「80点の新車」を100点満点に!? ホンダアクセスこだわりの開発手法ってなんだ?
2022.03.28 デイリーコラム似て非なるブランド
「モデューロ」って、ホンダのお墨付きブランドでしょ。そういえば「無限」もあったけど、どう違うの……? モデューロの名前を知っているクルマ好きは多いと思うが、その厳密なブランドコンセプトとなると、「?」な方も多いのではないだろうか。
ホンダの純正アクセサリーを開発するブランド、という大枠の解釈は間違ってはいない。が、ホンダの周りには無限というレース寄りのブランドも控えている。その2ブランドの違いをクッキリハッキリさせちゃおう! ということで、筆者はモデューロを扱うホンダアクセスの本社(埼玉・新座)に赴きましたとも。名目は「ホンダS660用純正アクセサリー取材会」。あの土屋圭市さんにも直接インタビューできるとあって、鼻息ちょっと荒いです。ここだけの話、実はまだ「S660」に乗ったことないし。チャンス到来!?
ということで、本日のテーマは「モデューロってなんだろう?」。S660の純正アクサセリーや「モデューロX」と呼ばれるコンプリートカーの開発を担当された、松岡靖和LPLとモデューロ開発アドバイザーの土屋圭市さんに話を聞きました!
──単刀直入にうかがいますが、モデューロと無限の違いって、なんでしょうか?
松岡靖和LPL(以下、松岡):モデューロはあくまで、ホンダ社内において純正アクセサリーを開発するいちブランドです。よって製品開発は新車開発と並行して行われていますし、販売を担うのは基本的に系列ディーラーとなります。一方、無限はホンダの傘下にはなく、あくまで社外のブランド。販売するのはレースイメージを前提にしたチューニングパーツ全般、ということになると思います。無限も販路はディーラーがメインですが、それ以外での購入も可能です。
軽の枠を超えたい
──なるほど、明確な違いがあるのですね。では今回のS660に関してですが、モデューロブランドではどんなユーザーに向けてアクセサリーをつくったのでしょうか?
松岡:S660自体は比較的若い年齢層のオーナーさんをイメージして、若手スタッフが中心になって開発を担当しました。一方、アクセサリーに関しては、40~50代のオーナーさんをメインターゲットに想定してアイデアと製品づくりを煮詰めていった経緯があります。目指すコンセプトは「HEART STRINGS SPORT/クルマ好きの琴線に触れる」です。
──その基本コンセプトのまま、さらに走りの良さを追求したのが「S660モデューロX」ということでしょうか。
松岡:はい。「軽自動車というカテゴリーを超える走りの質、スポーツカーならではの乗り味の追求」の実現を、開発アドバイザーの土屋圭市さんとともに目指しました。それがコンプリートカーとしてフルメイクされたスペシャルモデル「S660モデューロX」です。
──ベースモデルとは具体的にどこが違いますか?
松岡:大きくは……路面に吸い付いているような接地感、コーナリング時の4輪操舵感、クルマとの一体感です。思い描いているフィールドは街乗りから郊外のワインディングロード、そしてたまのライトなサーキット走行までですね。単なるコーナリングマシンには仕立てていませんし、日常での使い勝手を捨ててもいません。それはほかのモデューロ製コンプリートカーと同一線上にあります。
──S660に関して言うと、どんな箇所をチューニングしたのでしょうか。
松岡:エアロパーツ、サスペンション、アルミホイール、ブレーキパッド/ローターです。特にフロントフェイスキットやリアロアバンパー、アクティブスポイラーなどの新たなエアロパーツは、日常の速度域でも体感できる“実効空力”を主眼にセットアップしました。モデューロX仕様でのサスペンションやホイール、ブレーキの意義については、ぜひ土屋さんに話していただきましょう。
走りだけのクルマじゃない
土屋圭市(以下、土屋):僕がモデューロブランドの開発に加わったのは、2008年の「シビック タイプR」のサスペンションの時から。いくつもかかわった車種のなかでも、「ステップワゴン モデューロX」と今回のS660モデューロXの2車はかなり多くの局面で参画させてもらっています。それだけに思い入れも大きいですね。
──どんなチューニングを目指したのでしょうか。
土屋:勘違いされやすいのですが、モデューロXは“走り”にだけに特化させたコンプリートカーではありません。もちろん走りの上質さはコンセプトの大切な一翼ですし、ステップワゴンの時は「ミニバンで一番いい走りをするコンプリートカーをつくろう!」という意気込みで開発にあたりました。でも間違ってはいけないのが、中心にあるのは“上質”であること。
──上質さと、絶対的な速さ。それぞれ違うものだと?
