第739回:【Movie】名門「フィアット」 VS 謎の「500」 チョコレート対決inイタリア
2022.01.13 マッキナ あらモーダ!一見、オフィシャル商品のようで……
新年を迎え、常に先手先手の日本のデパートでは早くもバレンタインデーのディスプレイが始まるのだろうと、遠くイタリアから思いをはせている。
そういうイタリアも、筆者が住み始めた25年前と比較して、近年はバレンタインにあやかった商品のCMを、テレビやネット上で、前倒しで見かけるようになった。コマーシャリズムの波はこの古い国にも確実に及んでいる。
参考までに、バレンタインデーである2月14日は、3世紀ごろの聖人・聖ヴァレンティーノ(ヴァレンティヌス)の殉教日に由来する。彼の出身地は、当時ローマ帝国領だった中部テルニである。今日では自動車の内装材としても知られる人工スエード「アルカンターラ」の街だ。
そしてバレンタインといえばチョコレートである。イタリアには「フィアット」という名のチョコレートが存在することは、本欄第636回で記した。要約すると、1910年、フィアット社が新型高級車「ティーポ4」の発売を機に、記念品用チョコレートのコンペを行うことになった。
フィアットのお膝元であるトリノは、イタリア屈指のチョコレート生産地でもある。しかし、勝ち残ったのはボローニャのアルド・マイヤーニ氏による工房で、車名の「4」にちなんだ4層のチョコだった。フィアットから永続的な商標使用権を獲得したマイヤーニ(社)が今日までラインナップしているのがフィアットチョコというわけだ。
いっぽう2021年末、フィレンツェ県のスーパーマーケットで、不思議な商品を発見した。ロゴが「フィアット500」の実車に酷似している。しかし、傍らのイラストレーションは「アルファ・ロメオ・スパイダー デュエット」を思わせるものだ。
これは入手せねば。筆者はすかさず手に取ってレジに並んだ。「果たして、この商品の正体は?」というのが、今回の動画である。
先に一部を明かすと、その謎のチョコレートの製造元は、1960年代に中古の米国製菓子製造機を入手し、普及価格で売れる菓子づくりを始めたという。
ランボルギーニの創業者、フェルッチョ・ランボルギーニが、戦地から引き揚げ後、米軍の払い下げトラックを大量に購入し、トラクターに改造。フィアット製よりも安価だったことから、零細農家から広い支持を受けたというストーリーを思い出させる話だ。
ランボルギーニついでに言えば、1966年に「ミウラ」が誕生すると、イタリア各地では「ミウラ・カフェ」から「ミウラ美容室」まで、その名前にあやかったさまざまな店が開店した。
さらにさかのぼれば、新年にたびたび演奏される『ウインナ・ワルツ』についても言える。それが隆盛した19世紀のウィーンでは、世界最古の動物園であるシェーンブルン動物園にキリンがやってきて人気を博すと、たちまち『キリンのワルツ』といった曲が流行したという。ヒットした事物にあやかるという行為は、ヨーロッパでも反復されてきたのである。
この500チョコもしかり。“便乗商品”が誕生するほど話題になるということは、ロゴの著作物性に関する議論はさておき、起源となった物にとっては一種の勲章であるまいか。
【フィアットチョコ VS 500チョコ】
(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=Akio Lorenzo OYA、ステランティス/動画=Akio Lorenzo OYA/編集=藤沢 勝)
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大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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