これがスバルの生きる道! 自動車産業の大変革期を“孤高の六連星”は乗り切れるのか?
2021.12.10 デイリーコラムボクサーエンジンの光と影
われわれクルマ好きにとって、スバルのブランドイメージといえばともあれ“走り”。それを支えるのがフラット……もといボクサーユニットであり、その搭載を前提としたドライブトレインのシンメトリカルレイアウトうんぬん……ということになるわけです。一方で、クルマのパワートレインを巡る状況は目まぐるしく変容しています。スバルが自らの個性をどうやって保持し訴求し続けるか。それが日に日に厳しい課題になっていることは間違いありません。
その核たるボクサーエンジンは縦置き前提、そして車両本体はFF前提。そんなクルマをつくっているメーカーはごく少数ですから、トランスミッションもトランスファーも自前で開発・調達することが前提となります。エンジンについては平べったい形状も功罪相半ばするもので、これがさらに幅広くなるとステアリングの切れ角などへも影響を及ぼします。シリンダーのストロークは「EJ」から「FB」の世代間で15mmも延びましたが(2リッターエンジンでの比較)、これ以上のロングストローク化も難しいでしょう。
また、排ガス浄化の部品を最優先で配置しなければならない昨今では、低重心化とターボ化を両立することも容易ではないはずです。唯一の“ボクサー仲間”であるポルシェは製品の単価がまるで違ううえ、後ろにそれを積んでいるという時点でスバルより悩みは少ない。言ってみれば、そのポルシェのエンジンで「アウディ・クワトロ」をつくるというのがスバルのエンジニアリングですから、比類なき個性と孤立は表裏一体であることがわかります。
さりとて、横置き直4に切り替える腹づもりなどハナッからないでしょうし、今となってはそれをやる意味もありません。恐らくスバルは、今後トヨタの縦置き用ハイブリッドの技術供与を受けて、パワーユニットのボクサー・シンメトリカル・ストロングハイブリッド化を進めながら、内燃機関の技術的ブレークスルーを待つ状況になると思います。それを最も力強くバックアップするのは、水素やバイオマスなどを用いた合成燃料ということになるでしょうが、実現の道のりはまだまだ険しそうな状況です。
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四駆技術は電動化の時代にこそ輝く
そこで並行して問われるのが、プラグインハイブリッド車(PHEV)や電気自動車(BEV)といった“電動もの”をどう展開していくのかという点。が、これについてもスバルは“よそとは違うなにか”が求められる定めです。例えばボンネットにモーターを、床下にバッテリーを積んだ“e(イー)ンプレッサ”的な既存車居抜き系のBEVがあったとして、果たしてそれを誰が買うのか? こういう話になってくると、どうしてもコスパ領域で雌雄を決することになりますので、数的面でスケールメリットの出にくいスバルのようなメーカーは非常につらいわけです。
一方で、スバルには四駆という最大の武器があります。これまでに培ってきた駆動制御技術のノウハウや、長年の開発で得られた知見は、電動化時代に台無しになるかといえばそんなことはありません。
BEVを前提にすれば、前後2基のモーターで四駆を成立させることは、パッケージ的にもドライブシャフト等のトランスファー要らずで高効率。走りの効率面でも、四駆は負荷となるばかりのエンジン車とは違い、BEVの四駆は回生能力の向上などで二駆からのエネルギーロスが抑えられます。そのうえで、メカニカルであるがゆえの粗さや曖昧さも織り込んで開発していた今までの四駆とは次元の異なる、デジタライズされた高応答・高精細な駆動制御が実現するわけです。
2022年発売予定の「ソルテラ」は「トヨタと共同開発した『bZ4X』の姉妹モデル」という体をとっています。アナウンスによると、トヨタの側はスバルの四駆制御技術を基にステアリング・バイ・ワイヤを組み合わせた、次世代のハンドリングが飛び道具のマシンとしていますが、スバルの側は開発責任者のコメントや車名の匂わせぶりからみるに、自身の他モデルと同じく、SUVらしい走破性を推しているようにうかがえます。BEVならではの四駆制御によって悪路走破性が新しいステージに移行しているとすれば、それはスバル製BEVの新たな個性になり得るのではないでしょうか。
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価値を増す“安全”というブランドイメージ
加えて、スバルは水面下で別のブランドイメージをこつこつ醸成してきました。それが“安全”。1989年から開発が始まった、ステレオカメラを使った予防安全技術の研究は、2010年の「アイサイト2」で商業的にも結実し、「ぶつからないクルマ」は一般の認知もとりつけました。今、普通のユーザーにスバルのイメージを問うてみたら、恐らく一番に挙がるのが「安全」ではないかと思います。
残念ながらソルテラは電子プラットフォームも含めてトヨタ主導の「e-TNGA」を用いているため、アイサイトの移植はかなわなかったようです。「GR86」が「セーフティーセンス」を名乗れないのと同じで、ここは協業の痛み分けということでしょう。逆に言えば、ADASはスバルが独自開発を進める余地のある領域のひとつともいえます。精度・応答性が高い電動四駆の駆動制御と、アイサイトの情報判断能力をフュージョンすることで、アクティブな危機回避システムに画期的な進化が起きないか。そんなことは、当然スバル自身も考えていることでしょう。
「BEVの時代になれば産業構造の水平分業化によって新規参入がしやすくなる」という話にはクルマ屋の端くれとして疑問を抱くばかりですが、一方で、未来の自動車産業ではスケールメリットの尺度も新しくなるでしょうし、技術的差別化も今までとは異なる概念で語られるようになることは想像できます。そんななかで、スバルが埋没せずに生き残っていく術(すべ)があるのか? と問われれば、確証はなくとも突破口を開くための要素は確実にある――というのが現在地ではないでしょうか。
(文=渡辺敏史/写真=スバル/編集=堀田剛資)
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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