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ルノー・アルカナR.S.ラインE-TECHハイブリッド(FF/4AT+2AT)

ハイブリッドでも“らしさ”全開 2022.05.04 試乗記 サトータケシ ルノーの新型クーペSUV「アルカナ」が日本に上陸。Cセグメントサイズの個性的なフォルムやインテリアの仕上がり、そしてF1由来の技術が数多く盛り込まれたという独自のフルハイブリッドシステム「E-TECH HYBRID」による走りを報告する。

ルノー独自のフルハイブリッドシステム

いつもだったら試乗会で黒いボディーカラーのクルマをあてがわれると、チッと舌打ちをしたくなるけれど、今回は違った。「ノワール メタルM」というボディーカラーのルノー・アルカナは精悍(せいかん)な雰囲気で、ゾクッとする。

1990年代にJリーグのガンバ大阪で活躍したパトリック・エムボマ選手は「浪速(なにわ)の黒ヒョウ」の愛称で呼ばれたけれど、われわれが試乗したアルカナはフランスからやって来た黒ヒョウだった。ちなみにアルカナとは、ミステリーや神秘を意味するラテン語だという。

優雅な弧を描くルーフラインや、アスリートの筋肉を思わせる張りのあるフェンダーの造形など、外観に目を奪われがちであるけれど、メカニズム的にはF1で培った技術やノウハウを注ぎ込んだ独自のハイブリッドシステムがこのクルマのポイントだ。早速、乗り込む。

日本に導入されるアルカナのグレードは「R.S.ライン」一択で、ブラックを基調にしつつシートのステッチなどに赤い差し色を効果的に使ったインテリアは、スポーティーかつエレガント。エクステリアとインテリアの世界観がきちんとつながっているのが好ましい。たまにありますよね、エクステリアとインテリアのデザイナーの仲が悪かったんじゃないかと思わせるクルマが。このクルマにはそうした印象はない。

「E-TECH HYBRID」と命名されたハイブリッドシステムを起動する。ブレーキペダルをリリースしてアクセルペダルを踏み込むと、エンジンは始動せずにモーターの駆動力だけでするすると前に出た。そう、アルカナのE-TECH HYBRIDはマイルドハイブリッドではなく、フルハイブリッドなのだ。ルノー・ジャポンの調べでは、2022年2月時点では輸入車として唯一のフルハイブリッドシステム搭載モデルなのだという。ただし、E-TECH HYBRIDのおもしろいところは、モーターで走ることだけではなかった。

2022年2月24日に日本導入が発表されたルノーの新型クーペSUV「アルカナ」。発売は同年5月26日で、車両本体価格は429万円。
2022年2月24日に日本導入が発表されたルノーの新型クーペSUV「アルカナ」。発売は同年5月26日で、車両本体価格は429万円。拡大
流麗なルーフ形状や張りのあるフェンダーの造形が目を引く「アルカナ」のエクステリアデザインは、クーペのエレガントさとSUVの機能美を融合したものと紹介されている。
流麗なルーフ形状や張りのあるフェンダーの造形が目を引く「アルカナ」のエクステリアデザインは、クーペのエレガントさとSUVの機能美を融合したものと紹介されている。拡大
ひと目でルノー車とわかるCシェイプのLEDヘッドランプが組み込まれたフロントフェイス。F1から着想を得たというフロントブレードや、バンバーの両端にホイールハウスにつながるエアディフレクターを装備するなど、空力面での工夫にも抜かりがない。
ひと目でルノー車とわかるCシェイプのLEDヘッドランプが組み込まれたフロントフェイス。F1から着想を得たというフロントブレードや、バンバーの両端にホイールハウスにつながるエアディフレクターを装備するなど、空力面での工夫にも抜かりがない。拡大
日本に導入される「アルカナ」のパワートレインは、独自のフルハイブリッドシステム「E-TECH HYBRID」の1種類のみ。ルノーは2030年までに販売車種の9割を電動化すると発表しており、現在欧州で販売されているアルカナもすべてハイブリッドモデルとなっている。
日本に導入される「アルカナ」のパワートレインは、独自のフルハイブリッドシステム「E-TECH HYBRID」の1種類のみ。ルノーは2030年までに販売車種の9割を電動化すると発表しており、現在欧州で販売されているアルカナもすべてハイブリッドモデルとなっている。拡大
「アルカナR.S.ラインE-TECHハイブリッド」のボディーカラーは、写真の「ノワール メタルM」を含む全4色から選択できる。
「アルカナR.S.ラインE-TECHハイブリッド」のボディーカラーは、写真の「ノワール メタルM」を含む全4色から選択できる。拡大
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爽快なアクセルレスポンス