土屋:はっきり違います。ミニバンにおける走りは、“ステップワゴン タイプR”ではありません。それでは2列目以降に乗る家族はハッピーになれませんから。一番大切なのはファミリーカーであることで、2番目に走りがくるわけです。その前提をなおざりにすることなく、ミニバンで一番の走りを実現したい! そう思ったのがスタート地点です。
──もともとレベルの高いノーマル車両を前にして、どこをどのようにすれば「良くなる」と思いましたか。
土屋:市販車は多くの場合、80点レベルで新車として世に出てきます。確かにそういう意味ではそもそもがハイレベル。でもそんな車両を100点に近づけていく作業はとても面白いし、やりがいもありますよ。モデューロの価値観とホンダエンジニアの技術力を武器にすれば、限りなく100点に近づけることができる。その成果がコンプリートカー、モデューロXとなって、みなさんが追体験できるというわけです。
しならせて、より上質に
──具体的に、足りない20点は、どんなところが?
土屋:質感、乗り心地。それらは磨けばもっと良くなる。S660の場合、例えばサスペンションのバネレートを10%アップしたにもかかわらず、サスペンション自体はしなやかになって、結果乗り心地も良くなったんです。それぞれのシャシーにはそれぞれの振動周波数が存在して、その周波数に合ったバンプスピード、車重やホイールベースにマッチしたしなり方があります。減衰の伸び/縮みの配分を最適化したことでダンパーの吸収性を引き出すことができたし、接地感を向上させることもできました。
──チューニングの本領ですね。
土屋:アルミホイールに関しても、まずホンダのスタッフが製品コンセプトに“しなり”という考え方を持ち込んできた。それまで高剛性一本やりだった自分は当初、「なにを言ってるんだ?」「剛性なんて高いほうがいいに決まってるじゃん!」といぶかしがっていましたが……徐々にその意味がレース屋である私にも伝わってきたんです。ホイール自体をたわませることで、接地面圧を高めてタイヤを使い切るというアイデアはとても斬新でした。対車体でホイール剛性バランスをとる、というかつてないアプローチが自分のなかで合点がいってからは……数限りなく試作と試走を繰り返しましたね(笑)。
──ホンダアクセスには、土屋さんのストレートな意見を受け止めてくれる雰囲気と度量がある?
土屋:そこには本当に感謝しています。あんなに言いたいことを言ってしまうと、他のメーカーだったら……次から呼ばれないかもしれない(笑)。でもアクセスでは一緒に悩みながら、やっとみんなで最後に突破口を見つけることができたんです。ごくごく一部ですが、それがS660専用ホイール「MR-R01」にまつわるストーリーでした。
ずっと変わらないスピリット
……とまぁ、たくさん話が聞けた、今回のホンダアクセス訪問。いろいろと納得できました! ホンダ純正アクセサリーの企画・製作という役割こそ1978年の部門スタート時から変わっていないのだろうけれども、ユーザーのかゆいところ(=ニーズ)を巧みに読みながら商品開発を行ってきたアクセスの姿勢は現在でもほとんど変わっていないのだ。
ホンダアクセスが行き着いたモデューロというアンサーにもルーツがあって、それは1990年代のホンダ純正アルミホイールブランドとしてのデビューだった。そんな、初代「NSX」や「ビートの発売時期と重なるタイミングでスタートを切ったモデューロが持っているスピリットが変わっていないというのは、クルマ好きにとってはうれしい話なわけで……。メルセデスAMG、BMWアルピナ、そしてホンダ・モデューロ。こうやって名前を並べてみただけで、なんだかドキドキするじゃないですか。
さて、取材のフィナーレは……実機(LPLの松岡さんはノーマルのS660のことをそう呼んでいた。なんだかカッコいい)のさらに“上”をいくコンプリートカー、S660モデューロXバージョンZの試乗だぜ。結論から言えば、いやー、初めて買ったクルマがビートだった筆者はひたすら楽しかった! 当時ビートで「こうなればいいのに」と思っていたマイナスポイントはほとんどが解消されていたし、でもファンドライブの核心はしっかりキープされている。しかも「シュパー!」なブローオフバルブ音のオマケ付き。1991年式と2021年式のクルマを比べること自体がナンセンスっていわれるかもしれないけれど、いやいや、細かいことは関係なし。ホンダアクセス、いい仕事しています!
(文=宮崎正行/写真=宮崎正行、本田技研工業、webCG/編集=関 顕也)

宮崎 正行
1971年生まれのライター/エディター。『MOTO NAVI』『NAVI CARS』『BICYCLE NAVI』編集部を経てフリーランスに。いろんな国のいろんな娘とお付き合いしたくて2〜3年に1回のペースでクルマを乗り換えるも、バイクはなぜかずーっと同じ空冷4発ナナハンと単気筒250に乗り続ける。本音を言えば雑誌は原稿を書くよりも編集する方が好き。あとシングルスピードの自転車とスティールパンと大盛りが好き。
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