トヨタ・カローラ クロスZ(FF/CVT)
必要にして十二分 2021.10.27 試乗記 「トヨタ・カローラ」シリーズ初のSUVとして登場した「カローラ クロス」。ハイブリッドの上級グレードに試乗した筆者は、大きな不満も不足も感じることのない商品力の高さに、脈々と受け継がれてきたカローライズムをみたのだった。グローバルカーなりのデカさ
用いるアーキテクチャーがGA-C……ということは「C-HR」にほど近い、すなわちCセグメント系でありながら、プライシングはA~Bセグメントの「ヤリス クロス」や「ライズ」の側をもうかがおうかという、トヨタとしては9車種目のSUVがカローラ クロスだ。どこまで刈り取るおつもりですか……と日産やホンダの嘆きが聞こえるような気さえする。「ヴェゼル」あたりは並べて比べられると、単純にデカくて安いのがカローラ クロスというオチになってしまうわけで、なんともえげつない。
とはいえ、トヨタの側にも言い分はあるだろう。5年にわたってCセグメントSUVのニーズを支えてきたC-HRはどちらかといえばスペシャルティー的なポジションのクルマだ。その人気に陰りが見えたいま、援護の直球を放り込むのは当然というわけである。
カローラ クロスは豪州を除く4大陸で販売されるグローバルカーだ。それゆえ、寸法的なところに日本的な配慮はうかがえない。4490×1825×1620mmのスリーサイズには、高さや幅をもう少したたいてくれれば家のマンションのパレットや街の立体駐車場にも置けたのに……と思われる方もいそうだ。でも最小回転半径はひと回り小さいC-HRと同じ5.2mに抑えるなど、無駄太りしてはいないことはスペックから伝わってくる。
使い勝手に抜かりなし
室内も幅方向にゆとりがあり、グリーンハウスも奇をてらうことなくニュートラルにまとめられているため、後席にいても窮屈さは感じない。前席下部へのつま先の入りもよく、身長181cmの筆者がくつろぎ気味に座ることもできる。ホイールベースはC-HRや「カローラ ツーリング」などと同じ2640mmだが、高さも手伝って感覚的には間違いなくそれらより広い。オプションの「パノラマルーフ」を選べば、開放感さえ感じられる。
荷室容量は487リッター。見るからに広いが数値的にもカローラ ツーリングやC-HRをものともしないスペースが確保されている。後席をフォールダウンすればさらに最長1885mmのスペースが生まれるも、荷室部との間にガッツリ段差ができてしまうのが残念……と思いきや、荷室にピタリとはめ込み段差を整えてフラット化できる「ラゲージアクティブボックス」がオプションで用意されている。さらにハイブリッドモデルであれば、最大1500Wの電力をアウトプットできるACコンセントがオプション装着できるなど、キャンプや車中泊での適応度が一気に高まるというわけだ。
ただしハイブリッドにのみ用意される4WDは「E-Four」で、悪路をモリモリと走るほどの駆動力は期待できないうえ、最低地上高も160mmと乗用車プラスαであるがゆえ、機動力に過信は禁物だ。4WDのパフォーマンスに期待するならヤリス クロスか「RAV4」が適しており、基本的には2WDのクルマと考えておいたほうがいいだろう。
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安心・満足のハイブリッド
というわけで今回試乗したのはFFのハイブリッドだったわけだが、内装の質感は上位グレード「Z」でも至って凡庸で、特筆するような緻密さも色香もまるで感じなかった。ダッシュアッパーやドアトリムの質感はややテカリが強く、それらの部材に型抜かれるステッチ的な加飾もちょっと安っぽい。プライシングを鑑みれば仕方ないかと思うところはあれど、せっかく楽しげな趣旨のクルマなんだから、ヴェゼルのような華や「CX-30」のような上質さをもう少しは追求してほしい。
パワートレインは現行「プリウス」の世代からのトヨタハイブリッドの主力構成といえる2ZR-FXE型1.8リッター4気筒と1NM型モーターの組み合わせだ。車重のうえでは「カローラ ツーリング以上C-HR未満」というところに落ち着いていることもあって、過度な期待がなければ動力性能に不満はない。多少の積載負荷はものともしない程度の余裕もある。