30km/h、40km/hと速度が上がるとエンジンが始動するけれど、よほど注意して観察していないと、エンジンの始動には気づかない。エンジン始動の瞬間に、音や振動を感じることはないのだ。メーターパネル内のエネルギーフローを示すグラフィックで、いまはモーターだけで走っているのか、エンジンとモーターが連携しているのかを知ることになる。

走行中に感心するのは、アクセル操作に対するレスポンスのよさだ。ハイブリッド車にありがちな曖昧なところがなく、アクセルを踏めばバチッと加速として返ってくる。レスポンスのよさが気持ちいい、と感じさせるのには、音も大いに関係している。加速感だけでなく、エンジンの音もアクセル操作に応じてリニアに高まるのだ。

試乗会での取材だったので今回の燃費は計測できなかったけれど、WLTCモードの燃費は22.8km/リッター。この効率の高さと、いままで経験してきたフルハイブリッド車とは異なる爽快なフィールを両立している点が、E-TECH HYBRIDのキモだ。

E-TECH HYBRIDを構成しているのは、駆動用のメインモーターと、HSG(ハイボルテージスターター&ジェネレーター)という2つのモーター、そして1.6リッターの自然吸気の直列4気筒エンジンだ。ここで普通だと、モーターとエンジンの間にクラッチを配置して、モーターだけで走るときにはエンジンを切り離す。ところがルノーは違った。クラッチの代わりに、レーシングマシンにも使われる、歯車と歯車がガチっとかみ合うドグクラッチを採用したのだ。これによって、このダイレクトなフィーリングが生まれたのだ。

ここで、「ドグクラッチはショックを発生するんじゃないか」という疑問を抱く方も多いだろう。筆者もそのひとり。ここで活躍するのがHSGで、これがエンジンの回転をモーターに合わせる役割を果たしているのだ。かさばるクラッチではなくシンプルなドグクラッチを採用したことと、エンジン回転を同調させるシンクロナイザーが不要なことなどで、E-TECH HYBRIDはBセグメントの「キャプチャー」や「ルーテシア」にも搭載できるほどコンパクトになったという。

スタート時の走行は100%EVモードとなる。低速域が中心となる市街地走行においては、その大半をモーター駆動でカバーするようにセッティングされている。
スタート時の走行は100%EVモードとなる。低速域が中心となる市街地走行においては、その大半をモーター駆動でカバーするようにセッティングされている。拡大
「アルカナ」のパワーユニットは最高出力94PS、最大トルク148N・mの自然吸気の1.6リッター直4エンジンと、同49PS、同205N・mのメインモーター、そして同20PS、同50N・mのサブモーターとしても機能するHSGで構成される。
「アルカナ」のパワーユニットは最高出力94PS、最大トルク148N・mの自然吸気の1.6リッター直4エンジンと、同49PS、同205N・mのメインモーター、そして同20PS、同50N・mのサブモーターとしても機能するHSGで構成される。拡大
走行中のエネルギーフローなどが表示される10.2インチサイズのフルデジタルメーターパネル。ドライブモードに連動してメーターの表示デザインも切り替わる。
走行中のエネルギーフローなどが表示される10.2インチサイズのフルデジタルメーターパネル。ドライブモードに連動してメーターの表示デザインも切り替わる。拡大
「アルカナ」のパワーユニット(写真右)と、車体後方に搭載される容量1.2kWhのリチウムイオンバッテリー(写真左)のカットモデル。
「アルカナ」のパワーユニット(写真右)と、車体後方に搭載される容量1.2kWhのリチウムイオンバッテリー(写真左)のカットモデル。拡大
エンジン側に4つ、モーター側に2つのギアが組み込まれた「電子制御ドグクラッチマルチモードAT」を搭載する。シフトセレクターは通常のレバー式で、特別な操作などは必要ない。
エンジン側に4つ、モーター側に2つのギアが組み込まれた「電子制御ドグクラッチマルチモードAT」を搭載する。シフトセレクターは通常のレバー式で、特別な操作などは必要ない。拡大

