メルセデス・ベンツSLS AMG(FR/7AT)【試乗記】
ヒラヒラなメルセデス 2011.03.17 試乗記 メルセデス・ベンツSLS AMG(FR/7AT)……2996万円
メルセデス・ベンツの最上級スポーツモデル「SLS AMG」。ガルウイングドアや571馬力エンジンは、ドライバーをどんな気分にさせるのか?
ロー&ワイド
「SLS AMG」に乗るのは“イベント”である。なぜなら、およそ浮世離れしたガルウイングドアだからだ。「カウンタック」系のシザースドアや、シザースドア"改"みたいな「メルセデスSLRマクラーレン」とも違って、ドア全体が高いところまで上がる。“ちょっと開けてコソコソ乗り降りする”というわけにはいかない。ウチの車庫で最初に中から開けたときは、あやうく天井の梁(はり)に当たりそうになってアセった。この特注塗装、150万円もするのである。
革の芳香漂う2座コクピットは、低いが、横にダダっ広い。フロントピラーの短さはチョップトップを思わせるのに、横方向はドーンと向こうまである。おかげで、狭苦しさはない。ミドシップ2シーターと違って、シートの後ろにもいくらかモノが載せられる空間があるのもうれしい。
全幅は1940mmもある。全長は5ナンバーサイズだが、“ほとんど鼻”に見えるくらい、ノーズが長い。そのため、乗り始めは鼻先と横幅の感覚がつかめず、神経を遣った。視界の悪いクルマはつくらないのがメルセデスの社是のひとつと理解していたが、このへんは、AMGが車両開発のイニシアチブをとったことによるものだろうか。ミドシップのスーパースポーツほどではないにせよ、斜め後方視界も十分とはいえないので、高速道路本線への合流時などは注意を要する。ただ、このクルマの場合、そういうところでは「加速御免」とばかり、右足の踏み込みで危険を遠ざけるのが最善の策かもしれないが。
はじけるエンジントルク
0-100km/h=3.8秒、最高速317km/hのSLS AMGが速いのはあたりまえだ。がしかし、うれしい驚きは、AMGが手塩にかけた自然吸気V8の芸術点の高さである。
新たにドライサンプ化された6.2リッターユニットは、トルクの塊だ。町なかではたいてい1500rpm前後で仕事をしている。それだって、いつも万札で買い物しているような十分すぎるトルクパンチが味わえる。4000rpmも回すと、もはや尋常ならざる加速に見舞われるから、“回して楽しむ”エンジンとはいえないし、回してもとくに官能的ではない……という重厚長大なAMG V8のなかにあって、571psのSLS専用ユニットは最も軽快だ。
レヴリミットは7250rpm。5500rpmを超すと、計器盤のエンジン回転ウォーニングが黄色く光り、6200rpmで赤に変わる。そのあたりのトップエンドでもオーバー6リッターのマスを感じさせない滑らかさを維持する。
センターフロアの走行モードダイヤルを回すと、エンジンやデュアルクラッチ7段変速機のマップが切り替わる。S(スポーティ)のさらに上、“S+”で走行中にアクセルを戻せば、後方から聞こえる排気音に“パラパラ”という遠雷のようなバックファイアサウンドが混ざる。トランスアクスル、すなわちデフと一体化された変速機のメカ音なのか、停車直前の減速時に白バイのサイレンのような音が後方からかすかに聴こえるのも、記憶に残るSLS体験のひとつである。
産油諸国政情不安の折、一応、燃費を紹介すると、渋滞がちの町なかでは、なんとか4km/リッター台を死守。高速道路を流した区間で6km/リッター台というところ。やはり燃費を気にする人のクルマではない。
買うならSLS!
アルミスペースフレーム、トランスアクスル、ドライサンプ……。サーキットのプロスペックをまとったSLS AMGの現世御利益は、フットワークの軽さである。
まず、これがメルセデスかと思うほど、ステアリングが軽い。価格と車幅にビビりながら、夕暮れの都内を走り出したとき、なによりの安心材料だったのは、この軽快な操舵(そうだ)感だった。
このクルマの限界性能を公道で味わうなど無理な相談だが、行きつけのワインディングロードでスポーティに走らせても、身のこなしのかろやかさは印象的だ。1690kgと、車重も“押し出し”のわりに軽いが、ズデンとした度過ぎた安定感がないのがうれしい。ライトウェイト・スポーツカーとは言わないが、最もヒラヒラ感が味わえるメルセデス、と言ってもいいと思う。おかげで、サーキットへ逃げ込まなくたって楽しめるスーパースポーツである。
SLS AMGは、7000万円のSLRマクラーレンに次ぐ序列第2位のメルセデス・スーパースポーツである。SLRはカーボンモノコックと626psで君臨するが、日本の一般道で乗ると、いささか大味で、小人の国に迷い込んだガリバーさながらだ。それに比べると、AMGがプロデュースするSLSは、はるかにスポーツカーのファン・トゥ・ドライブが味わえるクルマである。しかも価格は3分の1に近い。買うならSLS! ただし、ドアがぶつからない車庫が“must(マスト)”である。
(文=下野康史/写真=郡大二郎)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
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