【F1 2021】アメリカGP続報:フェルスタッペンの「リスク」、ハミルトンの「賭け」
2021.10.25 自動車ニュース![]() |
2021年10月24日(現地時間)、アメリカ・テキサス州オースティンのサーキット・オブ・ジ・アメリカズで行われたF1世界選手権第17戦アメリカGP。パンデミックの影響で2年ぶりの開催となった同GPでは、チャンピオンを争う2人がゴールまで手に汗握る接戦を繰り広げた。
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「アンドレッティ」F1参戦のうわさ
2年ぶりのアメリカGPを前に、マイケル・アンドレッティによるザウバー買収のうわさが過熱していた。1978年のF1チャンピオンであるマリオを父に持ち、自身も1991年にインディカー王者となった後、マクラーレンでF1に挑戦していたマイケルは、いまやインディカーやフォーミュラEで活躍する「アンドレッティ・オートスポーツ」のボスである。そんな彼が、現在アルファ・ロメオとして参戦しているF1チームに関心を示しているというのだが、その背景には何があるのか?
先ごろ発表された、史上最多23戦が組まれる2022年の暫定カレンダーには、2012年からアメリカGPが行われているサーキット・オブ・ジ・アメリカズ(COTA)に加え、新たにフロリダでのマイアミGPの名前が載っていた。1970年代から80年代前半にかけて、東西で2戦が開かれていたアメリカで久々の複数開催となったのには、F1のオーナーであるリバティ・メディアが、彼らのホームである同国での今後に期待を寄せているということのあらわれ。またネット配信大手Netflixによる関連番組の人気もあって、一時は“F1不毛の地”ともいわれたアメリカでF1は年々注目度を増している。
参戦を考えているというアンドレッティにとっても好条件は整いつつある。今季から予算制限が導入され、チーム運営上のリスクは低減されたのに加え、来季には新レギュレーションが始まり、中団以降のチームにとっても下克上の可能性はある。また2016年にリバティがオーナーとなってから結ばれた、いわゆる「コンコルド協定」では、それ以前のチーム間の不均衡な分配金問題も解決されたといわれている。
アセットとしてのザウバーも十分に魅力的だ。1980年代からメルセデスと組みスポーツカーで勝利を重ね、F1には1993年からエントリーするなど経験は豊富だ。スイスに本拠を置く珍しいチームだが、風洞施設やシミュレーターを持つなど最新設備もそろう。近年の財政難も、2019年からアルファ・ロメオのスポンサーシップを得て安定化。来季はメルセデスからバルテリ・ボッタスが加入するなど、前途は明るく見える。
本来ならアンドレッティに「11チーム目として新規参入」してもらえれば、エントラントが増えより盛り上がるというものだが、白紙からF1に打って出るのはリスクも高くなる。現在唯一のアメリカ系チームであるハースとて、フェラーリやダラーラといった実績ある企業との協業なくして戦うことは難しいのだ。モータースポーツ界の名門、アンドレッティ家が、再びF1を走らせる日は果たしてくるのだろうか?
