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空を駆け巡るクルマに未来はあるか 2025年の大阪万博に見るモビリティーの夢と現実

2022.04.13 デイリーコラム 林 愛子

ついに事業化が視野に

2022年3月22日、SkyDriveとスズキは「空飛ぶクルマ(電動垂直離着陸型無操縦者航空機:eVTOL)」の事業化について連携協定を締結し、2025年の大阪・関西万博での商用運航実現を目指すことを発表した。

空飛ぶクルマの情報は昨今増加しており、産官学を挙げて取り組んでいる様子がみえていたが、「事業化」「商用運航」という文字にあらためて社会実装が近いことを実感する。今回の報道では次の3つのポイントに注目したい。

1つ目は技術だ。SkyDrive社では試験機による有人飛行に成功しているが、2025年の商用運航用には新しい機体を出してくるだろう。小型車の雄であるスズキとの連携はどういったところに効いてくるのか。

2つ目は運航環境整備。空飛ぶクルマの安全な運航のためにはさまざまな制度や規制が必要になる。政府が設置した「空の移動革命に向けた官民協議会」、大阪府を中心とする「空の移動革命社会実装大阪ラウンドテーブル」では何が議論されているのか。

3つ目は万博その後。2025年の商用運航のあと、空飛ぶクルマはどうなるだろうか。世論が商用運航の継続やエリア拡大を後押しするのか、祭りの終焉(しゅうえん)とともに熱が冷めてしまうのか。万博が社会受容性を醸成できるかどうか、大いに気になるところだ。

SkyDriveとスズキは「機体開発および要素技術の研究開発」「製造・量産体制および計画」「スズキが参入している四輪・二輪・マリンに空飛ぶクルマを加えた、新しいモビリティーの具体化」「インドを中心とした、本件の対象となる海外市場の開拓」の4項目について検討を開始するという。
SkyDriveとスズキは「機体開発および要素技術の研究開発」「製造・量産体制および計画」「スズキが参入している四輪・二輪・マリンに空飛ぶクルマを加えた、新しいモビリティーの具体化」「インドを中心とした、本件の対象となる海外市場の開拓」の4項目について検討を開始するという。拡大
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小型車に圧倒的知見を持つスズキの使命

SkyDriveは空飛ぶクルマの機体メーカーを目指すベンチャー企業だ。代表取締役CEOの福澤知浩氏はトヨタ自動車の出身で、経営コンサルタントとして活動する傍ら、2014年に始まった空飛ぶクルマのプロジェクトに携わり、2018年7月にSkyDriveを設立した。

空飛ぶクルマに確固たる定義はないが、「電動」「自動(操縦)」「垂直離着陸」といった特徴を持つものが多い。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の「デロリアン」のように、地上を走行するクルマがそのまま空を飛ぶわけではなく、大型ドローンあるいは小型ヘリコプターといったほうが近い。SkyDriveが日本初となる公開有人飛行試験に使用した試験機「SD-03」は機体の両側面にプロペラを配している。

SkyDriveは陸と空、どちらにも使えるコンセプトモデルも発表している。スペックは飛行使用の場合、速度100km/h、航続時間20~30分。地上走行の場合、速度60km/h、走行距離は20~30km。走行距離の数字の小ささに一瞬戸惑うが、この機体は空がメイン。基本は飛んでいるが、垂直離着陸ができる場所は限られているので、乗降地と離着陸地の間をつなぐ“ラストワンマイル”だけ地上を走るならば十分だろう。

ただ、より遠くに移動するには、EVと同じく、バッテリーの高度化や機体の軽量化などが欠かせない。また、SkyDriveには生産実績がない。今回の提携は、小型車の製造販売に圧倒的なノウハウを有するスズキが、SkyDrive単独では開けなかった扉を開くための第一歩なのだ。

一方、スズキは新しいモビリティーをラインナップに加えることができる。スズキは2021年7月にトヨタ自動車を中心とする商用車の共同開発会社への出資を発表。ダイハツも同時に出資を発表し、小型商用車の開発動向が注目されていたが、ここにも少なからぬ影響が及ぶだろう。

SkyDriveが有人飛行試験に成功した1人乗りの「SD-03」。全長×全幅×全高=4×4×2mで、40~50km/hで5~10分の飛行が可能。
SkyDriveが有人飛行試験に成功した1人乗りの「SD-03」。全長×全幅×全高=4×4×2mで、40~50km/hで5~10分の飛行が可能。拡大

国から地方自治体へ4年間で議論発展?

