もはや国家の一員だ! 新型「レクサスLX」が中東諸国でモテるワケ
2021.11.01 デイリーコラム価格は1200万円くらいから?
去る2021年10月14日、レクサスのフラッグシップSUVである「LX」の新型が発表されました。
日本ではレクサスブランドそのものの展開が2005年、200系「トヨタ・ランドクルーザー」をベースとするLXの販売は2015年からなので、あまりそういうイメージを抱きませんが、実は新型LX、4代目となります。初代は80系ランクルベースの「LX450」、2代目は100系ランクルベースの「LX470」で、「日本では『ランドクルーザー シグナス』の名で売られた」といえば、思い出される方もいらっしゃるかもしれません。
そして新しいLXも、ベースとなるのはランクル(300系)です。こちらは同年6月9日に発表され、日本でも大人気を博していることはご存じの通り。公式発表では現在の納期は2年以上といいますから、このLXも発売の暁にはバックオーダーの山が築かれてしまうのかもしれません。
判明しているグレードは、標準グレードに“オフロード”と“エグゼクティブ”を加えた計3つ。“オフロード”は前後デフロックを備えるほか、ブラックアウト加飾のボディーや小径ホイールなど、いかにもアクティブな仕上げ。“エグゼクティブ”は大型センターコンソールをリアにも備えた独立4座の4人乗りで、ショーファーユースも想定していることがわかります。価格の詳報はありませんが、現行型LXの価格が1135万円余ですので、イメージ的には新型は「1200万円くらいから」の感じになるのでしょうか。ちなみにレクサスのウェブサイトを確認すると、「現行LXは既に販売を終了、新型の発売は2022年春ごろの予定」とされています。
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変わらなくていいクルマ
価格帯や車格的にライバルと目されるクルマはあれこれありますが、メカニズムも織り込みながらみていると、一番近いのはメルセデスの「Gクラス」だと思います。何よりラダーフレーム構造も、リアのリジッドサスも、ラグジュアリー系SUVの進化の過程で葬り去られてきたメカニズムです。それをわざわざ残しているのは、何かしらの目的あってのこと。すなわち、商品力の要素として堅牢(けんろう)さや走破性に高いプライオリティーがあるということです。
まぁGクラスについては、同等の価格帯でモノコックに4輪独立サスの「GLE」や「GLS」がありますから、わざわざそういうものに振る必要もないというメルセデスらしい背景があります。一方のLXはブランドのSUVラインナップにおける頂点でありながら、「RX」や「NX」とはかなり成り立ちの違う、異端な存在です。
なぜLXは変わらないことを是としているのか。それはこのクルマの発表イベントが行われた場所、そして時間が物語っています。新型LXはサウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)で、現地時間の10月13日に同時発表されました。時間はあちら(サウジアラビア)のゴールデンタイムである19時30分。つまり日本では10月14日の1時30分と、真夜中です。ちなみに6月のランドクルーザーはやはり中東のUAEで、ゴールデンタイムの21時30分。日本時間は6月10日の2時30分のことでした。
なんで日本で生まれ、つくられるクルマがそんな場所でこんな時間に……? と思われる皆さんもいるかもしれませんが、理由は明快。この両車の最大需要地で、国民の皆々さまに見てもらいやすい時間に発表イベントを開催したというわけです。
UAEやサウジアラビアには、おびただしい数のランクル家系のクルマが走っています。日本に住んでいて「トヨタ・アクア」や「ホンダ・フィット」を見かけるくらいの頻度といっても全然大げさではない。SUVの銘柄別では間違いなく一番でしょう。ほかにもカタール、オマーンなどに出張ったことはありますが、状況は似たようなものです。
つまり中東地域においてランクル家系は絶対的な信任を得ている、国家の一員、国民の友人と化していると言っても過言ではありません。だからそのアンベールは、ニュース性が非常に高い。ちなみにLXの誕生を知らせる現地のクルマ好きのサイトには、もにょもにょしたアラビア文字に「We have the most anticipated car of this year」と訳が添えられてました。「今年最も期待されていたクルマがついに出たぞ」的な意味でしょう。
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日常生活が耐久テスト
かの地のランクルの使われ方は、見ているこっちのおなかが痛くなるほどむちゃくちゃです。あるにはある制限速度も、市街地を一歩出ればガン無視で(個人の見解です)、なんとあらば200km/h近いスピードで砂漠に向かって突き進みます。蛇足ですが、ランクル第2の市場であるオーストラリアも西側半分は同じような感じです。そんなイリーガル領域まで面倒をみる必要はないというのは前提としてあれど、ユーザーはランクル家系の信任の理由に高速巡航の安定性と快適性、信頼性を置いていることもまた事実です。
中東のユーザーは“踏みっぱ”上等の勢いで砂漠を目指すと、その中に分け入り砂ぼこりを上げて山谷を駆け巡ります。例えるなら砂を波になぞらえてのクルマサーフィンの様相です。中東の砂漠の砂は小麦粉のように目が細かく、トヨタをもってしても国内での再現は不可能というほど特殊な環境でして、その砂にのまれず山を乗り越えて走るには、もう「ひたすらパワー」ですから、クルマは再び踏みっぱの刑に処されます。で、散々走りまくって「楽しかった~ウェ~イ」と、再び街を目指すと……おわかりですね。もちろん踏みっぱです(よその国の話です。法定速度はきちんと守りましょう)。
揚げ句の果てに、ひどい時には50℃に達する気候の地域ですから、それでも生きて帰れる性能を安定供給し続けるのはただ事ではない。正直、毎日開発テストみたいな使われ方をするなかで、他銘柄は脱落淘汰(とうた)されて街なかに近いところで生息する銘柄となり、郊外でドSプレイをお楽しみいただける銘柄として最後に残ったのはランクル家系だったのでしょう。
根本から変われる数少ないタイミングでありながら、LXが変わらずランクル家系を選んだ理由は、まさにここにあります。LXにとって最も重要なのは、ランクルの性能がありながら、ランクルより豪華で快適でご立派なこと。メカの本質がランドクルーザー軸で、しつらえもろもろがレクサス軸であると。ちなみにLXは型落ちならともあれ、さすがにかの地でも前述のようなドSプレイにさらされている姿を見かけたことはありません。彼らのなかにも、敬意に基づいた一定の線引きはあるものと思われます。
(文=渡辺敏史/写真=トヨタ自動車/編集=関 顕也)
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。