これは確かに「カウンタック」だ! 衝撃の復刻作「LPI800-4」は正当な後継モデルとなぜ言える?
2021.08.30 デイリーコラム伝家の宝刀に通じる一台
わが家の近くには北野天満宮がある。今では菅原道真公にちなみ学問の神様としてよく知られている。けれどもその昔は天神信仰から武家の神様でもあった。それゆえ当宮の宝物殿には戦国武将らによる日本刀が多数奉納されており、なかでも昨今の刀剣アニメブームで話題となった一振りが最も重要な宝刀として大切に展示されている。
その名も“髭切(ひげきり)”。またの名を“鬼切丸”。この刀について名前の由来など興味のある方はどうかご自身でお調べいただきたいが、ここではこの髭切が源家、なかでも河内源家に伝わる“伝家の宝刀”であったことだけを記しておく。
実はこの髭切とセットとなる太刀があって、そちらは現在、大徳寺が所有しており“膝丸”もしくは“薄緑”と呼ばれている。そんな“髭切”と“膝丸”のセットは源家重代の名刀として受け継がれてきた。諸説はあるものの、鎌倉幕府を開いた源頼朝もまたこの二振りを掲げたという。
この二刀がこの夏、北野天満宮で相そろった。そこでさまざまなメディアで解説が行われていたのだが、それを見ながらふと、カウンタックによるランボルギーニ史観を語るに最もわかりやすいたとえを思いついたのだった。
カウンタック(正確にはクーンタッチもしくはクーンタッシ。クンタッチと呼ぶことが正式には推奨されている)とまるで関係のない話から始めたことをご容赦願って、もう少しだけ刀の話にお付き合い願いたい。
清和源氏の一流で多田源氏を立てた源満仲が平安時代に作らせたのが、先の二刀だった。以来、満仲の三男頼信による河内源家の家宝として今に伝えられているのだが、注目したいのは満仲が作らせた刀がそのまま残っているわけではないこと。要するに刀そのものは途中で幾度となく作り直されている。つまりレプリカだ。しかし、それでもなおその刀は“本物”として今に伝えられている。なぜならその価値は刀そのもののみにあるのではなく、刀に込められた源家重代の念にもあったと考えられてきたからだ。そのため作り替えられるたびに新たな刀には念が込められた。これを憑代(よりしろ)という。そう、大事な物に精神が宿るという憑神(つきがみ)様と同じ考え方である。
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レイアウトにこそ神髄がある
ランボルギーニにおけるカウンタックもそれだ、と思った。そしてカウンタック以降につくられた後継モデル、「ディアブロ」「ムルシエラゴ」そして「アヴェンタドール」もまた、カウンタックを憑代につくられてきたと考えていい。
もっと平易に言えば、すべてがカウンタックであった。ポルシェにおいて「911」が「901」から「930」、「964」「993」「996」「997」「992」へと進化したように。名前こそ歴代において変えられたがすべては実質的にカウンタックの発展版であったのだ。
では、代々伝えられてきたカウンタックの念とは一体何か。誤解を恐れずに言ってそれはマルチェロ・ガンディーニのデザイン性ではなかった。もちろん彼の天才的なスタイリングは大いに称賛に値する。ディテールの仕上げなどは彼の才能があったからこそで、カウンタックというクルマがこれほどまで有名になり、デビューからちょうど半世紀がたった今なお新鮮に迫ってくるという事実は、マルチェロによる100%の仕業であった。
それでもカウンタックの念=神髄は他のところにあると筆者は考える。それがスタンツァーニの“LPレイアウト”だ。
カウンタックを語るに忘れてはならないもう一人の人物がパオロ・スタンツァーニである。ランボルギーニ黎明(れいめい)期に活躍した天才肌のエンジニアであり、かのジャンパオロ・ダラーラがランボルギーニを去ったのちに開発の責任者となり、さらに1960年代終わりにはフェルッチョ・ランボルギーニに代わって会社の陣頭指揮を執っていた。
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天才が打った会心の奇策
スタンツァーニのLPレイアウトとは何か。それは巨大な12気筒エンジンをドライバーの背後に積んだミドシップカーをロードカーとして成立させるために生まれた奇策であった。このアイデアこそが、半世紀たっても決して色あせないカウンタックスタイルを生んだと言っても過言ではない。
12気筒エンジンをリアミドに積む。それは「ミウラ」が“量産ロードカー”として最初に実現した。ただしパッケージにはエンジン横置きという個性にして欠点があった。代表的なものではトリッキーな走りとキャビン内の騒音振動が金持ちカスタマーの不興を買った。12気筒横置きパッケージはジャンパオロの奇策であったが、パオロは後継モデルを企画するにあたり、そこを改善しようとした。
けれども12気筒エンジンを縦に置くと必然的に車体は長くなる。特にトランスミッションケースが後方に張り出し、ルマンを戦うマシンのようなロングテールになりかねない。かといってジャンパオロがランボルギーニ後に開発した「デ・トマソ・パンテーラ」のように、比較的小さなV8をミドに積むことは「ウラッコ」で実施済みで、フラッグシップにはもう使えなかった。
そこでパオロが思いついたのがトランスミッションケースを合体させたままパワートレインを180度ひっくり返して搭載するという奇策であったのだ。そしてラジエーターをサイドに置いた。将来の4WD化も念頭に置いていた。このパッケージを基本にマルチェロがデザインしたマシンこそ、今からきっかり50年前の1971年に登場した最初のカウンタック、「LP500プロトティーポ」であった。そしてこのパッケージにおいてはすべてが必然であった。かのシザーズドアでさえも。