WLTCモードの燃費値もC-HRをやや上回るくらいとあらば、20km/リッターオーバーの生涯燃費も十分期待できるだろう。加速時はエンジン回転先行の場面もあるが、新型「アクア」で投入されたバイポーラ型のようなバッテリーが搭載されれば走りのレスポンスも変わる可能性はある。2022年、登場から四半世紀を迎えるTHSも、周辺技術も含めてまだまだ伸びしろは含んでいるということだ。
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これでいいじゃないか
クルマ好き的な視点からみるに、カローラ クロスの一番のトピックはGA-CのFFモデル用に設計を刷新したリアのトーションビームサスかもしれない。
主に乗り心地の向上を狙ったというそれは、ビームの形状やダンパーの取り付け角などを細かくチューニングし、ゴムブッシュを大容量化するなどして突き上げ等のアタリを丸くしながら路面追従性をしっかり確保しているという。その乗り心地とハンドリングのバランスは欧州のライバルにも比肩する高レベルなもので、例えばスペース効率が求められるミニバン的なモデルへの転用にも十分期待に応えてくれそうな素性の良さがうかがえた。
試乗時は激しい渋滞に巻き込まれたが、ADAS(先進運転支援システム)の制御は総じて適切でひやりとさせられることもなく、帰ってからひと仕事する余力を残してくれた。長々と向こうのほうまで続くテールランプの帯をぼんやりと眺めるくらいしかやることもないものだから、このクルマがファミリーカーとしてどんな思い出をつくってくれるのだろうと思いをはせたが、そんな立場に身を置いたことのないダメ男には、さえた場面のひとつも思い浮かばない。
でも世のお父さんたちは家族を乗せて週末ごとにこういう景色を見ているんだろうなぁと思うと、子供に優しい乗り心地と奥さんに優しいハイブリッドと自分に優しいADASが全部あるこのクルマに、何かしら難癖をつけようとする僕のような者が出る幕はないと思うに至った。さすが「カローラ」である。
(文=渡辺敏史/写真=田村 弥/編集=関 顕也)
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テスト車のデータ
トヨタ・カローラ クロスZ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4490×1825×1620mm
ホイールベース:2640mm
車重:1410kg
駆動方式:FF
エンジン:1.8リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:98PS(72kW)/5200rpm
エンジン最大トルク:142N・m(14.5kgf・m)/3600rpm
モーター最高出力:72PS(53kW)
モーター最大トルク:163N・m(16.6kgf・m)
システム最高出力:122PS(90kW)
タイヤ:(前)225/50R18 95V/(後)225/50R18 95V(ミシュラン・プライマシー4)
燃費:26.2km/リッター(WLTCモード)
価格:299万円/テスト車=329万8550円
オプション装備:イルミネーテッドエントリーシステム<フロントカップホルダーランプ、フロントドアトリムショルダーランプ、フロントコンソールトレーランプ>(11万円)/ディスプレイオーディオ<9インチディスプレイ+6スピーカー>(2万8600円)/アクセサリーコンセント<AC100V・1500W、非常時給電システム付き>(4万4000円)/ブラインドスポットモニター+パーキングサポートブレーキ(4万4000円)/パノラミックビューモニター(2万7500円)/おくだけ充電(1万3200円) ※以下、販売店オプション ラゲージトレー(1万5400円)/ETC2.0ユニット ナビキット連動タイプ(3万3000円)/カメラ別体型ドライブレコーダー<スマートフォン連携タイプ>(6万3250円)/フロアマット<ラグジュアリータイプ>(2万8600円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:970km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:112.8km
使用燃料:4.1リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:27.5km/リッター(満タン法)/24.5km/リッター(車載燃費計計測値)
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。