【F1 2021】トルコGP続報:小雨舞うイスタンブールでせめぎ合う「攻め」と「守り」
2021.10.11 自動車ニュース![]() |
2021年10月10日、トルコのイスタンブール・パークで行われたF1世界選手権第16戦トルコGP。細かな雨粒、乾かない路面、そして使い古しの浅溝タイヤ。難しいコンディションのなか、タイトルを争う2人のドライバーは、好対照なレースを展開した。
![]() |
![]() |
年々強まる「中東とF1」の結びつき
2021年6月、長くF1に関わってきたマンスール・オジェが亡くなった。オジェはサウジアラビアとフランスの二重国籍を持つ実業家にして大富豪。1970年代後半にウィリアムズのスポンサーだったサウジアラビア航空の招きでモナコGPを訪れ、すっかりF1に魅了された彼は、まずはスポンサーとしてこの世界に入り、1980年代にはマクラーレンに搭載されたポルシェエンジンの開発をバックアップ。オジェ率いる「TAG」のバッジをつけたターボエンジンは同チームを強豪に押し上げ、以降、マクラーレンの株主として経営に携わりチームをサポートしてきた。
オジェたちが先鞭(せんべん)をつけたかたちとなったF1と中東とのパイプが、同地域でのGP開催となって結実するまでには意外と時間がかかった。中東初のバーレーンGPがカレンダーに加わったのは2004年のこと。その後、2009年にはアブダビGP、そして今季12月には、“最速の市街地コース”とうたわれるジェッダでのサウジアラビアGPが加わり、そして2021年のカレンダーで「開催地未定」とされてきた11月の第20戦が、「カタールGP」となることが先ごろようやく決定。今季22戦のうち中東でのレースは4戦にまで増えた。二輪のMotoGPではおなじみのロサイル・インターナショナル・サーキットを舞台とするカタールGPは、サッカーのワールドカップが開催される2022年をスキップし、2023年から10年という長期契約が結ばれた。
F1にとって中東の潤沢なオイルマネーは大変魅力的であり、各国政府の支援も得やすいなど何かと都合がいいことは事実だ。また近年F1をスポンサードしているアラムコは、サウジアラビアの国有石油会社であるなど、中東とF1の結びつきは年々強まっている。一方で、モータースポーツの文化的側面からすれば歴史も浅く、スタンドを埋める観客の数も決して多くはない。さらには、開催国側が人権問題などをカムフラージュするためにスポーツイベントを誘致しているにすぎない、といった政治的な見方から非難する声もある。
F1のトップであるステファノ・ドメニカリは、コロナ禍で今年かなわなかった「史上最多の23戦スケジュール」を来年こそ実現する、とレース開催数にこだわり続ける。その背景には、レース数が多いと得をする、つまり「もうけにつながる」ということがあるのは容易に想像できるが、世界中を連戦するチーム関係者にとってカレンダーの拡大は歓迎できないこともある。こうした“大人の事情”をはらみつつ、現在、来る2022年のカレンダーの調整が進められている。
![]() |
ハミルトンが降格、ボッタスがポール
9年ぶりに復活した昨年のトルコGPは、再舗装されたばかりの滑りやすい路面と悪天候によりまともな走行が困難な状況だったが、コースコンディションは1年たつとすっかり落ち着いていた。とはいえ天気は安定せず、土曜日の3回目のプラクティスは雨絡み。続く予選になると、セッション開始早々からパラパラと降り出すも、各車ドライタイヤでアタックするという神経を使う戦いが繰り広げられた。
トップ10グリッドを決める予選Q3で最速だったのは、初日から好調だったメルセデスのルイス・ハミルトン。しかしパワーユニット交換で10グリッド降格ペナルティーを受け、11位に落ちてしまう。代わってポールポジションについたのは、チームメイトのバルテリ・ボッタス。メルセデスの後塵(こうじん)を拝したレッドブルのマックス・フェルスタッペンがフロントローに並んだ。
その後ろは、フェラーリのシャルル・ルクレール3番手、アルファタウリのピエール・ガスリー4番手。さらにアルピーヌのフェルナンド・アロンソが、レッドブルのセルジオ・ペレスを従えて今季最高5番手と健闘した。前戦ロシアGPで初優勝を逃したマクラーレンのランド・ノリス7番手、前年トルコGPのポールシッター、アストンマーティンのランス・ストロール8番手、そしてQ3進出を果たしたアルファタウリの角田裕毅は9番手からのスタートに。10番手には、Q2落ちだったアストンマーティンのセバスチャン・ベッテルが繰り上がった。
