングハイブリッド」と「マイルドハイブリッド」に分けられるわけだが、具体的にどんな違いがあり、機能的にはどんな差があるのだろうか。線引きできるポイントを考える。
-
ただいま鋭意開発中!? 次期「ダイハツ・コペン」を予想する 2025.10.13 ダイハツが軽スポーツカー「コペン」の生産終了を宣言。しかしその一方で、新たなコペンの開発にも取り組んでいるという。実現した際には、どんなクルマになるだろうか? 同モデルに詳しい工藤貴宏は、こう考える。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。