空飛ぶクルマは、内閣府「未来投資戦略2018」で官民協議会立ち上げとロードマップ策定が明言されたことで議論が本格化した。官民協議会にはサービスサプライヤーとして航空会社や物流会社などが参画し、メーカー・開発者にはスズキとSkyDriveも名を連ねている。2018年末に発表された「空の移動革命に向けたロードマップ」には機体の技術開発だけでなく、空域・電波利用環境の整備や継続的に離着陸可能な場所の確保なども盛り込まれた。

2020年11月、大阪府は万博で空飛ぶクルマを実現すべく、空の移動革命社会実装大阪ラウンドテーブルを設立し、有識者を交えて具体的な運航環境整備の検討を開始した。例えば、離着陸場は路線バスのような運航体制ならば整備は比較的簡単だが、タクシーのような自由な乗降を可能にするには、離着陸場の整備にかかるルールづくりは欠かせない。

ドローンは建造物への衝突や私有地への侵入などが問題になったが、空飛ぶクルマは有人飛行のため、各種対策はドローン以上の厳格さが要求される。その反面、厳しすぎると事業性が損なわれ、産業として育たなくなってしまう。安全と事業性をどうバランスさせるのか、“大阪モデル”は空飛ぶクルマの行く末を左右することになりそうだ。

飛行と走行の両方が可能なコンセプトモデル「SD-XX」。全長×全幅×全高=4×3.5×1.5m。
飛行と走行の両方が可能なコンセプトモデル「SD-XX」。全長×全幅×全高=4×3.5×1.5m。拡大

万博その後、空飛ぶクルマはどこへいく

2025年に空飛ぶクルマの商用運航が実現するかどうかで言えば、ほぼ確実に実現する。理由は「万博」だからだ。オリンピック・パラリンピックと同様に特例や規制緩和を実行しやすく、官民ともに予算をつけやすい。加えて、50歳代以上には1970年の大阪万博の記憶がある。あの熱狂を知る世代は万博への思いが強く、空飛ぶクルマ実現の推進力になり得る。

ただ、それはもろ刃の剣でもある。前時代的な手法や価値観が前面に出れば、東京オリンピック・パラリンピックの二の舞だ。万博の実現にはミドルからシニアの力が欠かせないが、前回の万博を知らない世代の価値観に寄り添えなければ成功はない。

図らずも、これはスズキとSkyDriveの関係性にも似ている。自動車業界で大きな存在感を放つスズキと、若きCEOが率いるベンチャー企業。両者が相互の価値観を尊重し、寄り添えるかどうかが成否を分かつ。先の万博でお披露目された携帯電話や動く歩道が現代社会を豊かにしてくれているように、2025年万博で運航する空飛ぶクルマが未来の社会を豊かにしてくれることを願うばかりだ。

(文=林 愛子/写真=SkyDrive、スズキ/編集=藤沢 勝)

SkyDriveが描く大阪万博会場周辺におけるエアタクシーの航路。
SkyDriveが描く大阪万博会場周辺におけるエアタクシーの航路。拡大
林 愛子

林 愛子

技術ジャーナリスト 東京理科大学理学部卒、事業構想大学院大学修了(事業構想修士)。先進サイエンス領域を中心に取材・原稿執筆を行っており、2006年の日経BP社『ECO JAPAN』の立ち上げ以降、環境問題やエコカーの分野にも活躍の幅を広げている。株式会社サイエンスデザイン代表。

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