![]() |
![]() |
小雨降るレース、ハミルトンの快進撃
2番グリッドのフェルスタッペン、11番グリッドのハミルトン。たった2点差でチャンピオンを争う2人は、小雨舞うレースで好対照な戦いを披露した。
全車が浅溝のインターミディエイトタイヤを履いて58周のレースをスタート。ボッタス1位、フェルスタッペン2位、ルクレール3位とトップ3はグリッド順のまま、ペレスが4位と大きく躍進した。レッドブルは初日からマシンセッティングに難儀しており、フェルスタッペンとしては優勝よりも2位キープのほうが得策。実際、この日のボッタスの速さ、安定感は群を抜いており、当初2~3秒だったリードは最終的に14.5秒にまで広がるほどだった。レース後、「タイヤマネジメントに徹し、プッシュはできなかった」と語っていた通り、フェルスタッペンは守りのレースで乗り切ろうとしていたのだ。
一方のハミルトンは、「注意しつつも、超攻撃的なレース」を標榜(ひょうぼう)し、序盤から積極果敢に攻めていくしかなかった。スタート直後にアロンソが接触でコースオフしたことで10位、ベッテルを早々に抜き9位と、着々と順位を上げるも、8位の角田にはしばらく付き合わされ、8周目にようやくメルセデスが8位に駒を進めた。
ハミルトンの快進撃は続く。速やかにストロールをかわして7位、11周目にはノリスをオーバーテイクし6位、14周目にはガスリーを抜いて5位。そして次なる相手は、5秒前を走るレッドブルのペレスとなった。
しかし、ハミルトンとてタイヤが苦しくなり、ここから先は容易にタイムが削れない。雨はコースの一部で時折ぱらつく程度だったが、周回を重ねてもラインが乾くことはなく、各車とも溝がなくなったインターミディエイトを履き続けて我慢の走行を強いられていた。
![]() |
![]() |
ボッタス今季初V、ハミルトンは作戦に納得いかず
ハミルトンがペレスのテールを捉えたのは、レースも折り返しを過ぎた33周目。レッドブルとしては、フェルスタッペンの前の“壁”としてペレスに踏ん張ってほしいところ。34周目にハミルトンが一瞬前に出かけたが、すかさずペレスが抜き返し4位を死守と、ペレスはチームの狙い通りにメルセデスのエースを苦しめた。
こうしてライバルが苦戦しているうちにフェルスタッペンはピットに入り、ペレスらの前でコースに復帰。レッドブルのチームプレイは見事に成功した。次の周には、トップのボッタスやペレスらも新しいインターミディエイトにチェンジ。ハミルトンはといえば、43周目にピットから呼び出しを受けるも、「まだこのタイヤでいける」と攻めの姿勢を崩さなかった。実は、この時点で首位を走っていたルクレールも、スタートから履き続けた、すっかり溝がなくなったインターミディエイトでゴールを目指していた。
しかしフェラーリの優勝のもくろみは、47周目にボッタスに抜かれたことで外れてしまい、フェラーリはタイヤ無交換を諦め、ルクレールに新しいインターミディエイトを与えた。
これで順位は、1位ボッタス、7秒後方に2位フェルスタッペン、そしてさらに6秒遅れて3位ハミルトン。なんとか摩耗したタイヤで表彰台をものにしたかったハミルトンに、メルセデスはタイヤ交換を勧め、51周目にピットイン、ハミルトンは5位でコースに戻った。
52周目、ペレスがルクレールをかわし3位に上がり、これでレッドブル2-3。4位ルクレールの後ろにつくことになったハミルトンは、「(新しいインターで)グレイニングがひどい。ピットに入るべきじゃなかったんだよ!」とご立腹の様子だ。たしかに3位のままゴールすれば、フェルスタッペンにチャンピオンシップ首位を奪われても1点差で済む計算だったが、ルクレールやハミルトン自身にタイヤのドロップオフが認められていた以上、チームとしては無交換作戦はとりづらかったのだ。
ボッタスの勝利は、1年前のロシアGP以来。「ハミルトンのサポート」という役回りを免除され、ただひとり、先頭で伸び伸びと周回を重ねることができた彼は、節目のキャリア10勝目を「ベストレースのひとつ」と評した。
2位に終わったフェルスタッペンは、「2位でゴールできてハッピー。こんなコンディションではうまくいかないことだってあり得たんだから」とレースを振り返った。5位でゴールしたハミルトンから首位を奪い返すも、ポイント差はたったの6点。2人の激戦は、残り6戦となった今シーズンの最後まで続けられそうである。
第17戦アメリカGPは、10月24日に決勝が行われる。
(文=bg)