ロータス・エミーラ ターボSE(MR/8AT)
ハレとケの間の切れ味 2025.07.14 試乗記 初期受注モデルがようやく(?)行き届き、カタログモデルの販売がスタートした「ロータス・エミーラ」。2リッターターボ車にさらなるハイパワー版の「ターボSE」が設定されたのがトピックだ。ロータスのハイパワー版と聞くとつい身構えてしまうが、果たしてその仕上がりは?我慢こそ善、という時代もあった
昔々、編集部の先輩たちは「楽ちんなクルマなどスポーツカーではない」と公言していたものである。“スポーツ”なのだから、余分なものを徹底的にそぎ落として走りに特化するのは当然で、快適性を求めるなど軟弱である、との意見は当時のクルマ好きの間でも多数派だったと思う。初代「NSX」のリアトランクの大きさが議論された時代でもあった。とはいえ、安全性や環境性能が重視される昨今、スパルタンなスポーツカーは生きづらい。そもそも日常使用にある種のやせ我慢が必要なクルマが敬遠されるのは当たり前であり、どうしても限られたエンスージアスト向けになる。それを打開するための新世代のロータスがエミーラである。実用性と洗練度を向上させて間口を広げ、より多くのカスタマーを引きつけようというのはロータスの悲願でもある。仮想敵はやはり価格もパフォーマンスも非常に近い「ポルシェ911カレラ」ということになろう。
2リッター4気筒ターボモデルも3.5リッターV6スーパーチャージャーモデルもこれまでは「ファーストエディション」のみだったが、2024年秋に発表されたこの2025年モデルから通常のラインナップとなり、「エミーラ ターボ」「エミーラ ターボSE」「エミーラV6」の3車種が用意されている。このうち高性能版2リッターターボを積むターボSEが新たに加わった新顔で、価格は約1823万円となる。
高性能版のターボSE
以前から使用していたトヨタ由来のV6スーパーチャージドエンジンに加えて、内燃エンジン搭載のロータスの掉尾(とうび)を飾ることになるエミーラのパワーユニットに選ばれたのがメルセデスAMG製のM139型2リッター4気筒ターボである。ご存じ「メルセデスAMG A45 S 4MATIC+」に搭載されているクラス最強の4気筒エンジンを8段DCTの変速機もろともに横置きにミドシップしている(V6と違い4気筒モデルにはMTは用意されない)。
AMG A45 Sの直4ターボは最高出力421PSと最大トルク500N・mという2リッターとしてはとんでもないパワーを誇るが、エミーラ ターボSEの場合はそこまでのハイチューンではなく、406PS/6500rpmと480N・m/4500-5500rpmを生み出す。とはいえ、エミーラ ターボは365PS/7200rpmと430N・m/3000-5500rpm(ファーストエディションと同じスペック)だったからかなりのパワーアップである。0-100km/h加速は4.0秒、最高速は291km/hと発表されており(エミーラ ターボはそれぞれ4.4秒と275km/h、V6の6AT仕様は4.2秒と288km/h)、それゆえ最速のエミーラを名乗る。
扱いやすさとさく裂感
ファーストエディションに比べて41PSと50N・m強力になったターボSEだが、「ツアー」モード(他に「スポーツ」「トラック」を選択可)で普通に走る限り、ごく扱いやすくしかも予想以上に静かである。最終型でも940kgしかなかったかつての「エリーゼ」とは比べものにならないが、相対的に軽量な1470kg(車検証記載値)のボディーは、トントンとシフトアップながら軽々と加速する。深く踏み込めばもちろん一気呵成(かせい)に吹け上がり、いかにも高回転型らしく(最大トルク発生回転はターボ車としては珍しいぐらい高い)、トップエンドではパワーがさく裂するが、その鋭さに比べると低中速域のレスポンスはそれほど刺激的ではない。
山道では鋭い吹け上がりに対してギア比の低い8段DCTがせわしなく(2速上限は80km/hほど、3速は120km/h)、といってステップアップ比がばっちりというわけでもなく、何だかちょっともどかしい。マニュアルモードで目いっぱい高回転をキープすれば別だが、四六時中臨戦態勢でいるわけにもいかないし、公道ではV6+6ATのほうがギア比も適切で、柔軟に気持ちよく走れるように思う。また加減速を繰り返す渋滞の中では若干シフトショックが大きめであり、滑らかな変速よりもオープンロードでの切れ味重視に感じられた。
毎日乗れる、かな?
電子制御ダンパーの類いを持たない足まわりは相応に引き締まっているが、ガチガチのスパルタンな足まわりというほどではない。それでも以前試乗したエミーラV6よりは攻撃的なというか、サーキット走行も考慮したキャラクターのようだ。ターボSEにはローンチコントロールやトラックモードなどからなる「ロータスドライバーズパック」が標準装備されており(ターボは50万6000円のオプション)、またツーリングシャシーとスポーツシャシーという2種類の足まわりのうちのスポーツが標準となる(ツーリングも選択可能)。タイヤは「グッドイヤー・イーグルF1スーパースポーツ」が基本だが、スポーツシャシーでは別途オプションとしてサーキット走行向けの「ミシュラン・パイロットスポーツ カップ2」と組み合わせることもできる(どちらも「LTS」の文字が刻まれたロータス認証品)。
スポーツシャシー+イーグルF1の組み合わせのターボSEは不整路を越える際のダイレクトなショックは明確だが、足まわりはスムーズにストロークしているようで粗野なハーシュネスなども抑えられている。うねりがあるような路面でのスタビリティーも問題ないが、リラックスしてクルーズできるほどではない。水すましのような俊敏さの代わりに、常にある程度の緊張感とともに身構えている必要がある。この塩梅(あんばい)をどう捉えるかによって、評価が変わるだろう。ピリピリと緊張を強いられるようなクルマに毎日乗るなんて無理、と思うか、そういう緊張感こそスポーツカーの醍醐味(だいごみ)として歓迎するか。
2シーターのエミーラのシート背後にはかなり実用的な荷物棚(208リッター)が備わり(ホイールベースは2+2シーターだった「エヴォーラ」と同じ2575mm)、さらにエンジン後方のトランクも151リッターの容量を持ち、ゴルフバッグも収められるという。ロータスがゴルフバッグに言及する時代になっても、乗る人にある種の覚悟を求めるのは変わらないのである。
(文=高平高輝/写真=山本佳吾/編集=藤沢 勝/車両協力=ロータス)
テスト車のデータ
ロータス・エミーラ ターボSE
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4412×1895×1225mm
ホイールベース:2575mm
車重:1470kg
駆動方式:MR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:406PS(298kW)/6500rpm
最大トルク:480N・m(48.9kgf・m)/4500-5500rpm
タイヤ:(前)245/35ZR20 95Y XL/(後)295/30ZR20 101Y XL(グッドイヤー・イーグルF1スーパースポーツ)
燃費:--km/リッター
価格:1823万1400円/テスト車=1900万5800円
オプション装備:オプション装備:エクステリアペイント<ダークバーダント>(23万9800円)/20インチVスポーク鍛造ダイヤモンドカットホイール(7万5900円)/イエローブレーキキャリパー(7万5900円)/インテリアテーマ<タンナッパレザー>(5万7200円)/シートヒーター(5万8300円)/KEFプレミアムオーディオ(19万1400円)/プライバシーティントガラス(7万5900円)
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:2701km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:285.6km
使用燃料:40.6リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.0km/リッター(満タン法)/7.2km/リッター(車載燃費計計測値)
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高平 高輝
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