あらゆるシーンで好印象

独創的なE-TECH HYBRIDが生まれた背景には、日産自動車、三菱自動車とのアライアンスがある。特に駆動用のメインモーターには日産の技術が欠かせなかったとのことだ。また、1.6リッターの直4エンジンも、同アライアンスから生まれたもの。そしてE-TECH HYBRIDの開発には、F1を担当したエンジニアも加わり、効率とドライバビリティー向上の両立に尽力したという。

なるほど、シナジー効果というか三人寄れば文殊の知恵というか、この個性的なパワートレインはアライアンスの成果なのだ。そこに、ルノーがF1で培ったノウハウを注ぎ込んで、いい味を出した。E-TECH HYBRIDは、ヨーロッパ仕様の「日産ジューク」にも搭載されるという。

ドライブモードでデフォルトの「My Sense」(標準)モードや「Eco」モードでは、アクセルペダルから足を離してブレーキングに入るとエンジンを停止して回生ブレーキが作動するけれど、「Sport」モードを選ぶと、エンジンは常時稼働するようになる。

たとえばコーナーの入り口でブレーキングしながら進入してもエンジンは稼働しているから、コーナーから脱出する瞬間にアクセルペダルを踏むと、エンジンがシャープに反応してくれるのだ。ちなみに、ドライブモードをSportモードに切り替えることによって、アクセル操作に対するレスポンスが鋭くなるほか、パワステの手応えもグッと骨太になる。

ストップ&ゴーの続く市街地を走るシーンではモーター駆動による発進加速が上品で洗練されたドライブフィールを伝え、ワインディングロードでは俊敏なレスポンスでスポーティーさを演出する。そして1.6リッター直4自然吸気エンジンが主役を張る高速走行では、追い越し時にモーターも加勢してパンチ力を発揮、高速域でもハイブリッド車にありがちなフンづまり感を覚えなかった。E-TECH HYBRIDには、あらゆるシーンで好印象を抱いた。

ルノー・ジャポンによれば、燃費と走りの両立を求めるヨーロッパのユーザーにはディーゼルエンジンが好評だった。けれども排出ガス規制の強化によってディーゼルが複雑で高価なパワートレインになったことから、E-TECH HYBRIDが生まれたという。確かに、省燃費とファン・トゥ・ドライブを兼ね備えたシステムだ。

「ルノー・アルカナR.S.ラインE-TECHハイブリッド」のボディーサイズは全長×全幅×全高=4570×1820×1580mm、ホイールベースは2720mm。車重は1470kgと発表されている。
「ルノー・アルカナR.S.ラインE-TECHハイブリッド」のボディーサイズは全長×全幅×全高=4570×1820×1580mm、ホイールベースは2720mm。車重は1470kgと発表されている。拡大
運転席周辺のディスプレイや操作系に、ドライバーが操作しやすいよう角度がつけられたコックピット。ドアとダッシュボードにはカーボン調パネルが組み込まれている。
運転席周辺のディスプレイや操作系に、ドライバーが操作しやすいよう角度がつけられたコックピット。ドアとダッシュボードにはカーボン調パネルが組み込まれている。拡大
センターに備わる7インチのタッチスクリーン。ドライブモードやエアコン、室内照明などを任意にセッティングできる「ルノーマルチセンス」のコントロール機能が内蔵されている。
センターに備わる7インチのタッチスクリーン。ドライブモードやエアコン、室内照明などを任意にセッティングできる「ルノーマルチセンス」のコントロール機能が内蔵されている。拡大
「アルカナR.S.ラインE-TECHハイブリッド」に標準で装備される18インチの「シルバーストーン」ホイール。試乗車は、215/55R18サイズの「クムホ・エクスタHS51」タイヤを組み合わせていた。
「アルカナR.S.ラインE-TECHハイブリッド」に標準で装備される18インチの「シルバーストーン」ホイール。試乗車は、215/55R18サイズの「クムホ・エクスタHS51」タイヤを組み合わせていた。拡大
荷室容量は5人乗車の通常使用時が480リッター。床面は2段階に調整できる。上段にセット(写真)すると、荷室開口部や前方に倒した後席背もたれと床面がほぼ同じ高さになる。
荷室容量は5人乗車の通常使用時が480リッター。床面は2段階に調整できる。上段にセット(写真)すると、荷室開口部や前方に倒した後席背もたれと床面がほぼ同じ高さになる。拡大

指名買いしたくなる

E-TECH HYBRIDの仕組みやドライブフィールに気をとられてしまったけれど、ルノー・アルカナはシャシーもよくできている。基本となる骨格は、やはりアライアンスで開発した「CMF-B」プラットフォームで、これはルノー・キャプチャーなどと共通だ。

