ライバルメーカー戦々恐々! 「トヨタ・カローラ クロス」登場で国内SUV市場はどうなる?
2021.09.27 デイリーコラム売り出されるにはワケがある
2020年7月にタイで発表された「カローラ クロス」が、2021年9月に国内導入されるという報が伝わると、日本のクルマオタクの多くが驚いた。というのも、トヨタの国内SUVラインナップはすでに「ライズ」「ヤリス クロス」「C-HR」「RAV4」「ハリアー」と、A、B、C、D、高級D……という全セグメントで水も漏らさぬ布陣をきずいていたからだ。
カローラ クロスはその名のとおり、「カローラ」由来のGA-Cプラットフォームを土台とするCセグメントSUVだ。既存の国内トヨタSUVでは、C-HRが同じGA-C車となる。2016年末の国内発売直後は大ヒットしたC-HRも、最近は販売ランキング30位前後が定位置で、少しばかり物足りない気がしないでもない。しかし、カローラ クロス発売にともなってC-HRが姿を消す……という話もない。
カローラ クロスはC-HRとプラットフォームを共有しつつも、全長はそれより10cm大きくて背は7cmほど高く、ファミリーカーとして十二分な居住性と実用性を有するのが特徴だ。対するC-HRは居住性や積載性はあえて割り切って、スタイリッシュなデザインと欧州車的なダイナミクス性能を売りとする。つまり、C-HRはもともとニッチ商品であり、そこが国内で継続的な売り上げにつながっていない理由のひとつだろう。
実用的なSUVという視点で見た場合、ひとつ下のヤリス クロスも欧州的なパーソナルカー志向が強く「ホンダ・ヴェゼル」や「日産キックス」などの競合車と比較すると、物足りないのが実情である。一見しただけでは水も漏らさないはずだったトヨタSUVも、こうして意地悪に観察すると“家族で使えるB~CセグSUV”というニーズに対しては手薄だったことが分かる。CセグSUVド真ん中サイズのカローラ クロスはそんなニーズを満たしつつ、純エンジンで200万円台前半、ハイブリッドで200万円台後半という価格はヤリス クロスとC-HRの中間(より、ややヤリス クロス寄り)に落とし込まれる。
安くてウマいバリエーションモデル
トヨタは赤字事業を許容するようなヌルい経営ではないし、魔法使いでもない。よって、カローラ クロスにも安いなりの理由はきちんとある。たとえばインテリアは基本造形こそ他のカローラと同様だが、各部素材は明らかにグレードダウンしているし、FFのリアサスペンションはGA-C初のトーションビームとされている。トーションビームが悪いとはいわないが、従来のダブルウイッシュボーンより簡素で安価なのは事実だ。さらに純エンジン車用の1.8リッターも最新のTNGAユニット(=ダイナミックフォースエンジン)ではなく、開発費用をとっくに回収済み(?)の「2ZR」系バルブマチックである。
このようにハッキリ安普請とはいっても、完全なBセグ価格でCセグの押し出しと室内空間をもつカローラ クロスは、これまでトヨタのスキ間をうまく突いてきたヴェゼルやキックスには脅威以外のナニモノでもない。
カローラ クロスの国内発売に合わせて、トヨタは今年で生誕55周年となるカローラの小冊子『Philosophy Book(フィロソフィーブック)』を制作した。そこでは、セダンとステーションワゴン、ハッチバックといった定番だけではく、歴代カローラのそれぞれの時代に合わせて存在したバリエーションを振り返っている。
なるほど、若者がこぞって2ドアを乗り回していた昭和~平成初期には「レビン」があり、手軽なスモールカーが求められた時代には「カローラII」があった。4ドアハードトップがはやれば「セレス」、ミニバンブームが勃発すると「スパシオ」、そしてハイトワゴン全盛期には「ルミオン」というのもあった。さらに、かつての兄弟車「スプリンター」まで視野を広げれば「シエロ」や「カリブ」も忘れがたい。カローラ クロスも、そんな伝統の一部だとトヨタは主張するわけだ。
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戦えそうなクルマはあるのに……
こうして歴史的に他社を圧倒してきたトヨタ商法だが、最近さらに、えげつないレベルの独走態勢に入っている。そこにダメ押しのようにカローラ クロスが出た。アンチトヨタ派の「だからトヨタは下品だ、嫌いだ」との声もさらに高まるかもしれない。しかし、現在の国内市場がここまでトヨタ独走の構図になったのは、日産やホンダといった本来トヨタに食らいつくべきメーカーが、まるで日本をあきらめたかのように縮小均衡戦略に逃げているからでもある。
トヨタとて、ライズ、ヤリス クロス、カローラ クロス、C-HR、RAV4、ハリアー(もっといえば「ランクル」)というギチギチのSUVラインナップを構築しているのは日本だけだ。カローラ クロスは基本的に新興国市場をメインターゲットとした高コスパ商品で、今のところ欧州や北米では販売されない。そして、そんなカローラ クロスを先進国の日本に導入するにあたり、トヨタは日本専用にハイブリッドの4WD車を用意して、フロントマスクまで専用デザインとした。トヨタはここにいたっても、日本市場を子細に観察して、不足を徹底して補完し続けている。
世界を見わたせば、日産やホンダにも、トヨタに対抗できそうなSUVはたくさんある。日産なら、たとえば2代目「ジューク」に旧「デュアリス」の後継「キャシュカイ/ローグスポーツ」、そして「ムラーノ」が今も存続している。どれも日本でも認知された商品だ。ホンダにしても、Aセグ級の「WR-V」にコンパクト3列シーターの「BR-V」なんて魅力的だろう。さらには、「アキュラRDX」などは、ホンダブランドに転換すれば日本でハリアーに対抗できるかもしれない。このように、ホンダにもヴェゼルと「CR-V」の前後やスキ間を埋められそうなタマはある。
しかし、両社ともこれらを日本で売る気はまるでなさそうだ。先日、webCGで渡辺敏史さんも嘆いておられたように、これじゃあトヨタと、日産やホンダの差は開くばかりだろう。ホント、軽自動車を除いた日本市場は、もうトヨタ1社独占でなんら問題なし……なんて話にもなりかねない?
(文=佐野弘宗/写真=トヨタ自動車、日産自動車、本田技研工業/編集=関 顕也)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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