フォルクスワーゲン・ゴルフeTSI Rライン(FF/7AT)
勝つだけでは足りない王者の憂鬱 2021.07.30 試乗記 やはり排気量は正義である。新型「フォルクスワーゲン・ゴルフ」の1.5リッターモデルには、1リッターモデルに抱いたような不満がまったく感じられない。ただし、それはパワートレインに限った話で、新型全体に共通する操作系の使い勝手は人を選ぶのではないだろうか。高いと感じるのは日本人だけ?
コンパクトハッチのお手本とかCセグメントのベンチマークなどと持ち上げられても、要するに新型は常に旧型を上回ることを期待され、同時に何とかして隙を突こうとするライバルに狙われているのだから、本当に大変だ。まあ、王者とはそういうものである。
既にご承知の通り、通算8代目の新型ゴルフには1リッター3気筒と1.5リッター4気筒の直噴ターボエンジンに48Vのマイルドハイブリッドシステムを組み合わせたパワートレインが搭載されている。今のところ日本仕様はこの2種類のeTSIパワートレインだけであり、うち1.5リッターeTSIを積むのは「スタイル」と「Rライン」という2車種のみとなっている。ただし、本国では既にさまざまなパワートレインが出そろっている。何しろゴルフの発表は1年半以上前のことだ。試乗車の取扱説明書の表紙には早くもというか、どうせ入れるのだからまとめてということなのか、もう「GTI」も「GTD」も「R」の名前も一緒に載っていた。こういう点でも、ああ時間かかったものね、とタイムラグを実感させられる。
ゴルフのなかではスポーティーなグレードということになっているRラインの本体価格は375.5万円(スタイルは5万円安い)、ヘッドアップディスプレイやマトリクスLEDライトの「IQ.ライト」などの「テクノロジーパッケージ」(16.5万円)は必要ないと我慢する人でも、カーナビを含むインフォテインメントシステムの「ディスカバープロパッケージ」(19.8万円)はほぼ間違いなく装着するはず。そうするとそれだけでほとんど400万円、このクルマのように両方のパッケージオプションに加えて電動パノラマガラスサンルーフとHarman/Kardonオーディオの「ラグジュアリーパッケージ」(23.1万円)を装着すると430万円を超えてしまう(実際にはさらにオプションカラーの6.6万円がプラス)。確か従来型はGTIでも最初は400万円以下で買えたよな? と思い出す人も多いだろう。そう、新型ゴルフは値段だけを見ると、ちょっとお高い。進化した装備を考えればある意味当然の上昇だが、先進国のなかでほぼ唯一所得が増えていない日本人にとっては、どうしても割高感があるのだ。
1.5 eTSIは文句なし
とはいえ「アクティブ ベーシック」と「アクティブ」に搭載される1リッターeTSIとは、当たり前だが明らかな違いがある。最高出力110PS/5500rpmと最大トルク200N・m/2000-3000rpmを生み出す1リッター3気筒直噴ターボに対して1.5リッター4気筒直噴ターボエンジンは150PS/5000-6000rpmと250N・m/1500-3500rpmというスペックだが、私はこの数字以上に違いがあるように感じた。もちろん、そこはマイルドハイブリッドだけに街なかや郊外一般道などのスピード域では極めて軽快にスムーズに走る。DSGの弱点である微速でのドライバビリティーをカバーする滑らかな動き出しや低速域でのスロットルレスポンスを見る限り48Vマイルドハイブリッドシステムのご利益は明らかだ。しかし、言うまでもなく1リッターゆえの限界がある。スロットルペダルを深めに踏み込んでも、スカッと空振りするように反応が鈍いこともあるし、負荷や回転数によっては不整脈のような3気筒ゆえのバイブレーションも伝わってくる(新型「アウディA3」では感じなかった)。そのような短所がRラインの1.5リッターユニットには一切ない。パワフルさもレスポンスも、さらには気持ちよく伸びる回転フィーリングも、さすがは4気筒である。
しかも1リッター版同様、チャンスがあればいつでも、できる限り、むしろちょっと煩わしいほど頻繁にエココースティングと呼ぶエンジン停止状態での惰性走行を選択する。また低負荷で4気筒のうちの半分を休止させるアクティブシリンダーマネジメントも備わり、住宅地の裏道をゆっくり走っている時でも作動するほど懸命に燃費向上に努めているが、当然エンジンのオン/オフなどは極めてスムーズである。
偉大な先代そのまま
思い切って言ってしまえば、新型ゴルフの先代との違いはこのパワートレインだけ、それ以外のハンドリングや乗り心地、室内の快適性や視界のよさなどは、定評あった先代ゴルフと変わらない。1リッター3気筒を積むアクティブ ベーシックとアクティブのリアサスペンションがトーションビームとなるのに対して、1.5リッターモデルはマルチリンク(4リンク)となるのは従来型と同じ。フロントサスペンションはどちらもマクファーソンストラットである。Rラインには専用のスポーツサスペンションとレシオがクイックなステアリングが備わっているが、ホイールサイズはスタイルと同じだし、まったく締め上げられている感覚はない。