なぜCセグメントに属するアルカナに、Bセグ用のプラットフォームを用いたのかといえば、開発時期が新しいCMF-Bプラットフォームのほうが軽量で低燃費が期待できるから。最新のADASに対応していることも、CMF-Bプラットフォームを採用した理由だという。

高速道路で試したところ、レーンセンタリングアシストを作動しながらの追従走行も、交通標識を認識する機構もスムーズかつ確実に作動して、2022年に登場したニューモデルとして納得できる水準にあることが確認できた。

シャシーに関しては、タウンスピードから高速道路までしっかりと路面をつかんでいるフィールを伝えつつ、でも不快なショックは伝えないという、難しい仕事をこなしている。このあたり、ルノーはうまい。コーナーに進入した際のロールのスピードと量が自然で、人間の感性に寄り添っていると感じさせる点も、ルノーの名人芸だ。名人芸と、アライアンスと、F1のノウハウから生まれた先進のパワートレインが三位一体となって、個性的なモデルになっている。

デザインを愛(め)でる楽しみがあり、斬新なメカニズムを知る楽しみがあり、運転する楽しみがある。スペックを並べてライバルと比べながら消去法で選ぶクルマではなく、「これください!」と指名買いするモデルだと感じた。

(文=サトータケシ/写真=花村英典/編集=櫻井健一)

レザーとスエード調の素材で仕立てられたシートは、ルノースポール由来となる「R.S.ライン」のデザインを採用。前席にはヒーターが内蔵されている。
レザーとスエード調の素材で仕立てられたシートは、ルノースポール由来となる「R.S.ライン」のデザインを採用。前席にはヒーターが内蔵されている。拡大
前席と同じくレザーとスエード調のコンビ表皮が採用された後席。背もたれには60:40の分割可倒機構が備わる。赤いステッチが入るシートベルトも「R.S.ライン」ならではのアイテム。
前席と同じくレザーとスエード調のコンビ表皮が採用された後席。背もたれには60:40の分割可倒機構が備わる。赤いステッチが入るシートベルトも「R.S.ライン」ならではのアイテム。拡大
レザー仕立てのステアリングホイールはヒーター機能を内蔵。ストップ&ゴー機能付きアダプティブクルーズコントロール関連の操作スイッチを、スポーク左サイドに配置している。
レザー仕立てのステアリングホイールはヒーター機能を内蔵。ストップ&ゴー機能付きアダプティブクルーズコントロール関連の操作スイッチを、スポーク左サイドに配置している。拡大
ルノーが主導し、アライアンスパートナーである日産および三菱と共同開発した「CMF-B」プラットフォームを採用する「ルノー・アルカナ」。開発時期が新しいCMF-Bプラットフォームは、軽量で低燃費が期待できることから選ばれたという。
ルノーが主導し、アライアンスパートナーである日産および三菱と共同開発した「CMF-B」プラットフォームを採用する「ルノー・アルカナ」。開発時期が新しいCMF-Bプラットフォームは、軽量で低燃費が期待できることから選ばれたという。拡大

テスト車のデータ

ルノー・アルカナR.S.ラインE-TECHハイブリッド

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4570×1820×1580mm
ホイールベース:2720mm
車重:1470kg
駆動方式:FF
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:4段AT(エンジン用)+2段AT(モーター用)
エンジン最高出力:94PS(69kW)/5600rpm
エンジン最大トルク:148N・m(15.1kgf・m)/3600rpm
メインモーター最高出力:49PS(36kW)/1677-6000rpm
メインモーター最大トルク:205N・m(20.9kgf・m)/200-1677rpm
サブモーター最高出力:20PS(15kW)/2865-1万rpm
サブモーター最大トルク:50N・m(5.1kgf・m)/200-2865rpm
タイヤ:(前)215/55R18 95H/(後)215/55R18 95H(クムホ・エクスタHS51)
燃費:22.8km/リッター(WLTCモード)
価格:429万円/テスト車=435万0500円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション ETCユニット(2万8600円)/エマージェンシーキット(3万1900円)

テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:1254km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

ルノー・アルカナR.S.ラインE-TECHハイブリッド
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ルノー・アルカナR.S.ラインE-TECHハイブリッド(FF/4AT+2AT)【試乗記】の画像拡大
サトータケシ

サトータケシ

ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。

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