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前評判を覆しフェルスタッペンが逆転ポール
残り6戦、チャンピオンシップをリードするレッドブルのマックス・フェルスタッペンと、前戦トルコGPでランキング2位に転落したメルセデスのルイス・ハミルトンとのポイント差はたったの6点であり、タイトルをめぐる熾烈(しれつ)な戦いが続いている。
前評判では「COTAはメルセデス向き」ともいわれていたが、シルバーアローの2台は初日最初のプラクティスでこそ1-2を決めたものの、その後はセルジオ・ペレスを含めたレッドブル勢にリードされるかたちで週末は進んだ。
トップ10グリッドを決める予選Q3、雨が降り出すなかでの最後のアタックで、暫定トップのハミルトンを引きずり下ろしたのはフェルスタッペン。0.209秒の差をつけ、今シーズン9回目、通算12回目のポールポジションを奪った。2位にはハミルトンがつけ、この2人がフロントローに並ぶのは今年7回目を数えることとなった。
2回のプラクティスでトップと好調だったペレスは雨に泣き初ポールならず、ハミルトンの0.015秒遅れで僅差の予選3位。メルセデスのバルテリ・ボッタスが4位につけるも、過去4戦で3度目のパワーユニット交換により5グリッド降格で9番グリッド。レースに向けてレッドブルがアドバンテージを得たかっこうになった。
コンストラクターズランキング3位のマクラーレンと4位フェラーリの争いは、スクーデリアが予選で前を取った。4番グリッドのシャルル・ルクレール、次いでカルロス・サインツJr.と赤いマシンが続き、その後ろ6番グリッドにダニエル・リカルド、そしてランド・ノリスとオレンジの2台がおさまった。アルファタウリは、8番グリッドにピエール・ガスリー、ボッタスを挟んで角田裕毅が10番グリッドと、2台がそろって入賞圏からスタートすることとなった。
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ハミルトンがトップ、しかしフェルスタッペン逆転
今季フェルスタッペンとハミルトンは、イギリスGP、そしてイタリアGPと接触し物議を醸していた。アメリカGPのプラクティス中にも、ターン1に向かって互いに譲らないシーンも見られており、最前列に並んだ2台の一挙手一投足からは目が離せなかった。
56周レースのスタート、抜群の出だしでトップを奪ったのはハミルトン。フェルスタッペンはターン1までにハミルトンをけん制するも、コースを外れながら2位に落ち、その後方ではペレス3位、ルクレール4位と続いた。またフェラーリとマクラーレンは丁々発止とやり合いながら、リカルドがサインツJr.を抜き5位に上がった。
10位スタートの角田は8位にポジションアップ。この日のアルファタウリは、ピエール・ガスリーがサスペンショントラブルでリタイアし、角田ひとりに得点の期待がかかったが、この日本人ルーキーは落ち着きあるドライビングで見事9位で走り切り、2点をチームに献上することになった。
ハミルトンにトップを取られたフェルスタッペンは、アグレッシブなタイヤ交換作戦を採らざるを得なくなった。バンピーな路面で知られるCOTAでは2ストップが必須。レッドブルは、最初のタイヤ交換をハミルトンより先んじて行い、アンダーカットでポジションを奪還するという戦術を選んだのだ。
実際、10周目にフェルスタッペンがピットに入り、ミディアムタイヤからハードに交換。ハミルトンは14周目にハードに履き替え、結果フェルスタッペンが首位奪還に成功したのだが、レッドブルには、スティントを前倒しにしたぶん、最後に帳尻が合わなくなるリスクもあった。
そして、そこがメルセデスの狙い目にもなった。レース序盤からレッドブルの速さを実感していたハミルトンは、2度目のタイヤ交換をフェルスタッペンより8周遅くし、よりフレッシュなハードタイヤで最後の勝負に賭けたのだ。
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ゴール目前まで続いた緊迫した優勝争い
トップのフェルスタッペンは30周目、2位ハミルトンは38周目に2度目のタイヤ交換を行いハードを装着。この時点で両車のギャップは8.5秒、「残り3周でフェルスタッペンに追いつくぞ」というピットからの計算の通りに、ハミルトンは時にフェルスタッペンより1秒近く速いタイムで追い上げた。
42周目に6秒、翌周5秒、続いて4秒と縮まり、残り10周で2.7秒、あと5周で1.7秒、そしてメルセデスが予告した残り3周で1.1秒。ゴール目前の緊迫した優勝争いは、ファイナルラップで1秒を切ったものの逆転はならず、ギリギリで踏みとどまったフェルスタッペンの辛勝となった。
レッドブル陣営は、自分たちの作戦が成功するか自信が持てていなかったようで、代表のクリスチャン・ホーナーも「最初のハードタイヤの状況から、2セット目のハードが最後まで持つとは思っていなかった」とレース後に語っていたほど。「最後のスティントでのタイヤマネジメントがカギだった」というボスの言葉の通り、フェルスタッペンによる勘所を押さえたドライビングが奏功した結果となった。
これでフェルスタッペンのポイントリードは6点から12点に拡大。17戦を終えフェルスタッペン8勝、ハミルトンは5勝ながらこの差にとどまっているのだから、フェルスタッペンの強さと、ハミルトンのしぶとさが際立っているといえるだろう。残り5戦といよいよシーズンは最終局面に向かうが、近年まれに見るこの接戦は、どうやら最後まで続きそうな予感がする。
次の第18戦メキシコGP決勝は、11月7日に行われる。
(文=bg)