もっとも、フォルクスワーゲンが電子制御デフロックと称する「XDS」(実際にはブレーキをかけてヨーコントロールするもの)のおかげもあって、思ったよりもスパッと切れ味よくターンインできる。軽快だが安心できるスタビリティーを備えているのも先代同様。静粛性は以前よりも向上しているようだが、ビシリと真っすぐ走る安定感はずっと前からのゴルフの美点である。
私には使いにくい
問題は一新されたデジタルコントロール類である。例えばステアリングホイールのスイッチだ。1リッターのeTSIアクティブはタッチセンサーではなく、それぞれのスイッチが独立したタイプで押し間違いがなかったが、Rラインのツルツルしたタッチスイッチは行きすぎたり足りなかったりでイライラする。そんな細かな部分をつつかなくても、とは思うが、私のこれまでの経験から言うと、最初に使いにくいと感じた印象は、慣れで解消することはまずない。小さなストレスは徐々に積み重なって嫌になってしまうものである。
ダッシュボードのスライダーも同じ。音量スイッチを指2本でスライドさせると地図の縮尺を変えられるのは、まあいいアイデアだと思うが、そもそもの設置場所が見にくくて使いにくい。またディスカバープロのタッチスクリーンも、狙った場所だけをピンポイントで触ることが難しく、知らずにメインスイッチに触って画面が時計表示(なぜ?)に変わってしまうことが度々あった。あなたが下手なだけと言われればそれまでだが、使いやすいという意見は聞いたことがない。さまざまな情報を選択表示できる「デジタルコックピットプロ」にも本当に見やすく有用なのか、と疑問を抱く。それよりもトリップメーターの表示がどのメニューを探しても見当たらず、戸惑った。問い合わせてもらったところ、結局シンプルなトリップだけの表示はないのだという。そういう時代なのである。
Rラインでは30種類のアンビエントカラーを選ぶことができるという。だが、こういうところにはありがたみを感じないのがオッサンという人種である。いわゆる間接照明の色が30色もあることがユーザーのメリットなのか。簡潔明瞭を旨としていたはずのゴルフが“けれんみ”にも手を出したのか。基本性能は依然として高いことは間違いないが、気に障る点が多すぎてどうしたものかと途方に暮れる。少しでも早く(後で多様なモデルが入ってくるのに)どうしても、というなら、できるだけ簡潔なゴルフをお薦めする。
(文=高平高輝/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
フォルクスワーゲン・ゴルフeTSI Rライン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4295×1790×1475mm
ホイールベース:2620mm
車重:1360kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:7段AT
エンジン最高出力:150PS(110kW)/5000-6000rpm
エンジン最大トルク:250N・m(25.5kgf・m)/1500-3500rpm
モーター最高出力:13PS(9.4kW)
モーター最大トルク:62N・m(6.3kgf・m)
タイヤ:(前)225/45R17 91W/(後)225/45R17 91W(ブリヂストン・トランザT005)
燃費:17.3km/リッター(WLTCモード)
価格:375万5000円/テスト車=444万8000円
オプション装備:ボディーカラー<オリックスホワイトマザーオブパールエフェクト>(6万6000円)/ディスカバープロパッケージ(19万8000円)/テクノロジーパッケージ(16万5000円)/ラグジュアリーパッケージ(23万1000円) ※以下、販売店オプション フロアマット<テキスタイル>(3万3000円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:7073km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:269.0km
使用燃料:19.1リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:14.1km/リッター(満タン法)/14.3km/リッター(車載燃費計計測値)

高平 高輝
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