EV普及への課題を解決! 未来のモビリティー社会を構築する“ブロックチェーン”の重要度
2021.10.15 デイリーコラム道路の維持管理コストをいかにして捻出するか
内燃機関を持つクルマから電気自動車(EV)へシフトする際には、さまざまな課題を解決しなければならない。電気をどうやってつくるのか、電力供給インフラはどうするのか、電池の供給量は足りるのか、そのための資源や部材は調達できるのか、エンジン車を前提にした自動車産業の今後はどうなるのか……等々、今も多様な観点から議論が交わされている。加えて忘れてはならないのが、道路インフラを維持管理するための税収をどうするかという問題だ。
日本の「ガソリン税(揮発油税および地方揮発油税)」は、費目こそ目的税ではないが、実質的には道路財源となっている。諸外国にも似たような仕組みがあり、利用者が道路を維持管理する費用を負担している。今後EVの比率が増えていけば、燃料などにひもづく税収が激減することは避けられない。道路の維持管理コストの捻出は極めて重要なテーマだといえる。そうした課題を解決する術(すべ)として、いま期待されているのがブロックチェーン技術だ。
2018年にアメリカで設立された任意団体「Mobility Open Blockchain Initiative(MOBI)」では、モビリティー領域におけるブロックチェーン技術を活用した仕組みの開発と構築を目指している。MOBI理事である深尾三四郎氏は、2021年10月6日・7日に開催された「第1回ReVision次世代ビークルサミット」(主催:InBridges)に登壇し、MOBIの活動を以下のように紹介した。
「MOBIはホンダを含むOEM(完成車メーカー)6社が集結したコンソーシアムで、自動車産業のサプライヤー、ブロックチェーン等の技術を持つ企業のほか、欧州委員会、中国交通運輸部科学研究院、シンガポール企業庁というルールメイキングを担う行政も参画している。さらに、米電気電子学会(IEEE)や国際半導体製造装置材料協会(SEMI)、米自動車技術者協会(SAE International)という標準化団体も加入している。この多様なメンバーで、これからのモビリティー社会に必要なビジネスモデルの研究、業界ルール形成や標準規格の策定等を進めていく」
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ブロックチェーンが可能にする新しい課税方式
そもそもブロックチェーンとは、ネットワーク上にある複数のコンピューターによってデータを共有。その改ざんを難しくすると同時に、透明性を高める技術である。ブロックチェーンでは個々の決済や取引をブロックとしてみなし、“ハッシュ”という値を付与して記録する。あるブロックのデータを改ざんするためには、連なるブロックのハッシュをすべて書き換えなければならない。それゆえブロックチェーンは膨大なデータを改ざんの余地なく管理・運用することが可能で、スマートシティーやモビリティーのITインフラに活用できると期待されているのだ。
モビリティーの分野におけるブロックチェーンの活用に際し、MOBIでは「デジタルツイン」と呼ばれるサイバー空間上に構築した仮想空間を使って、いくつかのユースケースを検証している。例えば道路上に修復が必要な穴が開いていたとしよう。その道路を走行する自動車は、穴を検知すると自治体に情報を送信する。自治体は情報提供した車両のデジタルウォレットに“お礼”を入金し、自動車はそのお金で高速道路を利用できる……といったことも技術的には可能だ。逆に、走行状況や走行距離に応じて、自動車からお金を徴収することも可能で、この技術が普及すれば、燃料を消費しないEVに対しても、走行税などの課金ができるようになる。しかも、このやり取りはすべて人が介在しない“M2M”(Machine to Machine)で完結する。
もちろん、地域ごとに道路事情や各種税制との整合性をとらなければならず、簡単な話ではないが、MOBIにルールメーカーや標準化団体が多数参加していることからも、少なくとも技術的な道筋が見えてきたことは間違いなさそうだ。
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電池の保守にもブロックチェーンは有効
もうひとつ、ブロックチェーンに期待されているのが、トレーサビリティーの厳格化である。最近では、リチウムイオン電池に欠かせないコバルトの採掘について、児童労働の問題があったことがニュースとして取り上げられた。いまや企業には、原材料の調達も含めて社会的責任が求められる。「知らなかった」では済まされない時代なのだ。一方で、自動車に使われる部品は一台につき数万点にも及び、それらすべてで「誰がどのようにつくったものか、どのように破棄・再生されるか」を把握し、追跡するのは難しくなっている。ブロックチェーンを使ったトレーサビリティーは、こういった課題にも有効といえる。
加えてブロックチェーンは、納車後のトレーサビリティーでも期待がかけられている。現状、EVのバッテリーは劣化が問題視される一方で、何がどのくらい劣化しているのかを厳密に管理・評価する仕組みがない。どのくらい使用したかについても走行履歴に頼るのみで、実質的な電池の稼働状況が可視化されていないのが実情だ。ここにもブロックチェーンの技術が活用できる可能性がある。電池の残価が可視化できれば、適正な取引の根拠となり、EVやバッテリーの中古市場が健全に動き出す。中古として売れるとなれば、その恩恵は新車販売にも及ぶ。MOBIでは、こういった部分にも踏み込んでいく計画だ。
ブロックチェーン、デジタルツイン、トレーサビリティーなど、自動車業界では比較的なじみのない単語が並んでいるが、これらの技術がモビリティー社会を変えていくことは間違いない。EVが内燃機関を持つクルマに置き換わるかどうかは、もはや自動車業界だけの閉じた議論では追いつかない。より広い視野で今後を考えていくべきだろう。
(文=林 愛子/写真=webCG/編集=堀田剛資)
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林 愛子
技術ジャーナリスト 東京理科大学理学部卒、事業構想大学院大学修了(事業構想修士)。先進サイエンス領域を中心に取材・原稿執筆を行っており、2006年の日経BP社『ECO JAPAN』の立ち上げ以降、環境問題やエコカーの分野にも活躍の幅を広げている。株式会社サイエンスデザイン代表。
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