会社が紆余(うよ)曲折するその後(1971年以降)の20年間、カウンタックは少しずつ進化し、生産され続けた。それはやがてブランドのイメージキャラクターへとなっていく。ランボルギーニといえばカウンタックとなった。それゆえスタンツァーニのLPレイアウトはもはや誰にもまねのできない、まねしたくてもできないパッケージとなっていく。
すべてが最新のクーンタッチだった
ランボルギーニファンであれば承知の通り、カウンタック後継のフラッグシップモデルはすべてこのスタンツァーニレイアウトを踏襲する。それゆえいつの時代もランボルギーニの旗頭はスーパーカーの雄であり続けた。言い換えればカウンタックの精神が、神髄が、念が、後継モデルたちを憑代として現代へと受け継がれてきたのだ。この考えは決して筆者独特のものではなく、例えば現在ランボルギーニ社の開発トップであるマウリツィオ・レッジャーニも賛同している。それに初代カウンタックが唯一、闘牛由来の名前でないことも思い出していただきたい。それはかくもスピリチュアルな存在だった。
それゆえ筆者はディアブロ やムルシエラゴ、アヴェンタドールはもちろんのこと、派生モデルである「レヴェントン」や「ヴェネーノ」、「チェンテナリオ」に「シアン」もまた“クーンタッチ”だったと思っている。だとすれば先日、ペブルビーチでカウンタックの50周年を記念して発表された世界112台限定モデルをランボルギーニが“カウンタック“と呼ぶことに何の反論があろうか。なぜならその神髄もまたクーンタッチのままなのだから。
この「カウンタックLPI800-4」を「ガンディーニデザインへの冒涜(ぼうとく)だ」と批判するマニアもいる。そう言いたい気持ちも痛いほどわかる。けれども偉大なる初代を超えることなど100%無理であることは、デザイナーのミッティア・ボルケートも、そしてランボルギーニ首脳もわかりすぎるほどわかっていただろう。それに超えることのできるようなデザインであったなら、ハナからそれをリプロしようなどとは思わない。ちまたの例もしかり。
さらに言えば、これがもしオリジナルデザインの再現にこだわるあまり、例えば「ウラカン」をベースに形をつくり、それをカウンタックと呼んだとすれば、私は声を大にして反対した。いかに形がLPI800-4よりオリジナルに似ていて、いかに高性能であっても、スタンツァーニのLPレイアウトを踏襲しないモデルをカウンタックと呼ぶことには賛成したくないからだ。
例えばミウラ40周年を記念してプロトタイプがつくられ、生産が見送られたミウラ プロトはそこがまるで違っている。あれはおそらくV12、いや、ひょっとするとV10縦置きで企画されていた。そんなクルマをミウラと呼ぶことはできない。前提条件が違いすぎるのだ。
カウンタックは、その神髄となるレイアウトは、途切れることなくつくられてきた。カウンタックは名を変え進化してきた。ミウラはそうではなかった。半世紀以上前に途絶えた血統だった。
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変わらぬ“驚き”に期待
筆者は例えば、新生「アルピーヌA110」をA110とは認めていない。非常によくできたミドシップスポーツカーであるけれども、あれはA110ではない。内燃機関スポーツカーの神髄ともいうべきパワートレインのレイアウトがまるで違う。ポルシェのようにRRを踏襲したわけじゃない。念入りであるとは思えないのだ。その他のノスタルジックモダンのリプロダクションもしかり。神髄を絶やさずに継承したモデルだけが、本当の意味でのリプロダクションが認められるのだと思う。
“カウンタック”は実は名を変えてつくられ続けてきた。そしてひょっとすると、スタンツァーニレイアウトはこれで終わりなのかもしれない。なぜならアヴェンタドール後継モデルはPHEVになると宣言されており、そうなった時、重いバッテリーを車体中央に配置するというリアミドシップスポーツカーの利点が、スタンツァーニレイアウトでは使えなくなる恐れがあるからだ。ランボルギーニはおそらく白紙から次世代計画を練った。例えばダウンサイズ過給機付き12気筒をPHEVにするためにどんなレイアウトが有効か、など。
ランボルギーニが次世代フラッグシップのPHEV化を宣言し、あまつさえ「アヴェンタドール ウルティメ」こそ最後の自然吸気12気筒モデルだと言い切った。少し前までハイブリッドなら自然吸気である、と彼らは強弁していたにもかかわらず、だ。時をおかずにカウンタックと再び名乗るモデルが出現する。ひょっとして本当は次世代用として開発されたスーパーキャパシタのマイルドハイブリッドシステムを積んだ、最後のスタンツァーニレイアウト12気筒モデルとして。
次世代モデルの行方が、ニューカウンタックの出現で一層興味深くなったことだけは、カウンタックの賛否両者にもご納得いただけることだろう。そして、いちランボファンとしては、アヴェンタドール後継モデルのテクノロジーとスタイリングもまた、次世代における“クーンタッチ”レベルの衝撃であることを、伏せ牛を神使とする菅原道真公、つまりは天神様に祈るばかりである。
(文=西川 淳/写真=アウトモビリ・ランボルギーニ、ポルシェ、webCG/編集=関 顕也)
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西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。
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